第802話 色々考えて
みんながアルのクジラの背中の上に乗って徐々に深い場所へと進んでいく。まだ射し込んでいる日光が届く範囲だけど、暗くなってきたら光源確保の為に発光の発動と飛行鎧を再発動する必要があるかもね。
「それでジェイさんと斬雨さんのやった事の考察だが……ケイ、思いついてるものがあったりしないか?」
「んー、斬雨さんがチャージ系の応用スキル……多分、断刀を使ってる可能性は高いと思う。高確率でLv2かLv3」
「それは確実にあるだろうけど、多分それだけじゃないよね?」
「ジェイさんと連携してたみたいだし、ジェイさんも何かしてるのは間違いないと思う」
「……だろうな。それと気になるのは海エリアでやってたとこか」
「あ、言われてみればそれもそうだな」
ふむ、確かに海エリアで試していた以上は、海エリアである必要性があった可能性は高い。……海エリアである必要性と、ジェイさんが使っていた手段、そして普段からジェイさんが使っている手法か。ん? ジェイさんなら、もしかすると……。
「ひょっとして俺が夕方にサヤとやってた手段に近いのか……?」
「どういう事だ、ケイ?」
「あー、俺の岩の大剣をサヤに振り回してもらって初速を補うって手段を試してたんだよ。それと全く同じって訳じゃないけど、斬雨さんの断刀の発動に合わせて岩の操作で最大加速で勢いをつけたら……?」
「……その加速の分だけ、威力が増すって事か。そうなると命中精度の特訓はタイミングの調整ってとこだな」
「まぁ、そんなとこだろうね。これは実際に試してみないと可能か分からないけど、可能性はあるはず……」
ちょっと種族が違う俺らじゃ試しにくいから、連携の戦法の提案としてまとめに上げとこうかな。
ジェイさんと斬雨さんがしている手段でなかったとしても、この手の手段の連携による威力強化は攻撃の強化手段として有効だろう。
「後は海エリアである理由と、遠距離から一気に距離を詰める手段か……」
「それって単純に海流の操作じゃない? 私は海流の操作を使ったことがないから分からないんだけど、多分海流の勢いって変えられるよね?」
「あ、そこはシンプルな理由か!」
「確かに海流の操作で勢いの調整は可能だが……そうか、岩の操作と海流の操作の並列制御か」
「大体見えてきた! まず斬雨さんが断刀でチャージをして、そこからジェイさんが海流の操作で大幅に加速、同時に並列制御で岩の操作を用意して、敵に当てる瞬間に岩の操作の最大加速でぶん殴って斬雨さんの断刀の勢いを更に増す感じか!」
「……絶対とは言えんが、可能性としては充分だな。ケイ、その情報はまともに上げとくか?」
「もちろんだな! もし違ってても、この連携は海エリアの人が使えるだろうしさ」
「あ、そういう方向性にもなるんだね」
「そういう事! それじゃ早速書き込んでくる」
「おうよ」
「ケイさん、行ってらっしゃい」
という事で、まとめの俺ら専用の情報提供欄に今の推測を書き込んでおいてっと。一応は青の群集のジェイさんと斬雨さんが使うかもしれない連携攻撃という形で書いておくけど、可能であれば灰の群集でも実現性を試して欲しいと添えておく。
さて、とりあえず書き込みは終わり! 今日はトーナメント戦で検証勢の動きは少なめみたいだし、検証に動いている人でも『烏合の衆の足掻き』の方をやっているからすぐにとはいかないだろうけどね。
おっと、そうしている間に周囲が少しずつ暗くなってきた。これはそろそろ明かりの用意をすべきか?
