第787話 トーナメント戦への要望


 晩飯を食べる為にログアウトをして、いつものいったんのいるログイン場面へとやってきた。えーと、今回の胴体部分は『テスト実装中のトーナメント戦に関する不具合や要望があれば、公式サイトか、いったんまでお願いします』となっている。

 ま、今日の内容はこうなるよね。さて、少し気になる点はあったからその報告をやっておきますか。


「いったん、トーナメント戦について要望があるんだけど」

「はいはい〜。どんな内容かな〜」

「えーと、まずはトーナメント戦の名前についてだな。デフォルト設定が共同体名なのは良いんだけど、あのトーナメント戦の名前は開催前に決定出来るようにしてほしい」

「ふむふむ、トーナメント戦の名前の決定のタイミングの要望だね〜。参考までに理由を聞いても良いかな〜?」

「あー、どういう目的のトーナメント戦なのかとか表示しておきたい場合もありそうだからさ。ほら、成長体限定戦とかそういう情報をさ」

「一目でトーナメント戦の特徴が分かりやすいようにって理由だね〜。その要望は運営の方に伝えておきます〜」


 よし、とりあえず要望という形ではあるから必ずしも反映されるとは限らないけど、そういう意見を募集しているんだから言っておいて損もないだろ。他には……あー、あれがあったな。


「それと仕様かどうか確認しときたいのがあるな」

「それはしっかり聞いておかないとね〜。どんな内容かな〜?」

「中継相手の指定の部分だな。中継を依頼するフレンドの不動種の一覧に他の群集のフレンド表示されてたけど、あれって仕様?」

「その件だね〜。それについては複数の人から報告があって、不具合として修正に入ったところ〜。不具合報告になるので、『転移の実』を5個進呈となります〜」

「あ、既に報告があったのに貰えるんだ?」

「まだ不具合情報として告知になってない案件だから、告知されるまでは有効だよ〜。渡すのは次のログインの際になるけど、良いかな〜?」

「あー、なるほどね。受け取るのはそれで問題ないぞ」


 ふむふむ、ここで転移の実を5個手に入るのは嬉しいところだね。複数に分けてスタックはしておけるみたいだし、転移の種を位置を上書きしなくても転移出来る場所を増やしておける!

 受け渡しについても、今受け取ったところで意味はないから問題ない。あ、そういやみんなが集合してからトーナメント戦のテスト開催の報酬も決めないと。確かアイテムの詰め合わせが選べるって話だったっけ。


「他には何かあるかな〜?」

「あ、もうない……いや、何かまだあったような気もする……? あれ、なんだっけ?」

「あらら、忘れちゃった感じかな〜? 僕としては聞いておきたいけど、すぐに思い出せそうにないなら無理をしなくても大丈夫だよ〜?」

「あー、まぁそりゃそうなんだけど、あと少しで出て来そうではあるんだよ……」


 他にも何か不便そうだと思って要望を言っておこうかと思った事があった気もするけど……うーん、なんだっけ? こう、あと少しのところまで出てきているのに、肝心の内容が出てこないやつ!

 えーと、思い返してみよう。トーナメント戦の開催をする時にさっきの名前の件が引っかかったから、それについてはさっき要望を出した。中継相手に他の群集の人が選べたのも開催した時の話で、他には……思い当たる節はない。

 あっ、そうだ。自分達で開催してた時じゃなくて、灰のサファリ同盟の様子や報酬の交換に必要な情報ポイントで思った事があったんだった!


