第769話 森林深部に戻って


 とりあえずスクショの提供とコンテストのエントリーは済ませたので、トーナメントの方を見てみようっと。夜にアルと合流してからどうするか、その辺の判断材料にはしておきたいしね。


 今は混雑している地上を避けて飛んではいるけど地上の方は……あー、やっぱりさっきよりも混雑が凄くなっていた。そりゃ灰のサファリ同盟がお試しのトーナメント戦をやると言えば、参加してくる人も集まるよな。

 でもこれってちょっと混雑し過ぎな気もする。種族によって大きさがバラバラだから正確には分からないんだけど、確実にこの場にいるのは32人なんてものじゃないな。


「トーナメント戦って、参加の登録はエンでしか出来ないのか……?」

「その辺はいったんからは聞いてないけど、どうなのかな?」

「そういう時こそヘルプを見るのです!」

「えーと、その辺の記載は……あ、あった。参加の登録は群集拠点種に開催の登録がされたトーナメント戦の一覧から選んでやるんだってさ。それで参加人数が規定数に達するか、開催をしている共同体が受付終了にした段階でトーナメント戦は開始みたいだね」

「って事は、登録は群集拠点種でしか出来ない訳か」


 ふむ、これは混雑緩和の為の要望を出しておくべきか……? でも今日が実装初日で通常時よりも明確に集まってるってのもあるだろうから、時間が経てば自然と緩和されるかもしれないしなー。うーん、判断が難しいところ。


「あっ! ラックを発見なのです!」

「あ、ホントかな。でも忙しそうだよ?」

「あぅ、話を聞こうかと思ったけど、これじゃ無理そうなのです……」

「こりゃ灰のサファリ同盟からトーナメント戦の情報を聞くのは厳しそうだな」

「確かにそうだね」


 ラックさんを筆頭に灰のサファリ同盟で見知った人も何人かいるけども、今回のお試しのトーナメント戦での勝手がまだ分かっていない様子で大変そうである。実装初日に規模の大きいものを開催する側ともなると、流石にこうなるか。

 まぁ今日の夜に開催予定である例のタッグ戦の出場者の決定トーナメントは思いっきり任せちゃったけども……流石に少しは何かを手伝うべきかなー? いや、でもこの状況だとそれはそれで邪魔になりそうな気も……って、あれ? ベスタからフレンドコールがきたけど何かあった?


「悪い、ちょっとベスタからフレンドコールだ」

「え、ベスタさんからって珍しくないかな?」

「何の用だろ!?」

「あ、ベスタさんってあっちにいるタケノコじゃない?」

「「え、ベスタさんがタケノコ?」」


 あ、そういや俺がベスタ確認を取ったのはサヤとハーレさんがログインして来る前だったから、ベスタが2ndで新たにタケノコを作った件はまだ知らないのか。まぁ何も知らなければ不思議な気がするよなー。

 それはともかくとして、ヨッシさんが指し示した崖の上の方から俺らの方を見ているタケノコがベスタで間違いなさそうだ。まだベスタのタケノコの育成がどのくらいか分からないけど、位置的にはエンの北側の崖の上だし、俺らがベスタの方に移動する方が早そうだよね。


「とりあえずフレンドコールに出るわ。ヨッシさん、サヤとハーレさんに説明よろしく」

「うん、任せて」

「融合進化で空いた2ndの枠でタケノコを作ったのかな?」

「そうらしいけど、色々と思惑もあるみたいだよ」

「どんな思惑なのかが気になります!」


 うん、サヤが思いっきり答えを言っているけど、ベスタの狙いは単純にそれだけではないからね。とりあえず見えている距離ではあるけど、無駄に待たせても仕方ないからフレンドコールに出てっと。


「ベスタ、悪い、待たせた!」

「いや、何かを話しているところに急に連絡したからな。ケイ達にも都合があるだろうし、気にはしないさ」

「まぁそう言ってもらえると助かる。それでどうかしたのか?」

「あぁ……まぁ、その、なんだ……。用事があると言えば、用事があるんだが……ケイ達はこの後は予定はあるか?」


 あれ? なんかベスタにしては妙に歯切れが悪い感じだけど、一体どうしたんだ? あのベスタが何かを頼むのを躊躇うような状況って何だろ……?


