第767話 操作のぶつけ合い
ヨッシさんと久々に的当てゲーム風の特訓を開始すると同時にサヤがやってきたけど……って、意識を散らしてる場合じゃないな。パッと見てヨッシさんの5本の氷のナイフの操作精度は、氷解の操作での1発に比べると精度はかなり落ちるように感じるね。
うーん、今の時点では同時操作はまだまだアルの方が上だよなー。まぁヨッシさんの操作は決して下手な訳ではないし、その辺を鍛える為の特訓だね。
とりあえずヨッシさんの操作する5本の氷のナイフをそれぞれに叩き落としていく。ふむ、それぞれのナイフが上手く個別には扱えてないみたいだから、その隙を狙って横から弾き飛ばすような感じで……そこ!
「よし、抜けた!」
「あっ!」
上手い具合に弾き飛ばした氷のナイフ同士がぶつかって、ヨッシさんの操作が盛大に乱れた。ふむ、動きを戻そうとして少し慌てたね。
まぁそれを放置すると特訓にならないから、その隙を逃さずに氷の的に岩のナイフを当てていく。……よし、これで俺の勝ちっと。
「えっと、今回のはルールがいまいち分かってないんだけど、これはヨッシの負けかな?」
「うん、先に的の方に当てられたら負けだから、今のは私の負けだね。やっぱり普通にやったらケイさん相手だと厳しいなぁ……」
「あはは……ヨッシ、ファイトかな!」
「まぁ頑張るよ。ねぇ、ケイさん、何かアドバイスをもらえない?」
「おう、いいぞー」
その為の特訓なんだし俺の分かる範囲でアドバイスをしていこう。まぁあくまで俺のやり方だからヨッシさんに合うとは限らないけど、それでも何かの参考になればいいしね。
ぶっちゃけ操作系スキルってオンライン版からの要素だし、オフライン版のなんちゃって魔法のマニュアル操作にかなり近いけどあれは無くてもクリア出来るからなー。扱いきれるならオート照準よりマニュアル操作の方が圧倒的に強いんだけどね。人化した妖狐の狐火で焼き尽くすのとか爽快感はあったもんな。
って、今はオフライン版の事を回想してても仕方ない。えーと、ヨッシさんへのアドバイスが先!
「とりあえず……さっきのは無理に氷のナイフの操作は放置で、的に集中して回避した方が良かったと思うぞ」
「……確かに今のは的が無防備だったもんね。でもさっきみたいに乱された場合って、どうするのが良いの?」
「えーと、さっきみたいに制御が乱れた時は慣れるまでは強引に戻すんじゃなくて、自然に落ち着いてから動かし直す方がいいな。そういう意味でもさっきのは一度的に意識を持っていくのが良い。慣れたら逆に勢いに変えるって手もあるけど、まぁそれはもっと個別に扱うのが上達してからの方がいいと思うぞ」
「……そっか、無理に立て直すよりは影響が無くなるまで待った方がいいんだね。それなら影響を受けていなかったり、影響の少なめのナイフを選んで、それを集中して使うのもあり?」
「まぁ状況にもよるけど、それもあり。さっきの場合ならちょっと当たった程度の1本に操作を絞って俺の的を狙うとかね」
「そっか、そういう方向性でも良いんだね。……ケイさん、もう1戦いい?」
「いいぞー」
とりあえず今のヨッシさんに必要そうなアドバイスはしてみたし、それを反映させた2回目をやっていくのもありだな。……ちょっと精度に差があり過ぎた感じもするし、次は少し抑えめにいくか。
おっと、その前に少なからず操作時間も減っているし、操作は操作をしている時間でも熟練度は稼げてる感じはするけど、魔法は発動回数が多い方が熟練度も稼げるから、一度解除してから再発動をしていこうか。
「ケイ、もう解除するのかな? まだ全然使えそうだったけど……」
「んー、まぁ今ので操作時間が減ってるのもあるけど、熟練度稼ぎも兼ねてるな。最近、土魔法を結構使ってるから土魔法がLv7にならないかという期待もある」
「あ、確かにそれはそうかな」
「それなら私もそうしようっと」
そう言いながらヨッシさんも氷のナイフと的を消滅させていく。……地味に土の付与魔法が欲しかったりもするんだけど、Lv7は遠いから地道にやっていかないとね。水の操作と土の操作も上げていきたいところ。
ま、とりあえず再発動をしていきますか。……どっかのタイミングでロブスターの進化先も出しておきたいとこだけど、まぁすぐにではないからそこは順番にやっていこう。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 67/79 : 魔力値 209/218
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 65/79 : 魔力値 206/218
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
さて、再びこれでナイフと的の元になる小石を6個生成した。あー、でもヨッシさんのさっきの感じならナイフを1本減らすくらいのハンデはあった方がいいか?
