第786話 スキルを使いまくって


「そこ! 『並列制御』『略:エレクトロウォール』『略:エレクトロプリズン』!」

「うぉっ、複合魔法か!?」


 今は何度目かの対戦中ではあるけど、ヨッシさんの電気魔法がLv5に上がったっぽいね。くっ、今目の前に展開して俺の動きを阻害しているのは、蜘蛛の巣みたいに電気を張り巡らせる厄介なタイプに複合魔法だったはず。……確か名前はエレクトロウェブだったっけ。

 同じ群集だから麻痺はしないけど、ロブスターのハサミを一切触れさせないのは無理そうだし、サヤの竜に狙われてもいるから、ここは塞がれていない後ろに距離を取るか。


「ハーレさん、俺を吹っ飛ばせ!」

「了解です! 『略:ウィンドボム』!」


<行動値を4消費して『殴打Lv4』を発動します>  行動値 54/79


 途中でLvが上がった殴打で地面を殴りつけて少しの間だけ地面から離れ、そこにハーレさんの風の爆発で一気に距離を取っていく。

 体当たりが解禁出来ればその方が楽なんだけど、今回は育てるスキル以外は使用禁止の縛りがあるから仕方ない。


「サヤ!」

「使えるようになったばかりのでいくかな! 『略:エレクトロウォール』!」

「おわっ!?」


 あー、ハーレさんに吹っ飛ばしてもらったのはいいけど、逆にそれで完全に空中での身動きが取れなくなってしまった……。てか、さっきまでサヤはエレクトロウォールを使ってなかったけど、Lvが上がったとこか!

 うん、俺の吹っ飛んでる先に展開された電気の壁を回避するのは無理! いや、吹っ飛んでる方向はロブスターの胴体側だから、ハサミに触れない可能性もあるには――


「隙あり! 『並列制御』『略:エレクトロボール』『略:エレクトロボール』!」

「ちょ!?」


 くっ、ヨッシさんがエレクトロウェブを解除して追撃を仕掛けてきたよ! いや、でも確かこれで魔法は20発目だったはず。これさえ凌げば、俺とハーレさんの勝ちだ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『連殴打Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 51/79

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『連殴打Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 45/79

<指定を完了しました。並列発動を開始します>

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『連殴打Lv3』が『連殴打Lv4』になりました>


 Lvが上がったのは良いけど、とりあえず左右のハサミに迫ってきている合計6発のエレクトロボールから回避するように……って、やばっ!? 空中で吹っ飛んでる最中に左右のハサミを回避させる為に振り回したら、ロブスター自体の向きがおかしくなった!?

 このままじゃサヤのエレクトロウォールに突っ込んで……あー、思いっきり突っ込んで、ハサミがエレクトロウォールに触れちゃった……。


「サヤ、ナイスだね!」

「ヨッシこそ、ナイスかな!」


 くっそ、今回は凌ぎきれるかと思ったけど、最後の最後で負けたー! 途中でサヤもヨッシさんも電気魔法のLvが上がった事で手段が増えた上に、上手く連携されて追い詰められてしまったな。

 それにしても、今回のはルール設定をミスった! 普段なら今のくらいならどうとでも回避は出来るけど、鍛えるスキル以外を使わないという縛りで俺が出来る事の幅が少な過ぎたよ……。


「うー! また負けたのさー!」

「……俺が自分でルール設定しといてなんだけど、ロブスターの鍛えようとしているスキルだけで回避って無理過ぎない!?」

「……いつもはケイが勝ち越す事が多いんだし、たまにはいいんじゃないかな?」

「……あはは、確かにね」

「ヨッシさんは今日のトーナメント戦の前って結構良い線行ってたけどなー!? サヤも対戦の種類によって普通に勝つよな!?」

「それはそれ、これはこれって事でね?」

「そうそう、そういう事かな」

「……まぁ特訓にはなったからそれでもいいけどな」


 あくまでこの特訓方法は熟練度稼ぎが目的であって、勝敗自体はどっちでも良いからね。……かといって悔しくないかというとそうでもないんだけど、今回のは流石に縛りをやり過ぎた。


「それじゃもうすぐ6時だし、この辺で切り上げて私とヨッシは一旦ログアウトかな?」

「あ、もう6時になってたんだ。対戦しながらだと30分とかあっという間だったね」

「だなー。さて、それじゃ俺とハーレさんは『魔法弾を扱うモノ』の取得をやっていくか」

「なんとか夜の合流までには取得しておきたいのです!」

「あはは、それは期待してるかな」

「そだね。あ、夜の合流場所はここ……というよりミズキの森林のどこかで良い?」

「あー、ここが空いてるとは限らないもんな。まぁそれで大丈夫だろ」

「私もそれで良いのさー!」

「私も大丈夫かな」


 みんなの意見も揃ったし、アルにはサヤかヨッシさんから連絡をしてくれるだろうから合流場所はこれで問題ないな。あ、そういやまだアルに確認が取れてないから確定は出来てないけど、Lv上げを中心にやっていくならその辺の情報は仕入れておくべきか?