「いったん、思い出した! あれだ、ブロック分け! 今の状態じゃ人数が多いトーナメント戦は時間かかり過ぎるけど、プレイヤーの方で調整したら情報ポイントの総数が少なくなる!」

「なるほど、ブロック分けについてだね〜。うん、これについては同じ要望が結構な数が届いているよ〜」

「あ、そうなんだ」

「これについては様子見で組み込んでなかったんだけど、想定していたよりも大規模なトーナメント戦の開催もありそうだから、調整予定になってるね〜」

「マジか! それでいつ調整が入るんだ?」

「えっと、一応出来るだけ早くの予定ではあるけど、それは告知を行うのでその後になるね〜。あ、その場合は少しだけどトーナメント戦だけ臨時メンテナンスという形で封鎖にはなります〜」

「え、マジで?」

「流石にトーナメント戦の開催中には調整出来ないからね〜」

「……そりゃそうか」


 全員ログイン不可の臨時メンテナンスではなく、トーナメント戦に対してのみの臨時メンテナンスならまだ良い方だよな。ただ心配なのが、夜からのタッグ戦の選出のトーナメント戦については大丈夫なんだろうか?


「で、具体的にブロック分けの仕様ってどうなるんだ?」

「えっと、それが開示出来るのは実際に反映させてからになるね〜」

「あー、まぁそうだよな。……それじゃ、具体的にはいつ臨時メンテナンスをして反映されるんだ?」

「ユーザーの間でトーナメント戦を使ってやろうとしてる事は把握してるから、極力それに影響が出ないようにはする予定だね〜。今、運営の方で大急ぎで準備をしてるから、告知は間もなくで7時半には臨時メンテナンスになるように調整中です〜」

「あ、思ったより早いんだ? てか、タッグ戦の事は把握されてんの!?」

「そりゃもちろんね〜。ユーザー間での自発的なイベント開催は大歓迎だから、その辺のチェックはしているよ〜。それに僕は掲示板も管理してるんだから、話題に出てたのを知らない訳がないのさ〜」

「あー、考えてみりゃ当然か」


 掲示板でタッグ戦については話題には出てたんだし、ユーザー間での自発的なイベント開催が大歓迎だからこそ、それの邪魔にならないように調整をしてくれているんだな。うん、運営の皆さん、ご苦労さまです!

 運営としては実装直後のトーナメント戦をいきなり大々的に使うとは想定はしてなかっただろうから、本当ならもう少し様子を見てからブロック分けの導入を考えてたのかもな。って、ちょっと話し込んでるけど、時間的にそんなに余裕はないな!?


「悪い、いったん。とりあえずこれ以上は一旦ログアウトして飯食ってからにするよ」

「はいはい〜。貴重なご意見をありがとうございました〜!」

「そんじゃまた後で!」


 そうしていったんに見送られながら、現実世界へと戻っていく。あー、思った以上に話してて、7時を少し過ぎてんじゃん。……これ、晴香が俺の部屋で待ち構えているパターンだな。



 ◇ ◇ ◇



 現実の自分の部屋に戻ってみれば……あれ、晴香がいないな? てっきり椅子に座って待ち構えているものと思ったけど、そうでもなかったっぽい。


 って、あっ!? 晴香が俺の部屋にいない理由はそういう事か! くっそ、部屋の入り口のとこにGがいるじゃねぇか。外でなら何もしないけど、家の中で見つけた場合は容赦する気はないから即座に殲滅だ!

 殺虫剤は……俺の部屋には置いてないから、ここはスリッパの出番だな。よし、スリッパを片手に持った俺の様子にはまだ反応がないから……よし、今! ふぅ、パァンという軽快な音と共に撃破完了! 


「……兄貴、あれは仕留めた?」

「おう、今ちょうどな」


 仕留めたあれの後始末をしながら、少しだけドアを開けて俺の部屋を覗き込んできた晴香にそう返事をしておく。多分、晴香は俺の部屋に勝手に入った瞬間にこれと遭遇して即座にドアを閉めて撤退してたんだろう。


