第747話 逃げていくイカ


 シアンさんとセリアさんに遭遇して、それほど間を置かずに逃げているイカの目撃情報が入ったという事ですぐに立ち去っていく事になった。それと地味に海水の生成魔法の有用性が分かったのは成果だな。

 今回の作戦は基本的に海エリアの人がイカを追い詰める役目になっているから、その辺は大変そうだね。まぁさっきの目撃情報では完全に今のイカの位置を捕捉出来た訳じゃんし、俺らは俺らでやるべき事を続けてやっていこうじゃないか。


「あ、そういや話しててまた意識が逸れてた……」

「あー、まぁ今のは仕方ねぇんじゃねぇか? 俺も止まるタイミングを失ってたからなんとも言えねぇし……」

「アルマース殿の言うように、さっきのは流石に仕方ないのである! 急に知り合いに話しかけられ、意識を逸らすなという方が無理であるな!」


 うーむ、まぁ確かにそれはそうなんだけど、ごく自然にシアンさんとセリアさんが横を泳ぎ始めたからその辺の意識が吹っ飛んでたもんな。……何でも万全にミスなく行う事も出来ないし、ここは反省して意識を切り替えるか。


「結果としては他でイカの目撃情報があったんだし、さっきのは問題なかったんじゃないかな?」

「ふっふっふ、そうなのです!」

「まぁ結果的にはそうだけど、とりあえず自慢げに言う事ではないからな、ハーレさん」

「分かってるのさー! 私はちゃんと捜索をしてたのです!」

「一応私もかな?」

「……もしかして捜索出来てなかったの、俺だけ?」

「……ケイ殿、拙者もなので気にする事はないのである」


 サヤとハーレさんはしっかりと捜索していたけど、俺と刹那さんは捜索出来ていなかったんだな……。あ、でもサヤとハーレさんは勝負をしているから、その辺の意識の集中の差だったりするのか?

 とりあえず結果的には問題なかったんだから、これ以上無駄に考えるのはやめとこ。それより改めてイカの探索をしていった方がいいな。さっきのイカの目撃情報を聞く限りでは、イカの逃亡範囲はかなり広いはず。新しい情報は……あったら、ヨッシさんが報告しているか……。


「アル、一度止まってくれ。ちょっと予定変更」

「おうよ」


 そうしてアルはすぐに泳ぎを止めてくれた。あんまり見れてなかった周囲を軽く見回してみると、少し先の方に思いっきり深い溝というか谷みたいなのがある。……ふむ、あそこが流れが強い海流がある場所か?


「刹那さん、確認。ちょっと先に見えるあそこの溝が海流の強いとこ?」

「その通りであるな! なるほど、ケイ殿はあそこに行くつもりであるか?」

「まぁそのつもり。割とすぐ近くだしさ」

「おー! イカが流れてくる可能性があるのさー!」

「確かにその可能性はありそうかな」

「……確かにそうだな。よし、それじゃあそこの溝に移動するぞ」

「アルマース殿、あまり深い部分には入らない様に気を付けるのである。深くなればなるほど、流れが強まるのである!」

「……下手に潜り潜り過ぎれば、俺らがどっかに流されるって訳か。そこは肝に銘じとくわ」


 そう言いながらアルは深い溝の方に向けて改めて移動を開始した。……っていうか、さっきまで進んでた方向と変わらないし、わざわざ止まる必要も無かったか?

 いや、さっきまで何度かミスをしてるんだし、ここは慎重にやっていこう。それと獲物察知のLvも重要だから、無駄打ちでも良いから使いまくっていくか。


<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します>  行動値 62/66(上限値使用:12)


 うーん、特に代わり映えはしない様子だな。黒いカーソルは全然ないし、1PTの人数の灰色のカーソルが俺らの近くから離れていっている様子が見える。……こりゃ近くに黒いカーソルがないのは、この表示されているPTが倒していった感じだね。

 それにしても中々獲物察知はLv5に上がってくれないな……。これだと俺の獲物察知は全然役立たずで、サヤとハーレさんの目視での発見に期待をするしかないかもね。


「おし、溝の上まで来たから、少し潜っていくぞ。……刹那さん、危なそうな深さまで行きそうになったら止めてくれ」

「それはお任せあれ!」

「っ!? 刹那さん、ここってこのエリアの海溝では一番手前になるの!?」

「そうであるが、ヨッシ殿、どうされた?」

「時間がなさそうだから単刀直入にお願い! ここから北の方……多分、比較的近い位置でイカの目撃情報あり!」

「本当であるか!? それだと目の前を流れていく可能性もあるのである!」


 うおっ、少なからずその可能性はあるとは思ってたけど大当たりじゃん! あー、くっそ! この状況って獲物察知がLv5になってれば大活躍するとこー!?