「1つ確認。トーナメント戦の決勝戦には戻ってくるのは確定として、そこまではLv上げだよな? Lv上げはどこでやる?」

「はい! 昨日はほぼイカの討伐作戦のみだったので、改めてカイヨウ渓谷に行きたいです!」

「私もハーレの意見に賛成かな」

「私も賛成だけど……他にも一応候補地は探しておく方が良い気もするよ。多分大丈夫だとは思うけど、混雑の可能性はない訳じゃないし、それに他の場所も知っておきたいね」

「あー、そこは確かに同感だな。……よし、それじゃその辺はちょっと調べとく。海以外も候補は調べるつもりだけど、それでいい?」


 その俺の問いにみんなは頷いているから、同意で良いんだろう。まぁ昨日のイカの討伐戦があったカイヨウ渓谷が、トーナメント戦に大人数が流れている状態ではそこまで混雑する事はないとは思うけどね。

 まぁ単純に海エリア以外にも俺らが適正Lvになる場所を確認しておきたいとこではあるからなー。来週からはテスト関係でまともにログイン出来そうにないから、次の土日はアルも含めてLv上げに専念していきたいし。


「あ、そういやサヤ、ヨッシさん、週末に海鮮バーベキューをするとか言ってたけど、土曜と日曜のどっち?」

「えっと、日曜日かな。私の家の庭でやるんだよね」

「多分、6時から9時くらいの間はログインは無理そうだね。そうそう、サヤの家って結構広いんだよ?」

「あはは、ただの田舎だから無駄に広いだけかな。まぁ親戚に漁師の人もいたりするから、たまに開催場所に使わせて欲しいって頼まれたりするんだよね」

「そこはなんとなくヨッシのお婆ちゃんの家を思い出すのです! ヨッシのお婆ちゃんの家もそういうとこあったもんね!」

「まぁ確かに似たような感じではあるよね」


 ふむふむ、まぁこうしてざっくり聞いている感じではサヤもヨッシさんも親戚付き合いが多いみたいだな。……俺の家は両親のどちらの祖父母も俺の幼少期に亡くなっているし、その相続とかで親戚とは色々揉めたそうでほぼ交流はないからなー。


「あ、もう6時になったかな!」

「あ、悪い。無駄に足止めしちゃったな」

「ううん、これくらいなら大丈夫かな」

「まぁ少し遅れたからって、怒られる訳じゃないからね。でもあんまり待たせるのもあれだから、ログアウトするね」

「はーい!」

「ほいよっと」


 そうしてサヤとヨッシさんは夕食の為にログアウトをしていった。さて、それじゃ俺らは俺らでやる事をやっていきますか。


「それじゃ私は『魔法弾を扱うモノ』の取得を頑張るのです!」

「おう、頑張れ、ハーレさん! 俺は適当にロブスターの育てるスキルを発動しながら、ちょっとLv上げに良さそう場所の情報収集をしとくわ」

「あぅ!? 魔法部分はケイさんに任せたかったのです!?」

「……そこは普通に魔法の特訓と並行したほうが良いんじゃ?」

「ケイさん、私の魔力値は少ないのですよ!」

「だったら、簡略指示からじゃなくて、共生指示から発動すれば? 再使用時間に消費する魔力値の数値だけ秒数が加算されるだけだし、その間に行動値も回復させればいいしさ」

「はっ!? なんでそんな当たり前の事を忘れてたのさー!?」

「いや、それは知らないけど……」

「とりあえず私はその方向性でやってみます!」

「ほいよっと」


 さて、やるべき事の方向性も決まった事だし、俺はただスキルを無駄に連発するだけではあるけど熟練度稼ぎをやっていこう。

 えーと、目的は現時点で『殴打Lv4』『連殴打Lv4』『強連打Lv3』をそれぞれLv5にして連鎖増強Ⅰを手に入れる事だから、とりあえずまだLv3の強連打をLv4にするとこからやっていこうっと。


