第785話 的当て勝負


 さて、まだまとめられてはいない情報だけど、軽く見た感じでは検証自体は完了はしている。内容としてはさっきまで俺らが確認していた事に投擲を使う人が気付いたのが発端で、そこから各属性の魔法で検証がされていたみたいだね。それじゃ詳細を確認していきますか。


「おー! これって称号『魔法弾を扱うモノ』が取得になって、『魔法弾』ってスキルが手に入るんだー!」

「……えっと、爆発魔法と衝撃魔法に効果があって、単発なら爆発魔法を投げれて、連発なら衝撃魔法を分割して投げるんだね」

「投げる勢いや角度で着弾の位置調節が出来るってなってるかな。わっ、風の弾とか雷の弾とか投げれるみたいかな!」

「ホントだー! しかも他の人の魔法でも良いんだねー!?」

「あー、でも他人のだと魔法を発動してるプレイヤーが何も出来なくなるのか」


 ざっとそんな風にみんなで内容を確認してみているけど、中々面白そうな感じではある。俺の魔法をハーレさんが投げる事も可能みたいだけど、弾として魔法を提供している間は他のスキルが使えなくなるのはちょっと痛いな。

 うーん、そういう使い方をする場合は俺の魔法の射程外や命中精度が落ちる距離に向かって使う場合くらいか。どうやら『魔法弾』自体には威力強化の効果はないみたいなので、近くであれば別々発動した方が良さそうだしね。

 ん? これって地味に応用スキルの投擲スキルでは何故か効果が発揮しないってなってるね。応用スキルで使うには何かが足りないのか? ふむ、ここは何かありそうだけど、今は不明か。


「こりゃ結構使えそうだけど……ハーレさん、これの取得をやってみるか?」


 条件としてはさっきまでの不発というか暴発を同じ日に50回ほど繰り返せば、称号『魔法弾を扱うモノ』が手に入るとはなっている。この内容であれば取っておいて損はないはず。


「うーん、取得はしたいけど、今はやめておくのです!」

「え、何でかな?」

「元々の特訓内容から脱線しまくってるからさー!」

「……そういえばそうだったね。でも、折角の投擲の強化スキルだよ?」

「ふっふっふ、それは6時からやるから問題ないのです!」

「あー、なるほどな」


 現時点で5時半にはなってるから、サヤとヨッシさんが夕食でログアウトするまではそんなに時間は残ってないもんな。

 ハーレさんとしてはちょっと脱線し過ぎて自分の事ばっかになってたし、サヤとヨッシさんの特訓を優先にしたいんだろう。……サヤとヨッシさんはちょっと呆けた感じになってたけど、お互いに向かいあって何か納得したように頷いていた。

 

「そういう事なら、お言葉に甘えさせて貰おうかな?」

「うん、折角ハーレが気遣ってくれてるんだしね」

「ちょっと脱線し過ぎたのを反省してるのさー!」


 どうやら称号『魔法弾を扱うモノ』を取得するのは俺とハーレさんだけになってからになりそうだけど、俺はそのまま巻き込んでも別に良いのか。いや、別に嫌って訳でもないから大丈夫だけど……まぁ、今は4人での特訓方法でも考えようか。


「それじゃハーレさんの称号取得は後からだな。今はスキルの熟練度稼ぎをやっていくとして、今回はどんな風にやるか……?」


 うーん、俺がロブスターの連撃で、サヤとヨッシさんは電気魔法で、ハーレさんは……風の弾にして投げられるなら風を最優先でもいいのか。

 魔法型の進化を出す為でも操作の方の昇華も必要だから、そっちも鍛えないとなー。地味に結構進化先のハードルが高いけど、まぁLv上限に達した時に出てくる進化先より良い進化先を選びたいなら頑張って上げていくしかないか。……さて、どうやるか。