 あー、今はない物ねだりをしても仕方ない。今出来る事で、やれるだけの事をやるまでだな。


「アル、流されないように慎重に潜れ! 俺の獲物察知はまだ役に立たないから、見つけるのはサヤとハーレさんに任せた!」

「おうよ!」

「了解なのさー!」

「分かったかな!」


 よし、発見するのはそういうのが得意なサヤとハーレさんに全面的に任せてしまおう。でも、今回も目撃情報って言ってたし、俺らが思っている以上にイカの動きを補足するのが難しいのかもしれないね。

 俺らがイカの動きを止めてしまえればいいけど、それが可能とも限らないな。そもそもの話、50センチくらいのイカって話だしね。……何か策を講じておくとして、何か使えそうな目印的なもの……目印、目印ねぇ……あ、あれがある!

 

「ヨッシさん、発光針だ。捕まえきれない可能性もあるから、目印をつける!」

「え、でもどうやって当てるの?」

「そこは任せとけ!」

「イカを発見なのさー! でも、結構深いとこにいます!」

「え、どこかな!?」

「望遠にしてないとまだ見えないのさー! わっ、移動が速いのです!」


 どうやらハーレさんが望遠の小技を使って先にイカを発見したみたいだね。サヤがまだ目視出来ていないって事は、ほんの少しくらいは猶予はあるか。……逆に言うとサヤが見つけた時が俺らにとっては時間切れかもしれないけど。


「ちっ、もっと深くか!」

「アル殿、これ以上は事前対策無しでは危ないのである!」

「くっ、それじゃここの海流に合わせるしかねぇのか!」

「予め伝えておけばよかったのである……。こうも早く接触があるとは思わなかったのであるよ」


 とりあえずアルが流れに対抗できるくらいの海流には入ったな。てか、アルは大丈夫だけど俺を含めてサヤや刹那さんが流されてしまいそうなので、飛行鎧の岩でみんなの固定をしておこう。

 ここでも結構な流れの速さなのに、更に流れが速い海流ならみんなバラバラになってしまいそうだ。そりゃ刹那さんが事前準備が必要だと言ってくる訳だよ。


「ケイ、私もイカを目視したかな!」

「もうか! ヨッシさん、手段を説明してる時間がないからすぐに頼む!」

「……みたいだね。『発光針』!」


 よし、ヨッシさん……発光針の寒色系の光がどの程度の目印になるかは分からないけど、これは博打だな。

 本当ならこのまま捕まえてしまいたいけど、海流の速さとかイカの移動速度を実際に見てみないとぶっつけ本番で出来るかどうかは分からないんだよね。……まぁ、可能そうならそのまま捕獲してやるけどさ。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 61/66(上限値使用:12): 魔力値 213/216


 あ、ここは土の操作と岩の操作のどっちにしよう? 警戒される可能性を考えるなら小さい方が良いけど、捕獲の事も考えるなら……あー、考えてる時間がない! とりあえず岩の操作で最小サイズでだ!


<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 42/66(上限値使用:12)


 とにかく生成した岩にヨッシさんの発光針を巻き込んで折った状態にして、突き刺せるようにしておいて……って、無駄に岩がでかいな……。いや、もう言ってる場合じゃない!


「ケイ、目視出来てるかな!?」

「いや、まだ……よし、見つけた!」


<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 明確なイカの形までは把握出来ていないけど、速い海流の中をより速く動いているそれっぽいのは見つけた。……そういやこのイカは+19の瘴気石を使った黒の暴走種のフィールドボスだっけ。地味に忘れてた……。

 というか、この海流の流れ自体が凄いぞ……。あ、やば!? 目視出来たと思ったら、あっという間に通り過ぎていったんだけど!? くっ、これは目撃しか出来ていない理由が分かったよ!


