第746話 捜索中に


 さて、ハーレさんの投げた石が当たって襲いかかってきた残滓のダツはあっさりと仕留め終わったね。まぁ俺は何もしてないけど、そこは役割分担だからなー。というか、ちょっと捜索よりも戦闘を見過ぎてた気がするけど……って、あれ?


「……いつの間にか移動が止まってる?」

「俺以外は周囲をチェックしてなかったんだから、そりゃ移動は止めるぞ」

「あー、そりゃそうか。アル、ナイス!」

「……あはは、戦闘に集中し過ぎたかな?」

「確かにそうである!?」

「でも今のは仕方ないのさー! 戦闘状態になったLv差のない敵は無視も出来ないのです!」


 まぁそりゃLv差があって経験値が微妙なら放置するか、誰か1人が相手をすればいいけど、他より弱い残滓で倒しやすくても適正Lvの敵は無視出来ない。単純に放置出来る相手ではないという事もあるけど、経験値的な意味からしてもね。


「そこはハーレさんの言う通りだな。敵が出てきた場合は全員の意識が少なからずそっちに分散するだろうから、その場合は今と同じように移動は止めるぞ」

「……確かにその方が良いかもな」

「うん、分かったかな!」

「了解なのさー!」

「承知したのである!」


 今のヨッシさんみたいに情報共有板に集中している場合なら戦闘にはそれほど意識は取られないけど、捜索中の戦闘はどうしても視界に入るからなー。

 ここの敵は倒さないのは勿体無いし、かといって意識が分散して見落としたら意味がないし、アルの言ってるように戦闘中は移動を止めるのが無難だね。ま、後は戦闘ばっか見てないで周囲を観察するのも忘れないようにしないと駄目だけど……。


「ヨッシ、何か新情報はあるかな?」

「んー、今のところはまだないみたい。あ、ザックさんはそろそろオウムガイの所に到着するとは書いてたよ?」

「ザックさん、通り過ぎて行ったもんねー!」

「だなー。……そういや刹那さん、オウムガイのいた位置ってどの辺になるんだ?」

「ここからは少し距離はあるであるが、南の方である!」

「ほほう、ここから南か」

「とは言っても、拙者達がそこに行くかはまだ分からないのである!」

「……まぁ場合によっては行く必要もある訳だけどなー」

「そうとも言うのであるな!」


 まぁその辺がどうなるかは、オウムガイの識別情報とイカの捜索具合にもよるからね。新しい動きがなければ、確定が出来ない作戦だから仕方ない。

 とにかく今はオウムガイの識別はザックさんに任せて、俺らはイカの捜索に専念しよう。それより先の作戦について考えててもどうしようもないしね。


「さてと、それじゃ移動を再開するか。アル、頼んだ」

「あー、移動方向はまだハーレさんの選んだ方向で良いのか?」

「ほとんど進んでないのに終わりなのー!?」

「……あはは、とりあえずしばらくはそのまま継続で良いんじゃないかな?」

「それもそだな。って事で、アル、よろしく」

「おうよ」

「それじゃ改めて、頑張ってイカを見つけるのさー!」

「ハーレ、どっちが先に見つけられるか勝負かな!」

「受けて立つのさー!」


 そうしてアルが再び移動を始めれば、サヤとハーレさんが何やら勝負を始めていた。……俺ら以外の人が見つける可能性や、俺らの行く場所にいない可能性もあるけど、それをここで言うのは無粋かな。勝負という形にして見つける為の集中力が高まるのなら良い状態でもあるしね。


 さてとサヤとハーレさんはもの凄いやる気になってるし、俺は俺でやる事をしていこうっと。……まぁまだフィールドボスの察知が可能になるLv5になってないから現時点では意味はないんだけどね。その辺は近々上がるのを期待して、今は目視でやっていくしかないな。


<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します>  行動値 58/66(上限値使用:12)


 んー、再度発動してみたけど、少し近くに灰の群集の人が2人いるくらいで、それ以外はこれといった変化はなしか。

 ……ん? なんか急に上の方から緑の矢印の表示が増え……ちょ!? 矢印が多過ぎて視界の一部を埋め尽くしてるんだけど!?


「刹那さん、一般生物の反応がとんでもない塊で出てるんだけど、これって何!?」

「あぁ、それはただの魚の群れであるよ」

「視界の一部が埋め尽くされてるんだけど!?」

「それについては、そういうものであるからなー。まぁ実物を見れば分かるであるよ」


 ふむ、実物を見れば分かるときたか。……魚の群れって言われてみれば、確かに大量の魚が集まって泳いでいる映像は見た事はあるけど、オフライン版ではそこまで盛大な魚の群れは再現されていなかった気もする……。

 って、あれ? 見上げて魚の群れを確認しようとしてみたら、一気に緑のカーソルの数が減って、残った緑のカーソルもいくつかの塊に散らばっていった。……って、近くにあった灰色のカーソルが突っ込んできてたから、誰かが盛大に食ったか……?


