第770話 イブキを迎えに
2ndのタケノコになっているベスタに頼まれて、無所属であるイブキを含めた小規模なトーナメント戦をやる事になった。
まぁ対戦自体はベスタがしてくれるという話だけど、流石に2人ではトーナメントにはならないのでもう2人ほど手伝いが欲しいとこだね。……主催する共同体のメンバーが参戦出来るなら俺らの中の誰か2人という手もあったんだけどな。
「ベスタ、あと2人はどうするんだ?」
「……ここで呼びかければ、誰か2人くらいは集まるだろ」
「無計画かい!」
「俺としても急な話だったんだから、それくらいは大目に見てくれ……。直接話を通せる相手で、手が空いてそうな奴が他にいないんだ」
「……オオカミ組は?」
「……あいつらは森林エリアの方で灰のサファリ同盟の森林支部と一緒にトーナメント戦での問題点がないかの検証をやっている。俺が呼べば来るだろうが、あいつらはノリでやってる感じもあるが俺には無条件で従い過ぎる部分があるからな……」
「あー、なるほど……」
ふむ、ベスタからしてみればそんな中で目に見える範囲にやってきて、特に急いでいるような気配の無かった俺らが都合が良かったんだな。
「それなら、そこも桜花さんに頼んでみるのさー!」
「……ふむ、確かに桜花なら独自の人脈を持っているから、それはありだな。よし、俺の方でその辺も中継と一緒に話をつけておく。……そこで悪いんだが、もう1つ頼まれてくれるか?」
「えっと、もしかしてだけどイブキさんを迎えに行けば良いのかな?」
「察しがいいな、サヤ。まぁ端的に言えばそうなる」
あー、そういや今の状況でここにイブキが来ていないって事は、どこかで待ってるって事になるのか。……誰がイブキと遭遇したのかは分からないけど、ベスタ話が来ていたという事はベスタとフレンド登録してる人かな?
「はい、質問です!」
「……イブキと遭遇した相手ならラックだな」
「あ、イブキさんと遭遇したのってラックなんだー!? でもそれならラックが対応するのでも良かった気がします!」
「普段ならそれで問題なかったんだがな。今日は例のトーナメントの方で準備があるから2ndのタケノコが進化するまで動けない俺が後の処理を引き受けた形だ」
「で、手が空いていた俺らが目の前に来て、白羽の矢が立ったって訳か」
「そういう事だな」
「……今は忙しそうだもんね、ラックさん」
「確かにそれはそうかな」
ここから見える限りでもラックさんは大声を張り上げながら、お試しのトーナメント戦の対応をしているみたいだしね。ざっと見た感じでは他の灰のサファリ同盟の人も頑張ってるけど、参加希望者が予定人数の32人に収まっていないようで、その調整に手間取ってるみたいである。
トーナメント戦の参加希望者が規定数以上になった場合ってどうなるんだろ? 単純に考えれば先着順な気もするけど……ちょっとヘルプを見てみようっと。あー、先着順と整理番号を配布しての抽選の2種類のどっちかに設定出来るのか。……あれ、それだと手間取る要素ってあるか……?
「あれって、もしかして何か不具合が発生してる?」
「……どうやらそのようだな」
「ちょっと様子を聞いてきてもいいですか!?」
「あー、それは別に良いけど、ラックさん達の邪魔にはならないようになー!」
「了解なのさー! 『略:傘展開』『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
そうしてハーレさんはベスタのタケノコが植わっている崖上から、エンの近くに向けてクラゲを広げてパラシュート代わりにして降りていった。トーナメント絡みで何か不具合があるなら、俺らもこれから開催する事になるんだし今のうちに知っておきたいとこではあるもんな。
「それじゃ不具合についての情報収集はハーレさんに任せて、俺らはイブキを回収しに行くか」
「……ケイって、地味にイブキさんの事は嫌いなのかな?」
「ん? いや、別にそうでもないけど?」
「でも、イブキさんの事は呼び捨てにしてないかな?」
「あー、それか。……いきなり問答無用で奇襲してきた相手に敬意は必要ないかなーって?」
「あ、そういう基準なのかな。え、それなら羅刹さんは?」
「んー、そっちは何となく?」
言われてみればなんでイブキはともかく羅刹まで呼び捨てにしてるんだろ、俺? ベスタの場合は呼び捨てで良いと言われたからだけど、羅刹に関してはイブキとセットでそういう感じで定着しただけな気もする。
まぁ羅刹本人に嫌がられた訳でもないし、別に良いか。羅刹は呼び捨てにされたからって理由で怒るような人とも思えないしね。
「とにかくイブキさんを待たせてるなら急がない?」
「それもそだな。あ、移動はどうする?」
「今回はケイに任せるかな。私はこっちも鍛えたいからね。大型化は解除して『略:小型化』!」
「あー、そういやそうだっけ」
