第765話 空いている枠で
いったんからトーナメント戦の簡単な仕様の説明を聞いてからゲーム内にやってきた。昨日はそのままナギの海原で解散したから、ログインした場所はナギの海原である。
ログアウトをする際にもまだ大騒ぎは続いていたので、流石に海鮮バーベキューの会場になってたイカダからは離れた場所でログアウトをしたんだよな。
あ、昨日のあの会場は急拵えだったとは聞いたけど、今見てみれば海面まで届いていない中途半端な土台があるだけか。岩を積み上げて土台が作られているから、本格的な完成まではまだかかりそうだね。
周囲を見てみれば海エリアのプレイヤーの姿がそれなりに見えるし、一般生物の魚や海藻とかもよく見える。ナギの海原は比較的浅いから、昼の日である今日は陽光が射し込んでいて結構綺麗だな。……そういや昼の日にここに来るのって初めてな気がする。
さてと、とりあえず今日のこの時間帯は明確に予定が決まっている訳じゃないから何をして……って、忘れない内にログインボーナスをもらっとこ。
<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
よし、これで問題なし。今日はスムーズに家に帰ってきたし、まだみんながログインしてくるまでは時間があるはず。今までの経験上、特に予定がなければサヤ達の中で一番ログインが早いのはヨッシさんだよね。
とりあえず少しの間は単独行動……の前に、昨日忘れてて、今朝思い出した事のチェックをしておくか。えーと、まとめで確認するか情報共有板で聞くか、どっちにしよう? ……ふむ、既にまとめられている可能性も高いし、そういう情報をただ質問するだけのもあれだからまとめで確認にしておこうっと。
という事でまとめを開いて……えーと、とりあえず『横取りされたモノ』についてのチェックからしていこう。……よし、あった。どれどれ?
【称号『横取りされたモノ』の取得条件(暫定版)】
条件1:最低で1PT以上、最大でフル連結PTまで。それ以上の人数では無理な可能性が高い。
条件2:相手にする敵はフィールドボスで、横取りをしていく相手は成熟体に限定される。(今後の進化が進んだ際に変動する可能性あり)
※現時点では、この以外の組み合わせでの取得情報はなし。
条件1・2を満たした状態で何らかの形でフィールドボスから成熟体へ攻撃を当てれば、成熟体がフィールドボスを仕留めに動く。仕留め終わった段階で称号の取得となる。
称号の取得と同時に手に入るスキル『アイテム還元Ⅰ』について。
まだ不確定な部分はあるが、現時点では判明している内容を記載する。
このスキルの取得時の戦闘において使用されたアイテムは使用者に還元される。ただし、一度戦闘行為を中断した場合にはアイテム使用のカウントが初期化されると思われる。(ここは情報が不足している為、情報提供を求む)
ほうほう、『横取りされたモノ』はこういう取得条件になってるんだね。まだ未確定な情報も多いみたいだけど、昨日の俺らのとイカの作戦だけで……あ、違うな。報告内容が同じページに表示されてるけど、他にも数件の検証結果の報告がるみたいだ。
ふむふむ、ざっと検証報告を眺めてみた感じだと、徘徊してた成熟体を相手に色々試してたのか。他にもフィールドボスに成長体を殺させるとかも試していたみたいだけど、取得に成功したのはフィールドボスを成熟体に倒させた時のみなんだな。
アイテム還元が確定かどうかの検証もあるけど、成熟体の前で誕生させたフィールドボスとの戦闘をわざと打ち切ってから戦い直したら瘴気石は戻って来なかったってなってるね。……これは何度も試したくない内容だなー。
この検証は一件だけだから情報不足ではあるけど、戦闘行為を中断しなければ使用したアイテムの還元は確定な気はする。あ、地味に昨日のイカでは称号は取得出来なかったんだ。フル連結PT以上の人数が関わってたから条件的に外れたみたいだね。
とりあえず『横取りされたモノ』についてはこんなもんか。白光するスキルは……あー、不確定な推測のみだから、まだまとめとしては書かれてないか。あくまで推測のみの情報しか出てないし、成熟体なるまでは不確定の可能性が高いって書かれてるから、ここは詳しく見ても仕方ないか。
それじゃアンモナイトと戦って得た『烏合の衆の足掻き』の方は……あ、これはまだ再現情報はなしで、条件も不確定か。あ、『横取りされたモノ』も『烏合の衆の足掻き』も検証に成熟体が必要になってたから、こっちは後回しになっているって書いてるね。
昨日のイカの討伐作戦にかなりの大人数が集まってたし、森林エリアの検証班であるツキノワさん達も参加してたし、他にも沢山参加してただろうからなー。時間が無尽蔵にある訳じゃないから流石に検証をするにも限界もあるか。
トーナメント戦で『空白の称号』が追加で手に入る可能性が出てきたし、これはこれから再現をしていく案件だな。
さてと、確認を忘れていた情報についてはこれで良し。うーん、これからどうしようかな? とりあえず誰かいないかフレンドリストを見てみて……お、ベスタが……あれ? ベスタのキャラ表示が2ndになってるぞ?