いや、でもまだ行動値は回復しきってないし、下手に明かりを用意して敵が集まってくると厄介だな。独断では決めずにみんなの意見を聞くか。
「みんな、明かりはどうする?」
「もっと暗くなると無理だけど、このくらいなら夜目で十分なのさー!」
他のみんなもハーレさんの意見に同意のようで頷いて、夜目を発動していく。そういう事であれば今は夜目でいきますか。それじゃ俺も発動しとこ。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 38/72 → 38/71(上限値使用:8)
よし、これで少しは視界が良くなった。改めて周囲を見てみれば……この辺って海底が見えてきてるじゃん。えっと、方向は適当にアルに任せてたけど、位置的には北上してきてたのか。
周囲を見てみればここの海底は岩場になっているようで、多くはないけど海藻やイソギンチャクとかも見える。これ、岩場の隙間とかに隠れてる敵が割と居そうだな。
おっ、一般生物の魚の顔だけが見えてたりする。ふむふむ、こういう所にさっき逃げたというタコとかは隠れてそうではあるよね。
「あっ!? あそこにタコがいるのです!?」
「え、ハーレ、どこかな!?」
「あそこの辺りなのさー!」
「……あ、確かにタコがいるね。でも、これは擬態してるかな?」
「こういう時こそ看破なのさー! それじゃ――」
「ハーレ、ストップ!」
「え、ヨッシ、どうしたの!?」
「……これ、成熟体なら逃げるやつだよね?」
ふむ、確かに擬態しているタイプの成熟体なら、下手に看破を使ったとしても俺らが襲われる事もないだろう。でも、普通に擬態している未成体なら……あ、こっちも下手したらそのまま一目散で逃げる可能性があるな。
「成熟体なら逃げるだろうから問題はないのです!」
「ハーレさん、成熟体の方じゃない。未成体でも逃げる可能性が否定出来ないから、看破の前にその対策をしとこうってとこだろ。だよな、ヨッシさん?」
「うん、ケイさんの説明した通りだね」
「はっ!? その可能性は考えてるなかったのです!?」
「……あはは、止めるのが間に合って良かったよ」
「見つけた勢いでそのままやるところだったのさー!」
「気持ちは分かるから、ここは止めてくれたヨッシに感謝かな」
ふー、俺もそこまで考える前だったから、本当にヨッシさんが止めてくれて良かったよ。……でも、俺はどの位置に擬態したタコがいるか、まだ分かんないんだよなー。相変わらず、サヤとハーレさんはよく見るけるもんだね。
「あー、先に逃亡対策をするのは賛成なんだが……ぶっちゃけどこにいるんだ?」
「……アルも分かってないか」
「そういう言い方をするって事はケイも分かってねぇのかよ……」
「……あはは、私も分かってなかったり?」
「え、捕獲が得意な3人ともが見つけられてないのかな!?」
「あぅ!? これはどうするべきなのさー!?」
うーん、ここが俺らの共同体における地味な問題点なんだよなー。俺かアルかヨッシさんの内、誰か1人でもサヤとハーレさんに及ばないとしてももう少し見つけるのが上手ければ色々とやりやすくはなるんだけど……。
「……参考までに、擬態ってどこまでやれば解除になるんだ?」
「えっと、確か看破をするか、ダメージを与えたらかな。あ、微量過ぎるダメージだと解除にならなかった気もするよ」
「……なるほどね」
近くに適当に攻撃を放っても、明確にダメージを与えなきゃ意味はないんだな。うーん、海流の操作で周囲全体を覆ってしまうのは、海の敵相手だと脱出される可能性は高いから却下。
電気魔法で広範囲攻撃は、手段として有効ではあるけど余計な敵も引き寄せるから却下。
ヨッシさんの毒を海水にばら撒く……これはこれで電気魔法と同じような事になりそうだから駄目。
アルの海水の操作が昇華になっていれば、広範囲を魔法産の海水で満たして電気魔法のコンボという手もあるけど今は無理。
他に可能そうな手段は……ふむ、ちょっと思いついたこれを試してみるか。
「ちょっとだけ実験させてくれ。場合によったらサヤに目印を頼めるかもしれん」
「……ケイ、何をやるのかな?」
「まぁ見てれば分かる」
さて、ぶっちゃけこれから試す事がどの程度の効果があるのか全然知らないんだけど、だからこその実験である。とりあえず岩の方に向けたらどう影響するか分からないから、何もない海水のみの方を狙っていこう。
<行動値2と魔力値8消費して『火魔法Lv2:ファイアボール』を発動します> 行動値 36/71(上限値使用:8): 魔力値 188/218
あ、普段あまり使う事がない火の操作や火魔法だから、水魔法や土魔法よりも消費魔力値が多いなー。
まぁここはろくに育ててないから仕方ないし、とりあえず今は魔法砲撃にして右のハサミから上部の海水の中に向けて撃ち出していこう。さて、これでどうなるか。