「圭ちゃん、晴ちゃん、ご飯だから降りてきてねー!」

「はーい!」

「ほいよっと。ちなみに今日の晩飯って何?」

「私が食べたかったので、うどんを希望しました! ちなみにざるうどんと天ぷらなのさー!」

「あー、うどんか。まぁ、冷たい麺類が美味い時期にはなってきてるしな」

「そうなのさー!」


 うどんは俺らの住んでるとこの名産品だし、それなりに食卓には出てくるからね。まぁ、弁当持参ではない同級生とかは、昼は毎食うどんって奴もいるもんな。

 そういやふと思い出したけど、去年辺りに慎也がうどん屋巡りをしまくってたっけ。確か色んなうどん屋を巡ってスタンプラリーみたいな事が出来るAR機器を使ったイベントにハマってたんだったな。どちらかというと観光者向けの各種割引サービスだったと思うけど、なんで地元の慎也がやってたんだろう?


「おし、さっさと食ってみんなと合流するか」

「おー! あ、兄貴はいったんから臨時メンテナンスが間近であるかもって話は聞いた!?」

「おう、聞いたぞ。……俺らがログインするまでに終わってたら一番ありがたいんだけどな」

「それはそうだけど、そればっかりは実際になってみないと分からないのさー!」

「ま、そりゃそうだ」


 そんな風に話しながら1階まで移動し、揚げたての天ぷらとざるうどんを食べていく。うん、美味いね! これからの時期はこういった暑さでバテていても比較的食べやすい麺類も増えていくだろうな。

 



 そうして晩飯を食べ終えて、いつものように晴香は先に自室へと戻り、俺は食器の片付けをしていく。ふー、晩飯の前に害虫の駆除は正直したくはなかったけど、あれが自室の中にいるままでゲームを再開したくはないから仕方なかった。


「あ、圭ちゃん、ちょっといい?」

「どしたの、母さん?」

「晴ちゃんの話。最近、晴ちゃんはどう?」

「んー、食べ物に関しては相変わらず食欲魔人をやってるけど、他は特に問題はなさそうだと思う。まぁ俺は気付いてなかった事も多かったから、どこまで当てになるか分からないけど……」

「……そうなのね? どことなくガッカリしてるというか、何か寂しそうな様子も感じるんだけど……」

「あー、なんか一緒にやってる友達が週末に海鮮バーベキューをやるってのを聞いて、ガッカリはしてたな」

「……それって雫ちゃん?」

「あー、うん、そうなる」


 一瞬名前に戸惑ったけど、ヨッシさんの本名は確か四ツ谷雫だったはず。まぁ母さんはヨッシさんの事は普通に知ってるみたいだし、今のを聞けばすぐに思い当たるか。

 一応ゲーム内で海鮮バーベキューはしたけども、どうしても調味料や道具が足りないという状況にはなるから、どうしても微妙な物足りなさはあるんだよね。


「おいおい、圭吾! そういう事は早く言え!」

「……父さん?」

「海鮮バーベキューとはいかないが、週末に家でもバーベキューをするぞ!」

「え、マジで?」

「おう、マジだ!」


 今まで何度か庭にある池を眺めながらバーベキューをした事はあるけど、父さんは晴香の事になると甘いよなー。まぁ俺としては美味いものが食えるなら特に文句もないけどね。……ただ、雨が降るかどうかが心配なところ。


「はいはい、それじゃそういう予定で材料は買ってきますね。あ、圭ちゃん、週末って言ってたけど土曜と日曜のどっち?」

「それは日曜日だよ」

「日曜日ね。圭ちゃんも晴ちゃんもテストが近いんだし、英気を養って頑張ってね?」

「……ほいよっと」


 あー、テストが近くなってきているから、母さん的には晴香の意欲向上も狙っているんだな。……でも、そういうのって普通はテストが終わってからじゃない? いや、まぁ別に前でもいいけどね。



 ◇ ◇ ◇



 そんな風にサヤやヨッシさんが海鮮バーベキューを行う日に、俺の家でもバーベキューを行う事になった。まぁそれは後でハーレさんに伝えるとして、再びログイン場面にやってきた。