サヤの竜は順当に進化すると大きくなり過ぎて共生進化が不可能になってしまうから、今のうちから小型化のLvを上げていく必要があるもんな。夕方は俺らは戦闘はしなさそうだし、発動しっぱなしで小型化の熟練度を稼ぐのもありだね。
うーむ、そういう事であれば俺も大型化のLvでも上げておこうかな? 大型化の進化はする気はないけど、Lvが上がれば更に大きくなれるし、状況によっては使う事もあるかもしれない。……まぁ、その辺をやるとしてもトーナメント戦の実況を始めてからか。
「ところでベスタさん、イブキさんはどこで待ってるの?」
「そういえば言ってなかったな。イブキはハイルング高原と森林深部の切り替えの辺りで待たせている。一応無用に騒ぎを起こせば相手にしないとラックに伝えてもらってはいるが……」
「……それはちょっと不安だな」
「これ、急いだ方が良いんじゃない?」
「私も同感かな」
あー、サヤもヨッシさんも不安には感じているんだね。そもそもイブキは問答無用で俺らに奇襲を仕掛けてきた前科があるもんな。
あの時は羅刹やウィルさんの話を微妙に聞いていない部分があったから、大人しくしていられるかどうかはちょっと疑わしい。まぁ騒ぎを起こしてたりすれば、ベスタの元に情報は届くだろうから多分大丈夫ではあるんだろうけど……。
ここで考え込んで心配し過ぎても仕方ないし、さっさと待っているイブキを回収してくるのが先決だな。早ければ早いほど、余計なトラブル発生が起きる可能性が低くなる。
さて、それじゃハイルング高原まで移動をしていこう。えーと、今回は飛行鎧の形を変えて……それよりは水のカーペットがいいか。……いや、大した距離でもないし手動操作で発動して熟練度稼ぎでもするか。
ここからハイルング高原までの往復で操作時間を使い切る事もないだろう。それなら土魔法を鍛えるつもりでやっていきますか。まぁまだLvが上がるにはかかるだろうし、地道に熟練度を稼いでいこう。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 78/79 : 魔力値 215/218
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『土魔法Lv6』が『土魔法Lv7』になりました>
え、あれ? 土魔法のLvが……上がった? え、Lv7へはまだまだかかると思ってたのに、マジで!?
「ケイ、どうした?」
「……熟練度稼ぎをしようと思って通常発動にしたら、土魔法がLv7になった」
「え、ホントかな!?」
「ほう? そりゃ良かったじゃねぇか」
「見えてないけど、ケイさん、おめでとなのさー!」
「これで土の付与魔法が解禁だよね?」
「そうだな……そうだよな! おっしゃ、土の付与魔法がこれで使える!」
よし、よし、よし! もっと時間がかかると思ってたんだけど、最近は土魔法の使用頻度が上がってたからそれが功を奏したのかもしれない。あ、しかもメニューの進化の欄が光ってるって事は、新たな進化先が出たか!
今すぐに確認したい気分ではあるけど、今はイブキを連れて来るのが先決だな。まぁ進化情報は逃げないから、まずはイブキを連れて来るのを優先して……って、早く生成した小石を支配しなきゃ無駄になる!?
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 59/79
よし、これで小石を操作して追加生成で岩の板を形成してっと。ふー、水の操作と土の操作もLv7にはしたいけど、とりあえずそっちも後回しだなー。コケの進化先は結構出てるけど、ロブスターの進化先が全然だからそっちを狙っていかないとね。
「よし、とりあえず移動開始するぞー!」
「「おー!」」
「ラック、ちょっといいー!? え、あ、うん! 少し待ってるのさー!」
「さて、俺は桜花に話をつけてくるか。……あぁ、急にすまんな、桜花。可能であればで構わないんだが、少し頼みが――」
それぞれに役割分担をしながら、サヤとヨッシさんは俺の生成した岩の板に乗り、ハーレさんはラックさんから不具合らしき状況の話を聞く待機になり、ベスタは桜花さんへとフレンドコールそし始めた。
さて、とりあえずサクッとハイルング高原までイブキを迎えに行きますか!
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>
そんなに時間もかからずに、岩の板に乗ってハイルング高原までやってきた。それにしても飛行手段を手に入れた人がどんどん増えているようで、道中では色んな種族の人が色んな方法で森の上を飛んでいたね。
いつまでも空中は混雑のない速度の遠慮がいらない場所ではなくなってきたって事か。まぁ初期エリアから離れたらエリアも広くなるし、エリアよるけど見通しは良い場所も多いから普通の移動速度でちゃんと周囲を確認していればぶつかる事もないはず。
さて、今の初期エリアでの空中移動の変化についてはとりあえず置いておいて、イブキを見つけないとね。えーと、イブキは風属性の緑色の龍だけど、どこにいる?