「セリア、刹那さんとケイさん達を発見!」

「あ、ホントだね!」


 あー、なるほど。さっきの灰色のカーソルはどっちもクジラのシアンさんとセリアさんか。……てか、シアンさんは癒属性を得てたから薄っすらと光ってるのは分かるんだけど、セリアさんは尾ビレの辺りに海藻が包帯みたいに巻き付いてるなー。

 セリアさんの1stはワカメだったしはずだし、前から共生進化はしてたと思うけど、なんかワカメがデカくなってる気がする。ふむ、どういう状態なんだろう?


 そんな事を考えてる内に、シアンさんとセリアさんがアルに並ぶように近付いてきて泳ぎ始めていた。クジラが3体も並んで泳いでいると壮観だなー。


「おっす、シアンさん、セリアさん。そっちはどんな感じ?」

「俺達の方は全然イカが見つかってないねー」

「そうそう、ほんとあのイカは何処に隠れてるのやらねー」

「……そんなにその逃げてるイカを見つけるのって大変なのか?」

「「まぁね!」」

「なんでそこでシアンさんもセリアさんも自慢げなんだよ!?」


 うん、そのアルのツッコミは俺も思った。いや、まぁミスは誰にでもあるし、俺だって何度も巻き込むやらかしをした事はあるけど、ここって自慢げにするとこ……? うーむ、地味に初期エリア毎に雰囲気の差とかはあるけど、海エリアは灰の群集の中でも特に寛容な感じなのか?

 海エリアに関しては赤の群集と青の群集……特に赤の群集は騒動になった時に他のエリアを一度見捨てるくらいには違うみたいだけど……よく考えたらちょっとどころの違いじゃないな。青の群集もBANクジラの件もあるし、海エリアは先入観は無しで考えよう。なんとなく森林深部と同じ感覚でいたら駄目な気がする。


「いやー、俺らがやらかしちゃったけど、こんな風にイベントになってるのならありかなってさー」

「そうそう、ミスを気にしすぎても良くないよ!」

「……とまぁ、これが海エリアの日常であるな。いつの間にかセリア殿がシアン殿色に染まって、同じような行動が多く、ソウ殿が後始末をよくやっているのである」

「……なるほどね」


 なんというかセリアさんも自由な感じはあった気はするけど、完全にシアンさんの影響を受けてしまって同じようになってしまっているんだな。……まぁ刹那さんが少し呆れた風に言ってはいるけど、それでも嫌そうにしている感じはしないので、これが日常として海エリアでは成立しているんだろうね。

 まぁそれは良いんだけど、ヨッシさん以外が何か納得する様に頷いているのが気になるんですけど? ハーレさんとサヤは思いっきり俺の方を見てるよね!?


「サヤ、ハーレさん、何か言いたい事があるなら聞こうか」

「……特にないかな?」

「そうなのさー! 特にないのです!」

「絶対嘘だよな!? 今のは何か思ってる反応だったぞ!?」

「……ケイ」

「……なんだよ、アル?」

「……察しはついているだろう?」

「ですよねー!?」


 くっ、シアンさんが初期にやらかした事の経緯に俺が絡んでいるから、元を辿れば俺に辿り着くというのは自明の理! 

 いや、よく思い出してみればシアンさんはその前にカツオの人……って、あの時の人はケンローさんか。とにかくケンローさんを食べていた事があったはずだし、俺が元凶ではないはず! いかん、この発想の仕方自体がある意味、今のシアンさんとセリアさんの状況に繋がっていく気がする!? ……反論すればする程、自滅しそうだ。


「……何かケイ殿の葛藤が見え隠れしているであるな」


 他のみんなは何も言ってないけど、刹那さんの言葉からして態度には軽く出てるっぽいけど、言葉には出ていないみたいだね。……よし、これ以上は気にしたところで意味もないし、気にしない事にしよう! 

 色々やらかしたけど、結果的にそれらは今の灰の群集の雰囲気の元になってるのは自意識過剰ではないだろうしね。


 シアンさん達がフィールドボスを逃してしまったのだって、やってはいけない失敗行為としてのサンプルにはなっているもんな。こうしてお祭り的な討伐作戦にもなっているのも悪い事ではないし、そういう意味ではありなはず! ……あれ、なんか結論がシアンさんとセリアさんが言ってた事と同じになった……?


「えっと、空気を読まない形になるんだけど、ちょっと良い?」

「ヨッシ、どうしたのかな?」

「ザックさんの識別が終わったのー!?」

「ううん、そっちじゃない方。逃げてるイカが目撃されたって」

「え、マジか!?」

「へぇ、思ったより早かったな」

「そうであるな!」


 中々見つからないとシアンさんとセリアさんから聞いたばかりだけど、そのタイミングでイカの目撃情報が出てくるとはね。でも発見ではなく、目撃って言ったのが気になるね? 完全に位置を捕捉できた訳じゃないのか?