ベスタの2ndはコケだったけど1stのオオカミと融合進化をした事で枠は空いているから、新たな2ndを作ったのか? ふむ、ちょっと気になるからフレンドコールでもしてみようか。って事で、早速フレンドコール! あ、すぐに出てくれた。
「ケイか。いきなりどうした?」
「おっす、ベスタ! 特に大した用事でもないんだけど、2nd表記になってたのが気になってさ?」
「……そういえばフレンドリストではどの枠でログインしているかは分かるんだったな。まぁ単純に少しオオカミのLv上げがかなりやりにくくなってきているのと、その状態で無理に成熟体に進化しても仕方ないからな。少しペースを落とす為に2ndを改めて作っただけだ。まぁ作ったの自体は数日前だがな」
「あー、なるほど。……ちなみに1stのオオカミのLvは?」
「現時点でLv28だな」
「高っ!?」
もうあとLv2で成熟体への進化が可能じゃん!? そっか、成熟体に進化してしまえば強くはなるけど、周りとのLv差を考えると一人だけ突っ走っても面白みに欠けるんだろうね。……うん、ただでさえ強いベスタが成熟体に進化してしまえば、他の人は要らないとかそういう事態にもなりそう。
「……まぁこの辺は仕様だろうが、共生進化や支配進化とのLv差が開き過ぎないように一定Lv以上になると急激にLvが上げにくくはなっているようだな」
「あー、そういう仕様か……」
共生進化や支配進化は2体を同時に育てるという仕様だから経験値が二分されて育成が遅くなるから、単独進化や合成進化や融合進化の育成度合いに調整が入ってるのか。それが無ければLv差がどんどん開いていくだけだしね。
「それって、Lvは上がりにくくてもスキルを鍛えるか、2ndを作ってそっちも育てるかっていう二択?」
「まぁざっくり言えばそうだろうな。徹底的にスキルを鍛える方向性も良いだろう」
「確かにそりゃそうだ。で、ベスタは2ndを育てる事にしたと」
「そうなるな。一応言っておくが、これも検証の一環ではあるぞ?」
「え、そうなのか? それって、どういう検証?」
「融合種が共生進化を実行出来るかという検証だ」
「あー! なるほど、それは考えてなかった!」
そっか、融合進化は元々2枠のキャラを1枠にしているから、2枠を利用する共生進化が出来る可能性もある。そういう検証なら同じ進化階位でなければ共生進化は実行出来ないから、オオカミを無理にLvを上げて成熟体にしてしまうのもマズいんだな。
というか、そういう事ならもしかしてこの手段もいけるのか……? うん、可能性としては否定は出来ない気がする。
「なぁ、ベスタ。それって場合によっては融合種が更に融合進化をする事も可能だったりする……?」
「それを確認する為の検証でもある。……場合によってはキメラを生み出せる可能性もあるだろう」
「だよな!」
合成進化で部位を増やす事は出来るけど、それはあくまで部位だもんな。複数の生物を併せ持つキメラの誕生とか、普通にありそう。パッと思いつくのでもキマイラとか鵺とかそんなとこか。
あれ、今思ったけど融合進化でも組み合わせ次第では最適化の変異進化が発生する可能性もあるんじゃ? ……場合によっては、合成進化と融合進化のどっちからでも行ける進化ルートもありそうな気がする。
ちょっと待った、ちょっと待った! これは多分だけど試していない案件ではない気がするぞ。ただ俺が知らないだけで、既にまとめに情報がありそうな――
「ケイ、融合進化からでも変異進化が発生するパターンはあるにはあるぞ」
「あ、やっぱりあるんだ!? って、声に出てた!?」
「……いや、出てはいなかったが急に無言になったからな」
「声に出てなくてもバレバレかい!」
「まぁな。ただ、あまり融合進化からの最適化の変異進化では利点がないな」
「……というと?」
「別の種族として最適化して進化する事になるから統合・改変されたスキルが元に戻ったり、そもそも統合・改変が起きない場合もあるそうだ。合成進化からの経路と違うだけで、結果は同じになるだけだな」
「あー、融合進化の利点が無くなるんじゃ意味ないか……」
「そういう事だな。融合進化経由で最適化の変異進化を狙うなら、明確に種族として確立する組み合わせが良いだろう。灰の群集で今の時点で情報が上がっている例としては、名前に劣は付くがグリフォンだな」
「あー、既に例は上がってるんだ」