「はい!」

「ハーレさん、どした?」

「ケイさんはロブスターの連撃攻撃を鍛えるんだよね!?」

「まぁそのつもりだけど……」

「それならケイさんのロブスターのハサミを的にするのはどうですか!?」

「あー、そういうやり方か」


 ふむ、ロブスターの連撃攻撃を何かに当てる形ではなく、サヤ達の魔法を避けるように発動していく感じか。今までの的当てとはちょっと違った方向性だし、これはありかもしれない。でも、これは言っておかないといけない気がする。


「3対1は流石に拒否するからな?」

「えー!?」

「やっぱりそのつもりだったんかい!」

「ケイさんなら出来るのです!」

「いや、無理だから!?」


 一応オールラウンダーを目指しているし、決して近接も下手ではないとは思ってるけど、3対1を捌けるだけの技量はないぞ!? 操作系スキルでならまだ出来る自信はあるけど、近接ならそれこそサヤの方が向いてるやり方だよね、それ!


「それならケイのハサミを狙うのは私とヨッシで、ハーレはそれを邪魔する役目って感じでどうかな?」

「えーと、ケイさんのハサミがゴールで、ハーレがゴールキーパーみたいなイメージでいい?」

「うん、そんな感じかな」

「おー! それいいねー!」

「……なんで例えがサッカー? いや、まぁ大体伝わったから良いけどさ」

「んー、なんとなく浮かんだイメージがそれでね。……ところで複合魔法になる可能性はどうするの?」

「それならPTを解散にしておけば大丈夫じゃないかな?」

「あ、そっか。複合魔法になるのは同じPTの場合だけだったっけ」

「なら、PTは解散した状態でやるか!」

「「「おー!」」」


 ぶっちゃけなんでか同じPTでなくても複合魔法になるって認識してたんだけど、それは単なる俺の思い過ごしっぽいね。

 あー、連結PTとかで他のPTや他の群集の人とも発動させるのを何度も見てるから、そこで変な勘違いをしてたのかも……? うん、勘違いして覚えてたのは無かった事にしよう、そうしよう!


<PTを解散しました>


 それじゃ今のPTは解散処理はしたし、今回の4人での特訓の的当てをやっていきますか! おっと、その前に具体的なルール設定をしとかないとね。


「えーと、各自の勝利条件ってどうする?」

「はい! 私とケイさんは、ケイさんの被弾無しが勝利条件で良いと思います!」

「うん、ケイとハーレはそれで良いと思うかな。私とヨッシはどっちかがケイのハサミに当てたら勝ちでいい?」

「まぁそんなとこか。で、時間制限……というか、俺とハーレさんの勝利条件のクリアのタイミングは?」

「4人の中の誰かの行動値が尽きたらで良いんじゃない?」

「賛成です!」

「俺もそれで良いけど……ハーレさん、今の行動値は?」

「さっきまで盛大に使ったから、まだ半分くらいしか回復してないのさー!」

「……駄目じゃん!」

「……あはは、私も竜を簡略指示で小型化してるから半減してるかな?」


 おーい、半分しかないのが2人だと流石に行動値を基準にするのは無理がありません? ハーレさんの方は待てば回復するから問題ないとしても、サヤの竜の小型化は無理だから何か別の基準を考えるか。


