第745話 海エリアの独特な特徴


 さて、大体の作戦の説明は終わったし、これから捨て身で識別をする予定のザックさんは横を通り過ぎていったし、俺らもそろそろイカの捜索に……って、まだ言い終わってない事があったよ! これは忘れちゃ駄目なやつ!?


「……危うく言い忘れてた。ザックさんの識別情報とかイカの発見情報とかを情報共有板で常時確認しておきたいんだけど――」

「ねぇケイさん、とりあえずはイカの捜索からやるんだよね?」

「ヨッシさん? まぁ他の動きはあるまではそうなるな」

「案って訳じゃないけど、情報共有板の確認なら私がやるよ。サヤとハーレは隠れているのを見つけるのは得意だし、ケイさんは獲物察知があるし、アルさんは移動をしてくれてるし、刹那さんは案内役だしね。ここは私が適任だよ」

「……俺の獲物察知じゃフィールドボスの発見はまだ出来ないぞ?」

「でも確かLv5になったら出来るようになるって、前にベスタさんが言ってたよね。そこはLvが上がるのに期待って事でね?」

「まぁ、確かに上がれば可能性はあるか。ヨッシさんがそれで良いならそうさせてもらおうかな」

「うん、任せて!」


 誰か1人が交代で情報共有板を見ていこうと提案するつもりだったんだけど、ヨッシさんが立候補をしてくれたんだしそれを尊重しよう。実際、ヨッシさんが言った役割分担も捜索をしていく上で効率的ではあるもんな。


「よし、それじゃまずは逃げているイカを探していくぞー!」

「「「「おー!」」」」

「頑張るのである!」


 みんなに伝えるべき事は伝え終わったし、それぞれの役割も明確に決まった。他に沢山の人達も逃げているイカを探してはいるから俺らが見つけられるとは限らないけども、まだ見つかっていないのなら俺らも捜索をしていかないとな! さーて、頑張るぞー!


 とは言っても、俺らはこのカイヨウ渓谷の事はほぼ何も知らないから、ここは刹那さんに色々と頼らせてもらおうじゃないか。


「刹那さん、どういう風に探していくのが良いと思う?」

「……そうであるな。拙者もこのエリアの隅々まで把握しているという訳ではないので、あくまで参考として範囲にはなるであるが、それで良いであるか?」

「問題なしなのさー! だよね、みんな!」

「まぁ俺らより詳しいのは確実だしな」


 サヤもヨッシさんもアルもその辺りは同意のようで、軽く頷いている様子が伺える。俺らには海に沈んだ渓谷みたいな地形である事と、俺らの適正Lvの敵が出てくるという程度の情報しかないからね。


「そういう事であれば拙者の提案する探索方法は、適当に進む事であるな!」

「え、そこで適当になんの!?」

「一応理由はあるのであるよ。ケイ殿達がこのエリアは初めてであるという事は、マップ情報が一切埋まっていないという事である。拙者はケイ殿達と合流する前に案内の為にここのマップ情報を得てきたので、8割ほどは既に埋まっているのであるよ。それ故に今回通った道筋なのか、捜索をしていない場所なのかの判別がつきにくいのである」

「あー、そっか。既にマップ情報を持ってる状態だと、どこを探したかは自分で覚えておくしかないもんな……」


 ふむ、もしかすると海エリアの人がイカを中々見つけられないというのはその辺の要素もあるのかもしれないね。まぁ人によっては既にマップが埋まっていても迷う事なく捜索は出来るだろうけど、人海戦術で探すならマップが埋まっていない状況が逆に自分達がどこを捜索したか分かりやすくなるという事だ。

 とはいえ、それで確実に見つけられるとは限らないし、イカが一箇所に留まっているとは限らないからなー。あくまでちょっとした参考程度に考える方が良い気はするね。


「ま、とりあえず刹那さんの案を採用でいくか。あ、刹那さん、このエリアでの注意点ってある?」

「……注意点であるか。場所によって深度がかなり違うのと、敵が強めである事であるな。あぁ、それとあまり深い場所まで行くと水圧で死ぬのでそこは要注意である」

「……なるほど、深い場所はヤバいんだな」

「そうなると探索する深度も考えた方が良さそうだな。……崖みたいになってるところも多いし、直線的に進めない場所も多そうだ」

「そこはアルマース殿の言う通りである。正直、このエリアで逃げに徹されると捜し出すのは難しいのだ!」

「……あはは、確かにそれはそうかな。だからこんな大掛かりな事になったんだね」

「でも、みんなで探せば見つけられるのさー!」

「ま、その為に集まってきてるんだしな」


 情報共有板で情報を見た限りではオウムガイがいた場所とかは岩場が迷路のように入り組んでいて発見されていなかったみたいだけど、それを海エリアではないヘビの人が見つけたという経緯だもんな。

