第744話 カイヨウ渓谷に到着


 さて、とりあえず現段階での作戦会議は一段落っと。良いのか悪いのかよく分からないタイミングでベスタが同じ作戦に思い至っていたという事もあって、すんなりと作戦自体は採用になったね。

 とはいえ、成熟体のオウムガイの識別情報や逃げているイカの捜索をするのが先決だけど。その辺は準備もなしに上手くいくはずがないからちゃん手順を追ってやっていかないと……。


 とりあえずみんなに得てきた情報を伝えて、俺らの動き方も決めていこう。ザックさんが捨て身で確認してくる成熟体のオウムガイの識別内容次第では俺らに役割が回ってきそうではあるしね。

 そういやあんまり気にしてなかったけど、戦闘中っぽい様子だった気がする。今はみんなはどうなっているんだろう? えーと、なんか水面から飛び出てきた細長い……あれはダツか? ダツがアルの木に向かって突撃を――


「そこ!」


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 おー、氷塊が巨大な包丁みたいになっているヨッシさんがダツをぶつ切りにしてポリゴンになって砕け散っていった。……なんか、ヨッシさんの氷塊の操作の精度がまた上がった気がする。

 闇夜の海に、俺のコケの光源に照らされた氷製の巨大な包丁っていうのも不思議なもんだけどね。これはこれでかなり独特な雰囲気があるよな。


「うん、Lv3なら十分使い勝手が良いかも! あ、でも効果時間はこれで切れちゃったね」

「ヨッシ、ナイスなのさー!」

「……今回は私の出番が無かったかな」

「ま、そういう事もあるから、気にすんなよ」

「そうだぞ、サヤ。それとヨッシさんは氷塊の操作はLv3になった?」

「あ、ケイさんお帰り。氷塊の操作はついさっきLv3上がったとこだよ」


 ふむふむ、だから少し前に見た時よりも更に操作精度が安定しているんだね。まぁ操作系スキルはLv3までは上がるのも早いし実用性も高くなるから、ヨッシさんの氷塊の操作はこれから結構役立つかもなー。


「ケイ、刹那さん、情報共有板ではどうなった?」

「結果から言うなら、提案した作戦自体は採用だな。ただ、どっちにしても逃げてるイカを見つけるのが最優先って事になった」

「そして重要なのは拙者達が情報共有板見に行った時、作戦の要となる成熟体の発見情報があったのである!」

「え、それってかなり重要なんじゃないかな?」

「……おいおい、必要なのが良いタイミングで見つかったもんじゃねぇか」

「ま、とりあえずアロワナみたいに居座っている成熟体っぽくてな。ちなみに1メートルくらいのオウムガイらしいぞ」

「おー! オウムガイってどんなのだっけー!?」

「えっと、タコとかイカに巻き貝をつけたような感じのやつだよ。アンモナイトじゃなくて、オウムガイなんだね?」

「タコ……イカ……オウムガイって美味しいの!?」

「……それはちょっと分からないかな?」

「俺も流石に食った事はないから知らねぇな……」


 オウムガイはリアルでも普通に生きている生物だったはずだけど、食べれるのか、あれ? うーん、食べられると言われてもちょっと躊躇しそうな気もする。

 というか、オウムガイの姿は分かるんだけど、あれってタコやイカの仲間なのか、オウムガイという名前からして貝の仲間なのか、どっちなんだろう?


「うーん、オウムガイの味はまぁいいやー! それで私達はどう動けば良いのですか!?」

「……ヨッシさん、ハーレさんが意外とあっさり引き下がった理由は?」

「……あはは、多分イカの討伐作戦を終わらせてからの海鮮バーベキューの方を優先してるんだと思うよ」

「食い気に勝るのは、食い気って事か」


 まぁそういう面こそハーレさんらしさであるとも言えるし、後々の目的の為に無茶を言わないのなら気にする必要もないね。さて、それじゃベスタに頼まれる可能性のある件を伝えて――


「話の途中で申し訳ないが、間もなく『カイヨウ渓谷』に到着である!」

「あ、もうそこまで来てるんだ。アル、ここからは海中に戻るぞ」

「ま、イカを探すには海上にいたら意味ねぇしな。それじゃ潜るから、振り落とされるなよ!」

「ほいよっと」

「了解なのさー! ヨッシ、巣に行こー!」

「うん、そだね」

「刹那さんは私が抱えておくかな」

「サヤ殿、かたじけない!」


 そんな風にサヤが刹那さんのタチウオを抱えながら木の幹を支えにし、ハーレさんとヨッシさんはハーレさんの巣の中で衝撃に備えている。俺は発動しっぱなしの飛行鎧の岩の形状を変えて、アルの木に固定しておこうっと。

 まぁ減速してからゆっくり潜っても良いんだろうけど、減速せずにこのまま海中へと一気に潜るつもりみたいだし流されないように気を付けないとな。


<『海の新緑』から『カイヨウ渓谷』に移動しました>


 そして勢いをそのままに海中へと潜ると同時にエリア移動にもなったようである。ふむ、勢いよく潜った事で周囲が泡立って様子が見えないな。アルは潜った時点で少し速度を落としたみたいだけど、泡の中からすぐ抜け出た。

 そこで少し速度が落ちたので周囲を見回してみれば、全体像は暗くて分かりにくいけど海藻は少なくゴツゴツした岩場って感じだな。まぁ渓谷って名前が付いてるくらいだし、海水がなければ見た目としては渓谷なんだろうね。


「おー! 真っ暗で遠くはあんまり見えないと思ってたけど、そうでもないよー!?」

「あちこちに灯りがあって、移動してるね」

「あれは他のプレイヤー達かな?」

「だろうな。ケイ、悪いんだが発光での明るさを変えてもらえるか?」

「あー、まぁあちこちに灯りがあっても暗いのには変わらないもんな」


 今は眩しくならない程度に発光はLv4で発動しているけど、広範囲を照らす必要があるのならLv5で発動し直して光の操作で調整をしていく方が確実か。

 えーと、一度光の操作の指定をし直す必要があるから、発光も飛行鎧も解除してから再発動だね。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 67/67 → 67/73(上限値使用:5)

<『発光Lv4』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 67/73 → 67/77(上限値使用:1)


 とりあえず一度解除したけど、夜目だけじゃかなり暗い。でも、さっきまで発光で照らされていた岩場やあちこちに見える他のプレイヤー達の光源があるから違った雰囲気で、真っ暗闇で何もない夜の海面とはまた別物だね。 

 この景色はなんて言ったら良いんだろう? 少し星空っぽい感じもするけど、それにしては光の数は少ないか。うーん、神秘的な感じはするにはするんだけど、これなら満天の星空を撮る方が良さそうな感じだね。まぁいいや、再発動をやっていこう。


<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します>  行動値 67/77 → 67/72(上限値使用:6)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 67/72 → 66/66(上限値使用:12)


 おっと、発光Lv5の発動直後は必要以上に眩しいだけだから、即座に飛行鎧に組み込んでいる光の操作を使って周辺に光を散らすように照らしてっと……。

 よし、さっきまでと展開範囲自体は同じだけど元の光量が上がっているからより良く見えるようになったね。ふー、普段は発光Lv5の使いどころには迷うけど、こういう夜の海には役立つんだな。……まぁ今日は海でも曇りという事で条件自体が悪いんだろうけどね。


「ハーレ、さっきの光景はスクショは撮らなくて良かったのかな?」

「それならバッチリ撮っているので問題なしなのさー! でも、正直イマイチなのです……」

「……灯りがなかったのは少しの間なのに、しっかりと撮ってたかな!」

「まぁ微妙と言えば微妙だよね。月明かりが射し込んでたりすればまた違ったんだろうけど……」

「ヨッシの言う通りなのさー! うー、曇りだと色々微妙になるのが残念なのです……」

「ハーレさん、雲をふっ飛ばすのは夕方に盛大にやったよな!?」

「それはそれ、これはこれなのさー! 場所が違うから同じとは言えないのです!」

「あー、まぁそりゃそうか……」


 夕方にレナさん達や紅焔さん達と風の昇華魔法や浄化魔法や瘴気魔法を駆使して色々と演出はしたけども、同じ事をここでやれというのは厳しいしハーレさんの言う事も一理あるか。

 まぁ基本的に空中ではあったから真似も多分出来る……いや、高度的に雲まで昇華魔法が届くのか? ……そういやそもそも飛行種族での飛ぶ限界の高度ってあるのか?


 うーん、気になるところではあるけど、今はそれを考えてる場合じゃないな。というか、情報共有板をこまめにチェックしておいてくれって言われてたのに、説明途中になっちゃったからまだ誰もチェックしてない!?


「えーと、エリアの移動も済んだし、とりあえずイカの捜索をしていくんだけど……」

「ん? ケイ、妙に歯切れが悪いが、何か問題でもあったか?」

「あー、問題という訳でもないんだけど、場合によってはオウムガイの相手を俺らに頼まれる可能性がある」

「……ほう?」

「ケイ、それはどういう理由でかな?」

「単純な理由としては、アルの空飛ぶクジラと、俺の岩の昇華……さっきヨッシさんが氷解の操作がLv3になったならヨッシさんの氷の昇華もだな。それらを使ってたオウムガイを空中に捕獲を頼む場合もあるかもしれないってさ」

「空中での捕獲要員として優秀という判断であるな!」

「その場合って私とサヤと刹那さんはー!?」

「……オウムガイの注意を逸らして、イカと遭遇させるまでの時間を稼ぐのが役目かな?」

「そうなるであるな! おそらくベスタ殿も拙者達だけ任せるとは思えないので、増援があるかと!」

「なるほど、そういう事か。ま、頼りにされてる訳なんだな」


 ベスタが名指しで俺らに頼むかもしれないって言ってたんだし、そこは素直に頼りにされていると受け取っても良いんだろうね。

 それに刹那さんがさっき言ってたけど、俺らだけで成熟体の相手をさせるという事もないはず。ベスタ自身もいるし、レナさんや風雷コンビも来ているし、他にも有力なプレイヤーも多く来ているだろうから、そこまで俺らだけに負担がかかるという事はないだろう。


「まぁそんな感じではあるんだけど、みんなとしては引き受けるのは賛成? それとも反対?」

「俺は賛成だぜ。場合によっては死ぬかもしれんが、そうなったらそうなった時だ」

「そうなのさー! ゲームで死ぬのを恐れても意味がないのです!」

「頼りにされてるのなら、その期待には応えたいかな!」

「……あはは、まぁやれるだけの事はやってみないとね」

「拙者は臨時メンバーではあるけども、その役目は最後まで付き合うのである!」


 ははっ、まぁ元々こんな感じの返事にはなる気はしてたけど、やっぱりそうなったね。俺らが相手をすべき相手は格上の成熟体。おそらく高確率で死ぬだろうけど、それでもやれる事はあるし、やりがいもある役目ではあるもんな。

 あ、でも確実にそうなるとも限らないんだった。その辺の説明もしとかないとね。


「と、そんな風に言ったんだけど、場合によっては出番はない可能性も……?」

「出番があるのはオウムガイが魔法型の場合だよね? 流石に物理型だと無理だと思うし……」

「ヨッシさん、正解。もしオウムガイが魔法型なら、昇華魔法は発動前に潰す。……むしろ厄介なのはアロワナが使ってたような未知の魔法だな」

「その辺の確認についてはどうなってるのかな?」

「あー、それについては――」


 ん? 説明をしようと思ったら、すぐ真横を凄い勢いの海流が発生したぞ? え、何が起きた?


「おっ! ケイさん達じゃねぇか!」

「ザックさん!? あ、ソウさんもか!」

「悪い、ケイさん。先を急ぐから、また後でな!」

「あー、ザックさんを送り届けてるのか」

「そういう事だ!」

「ふっはっはっは! 今回の識別は任せとけー!」


 あー、うん。盛大に海流の中を泳ぐ頭に光るイチゴのあるマグロのソウさんの背中の上に乗ったザックさんがあっという間に流れ去っていった。

 何とか声を張り上げて会話はかろうじて成立したものの、近付いてきた時と離れていく時の声は聞き取りにくかったね。……状況が状況だったから仕方ないか。


「あ、サヤ。さっきの答えが今の2人だ」

「え、どういう事かな?」

「ザック殿が捨て身でオウムガイの識別情報を手に入れに行くのである! そしてその情報を元に作戦の調整をしていくのである!」

「……ザックさん、また捨て身をやるのかな!?」

「それはいつもの事なのさー!」

「ザックさんのそういう行動はよく聞くからな」

「……あはは、ザックさんもよくやるね」

「だよなー」


 でもあの躊躇のない捨て身での行動がみんなの情報の分析や攻略方法の立案に役立っているは間違いないんだよな。パッと見では無謀に見えるけど、ザックさんはあの方法で情報を上げてくれているんだからありがたい話だよ。

 さてと、ザックさん達も本格的に動き出してきたし俺らも頑張っていきますか!

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