「あー、とりあえず行動値を基準は無しって事で。代わりに……サヤとヨッシさんの魔法を20発まで凌げたらってのでどうよ?」

「……それはどの魔法を使ってもいいの? あ、私とサヤは電気魔法には限定した上で、ハーレは風魔法に限定でだけどね」

「おう、それで良いぞ。ついでに魔法砲撃と操作系スキルの併用まではあり。後、全員初期位置からは今回鍛えるスキルの使用以外での移動は無しで」

「え、スキルを使っての移動は良いのかな?」

「それはありにしてくれないと、流石に俺が無理……」

「確かにその縛りがないとケイはスキル関係なく普通に避けれるもんね。私はこれで良いと思うけど、ヨッシとハーレはこのルールで良いかな?」

「うん、問題ないよ」

「同じくなのさー!」


 よし、これで対戦ルールの設定は完了っと。時間的に何回もは出来ないだろうけど、それでもこういう対戦形式ならただスキルを発動し続けるよりは確実に効率は良いからね。


「それじゃそのルールでやっていくぞー。あ、開始の合図はどうする?」

「それならお任せなのさー! この小石を真上に投げて、地面に落ちたら開始でどうですか?」

「その辺が無難なとこか。んじゃ、位置取りを決めたら頼んだ」

「了解です!」

「サヤ、作戦会議しよ?」

「……確かに必要そうかな?」

「ケイさん、私達も作戦会議なのさー!」

「……いや、これから作戦会議までしてたら時間は大丈夫か?」

「「「あっ」」」

「……作戦会議はなしで、臨機応変にってことで」

「「「……あはは」」」


 思いっきり目を逸しながら苦笑いをしてるし、どうやら3人揃って地味に時間の事を忘れてたっぽいね。さっきの実験は決して無駄な事ではなかったけど、それでもちょっと脱線し過ぎてたか。

 まぁ臨機応変にという事で、俺の前にはハーレさんさんが陣取り、その先にはサヤとヨッシさんが並んでいる。……サヤの小型化した竜の姿が地味に見えないんだけど、どこかに隠してるっぽい? まぁ対戦を始めたら分かるか。


「それじゃハーレさん、頼んだ!」

「了解です! えいや!」


 そうしてハーレさんが空に向かって小石を投げて、少し滞空した後に地面へと落下して対戦開始の合図となった。

 さて、俺はロブスターの連撃を鍛えて連鎖増強Ⅰを取る必要があるから、使うのは『殴打』『連殴打』『強連打』の3つだな。この3つのスキルをLv5まで上げるのが目標である。


「サヤ、行くよ! 『並列制御』『エレクトロボール』『電気の操作』!」

「わかったかな! 『略:魔法砲撃』『略:エレクトロボール』!」

「ハーレさん、サヤのは無視でいい! ヨッシさんのを迎撃!」

「了解です! 『略:ウィンドプリズン』!」

「あっ!」

「ふっふっふ、捕まえたのさー!」


 お、ただ単純に撃ち落とすのではなく、魔法を魔法で捕縛するという手段を使ったのか。ヨッシさんが3つの電気の球を撃ち出してきたのはいいけど、手動で方向を変える前に抑えたのはナイス判断だ、ハーレさん!

 さて、俺はサヤの魔法砲撃になったのを迎撃して……って、連射じゃないから魔法砲撃にはしてないのか!? くっ、通りで竜の姿が見えない訳だよ!


<行動値を3消費して『連強打Lv3』を発動します>  行動値 68/79


 あ、ハーレさんに行動値の事を言ってたけど、俺自身もまだ全快してなかったー!? まぁ支障が出るほど減ってる訳じゃないから別に問題ないな。

 それにしてもサヤが3方向から通常発動のエレクトロボールを撃ち込んでくるとは思ってなかった。でもまぁ、それを回避するようにハサミで連続殴打で外れるように振っていく。うーん、空振り狙いというのもちょっと変な気分。


「ほい、ほい、ほいっと」

「まだかな! 『略:エレクトロボム』!」

「今度は魔法砲撃か!」

「ケイさん、ここは私がやるのです! 『ウィンドボール』!」

「させないよ、ハーレ! 『並列制御』『エレクトロボム』『電気の操作』!」

「あぅ!?」


 おっと!? サヤの竜がクマの後ろから顔を出してエレクトロボムを撃ち出してきて、それに3つのウィンドボールを当てようとしたハーレさんを妨害する形で、ヨッシさんがエレクトロボムの爆発の指向性をウィンドボールの射線上に広げていた。

 って、サヤのエレクトロボムを呑気に見てる場合じゃないか。普通にいつも通りに避けるだけなら簡単だけど、それじゃ特訓にならないし、その辺は少し工夫をしてみようっと。……これ、出来るかな?