<行動値を3消費して『強連打Lv3』を発動します>  行動値 52/79


 さっき話している間に少し行動値は回復していたね。ま、完全にただの素振りだから、狙いとかその辺は雑でいいや。さて、それじゃちょっとまとめ情報から今の適正Lvの狩場を確認して――


「あー!?」

「……今度はどうした、ハーレさん」

「風魔法Lv4は半自動制御に登録してないから、共生指示で呼び出せないのです!」

「あー、そういや登録しなきゃ使えないもんな」

「うー! 仕方ないからクラゲでログインし直して登録……あー!」

「おーい、次はなんだー?」

「リスの半自動制御には投擲を登録したままだから、クラゲにログインし直すだけでもいける気がするのさー!」

「あー、クラゲでログインしてからリスの投擲を共生指示で呼び出すのか。まぁどっちでも熟練度は溜まるだろうし、それでもいいんじゃね?」

「再ログインの回数も減るので、それでやるのさー!」

「ほいよっと」


 ちょっと慌ただしい感じでハーレさんはクラゲに切り替える為にログアウトをしていった。ちょっとした誤算はあったみたいだけど、ちゃんと目的の行為を行える目算は立ったみたいで良かったね。


<行動値を3消費して『強連打Lv3』を発動します>  行動値 49/79


 それじゃ改めて素振りをしながら、情報の確認をしていきますか。えーと、Lv上げに向いているLv帯毎の良い狩場の情報は……お、あった、あった。Lv20台で良い場所はどんなのはあるかな。


 ふむふむ、望海砂漠にある地下洞窟……その先の地下の大空洞!? あー、小規模な洞窟が点在はしてたけど、その奥が見つかったんだな。

 おっ、ネス湖のコケボウズがある場所の先にも更に奥があるのか。ふむ、あの成熟体のアロワナを避けて進めば行けるっぽいね。

 他には『封熱の霊峰』から行ける溶岩のある洞窟……? え、これってどこ……あ、命名クエストで決まった岩山エリアの名前か。あー、なるほど、フェニックスがいるって話の洞窟だな。

 なんというか、共通点として入り口が隠されているようなエリアが多い感じだね。……他にもいくつかあるけど、これは全員勢揃いしてから考える方がよさそうだ。


「ただいまなのさー!」

「おー、おかえり」

「それじゃ称号取得を目指して頑張ります!」

「ハーレさん、ファイト!」


 そうして俺らの晩飯となる7時までの間、俺とハーレさんはそれぞれの目標に合わせて特訓をしていく。さて、この1時間の特訓でどこまで育つかな?



 それから1時間後、俺の方は『殴打Lv5』『連殴打Lv4』『強連打Lv4』までは育った。体感的には下位の方のスキルの方が熟練度が溜まりやすいような印象だなー。まぁスキルを1時間連打すればこんなもんか。

 そういややってて思ったんだけど、実際にダメージを与えているかどうかとかで熟練度の溜まり方に差があったりするのかな? まぁ劇的な違いというほどではない気もするけど、ただの素振りよりは少し溜まりやすいようになってる気がする。


「うー、まだ取得にならないー!?」

「……途中から回数が分からなくなってたもんな」

「あれは失敗だったのさー! もう少しだとは思うんだけど……」


 『魔法弾を扱うモノ』の称号を得る為には同日中に50回ほど不発を繰り返す必要があるらしいけど、情報を確認する前の回数を数えていなかった事と、行動値を回復させている間に回数が分からなくなってしまって、あと何回で取得になるかが不明である。

 今回のは既に検証が終わってるものを取得するだけだったからその辺の数を数えるのが適当になってたもんな。


「ハーレさん、そろそろログアウトするぞー」

「あと1回だけやらせてー!」

「……あと1回だけだぞ」

「はーい! 今はこれが最後の1回なのさー! 『並列制御』『ウィンドボム』『共生指示:登録1』! あ、取得になったー!」

「お、良かったじゃん。それじゃログアウトするぞー」

「あぅ!? 実際に使ってみるのは少しお預けなのです……」


 ま、それでもぎりぎり取得になって良かったってとこだね。俺としても今すぐに試してみたい気はするけど、流石にそれは厳しいもんな。

 それに俺の持ってる魔法だけでなく、ヨッシさんの毒魔法や氷魔法でも試してみたいっていうのもある。アルの樹木魔法でどうなるかも気になるところだけど、これはなんとなく駄目そうな気するな。


 何はともあれ今はとりあえずログアウトして、晩飯を食って、夜から全員集合してからだな。Lv上げもしていきたいしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る