「え、ケイさん、ここで火魔法なの?」
「……少しだけ進んで、あっという間に鎮火したな」
「おし、大成功!」
「……今ので大成功? あぁ、ケイの狙いが分かったぞ」
「今みたいに私が火魔法を魔法砲撃で擬態している相手に狙いをつければ良いのかな?」
「おう、それで合ってるぞー!」
「はっ!? 海水の中では届かなくて役に立たない火魔法だけど、方向性を指し示すのには使えるのです!」
「……なるほどな。でもそれってただサヤやハーレさんに指し示してもらうのじゃ駄目なのか」
「それで完全に把握出来るならそれでもいいけど、アルがやる?」
「……悪い、その自信はないわ」
ふっふっふ、俺だって指し示してもらったからといって、ちゃんと敵の位置を把握する自信はない! まぁこれも不確実性はあるけど、それでも少しはマシなはず。
「ねぇ、そんな回りくどい事をしなくても、サヤに風の拘束魔法を魔法砲撃で撃ってもらうのじゃ駄目なの? サヤの竜、風の拘束魔法は使えるよね?」
「「「「……あっ!」」」」
「……みんなして、一番シンプルな手段を忘れてたんだね」
「……あはは。それじゃヨッシの案を採用かな!」
みんなして苦笑いをしているけど、本当にシンプルな手段を完全に忘れてたよ。風の拘束魔法なら海の中でも拘束性能は発揮出来るし、明確な位置はそれで判明する。その時点で居場所はみんなが把握出来る。
「よし、それじゃその方向性で! 今回は経験値狙いで、瞬殺で行くぞ!」
「で、具体的にどうすんだ?」
「アルは激突衝頭撃か砲弾重突撃の用意を頼む」
「ん? そりゃ良いが、俺がやるには向いてないんじゃねぇか?」
「あー、そのままやってもらう訳じゃないから問題なし。あ、魔力集中は無しでよろしく」
「……何をやる気だ、ケイ?」
「俺が生成した岩の槍を頭突きで加速させてもらおうかなーと?」
「あ、夕方に私と試してたあれと同じ感じかな?」
「そう、そんな感じ!」
「あー、そういや岩の大剣をサヤが振り回すってのを試してたって言ってたな。……なるほど、魔力集中が無しなのは岩を壊されない為か」
「まぁそういう事。……無くても壊される可能性もあるけどなー」
「ま、それは実際に試してみるしかないか。それじゃチャージを開始しとくぜ。『砲弾重突撃』!」
そう言いながらアルのクジラの全身が銀光を徐々に放ち出していく。どっちの応用スキルを使うかはアルに任せたけど、頭突きではなく全身での突撃を選んだんだな。
「ヨッシさん、敵の位置が分かったら氷塊の操作で閉じ込めてもらえるか?」
「それは良いけど、ケイさんの岩の槍はどうするの?」
「そこは俺の方で調整するけど、槍を通せそうな穴を用意してくれると助かる。もし無理そうなら直前で解除でも良い」
「……出来れば確実に当てたいから、そこは頑張るよ」
出来る限り確実に擬態しているタコに攻撃を当てていく為にも準備はしっかりしておかないとね。さてと、今の手順でも結構な威力は出るとは思うけど、念には念をいれておくか。
「サヤとハーレさんは、ヨッシさんが氷で拘束したらいつでも追撃に動けるように考えておいてくれ。経験値が良さそうな個体な気がするし、ここは出し惜しみなしで!」
「……それならこっちの方が良さそうかな。小型化解除で『略:大型化』『魔力集中』」
「おー! サヤの竜が大型化モードなのさー!」
「こっちの方は海の中で移動が早いからかな」
「それじゃ私はいつでも狙い撃てるように、待機しているのさー! 『魔力集中』!」
今回のは位置取りも重要だし、サヤの竜の口が向いている方向をみんなで注視していく。……正直、ここまで目の前で戦闘準備を行っていれば逃げられてもおかしくはないんだろうけど、まぁその辺はゲームだしね。
フィールドボスとか他のプレイヤーなら間違いなく逃げ出しているだろうけど、通常の敵ではそこまでの行動パターンは設定されていないのだろう。……まぁその代わりに擬態するのと逃げる事に特化してそうだから、今回は識別している余裕はないだろうね。
そうしている間にも徐々にアルのチャージによる銀光がどんどん眩くなってきている。この感じだともう少しでチャージが完了しそうだけど――
「ケイ、チャージ完了だ!」
「ほいよっと。他のみんなも準備は良いな?」
「いつでも問題ないかな!」
「私もいつでもいけるよ」
「私も大丈夫なのさー!」
アルのチャージが終わり、みんなの準備も完了した。俺自身も問題はないから、擬態したタコの討伐を始めていこうじゃないか!
「それじゃ作戦開始!」
「「「「おー!」」」」
みんなの気合は充分だし、今回は雑魚敵相手でも経験値が多い可能性があるんだから出し惜しみはなしだ。……これで成熟体だったら、もの凄い無駄足だけどね!
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