<行動値を3消費して『殴打Lv3』を発動します>  行動値 65/79


 意外と打撃系のスキルはハサミ以外にも使えたりするので、今回はロブスターの尻尾を攻撃部位として指定して、地面を殴り飛ばしていく。

 って、あれ!? 尻尾が変な角度で地面に当たったみたいで土に少し埋まって狙ってたジャンプはうまくいかなかった!? くっ、打点は見えてなかった位置だから、ロブスターの尻尾が変な角度でスコップみたいに地面に突き刺さったっぽい……。


<行動値を3消費して『強連打Lv3』を発動します>  行動値 65/79


 えぇい、緊急回避で目の前の地面を思いっきり叩いて、その反動でロブスターの方向を変えてやる! ……よし、右側のハサミで左方向から地面に向かって斜めに連打して、その勢いを使って右側へと滑るように回避成功! 狙いが分かりきってた魔法砲撃だったからなんとか回避出来たね。


「あー、危なかった」

「え、そんなのありかな!?」

「でも、地味にチャンスだね! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『電気の操作』!」

「させないのさー! 『並列制御』『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」


 ふー、さっきのは危なかったけど、とりあえずなんとか回避は出来た。あー、初期位置からはスキル以外では移動しないって縛りを設定したけど、地味にこれはキツイなー!

 てか、サヤの竜はクマの首筋に竜がいて移動自体はしてないけど、顔だけ動かしてるっぽいな。基本的な位置は変わってないからルール違反って訳じゃないけど、まさかそうくるとはね…。


 今はハーレさんとヨッシさんがそれぞれに手動操作している3つの風の球と3つの電気の球が、お互いを消滅させようと攻防を繰り広げている。あー、これは最近操作系スキルの扱いが急激に伸びているヨッシさんの方が優勢か。


「今がチャンスかな! 『並列制御』『略:エレクトロプリズン』『略:エレクトロボール』!」

「あ、やばっ!?」


 ハーレさんとヨッシさんの攻防に少し気を取られていたら、通常発動のエレクトロプリズンに捕まってしまった。なんとか電気の拘束はハサミには触れていないけど、そこに魔法砲撃のエレクトロボールが迫ってきている。


<行動値を3消費して『強連打Lv3』を発動します>  行動値 62/79


 苦し紛れに拘束された状態からハサミにエレクトロボールが当たらないように連続殴打で回避はしたけど、無茶苦茶ギリギリじゃん!? あー、同じ群集だから麻痺効果が発生しないので助かった。


「ケイさん、避けてー!」

「もらったよ、ケイさん!」

「あっ!?」


 しまった、サヤの魔法の回避に専念してたら、ハーレさんの風魔法を振り切ったヨッシさんの魔法が俺のロブスターのハサミに直撃してしまった。

 これ、思った以上にサヤとヨッシさんの技量が伸びてるし、俺の回避方法が制限あり過ぎでかなりの無理ゲーじゃない? いや、移動に制限をかけたのは俺だけど、ちょっと上達具合を甘く見過ぎてたっぽい。ヨッシさんはある程度予想してたけど、サヤが想定より遥かに上達してますがな……。


「ナイスかな、ヨッシ!」

「サヤこそナイスだよ! かなり魔法も操作も上達してきてるね」

「……あはは、そう言ってもらえると嬉しいかな」

「ケイさん、油断し過ぎなのさー!?」

「……今回は反論の余地がないなー」


 うん、正直に認めよう。自分の方に制限をかけ過ぎたし、サヤの上達具合を完全に見誤っていた。……でもまぁ、あえて不利な状況に挑むというのも一興だろう。という事で、次は凌ぎきるまでだ!

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