 ちょっとの間ではあるけどこの時間帯は情報更新がある事も多いし、今日に限ればブロック分けを反映させる臨時メンテナンス話もあるからね。

 とりあえずいったんの胴体は『トーナメント戦の機能調整の臨時メンテナンスが終了しました。詳細は公式サイトかいったんからご確認下さい』となっている。って、もう終わってるのか!? あー、現時刻は8時過ぎだから、7時半から臨時メンテナンスを行って、それにそれほど時間がかからなかったらこんなもんか。


「いったん、臨時メンテが終わってるならブロック分けの詳細は聞ける?」

「うん、それは大丈夫だよ〜。えっと、ブロック分けを実行出来るのは連盟機能を使っている共同体になるね〜。ちなみにブロック分けの数は2ブロック、4ブロック、8ブロックの3種類から選んでもらう形になります〜。1ブロック毎に1つの共同体で管理して貰う事になるからね〜」

「ほう、そこに連盟機能が関わってくるのか。って事は、8ブロックを実施出来るのは8つ以上の共同体が連盟になってるとこだけって感じ?」

「うん、そうなるね〜。大規模のトーナメント戦をブロック分けをするには、その数値や連盟機能が管理しやすいからね〜」

「……まぁそりゃそうか」


 灰のサファリ同盟のように大規模な共同体では部門や支部で共同体を別々に作って、連盟機能で連携を取っているんだから、その連盟機能を基準にブロック分けをするのはありだよな。……むしろ無関係な共同体同士でブロック分けが必要なトーナメント戦の開催は難しいか。

 ただ8ブロックは参加人数が多いから、2ブロックか4ブロックが実用的な範囲だな。……そもそも8つの共同体が連盟になっているのがどれだけあるかという問題でもあるよね。


「それとブロック分けを行う際に少し通常と違う点があるから要注意ね〜」

「……少し違う点?」

「参加人数が増える分だけ、参加に情報ポイントを徴収する場合は総量が増えるからね〜。ブロック分けをした場合は3位決定戦までやって、情報ポイントを報酬と交換する場合は3位までの人が報酬を選べるようになってるよ〜。1位の人から選んだ報酬によって総情報ポイントが減っていって、3位の人が選び終わった状態で残った情報ポイントは等分して1位から3位の人に与えられます〜」

「へぇ、そうなんだ。それって選べる報酬は1人1つ?」

「うん、そうなるね〜。ちなみに総取りの場合は1位が5割、2位が3割、3位が2割という分配になります〜。報酬を指定する場合は、開催する連盟の共同体に3つのアイテムを指定して貰う事になるね〜」

「なるほどね」


 つまり、参加人数と集まる情報ポイントが増える分だけ、その報酬が1人に偏らないようにしているんだな。あー、なんとなくだけど初めから一緒に実装してなかった理由が分かった気がする。

 多分だけど、ブロック分けをした際の報酬の調整を、普通のトーナメント戦で情報がある程度集まってから調整するつもりだったのかも。でも、早いうちにブロック分けが必要そうだから、その辺を前倒ししたのかもしれないね。まぁただの勝手な推測だけど。


「さてと、そろそろログインしたいんだけど、他に説明ってある?」

「ううん、今のまでだよ〜。不具合はまだ直しきれてないしね〜。あ、これを渡しておくね〜」

「ほいよっと」


 不具合の報告をした事で貰える『転移の実×5』をいったんから受け取っていく。それにしても他の不具合の修正はまだなんだね。……ブロック分け機能の反映を最優先に急いでやったからなんだろうけどさ。


「そういやスクショの承諾は来てる?」

「今は特にないよ〜」

「そっか。それじゃコケでログインをよろしく」

「はいはい〜。それじゃ楽しんでいってね〜」

「おうよ!」


 そうしていったんに見送られながら再びゲームの中へと移動していく。さーて、みんなと合流してからまずはLv上げの候補地のどこに行くかを決めていこうじゃないか!

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