 普段はここには縁がなかった人の方が色んな先入観がなくて良いのかもね。まぁそれだけじゃ迷う事もあるだろうから、海エリアに慣れた案内役の人がいるのも重要ではあるけども。


「よし、それじゃみんなで順番に適当に進む方向を決めて、地形に合わせつつ進んでいくか」

「お、そりゃ良いな。誰から方向を決める?」

「はい! 私がやりたいです!」

「だそうだけど、みんなは良い?」

「問題ないぜ」

「大丈夫かな!」

「拙者は皆に任せるのである」

「私もそれで良いよ。それじゃ私は情報共有板に行ってくるね」

「ヨッシさん、よろしく! さて、それじゃみんなも良いって言ってるし、ハーレさん、進む方向を決めてくれ」

「はーい! それじゃ真上に投擲をして、それが落ちた方向にするのさー! 『投擲』!」


 あ、自分で決めていくのかと思ったら、そこは運任せなんだ。まぁそれはそれでありな手段かも――


「……ハーレ殿、その、言いにくいのであるが、ここにはそれなりの海流があるのであまり意味はないのであるよ?」

「えー、そうなの!? あ、ホントだ!?」


 あー、刹那さんの言うように俺らの真上にハーレさんが投げた石はちょっとした海流に乗ったのか、東の方へと一気に流されて何処にあるのかが分からなくなった。どうやら俺らの上にはちょっとした海流が……って、アルが潜った時には影響は無かったような気もするけど……。


「アル、さっき潜った時に今の海流はどうだったんだ?」

「あー、どうだったんだろうな……? 特に気にならなかったんだが……」

「それはそうであるよ。アルマース殿のクジラで、あの勢いのまま潜ればそれ程強い海流でなければほぼ影響は受けないのである」

「……言われてみればそれもそうか。俺のクジラであっさりと流されるような海流が早々あってたまるか」

「……確かに」


 ぶっちゃけクジラはゲーム内でも最大級の巨体の種族だし、そのクジラが流されるような強い海流が比較的浅いだろう今の場所で早々ある訳がないな。そんなもんがあちこちにあれば、海エリアでは移動が困難になってしまう。


「先程の注意点で言い忘れた事が……。渓谷の溝の部分……特に幅が広い場所については海流が強いので、そこは注意して欲しいのである」

「……なるほど、渓谷で幅が広い部分は海流が強いんだな」


 というか海流が強いから岩が削れて幅が広くなっているって設定なのかもしれないね。……ちょっと待てよ。今のを聞いて思ったけど、イカが海流を使って逃げているという可能性もあるのか? いや、でもそれくらいは流石に海エリアの人が確かめるよな。


「刹那さん、ちょい質問。イカが強い海流に乗って逃げているって可能性は?」

「それについては既に確認済みで、実際に逃げたというのも確認はされているのである。ただどのタイミングで海流から抜け出すかが分からない故に、海流に乗って追いかけても追いきれないのである」

「それって待ち伏せは出来ないのー!?」

「何度か待ち伏せは試したのであるがどうしても人員が足らなくて、対応し切れなかったのであるよ」

「……思ってた以上に厄介なイカみたいかな」

「……みたいだな」

「……だな。それと大人数での討伐作戦になった理由もよく分かった」


 流れの早い海流があり、迷路のように入り組んだ場所のある渓谷のような場所で、逃げに特化したイカって相性が悪過ぎたんだね。……シアンさん達、フィールドボスの誕生させる場所はもう少し選んでくれよな……。


「ま、とりあえず海流でハーレさんの投げた石が流されたけど、そっちの方向に行きますか」

「おし、それじゃ東に進んで行けば良いんだな」

「それじゃケイは獲物察知をお願い。私とハーレと刹那さんで周囲を探しながら、敵が現れたら対処かな?」

「分かったのである!」

「了解なのさー!」

「それじゃ速度は抑えつつ、出発していくぞ!」

「「「「おー!」」」」

「頑張るのであるよ!」


 イカの捜索がメインの目的だからアルの移動速度は控えめだね。まぁあんまり早くし過ぎたら見落としが出てくるだろうから、今回の移動速度は遅めの方が良いだろう。

 さて、今の獲物察知はLv4だからまだフィールドボスを見つける事は不可能だから、この機会にLv5に上がって使えるようになればありがたいんだけどな。しばらくは無駄でしかないかもしれないけど、使わなきゃLvが上がらないんだから積極的に使っていこうじゃないか。


<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します>  行動値 62/66(上限値使用:12)


 えーと、獲物察知で大量の矢印が出てきたけど……灰の群集の人が多いから灰色の矢印が多いのは当然なのでこれはスルー。ふむ、地味に一般生物の緑色の矢印も多いけど、なんというかパッと見で分かる位置にはいない?

 緑色の矢印は岩の表面や岩の影に向かっているから、パッと見では判別しにくいのかもしれないね。それこそ岩に隠れている魚や海老や蟹とか、岩の表面にいる貝とかだったりするんだろう。……今それを言うとハーレさんが盛大に反応しそうだから言わないけど。


 今の時点では意味はないんだけど、一応黒い矢印も……って、あれ? 数が少ないのはプレイヤーが多いから倒されているんだとは思うけど、1本の矢印が猛烈な勢いで近付いてくる……?


「はっ!? 危機察知に反応……って、狙われてるの私だー!?」

「……あれは、ダツであるか!」


 口が細長く尖ったダツがハーレさんに目掛けて、もの凄い勢いで近付いてきている。……ん? よく見たら何故かHPがほんの少しだけ減っているね。誰か他のプレイヤーからダメージでも……って、ひょっとしてさっきハーレさんが投げて海流に流された石が当たった可能性があったり……?


「わ、わっ!? 『自己強化』『受け止め』! あぅ!?」

「ハーレ、大丈夫かな!」

「大丈夫ー! えいや!」

「……あー、そういう使い方も出来るのか」


 うん、かなりぎりぎりのタイミングではあったけど、ハーレさんが突撃してきたダツの尖った口を掴んで受け止め……いや、少し刺さってダメージは負ってはいるけど、すぐに刺さった部分は引き抜いていた。その抜いた状態でハーレさんがダツを両手で捕獲しているね。

 ダツはどうやら魔力集中を使ってるみたいで、ハーレさんが捕まえた状態からの反撃手段らしきものはないようだ。多分突撃とか刺突の特性持ちなんだろうけど、こういう風に捕まるとどうにもならないっぽい。


「【我はその身の力を見破るモノなり! 慧眼の術!】 ふむ、名前は『突刺ダツ』で残滓のLv21であるな。属性はなく、特性は突撃、刺突、俊敏である」

「ほいよっと」


 この辺の無意味な詠唱っぽいものは刹那さんの個性としてツッコミはなしでいこう。とりあえず識別はしてくれたし、特に予想外の内容はないな。ま、普通の雑魚か。


「それじゃ刹那さん、サヤ、処分は任せた! ハーレさん、ちゃんと捕まえとけよー」

「了解なのさー!」

「分かったかな! 刹那さん、輪切りのぶつ切りでどうかな?」

「拙者はそれで良いのである。ただ残滓とはいえ、Lvが近いので応用スキルを使った方が早いであるな」

「それもそうだね。それじゃ私は断刀でいくかな!」

「では、拙者もそれに合わそうではないか! 【彼のモノを断ち切る鋭き刃となれ! 一刀流・銀刀一閃!】」

「……あはは、私もいくかな! 『魔力集中』『断刀』!」


 そうして同じスキルを使っているはずなのに、全然違う発声で同じスキルが発動している。サヤのクマの爪と刹那さんのタチウオの全身が徐々に銀光が強くなっていき、チャージがどんどん進んでいく。


「……意外とハーレさんは捕まえておけるんだな? ちょっと意外だったぞ」

「ふっふっふ、アルさん、私のリスには豪腕の特性があるのです!」

「あー、腕を使う場合にはボーナスがかかってるのか」

「……そういやそんなのもあったっけ」


 普段はあまり気にしてなかったけど、ハーレさんのリスの特性にはそんなものもあったな。腕を使って投げてるから投擲へのボーナス補正もあるんだろうけど、今みたいに腕というか手で掴む場合にも補正があるんだね。

 このダツの突撃や刺突が直撃すればかなりのダメージはありそうだけど、今回はハーレさんとの相性が最悪だったってところだな。……それにしても受け止めがこんな風にも使えるとは思わなかった。


「そうなのさー! だからサヤと刹那さんのチャージが終わるまではちゃんと捕獲しておくのです!」

「ハーレ、お待たせかな! やるよ、刹那さん!」

「承知である!」


 そうしてサヤの外骨格化している爪での斬撃と刹那さんのタチウオの斬撃でぶつ切りになったダツのHPは全て無くなり、ポリコンとなって砕け散っていった。

 今のダツは残滓だったから討伐報酬は特になかったけど、適正Lvではあるからそれなりの経験値にはなったね。灰の群集のプレイヤーが多い状態でイカの討伐作戦を優先したけども、経験値が手に入るのはありがたいものである。

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