「予定はまだ特にないけど……どうしたんだ、ベスタ?」

「……あー、サヤ達にも伝えたい内容ではあるから、予定がなくて時間があるなら悪いんだが俺の方まで来てくれないか?」

「そりゃ別にいいけど……本当に何があったんだ?」

「……ちょっとトーナメント戦絡みでな」

「……どういう内容かもの凄く気になるけど、とりあえずそっちに行くわ。サヤ達も関わるならその方が良いんだろ?」

「そうしてくれると助かる」

「んじゃすぐに行く」

「あぁ、頼む」


 そこでベスタとのフレンドコールは切ったけど、どうにもベスタらしくない反応ではあるよな。うーん、トーナメント戦絡みとは言ってたけど、俺らが関係するような内容か。

 あ、もしかしてタッグ戦の出場者とかで何か揉め事でも発生したとか……? ベスタに権利を移譲したとはいえ、決定権を持っていたのは俺ではなく俺らの共同体って事になるし、それならサヤ達も関係してくるのも分かる。……とりあえず詳細を聞きに行きますか。


「ケイさん、ベスタさんはどういう用件だったの?」

「なんかトーナメント戦絡みらしいけど、まだ詳細は聞いてないから分からん。俺以外のみんなにも話しておきたいらしいから、今からベスタのとこに行きたいんだけど、良いか?」

「え、私達にも? まぁ特に急ぎの用事もないから大丈夫だけど、サヤとハーレはそれでいい?」

「うん、問題ないかな。それにちょっとベスタさんのタケノコも見てみたいよね」

「同じくなのさー!」

「あー、確かにベスタのタケノコは見てみたいとこだな。それじゃサヤ、ベスタのとこまで移動を頼んだ!」

「分かったかな」


 そうしてエンから離れて、タケノコになっているベスタの元へと移動していく。さて、ベスタの話がどういうものかを聞きに行こう!

 とはいえ、お互いに視認出来る距離だったのですぐに辿り着いて、ベスタの近くでみんなサヤの竜から降りていく。……って、ハーレさんは俺のロブスターの上から降りんのかい! まぁ別に良いけどさ。


「ベスタさん、こんにちはー! ホントにタケノコだー!」

「まだ幼生体だがな。すまんな、急に呼びつけて」

「別にそれは良いけど……具体的な話の内容をよろしく」

「あぁ、そうだな。……まずどこから話したものか」


 悩ましげなベスタの声が地面に植わっているタケノコから聞こえてくる……って、そういやタケノコは幼生体の時は移動ってどうなってるんだろ? 木はアルの時のように成長体に進化するまでは移動は出来ないけど、草花系はどうだっけ?


「……本題からは逸れるが、タケノコは木や草花と同じで幼生体では移動は出来んな」

「……また声に出てた?」

「いや、今のはハサミが動いていただけだ。まぁタケノコは少し特殊だから気にする気持ちは分からなくもないがな」

「……なるほどなー」


 そういや無意識に声が出てる事は意識して気を付けてはいるけど、もう1つのハサミが動く癖の方は意識から抜け落ちてる事もあるもんな……。こっちも気を付けないと……って、これは本題じゃない!


「あ、もしかして私達を呼んだのって、まだ移動が出来ないからかな?」

「まぁそれはある。……ついでに本命の用件にも関わる事でもある」

「え、ベスタさん、それってどういう事なの?」

「……まぁ単純に言うとだ、この後、ケイ達も知っている無所属の奴がここにやってくる」

「あー、そういう……」


 なるほど、無所属のプレイヤーがここにやってくるのか。まぁそれだけでベスタが言い淀む事だとは思えないからベスタからしても面倒そうな相手で、無所属で、俺らの知っている相手……。

 ウィルさんはある意味では面倒ではあるけど、こんな様子にはならないだろうし、そもそもそんな無茶は言ってこないだろうから違うな。いか焼きさんは、そもそもベスタと面識があるのか……? うん、そこは分からないけど話は普通に通じる人だし、いか焼きさんも違う。羅刹は戦闘好きではあっても相手を無視した無茶な事はしないはず。……そうなると心当たりはあと1人。


「……イブキが1人でここに来るって事か?」

「……正解だ、ケイ。どうやら無所属でもゲスト枠としてトーナメント戦に参加出来るらしくてな。それで参加させろと言ってきているイブキと遭遇したという相談があってな」

「……えー、イブキ、何やってんの……。てか、ウィルさんや羅刹は……?」

「今日はまだログインしてないらしい」

「……マジかー」


 保護者不在のイブキがトーナメント戦に参加したくて無茶を言ってきて、その対応を……って、それがなんで俺らに関わる話になってんの!?


「えっと、それなら灰のサファリ同盟とかだと駄目なのかな? なんで私達かな?」

「……今の灰のサファリ同盟は忙しいし、俺も色々夜に向けて調整をしながらLv上げをしていたし、そもそも俺は共同体に所属していないからトーナメント戦の開催が出来ん。かといって羅刹が一緒ならともかくイブキ単独では負担があるから、どこかの共同体に適当に頼む訳にもいかなくてな。オオカミ組辺りに頼もうかと考えてた時に、イブキを知っている共同体がちょうど見える範囲にいたというのが……な?」

「そんな理由かい! いや、確かに合理的な判断な気はするけども!?」

「……正直、悪いとは思っている」


 あー、だからベスタは何だか言いにくそうにしてたんだな。そりゃ確かにその理由なら言いにくいのは分かるし、その判断に至った理由もよく分かる。

 暴走癖のあるイブキのみというのが問題点ではあるけど、無所属のプレイヤーがゲスト枠でトーナメント戦に参戦出来るという情報があるなら実際に確かめておきたいよな。


「あ、ヘルプに一応記載はあるね。PKでカーソルが黒くなってない、真っ白な状態の無所属の人なら情報ポイントを徴収する設定のトーナメント戦には参戦は可能で……あ、無所属の人が参戦したら少し報酬に上乗せが出来るんだ」

「え、ヨッシさん、それマジで!?」

「うん、そう書いてるね。ただ、具体的にどういう風に上乗せされるのかは書いてないよ」

「それなら試してみるしかないのさー!」

「あー、だから俺らに声をかけた訳か。ベスタ、要するに俺らが小規模なトーナメント戦を開催して、イブキの要望に応えつつ、報酬の上乗せの方法を検証しろって事でいい?」

「あぁ、その認識で構わん。イブキの相手は俺と、あと2人程協力を頼む予定だ」

「なるほどね……」


 って、ちょっと待てよ。あと2人の協力を求めなくても、俺らの内の2人が参戦すればそれで済む話な気がするけど……ちょっとこれはヘルプを見てみよう。いったんは言ってなかったけど、ちょっと思い至った可能性がある。

 もしかするとこのトーナメント戦って……あ、やっぱりか。ヘルプにはトーナメント戦を開催している共同体のメンバーは参戦不可になってるんだ。連盟機能を使っている場合はメンバーの人数を合算して連盟内の共同体が開催しているトーナメント戦への参戦は無理なんだね。別々に開催している場合は連盟内でも大丈夫みたいだから、この辺は身内で参戦者の水増し防止かな。


「あ、トーナメント戦を開催してる共同体のメンバーは参戦不可なんだね」

「え、そうなのかな?」

「そうみたいなのさー! これ、色々といったんの説明だけじゃ情報が足りてないねー!」

「あぁ、どうやらそのようだ。まぁ全部口頭で説明すれば長くなり過ぎるから、そこは仕方ないだろう」


 まぁその為のヘルプなんだろうけど、それでもヘルプに記載されていない情報もある感じなんだよな。今軽くヘルプを眺めているけど、情報ポイントを参加費として徴収する場合の報酬絡みの具体的な内容は書かれていない。参加費の情報ポイント数は変動させられるとはなってるけどさ。

 この辺は状況によって変更の可能性もあるみたいな事は言ってたし、テスト実装段階だから明確に確定情報とはしていないのかも? いったんは報酬絡みは八百長について触れていたし、もし問題点が出てきた時点ですぐに修正が入る可能性もあるんだろうな。


「みんな、どうする? イブキの暴走に関してはベスタもいるし、俺らでもどうにか出来るとは思うし、流石に受け入れた状態で暴れるとも思えないから、俺はやっても良いとは思うけど……」

「開催する側になるとは思ってなかったけど、良いんじゃないかな?」

「私も良いよ」

「私も賛成なのさー! あ、トーナメント戦は中継はどうなりますか!?」

「それなら基本的には普通の模擬戦とそれほど変わらないそうだ」

「だったら実況は私がやるのです! 桜花さん、手が空いてればいいなー!」

「……それは無茶な事を頼んでいる俺の方から頼んでみよう」

「やったー! ベスタさん、お願いします!」


 とりあえずこれでイブキとベスタを含めた小規模なトーナメント戦を俺らが開催する事が決定だな。とはいえグリーズ・リベルテでは参加人数は最大で5人までだし、5人だと組み合わせがややこしくなるから4人までで開催するのが無難か。中継についてはそれほどって事は少しは違う部分もあるのかな? まぁ極端に大きくは変わらないんだろうけど。

 とにかく簡単な仕様の確認をするなら小規模でも十分だよね。4人でのトーナメント戦なら3戦までで決着にはなるし、無所属プレイヤーの参戦による上乗せ報酬内容も分かるはず……多分! まぁ情報ポイントの総数は少ないだろうから、大した賞品は設定出来ない可能性も高そうだけど。


「ところで、今ベスタがタケノコでいる意味って何かあるの? トーナメント戦に参戦するならオオカミでログインしても良いんじゃ?」

「あぁ、それか。ちょうど幼生体のLv10になったから、色々と調整をした代わりにイブキに進化の為に仕留めてもらおうかと思ってな」

「あ、なるほど」


 うん、まぁ確かに既に進化出来るLvになっているのであれば、無所属のイブキがこれから来るという状況は都合がいい状況ではあるのか。

 何となくベスタに都合の良いように使われているような気もするけど、普段から色々とベスタにはお世話になっているからこれくらいは引き受けても問題はないだろう。俺らとしても予定外の方向性ではあるけど、新たにテスト実装されたトーナメント戦に触れられる機会だしね。

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