「ヨッシさん、情報ありがと! セリア!」

「分かってる。えっと……目撃情報は確かに上がってるね。……ただ、すぐに見失っちゃったって」

「うん、視界の端には捉えて移動していく方向は見たらしいね」


 あー、やっぱり完全にイカの位置を捕捉できた訳じゃないみたいだな。でも、それならある程度の方向性だけでも絞れてはくるはずだから、全く無意味な情報でもないか。


「セリア、その目撃情報のあった場所は?」

「ここから北西の方……深海エリアへの切り替え地点に近い場所みたいだね。随分とエリアの端にいた上に、強い海流が多い場所じゃん……」

「えー、あっちの方なんだ……」


 ふむ、なんだか面倒そうな感じになっているシアンさんとセリアさんだね? それにしてもここから北西の方にイカがいたって事は、ここから南にいるオウムガイとは距離があるんだな。……すぐ近くにいるとか都合のいい事は無かったようである。


「刹那さん、エリアの位置関係の説明を頼んでいいー!?」

「あぁ、そうであるな! 今、イカのいたという場所は『ナギの海原』の北部になる深海エリアとの切り替えの場所という事になるのである!」

「あ、そういえばそんな事を言ってたねー!? それで強い海流っていうのはー!?」

「それは深海エリアから、このカイヨウ渓谷、そして『マークの海原』の東部となる非常に海流が強いエリアへ向けて海流がいくつも流れているという事であるな。それらの複数の強めの海流がこの渓谷を形作っているのである!」

「補足をするなら、それ以外にもいくつかの海流が入り混じってたりもするよー!」

「そだねー! オウムガイのいる辺りは流れは強くはないけど、複雑な流れをしててそれで迷路みたいになってるもんね」


 ふむふむ、この『カイヨウ渓谷』というエリアはそういう風に海流の流れが沢山あり、隣接しているエリアとも海流が繋がっているんだね。こういう風に海流の影響が大きいというのは海エリア独特の要素なんだろう。


「そうなるとその位置からならイカは海流に乗ればかなりの広範囲の移動が可能って事か?」

「ケイさんの言う通りだねー。セリア、とりあえず俺らは目撃情報のあった場所に行って、他のみんなにそれぞれの大きな海流を見張ってもらう?」

「うん、海エリアのみんなにはそれがいいね。陸エリアの人達には、海流から外れた位置を探してもらおう!」

「それじゃそういう方針で書き込んでくるよ」


 なるほど、大きな海流付近での捜索は慣れている海エリアの人で、陸エリアの人達はイカが大きな海流から抜け出した場合を考えて、その辺りを潰していけば良いんだな。得手不得手で役割分担というのは大事だもんな。


「そういう事だから、俺らは行くよ。刹那がいるなら、ケイさん達は大きな海流の位置は分かるよね?」

「そこは拙者にお任せあれ!」

「刹那さん、任せるよー! それじゃシアン、一気に行くよ! 『自己強化』『高速遊泳』『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」

「それじゃまたね! 『自己強化』『高速遊泳』!」


 そうして、あっという間にシアンさんとセリアさんは生成した海流に乗って猛烈な勢いで泳いで……って、今セリアさん、大量の海水の生成をして俺らを少し押し流してなかった!? 


「……刹那さん、今のって海水の昇華?」

「セリア殿は希少な海水の昇華持ちであるな! 最近分かった事ではあるが、天然の海水を使うより流れを速く出来るそうであるよ?」

「あー、そうなんだ」

「へぇ、そりゃ良い事を聞いたな」

「アルには良さそうかな?」

「アルさんは海水の昇華を目指してるもんねー!」

「おぉ、そうなのであるか! それではもう1つ、おまけ情報なのである」

「ほう? どんな内容だ?」

「魔法産の海水は電気との相性が抜群に良いそうである。そして、その同じPTメンバーが生成した魔法産の海水の中だけに電気の効果を制限する事が出来るのであるよ!」

「……それってマジか?」

「拙者、嘘はつかないのである!」


 へぇ、魔法産の海水ってそんな使い方が出来るのか。魔法産の海水は普通の海水とは別物になっていて、その仕様として電気の影響範囲を制限出来るなら水中での電気魔法が非常に使いやすくなりそうだな。


「ヨッシさん、今の聞いたよな?」

「うん、バッチリね。そっか、そういう使い方なんだ」

「それならヨッシの電気魔法と、アルさんの海水魔法の連携攻撃が出来そうなのさー!」

「あ、別に複合魔法になる訳ではないので、その点にはご注意を!」

「おう、了解だ」

「うん、それは気を付けるね」


 あくまで魔法産の海水は、電気魔法の範囲を制限するという使い方に限定されるようだ。でも、これは俺らにとってかなり有用な手段ではあるね。かなり良い情報を手に入れる事が出来た気がする。

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