「アル、追いかけてくれ!」

「おうよ! 『略:旋回』『略:自己強化』『略:高速遊泳』!」

「きゃ!?」

「ヨッシ、大丈夫かな!?」

「うん、大丈夫! アルさん、追って!」

「アルマース殿、くれぐれもこれ以上の深さの海流には乗らないように!」

「分かってる!」


 イカが通り過ぎていった流れの速い海流の上の、比較すれば緩やかな海流の中でアルが向きを変えて流れに乗りつつ速度を上げていく。ちっ、何とかイカの姿は見えたけど、移動が速過ぎる!

 これじゃ岩の操作を最大限加速させてもイカには届かない……。捕獲するのは無理だけど、せめて目印の発光針だけでも刺してしまいたい。でも、どうやって……。


「あっ!? 刹那さん、ダメ元で聞くけど海流の操作は持ってるか!?」

「海流の操作であるか!? Lv1でろくに使えないのであれば一応持ってるのであるよ!」

「よし、あるだけ上等! 既にある海流に海流の操作は重ねられるか!?」

「一応可能ではあるが、加速し過ぎて制御が難しくて使い物にならないのであるよ!?」

「おっ、加速してくれるのは好都合! 無茶は承知で、俺の生成した岩を海流の操作で加速させてくれ!」

「ケイ殿は無茶を言うのであるな!? だが、それに賭けるのも一興である! 猶予もなさそうなのでそのままでいくのであるよ! 『海流の操作』!」


 あ、今回は普通にオリジナル詠唱は無しなんだ……って、思いっきり荒れ狂った海流で岩が流されていくけど!? くっ、刹那さんの海流の操作がLv1という事もあって、流れが乱れまくってるな。

 でも、これなら岩の操作自体の加速も含めれば、イカに追いつくまでの勢いは確保出来そうだ。……出来るだけ水の抵抗を減らすために円錐状の岩にして、その先っぽに発光針を設置してっと。


 よし、何とか無茶を重ねてイカのすぐ近くまで持っていく事が出来た。ほんの少しだけ岩の操作時間が残っているし、これなら捕獲もいけるか?


「ケイ、今かな!」

「ケイさん、いっけー!」

「ケイ、捕まえてしまえ!」

「ケイさん、頑張って!」

「ケイ殿!」


 あー、もうみんなにそんなに応援されたら頑張るしかないよな! とにかく、何とか逃げてるイカを射程圏内に収めた。……ここからイカの乗っている海流にこれを突っ込ませる事にはなるけど、なんとかいけるはず!


「おらよ!」

「あー!?」

「避けやがった!?」


 くっそ、イカのいる海流に岩を移して荒れ狂うのを制御しながら、イカに当たる寸前でヒラリと紙一重に岩を回避された。ちっ、もう操作可能時間がないし、手詰まり――


「いや、まだだ!」

「ヨッシの発光針が刺さった!? ケイさん、ナイスだよ!」

「ケイさん、ナイスかな!」

「おっし!」


 もうほんの僅かにしか残っていなかった操作可能時間を使って、ヨッシさんの発光針の向きを変えて刺したのが大成功だった。あー、でもあっという間にイカの姿が見えなくなったか。

 でも地味に発光針の光は結構離れていても見えるもんだな。まぁエリア自体が天候のせいや、深度のせいで真っ暗だという点も影響はしてるんだろうね。


 それにしても捕獲は失敗だったかー。……ぶっちゃけ、あの速い海流の中であのイカを捕まえるのって不可能じゃない? 実際に対峙してみて思ったけど、捕まえるなら海流の中にいない時を狙うしかないような気がする。


「アル、とりあえず流れのないとこまで移動してくれ……。今のは地味に疲れた……」

「……だろうな。ケイ、ご苦労さん」

「それじゃ私は発光針を打ち込んだ事を伝えてくるね」

「ヨッシ殿のあの光る目印はかなり有効そうではあるな! それにケイ殿の手腕にも脱帽なのである!」

「……あはは、そうなってくれると良いんだけどね。発光針は今はLv3だから、どこまで効果があるのかが分からないよ?」

「それでも目印を打ち込めたのは大成果だと思うかな!」

「そうなのさー! ケイさんもヨッシも大手柄な筈なのです!」


 まぁ実際に効果があるかはこれから確認していってもらうしかないだろうね。でもまぁ、誰でも持ってる訳ではない獲物察知Lv5がなくても、これで多少は見つけやすくなったはず。

 それにしても今のは流石にシビアなタイミング過ぎて、かなり集中力を使ったなー。……ちょっと休憩したいところだね。

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