「ヨッシさん、もうちょいハンデをつけようか?」
「ううん、それはいらないよ。……少し思いついた事もあるしね」
「……ほほう?」
「ヨッシには秘策ありかな?」
「……まぁ上手くいくかはやってみないと分からないけどね。『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷の操作』『氷の操作』!」
ふむふむ、何やらヨッシさんには思いついた手段があるらしい。前に複数の操作をする際のコツをアルに教えた事もあるし、さっきのアドバイスと共にその辺を思い出したりしたのかもしれない。
ヨッシさんがどういう手段を取ってくるか、油断せずに対応していこうか。……操作系スキルはコツを掴めば一気に精度が上がるから、ここは油断出来ないぞ。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を3消費して『土の操作Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 62/79
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『土の操作Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 56/79
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
ハンデはいらないという事だし何か秘策があるっぽいから、今回はさっきよりも小振りなナイフにしていこう。的もヨッシさんが生成したのと同じくらいにしておいて……。
ヨッシさんが新たに生成した氷のナイフは……1本ずつの見た目はさっきと同じだね。ただ、ハチの前方の比較的近くにまとめて生成しているのが気になるところ。……さっきはハチの羽根みたいに見えるような感じにバラけさせてたけど、この配置が狙いか?
「……本当にケイの手加減が無くなったかな?」
「……そういや普通に流してたけど、サヤっていつから見てたんだ?」
「えっと、ケイとヨッシがどっちもナイフを生成したとこからかな」
「あー、そのタイミングか」
それなら俺が意図的にハンデとしてナイフや的の大きさを変えていたのを見てはいたんだな。それにそのタイミングだと、ちょっと声もかけにくいか。
というか、ログインしたてだっただろうから、海水への適応をしてたのもあるのかもね。でも、合図を出してくれるサヤがいるのはありがたい。
「それじゃ今回もサヤに開始の号令は任せた!」
「うん、分かったかな!」
「あれ!? みんなして何やってるのー!?」
「見ての通り、ケイとヨッシで的当て対決かな」
「おー、そうなんだー!? ヨッシ、頑張れー!」
「あはは、ありがとね、ハーレ」
「とりあえずハーレは私と一緒に見学かな」
「了解なのさー!」
そうしてログインしてきたハーレさんは、サヤのクマの頭の上に乗って寛ぎながら俺らの方を見始めてきた。
とりあえずこれで夕方のメンバーは揃ったけど、トーナメント戦とかをみんなでチェックに行くのはヨッシさんとのこの対戦が終わってからだね。
「それじゃ開始でいいかな?」
「俺はいつでもいいぞ」
「私も問題ないよ」
「……それじゃ開始かな!」
「ヨッシ、ファイトなのさー!」
さて、ヨッシさんの考えた手段を見てからでもいいんだけど……ここは手加減抜きで先手をもらう! まずは五角形を形作るようにナイフを配置して、そこから中心部に向かって一気に斬りつけるように操作をしていく。
「わっ! でも、これならどう?」
「あー、そうきたか!」
ヨッシさんはなんというか5本のナイフを筒状に並べて、その中に的を移動させてきた。……ふむ、ナイフを分散させずに攻防一体の形にしてきたか。
「でも、それだと的当て対戦には良いけど、普段使いでは微妙だな。そんでもって、カバーはしきれてない!」
「慣れる為だからね!」
「……ほほう」
おっと、5方向からの石のナイフでの斬りつけを筒状に並べた5本の氷のナイフを……なんだろう、洗濯機みたいな感じでまとめて回転させる事で弾いてきたか。
個別に動かすのはまだ不慣れだから、5本のナイフ自体の動きはほぼ同一のものにして5本で1つの操作にして対応してきたんだな。ふむふむ、俺は多角的に方向を変えて攻撃をするけど、確かにこれはこれでありか。
「……うーん、ここからこれでどう!」
「おっ!?」
ほほう、5本のナイフを回転させながら俺の的の方に突っ込ませてきたね。……これ、回転させる事で操作時間は減っていってるはずだけど、地味に対応がしにくくなるから有効かもしれない。でもこれくらいなら対応はどうにかなる。甘く動かせば弾かれるだろうけど、それが分かっていれば対処は可能だ。
「そこ!」
「あっ!」
俺の岩のナイフの1本を回転しているナイフの中に突っ込ませて、静止させることで強引に回転を止めていく。よし、筒状にして回転していたナイフの1本を強引に止めた事で他の4本も次々に止まって……いや、待て。本数が足りない……? って、なんか変な感じの光が上から……あ、そっちに氷のナイフ!?
「危なっ!?」
うっわ、今のは危なかった!? ナイフを回転させていたのは意識をそっちに集中させる為で、俺が強引に止めた瞬間に1本だけ回転の勢いを利用して上部へと移動させていたっぽい。
透けている氷のナイフが変に光の角度を変えていなければ、上からのナイフの攻撃に気付かなくて的を回避させるのは間に合わなかった。1回目とはヨッシさんの操作の動きが一気に変わったね。……やるな、ヨッシさん
「……あはは、今のはいけたと思ったんだけどね」
「ヨッシ、今のは惜しかったのさー!」
「ケイがもっと本数を使ってくれてたらいけてたかな?」
「サヤもハーレさんも、ヨッシさん贔屓だな!?」
「もちろんなのさー!」
「まぁ、そうなるかな」
まぁそりゃそうですよねー!? 特にハーレさんの場合はそうなるよねー!? ……この辺は元々分かっている事なんだから気にしても仕方ない。
てか、今のは完全に氷のナイフの特徴とでも言うべき要素に助けられたなー。でもまぁ、今のを見てちょっと面白い事も思いついた。
「おし、それじゃヨッシさん、仕切り直しでいくぞ」
「うん。……でも、今のが駄目ならもう打つ手は思いついてないんだけどね」
「……なんとなく嘘な気がするんだけど」
「……あはは、どうだろね?」
あー、こりゃ完全にヨッシさんは心理戦を仕掛けてきたか。実際に本当に打つ手がないのか、それとも実はまだ何か考えてる手段があるのか……そこを警戒させて意識を散らせる気だな。……こういうのって対人相手だと有効なんだよね。
とにかく仕切り直しという事で、俺もヨッシさんもお互いに5本のナイフと的を自身の近くへと移動させていく。
「それじゃ再開かな!」
「んじゃいきますか!」
まず5本の石のナイフを密着させて、切っ先を揃えるように円錐状にしていき、その石突……ナイフの場合って石突で良いのか? うーん、柄の部分というべき? まぁそこはいいや。とりあえずその部分に向けて的を一気に加速させて叩きつけていく。
「え、それってありなの!? わっ!?」
「相手の的に当てるのがルールだから、問題なし!」
ちょっとルールの抜け穴を使った手段なような気もするけど、ルール違反はしてないから問題なし! 実際の戦闘中ならこれで文句を言ってる場合じゃないしね。
「なら、これで! あっ!?」
「よし、もらった!」
俺のまとめた石のナイフを迎撃する為に、ヨッシさんが俺がさっきやったように5方向から中心部に向けて斬りつける感じで操作してきたけど、まとめたナイフをそれぞれ1本ずつタイミングをズラして個別に加速させていく。
「うっ、流石にこれは厳しいね!?」
「いや、かなり上達してるって」
俺の5本の石のナイフでヨッシさんの氷の的を狙っているけど、かなり上手く回避されている。ただまぁ、そっちに集中しているみたいだから俺の的への攻撃に移る余裕はなさそうだ。
「それじゃこれで終わりだ!」
「え? あっ!?」
「よし、俺の勝ち!」
「あー、負けちゃった。そっか、海の中なら周りの海水を乱すのもありなんだね」
「ま、そういう事」
最後の仕上げとしては石のナイフの動かす向きを変えて、ナイフの腹の部分で海水を乱してヨッシさんの操作を狂わせた所を狙っていった。うん、これは海中だからこそ出来る手段だな。
「ヨッシ、どんまいなのさー!」
「ヨッシ、ちょっと惜しかったかな」
「……あはは、あそこで決めたかったんだけどね」
「いやー、正直に言えばあれは氷に光が反射して助かったんだけどな」
「え、そうだったの?」
「おう、そうだぞ。あの時はナイフの角度が悪かったなー」
「……そっか、そういう環境に影響される要素もあるんだね」
あの光の反射は偶然の要素が強いから、基本的にバラバラにはせずまとめて操作しつつ、ピンポイントで必要な時に意識を逸して攻撃を狙っていくというヨッシさんのさっきの戦法は問題ないはず。
「まぁケイさんに操作系スキルで勝てるとは思ってなかったけど、上達してるのが実感出来て良かったよ」
「あー、それは俺も思いっきり実感した。ヨッシさん、かなりコツを掴んできてるな」
「うん、なんとなくだけどね」
俺の操作とちょっと方向性が違う気はするけど、それでも確実にヨッシさんの操作系スキルの腕前は上がっている。俺は個別に操作をしていくのが得意だけど、ヨッシさんは固めて一気にまとめて操作する方が得意そうだね。
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