グリフォンって言えば、確かタカとライオンが混ざったやつだっけ? あれ、タカじゃなくてワシ……? まぁ、そこは良いか。ふむふむ、明確に複数の種族の特徴が混ざっている伝説上の生物とかは融合進化からの最適化の変異進化から狙っていけるみたいだね。
カオスなごちゃまぜの進化も出来そうな……って、それはどちらかというと合成進化の領分か。融合進化は主体にした種族の要素が色濃く残った上でもう片方の種族の特徴も得るって感じだから、一部の部位が追加になる合成進化とは似ているようで違うもんな。
「ちなみに融合進化からでは狙えないパターンもあるにはあるぞ」
「え、どういうパターン? いや、ちょっと待って。自分で考える」
「……まぁそう言う気はしていた。本当に戦闘中以外は分かりやすいな」
「……あはは」
かなり俺の思考パターンを読まれている気がするけど、もうそれはいつもの事だから気にしない。それはともかく、融合進化からは狙えないパターンか……。
そんなパターンは……あっ! そっか、融合進化は共生進化をしている事が前提だから、大型の動物同士では不可能になる。……そして、それの実物を俺は既に知っている。
「青の群集のリーダーのジャックさんのオルトロスか!」
「あぁ、正解だ。オオカミ同士では融合進化は出来ないからな」
「おっし、正解!」
なるほど、合成進化と融合進化という別経路から同じ種族に最適化の変異進化する事もあれば、合成進化からしか狙えない種族もあるし、融合進化からしか狙えない種族もある訳だな。
これって結構計画的にやらないと失敗しそうだけど、その為に3枠目まであるのかもね。まだ3枠目の解放はされてないけど……いや、逆か。計画を立てられるだけの情報を得られる段階まで行ってから、3枠目が使えるようにしているのかもしれない。
まぁ既に支配進化から同調になってしまっている俺は軌道修正がしにくいけど、成熟体に進化する際に解除してしまえば不可能でもないんだよね。……まぁ今までの育成が勿体無いし、そういうキメラ系で作りたい種族も特にはいないからしないけどさ。
「あ、そういや結局ベスタは2ndで何を作ったんだ?」
「そういえばまだ言ってなかったな。新たに作ったのはタケノコだ」
「まさかのタケノコ!?」
「……何か問題でもあるか?」
「いや、ちょっと純粋に予想外だっただけ」
ふむふむ、ベスタがタケノコを作ってくるのは以外……いや、少し前にあったきのことたけのこのお菓子の勢力争いで筆頭になって動いたというベスタとしては珍しい行動をしていた事もあったっけ。
タケノコ自体が竹とタケノコの切り替えが出来る結構特殊な種族とは聞いた覚えもあるし、プレイヤースキルの高いベスタには良いのかも?
「ちなみにタケノコはどういう方向性で育てる予定?」
「バランス型にしてみようかと思っている。あれだ、属性を持つ応用スキルらしきものを狙ってみるつもりでな」
「あー、なるほどね」
ベスタのタケノコはオオカミとは大きく違った方向性にはなりそうではあるけど、折角の2ndなんだし同じ方向性にする必要もないもんな。ベスタが育てるバランス型のタケノコがどんな風になるのか、ちょっと楽しみかも。
「あ、ケイさん、まだここにいたんだね。……あ、フレンドコール中みたい?」
「あ、ヨッシさん」
「どうやら他のメンバーがやってきたっぽいな。ケイ、他に聞きたい事はあるか? あるならLvを上げながらでも俺は構わんが」
「……なんかそれは悪い気はするから、遠慮しとく」
「そうか、ならフレンドコールは切るぞ」
「ほいよっと。急なフレンドコールだったけど、色々教えてくれてサンキュー!」
「この程度なら問題はない。それじゃまたな、ケイ」
「おう、またな、ベスタ!」
そうしてベスタとのフレンドコールは終わりになった。なんというか確証はないんだけど、高確率でベスタは2ndのタケノコを育てつつフレンドコールで会話をしていたような気がする。……流石はベスタといったところだね。
「ケイさん、ベスタさんと話してたの? 邪魔しちゃった……?」
「あー、用件自体は聞き終わってたから問題ないぞ」
「それなら良かったよ。ところで何を聞いてたの?」
「ベスタが新たに2ndを作ってたから、それについてだな」
「え、ベスタさん、2ndを作ったの? ……それは確かに気になるね」
「ヨッシさんもそう思うよなー」
うんうん、気になる気持ちはどうやらヨッシさんも同じようである。とりあえず急ぎの用事もないから、ベスタから聞いた事をヨッシさんにも伝えておこうっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます