第748話 作戦の進展


 とりあえずイカにヨッシさんの発光針を取り付ける事には成功した。そして今は海流から抜け出して、少し浮上してきている。ふー、今のはかなり集中力を使って少しだけど疲れたな……。

 そういやさっきのイカはカウンターは仕掛けてこなかった気もするんだけど……いや、もしかしたら俺の岩の操作を回避したのがスキルだったとか? ……その可能性は結構ありそうだけど、確認する術もないか。


「しばらくここに止まったままにしておくから、ケイはちょっと休んでろ。今のは結構無茶したろ?」

「……サンキュー、アル。そうさせてもらうわ」

「ケイ、お疲れ様かな」

「ケイさん、お疲れ様なのさー! それじゃケイさんが休んでいる間に今の件の報告に行ってくるのです!」

「あ、それもそうだね。ハーレ、それは私も行くよ」

「そだねー! アルさんとサヤと刹那さんはどうするー!?」

「うーん……私は周囲を警戒しながら待ってるかな」

「拙者も護衛役を務めるのである!」

「俺は変にそっちに行くと流されそうだし、待機しとくわ」

「了解です! それなら報告は私とヨッシでしてくるねー!」

「出来るだけ早いほうが良いだろうし、すぐに行くよ、ハーレ」

「はーい!」


 アルが海流から抜け出すと同時に、ハーレさんとヨッシさんの2人があのイカに発光針を突き刺した事を報告しに行くことになった。あれは俺らの成果でもあるし、他のみんながこれからイカを追い詰めて行くのには役立つはずだもんな。……多分。

 いや、どう考えてもあの逃走中のイカの速度は半端ないし、サイズも50センチくらいなもんだから離れた距離からでも誰の目から見てもハッキリと分かる目印は役立つはず! 発光針というスキル自体が目印をつけるみたいな性能だし、こういう時に使うべきだろうしね。


「……そういや、海流に乗って直接追いかけてる人っていないのか?」

「それはいるはずであるが、先も言ったようにあのイカが乗っている海流は中々厄介なのであるよ」

「あー、事前準備が必要とか言ってたっけ」


 あ、そんな事を話していれば俺らが乗っていた少し勢いの弱い海流に乗って移動してきた海エリアのプレイヤー達の姿が見える。おー、大量に来てますなー。

 うーん、ざっと見た限りではどうも誰もイカが乗ってた海流には乗っていないみたいだね。……そんなにあのイカが乗ってた海流って危険なのか? ……まだイカを追いかける状況は続きそうだし、その辺の情報も刹那さんに聞いておこう。今回は不慣れな海エリアだし、知らない事は聞いておいた方がいいはず。


「……あのイカがいた海流に乗るには、具体的にどんな準備がいるんだ?」

「まずPTを組んで誰かを乗せるとほぼ確実に誰かが流されていくので、かなり丈夫な流されない為に固定する手段が必要であるな。海エリアのプレイヤーだとあまり手段を持ってないので、基本的にはPTであの海流に乗るのは非推奨なのである」

「……確かにそりゃ準備がいるか」

「そして魚の種類によって移動速度も違いもあって中々足並みが揃えにくいのであるよ。海エリアだからといって魚だけではないのである」

「まぁ俺らもバラバラだからな。特にケイとヨッシさんは厳しいだろうな」


 あー、確かにそれはアルの言う通りだな。サヤの竜は地味に海中への適応は失っているけど空は泳いでいるような感じだからあんまり問題はなさそうだし、ハーレさんはクラゲの傘で海流を受ければむしろ速い気もする。

 逆に俺のロブスターやヨッシさんのウニはそういう移動方法じゃないから、単独では海流には乗りにくいだろう。……海エリアだからといって海エリアのプレイヤーのPT全てが海流に乗るのに向いている訳じゃないって事か。


 だからこそ凄い勢いの海流に乗るには、自力で海流に乗れない人が流されないように固定をする手段か、流れを受けないように遮る手段が必要なんだな。まぁ当たり前といえば当たり前な内容だったね。


「それと単純に速い流れに振り回されないだけど姿勢を保つ事が出来る方に限られるのである。まぁこれはなくても流される事は可能ではあるが、あまり良い気分ではないのであるよ。……むしろこの海流はソロの方が乗りやすいのである」

「……なるけどね」


 そしてあの勢いの海流に乗って安定して泳げるプレイヤースキルも必要って事なんだな。そういうPTではまとまって動きにくいという、すぐにどうにか出来る類の事前準備ではないのはよく分かったよ。

 PTで動くなら最低でも全員を固定し続けられる人員が必須であり、その上で流れ自体に乗る人のキャラの操作の安定も必要な訳だ。


「シアン! ケイさん達が良い仕事をやってくれたよ!」

「え、どういう事、セリア?」

「捕獲は無理だったけど、発光針を刺したって! それを目印にしてイカの目撃情報が多数で、この先の辺りで海流から抜けたって!」

「それはナイス! それじゃ追いかけていくよ、セリア!」

「イカを追い詰めろー!」


 あ、なんか思いっきり大声が響いてきたかと思ったら、シアンさんとセリアさんがイカが乗っていた海流の中を凄まじい勢いで通っている……っていうか、あっという間に通り過ぎていったな。

 俺らのとこまで2人の声が聞こえたのは……まぁたまたまなんだろうけど、そっか、早速役に立ってくれたのか。というか、あの2人ならあの海流でも普通に乗れるんだね。


「報告完了なのさー! さっきシアンさんとセリアさんの声が聞こえてたけど、効果はばっちり出ています!」

「まぁ初めは何が光ってるのかが分からなかったみたいだけど、発光針についての報告を上げたら次々と目撃情報が出てきてたよ」

「ケイ殿、どうやら早速役立ったようであるな!」

「みたいだなー。良かった、良かった」


 結構な無茶はしたけども、それでも役立ったのなら頑張った甲斐はあったなー。よしよし、獲物察知ではLvがまだ足りずに役立たずではあったけども、これでかなりの貢献にはなっただろう。ま、PT単位を遥かに超えた作戦だし、特に何か報酬があるって訳でもないけどね。


「っ!?」


 ん? 何か草花っぽい人が目の前に現れて……って、ザックさんか。思いっきり海水で盛大に死にかけて暴れているけど……すぐに纏海をしたようで進化演出を経て青っぽいトリカブトに変わっていた。……なんか手慣れている感じだったなー。


「おっしゃ、識別完了! ふははははは、死亡上等! ヤツの情報は手に入れた!」


 今のセリフや、目の前にランダムリスポーンをしてきたっぽい様子から考えたら、成熟体のオウムガイの識別を終えて殺されてきたとこなのだろう。流石は死にまくっても情報は得てきていると評判なザックさんだな。 


「ん? あ、ケイさん達じゃねぇか! ランダムリスポーンした先にいるとは奇遇だな!」

「……確かに凄い奇遇ではあるよなー」


 このタイミングで俺らの目の前にランダムリスポーンしてくるってどんな確率だよ。……まぁそこは気にしても仕方ないけどさ。


「ザックさん、オウムガイの識別は終わったのかな?」

「おう、バッチリだぜ! そして根本的な思い違いをしている事も判明した!」

「思い違いって何ー!?」

「ふっはっは、ハーレさん、聞いて驚け! あのオウムガイはオウムガイではなく、アンモナイトだったぞ!」

「えっ、そうなの!?」

「あー、まぁそれは盛大な思い過ごしではあるんだろうけど、それって何か重要か?」

「アルマースさんの言うように、そこは特に重要じゃないな!」


 ですよねー。いや、確かにオウムガイとアンモナイトは似たような見た目ではあるけども、今の時点でそこは大した情報ではないだろう。

 もしかしたらオウムガイとアンモナイトでは何か劇的な違いがあるのかもしれないけど、成熟体のアンモナイトと成熟体のオウムガイの両方がいないと違いの検証とか出来ないし……。いや、違いは気になるけどね。


「おし! それじゃとりあえず情報共有板に報告してくるけど、ここで遭遇したのも何かの縁だし、先に識別情報を伝えとくぜ! 多分ケイさん達に役目が行きそうだしな!」


 あー、先に情報を教えてくれるのはありがたいけど、そのザックさんの発言的に大体の察しがついたんだけど!? まぁ今回のイカの討伐には参加しているんだし、成熟体を利用した作戦を提案したのも俺らだもんな。役目があるのなら全力でやっていくまで!


「ザックさん、オウムガイ……じゃないね。アンモナイトは魔法型だったのかな?」

「おう、そうだぜ! 『土激魔アンモナイト』で成熟体Lv2の黒の暴走種、属性は土、特性は魔法強化、魔法耐性、魔力増幅、縄張りだったぜ!」

「どう見ても魔法特化じゃん!?」


 土属性持ちで特性に魔法強化と魔法耐性持ち。しかも魔力増幅とかいう全く知らない特性すら持っているって、成熟体はヤバイな……。でもここまで魔法に特化しているのであれば、逆に物理攻撃には弱そうだ。

 とは言っても、格上の成熟体だし物理攻撃で威力を上げまくっても意味はなさそうな気がするよ。……それにしても意外と成熟体でも特性は少ないもんなんだな。


「……ところで特性の縄張りって何?」

「それならネス湖のアロワナでも見た特性だぜ! 多分、居座って移動しない成熟体の特性じゃね?」

「あー、なるほどね」


 エリアを跨いで移動していく成熟体には徘徊という特性があるけど、それに対応した形の特性が縄張りって事か。ふむ、この特性は縄張りを変に荒らさなければ攻撃を仕掛けてくる事はないとかがありそうだな。


「そういやケイさん達はここで何やってんの? なんかのんびりしてね?」

「あー、俺らはちょっと休憩中」

「ん? 休憩が必要な事をなんかやってたのか!?」

「とりあえず逃げてるイカの方に光る目印をつける事には成功した。……まぁ捕まえるのは失敗したけど」

「おぉ、すげぇじゃん! おっしゃ、順当に進んでるみたいだし、俺もしっかり情報共有板に情報を上げてくるぜー!」


 そう宣言してザックさんは情報共有板に行ったようである。まぁ今の時点で疲れてはいるけども順調といえば順調ではあるよね。でもまぁイカに刺した発光針がいつまで保つかは微妙なとこではあるから、あんまりじっくりと休み続ける訳にもいかないな。


 あ、そんな事を考えていたら頭に光っているイチゴがあるマグロの人が近付いてきている。あれは多分ソウさんだな。いやー、海エリアへ久々に来たら海エリアの知り合いの人と結構遭遇するね。


「おい、ザックさん! 大丈夫か!?」

「お、ソウさんか! この通り問題ねぇし、識別情報は今上げといたぜ!」

「……聞いてた通りだが、ホント躊躇がないんだな」

「ふはははは! 褒めるがいい!」

「まぁ、そこは素直に称賛に値する気もするぜ……。っと、ケイさん達もいたんだな」

「おっす、ソウさん」


 とりあえずやってきたソウさんとみんなで挨拶をして……って、ソウさんってザックさんをオウムガイ……じゃない。正確には成熟体のアンモナイトの居場所まで送り届けてたんだよな?

 そしてザックさんがついさっきランダムリスポーンしてきたとこなのに、ソウさんがここまで来るのが早いような……って、違う!? 俺らはイカを追いかけた際に海流に乗って結構移動してるはず!


 慌ててマップを見てみれば、かなり南の方へと流されているね。確かアンモナイトがいた位置は海流に乗る前の場所から見て結構離れた南方面だったはずだから……もしかして、アンモナイトの近くまで移動しちゃってる?


「刹那さん、アンモナイトの位置と俺らの今いる位置ってどのくらい離れてる?」

「……そう離れてないであるな。ここから少し東に行けば、もうそこがアンモナイトが発見された場所である」

「やっぱりか!」

「……思った以上に海流で移動してたみたいだな」

「でも、オウムガイじゃなくてアンモナイトが魔法型なら、私達に作戦が回ってくる可能性があるんだしちょうどいいんじゃないかな?」

「それもそうなのさー! それにイカもこっちの方に来ているのです!」

「……あはは、結果的に色々と都合のいい場所までやってきたみたいだね」

「……どうやらそうっぽいな」


 全く意図していなかったけど、結果をまとめるとそうなるよね。イカはもうちょい南の方にいそうだけど、かなり条件としては良い方に動いているような気がするよ。

 そういや今は何時くらいになってるんだろう? えーと、もう10時は過ぎたのか。思っていたよりも時間は経っていたみたいだね。


 って、あれ? ベスタからフレンドコールがかかってきた。……という事は、ザックさんの捨て身で取得した識別情報が伝わって、本格的に次の段階へと移行するってところかな。とにかく今はベスタからのフレンドコールを取っておこう。


「おっす、ベスタ。アンモナイトの攻撃誘導作戦を本格的に始めるって内容で合ってるか?」

「話が早くて助かる。……まだアンモナイトを動かすか、イカを誘導し切るかは確定はしてないが、実行に必要そうな戦力に声をかけている段階だな」


 ふむ、イカから攻撃させてアンモナイトの攻撃を誘発させるか、アンモナイトの攻撃にイカを巻き込むかはまだ未確定という事か。戦力を集めているって事は、それで集まったメンバー次第でどっちにするかを確定する感じだろうな。


「とりあえずどこかに集まれば良いって感じ?」

「あぁ、そうなる。作戦に加わる気があるのなら、アンモナイトの居場所の手前にある比較的浅い岩場の上に集まってくれ」

「ほいよっと」


 シンプルにそれだけ伝え終えたベスタは、それでフレンドコールを切り上げていった。さーて、ベスタがどういうメンバーに声をかけるかにもよるけど、とりあえずその場所に行ってみないとね。

 あ、その前にみんなの意思確認も必要だな。元々俺らに作戦の話が来るかもとは言っていたけど、実際に行く前に最終確認をしていかないとね。……ぶっちゃけこの作戦はアンモナイトに殺される可能性はかなり高いしさ。

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