「あ、あれじゃないかな」
「お、確かにそれっぽいな」
「でも誰かと一緒にいるね?」
「みたいだな。……なんだあれ?」
なんというか近くにいる他のプレイヤーの姿は見えたけど、なんか緑色の細長い塊がウネウネと動いている……?
あれって……あ、フーリエさんじゃん! もしかしてあれってフーリエさんが2ndで作ってたヘビの表面をコケが覆ってるのか? え、でも全然ヘビには見えないんだけど、これって苦手生物フィルタが効いてる?
「……みんな、フーリエさんはどんな風に見えてる?」
「えーと、細長くなったコケの群体塊かな?」
「どことなく形状はヘビっぽい気はするけど、あんまりヘビには見えないね」
「……なるほどね」
サヤとヨッシさんに聞いた限りではどうも俺の見た印象とあまり違いはなさそうだ。……もしかしてだけど、フーリエさんの進化先ってコケを主体にしたヘビとの融合種か? なんというか特徴としてサンゴで構成されたサメのジンベエさんに近いものを感じるんだけど。
「……とりあえず降りるか」
「それが良いかな」
「フーリエさんがイブキさんと何を話しているのかも気になるしね」
ただ上空から見ているだけでは埒が明かないので、フーリエさんとイブキが話し込んでいる近くへと降りていく。ふむ、地味に外れた位置にはいるので誰かが通っていっても邪魔にはならないようにはしてたみたいだね。
「あ、ケイさん! みなさんもこんにちは!」
「おっす、フーリエさん」
「お、誰か迎えを寄越すから待ってろって言われたが、『グリーズ・リベルテ』じゃねぇか!」
「あ、ケイさん達がお迎えなんですね! 良かったですね、イブキさん」
「おうよ!」
ん? あれ、なんだかフーリエさんとイブキが仲良い感じだな。イブキが強引にフーリエさんへ対戦を挑んだりしてないかちょっと心配だったんだけど、それは杞憂か……?
「フーリエさん、イブキとここで何してたんだ?」
「えっと、今日はちょっとの間1人なもので、進化もしたからソロでハイルング高原を探検をしようとしてたら、イブキさんとラックさんが言い争ってるのを見たんですよ。その後すぐにラックさんが立ち去って、退屈そうにしているイブキさんに僕から話しかけたんです」
えーと、その流れだとラックさん経由でベスタに対応が移ったタイミングか? 多分大人しく待っていろとかそういう事をベスタが伝えたんだろうけど、そこで近くにいたフーリエさんがイブキに声をかけたのか。
「フーリエさん、特にトラブルとかはなかったかな?」
「イブキさんに変な事はされてない?」
「俺、何だと思われてんの!?」
「え、忙しいとこに我儘を言って強引にトーナメント戦に参加しようとしてる人」
「くっ、状況的にそれは否定が出来ない!?」
あ、一応今の状況の自覚はあったんだ。自覚があるならいきなりやって来るんじゃなくて、予め連絡をしてから予定を立てさせてくれませんかね……。
「まぁ、とりあえずベスタが俺らにトーナメント戦の開催を頼んできて、ベスタがそれに参戦する形にはなったぞ。ただし、4人での小規模なトーナメント戦になるのは我慢してくれ」
「ちょ!? え!? 『グリーズ・リベルテ』主催のトーナメント戦で、ベスタと戦える可能性あんの!? マジで!?」
「……そんな嘘をついてどうすんだよ」
「そりゃそうだよな! うはー、マジかー! たまには俺も検証で貢献してみようと思って、気合い入れて来たらすげぇ良い誤算!」
「良かったですね、イブキさん!」
ん? 今、イブキはなんて言った? え、イブキが検証しようと思って来たとか言った? ちょい待って、それだと俺が思ってた印象と全然違う形になってくるんだけど……。
「……イブキさん、その検証の話ってラックさんには伝えたのかな?」
「ん? そりゃもちろん……あー!? 伝えてねぇ!?」
「……あはは、これは変な行き違いだね」
「……マジか」
えー、イブキはその重要な部分を伝え忘れてたんかい。……そうなるとイブキの本命の目的はトーナメント戦で闘う事ではなく、無所属のプレイヤーがトーナメント戦に実際に参加してみることになるのか。
無所属のプレイヤーが参加する事による上乗せ報酬を確認したいとか、その辺りも調べたいのかもしれないね。ちょっと今回はイブキに対して変な先入観を持ち過ぎていたみたいだし、ここは反省……。いや、やっぱり言い忘れてたイブキも悪いよね!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます