第738話 進化の組み合わせ
『海の新緑』に行く為に、妨害ボスである水刃鮫を倒さなければならなくなった。ただし、イカの討伐作戦があるという事で混雑しているので現在は順番待ちである。
その待っている間に順番待ちの整理をしている摩訶不思議なサメっぽいジンベエさんの進化についての話題になった。
「ま、単純に言ってしまえば――」
「ジンベエ、待て」
「なんだよ、アルマース。興味はねぇのか?」
「いや、あるにはあるぞ。ただ、ちょっとどういう進化内容かの推測をさせてくれ」
「あー、なるほどな! 『ビックリ情報箱』って呼ばれるだけの事はあるってか!」
「ジンベエ、訂正しておくぞ。その呼び名はケイだけのものだからな?」
「シレッと嘘付くなよ、アル!? PTとして呼ばれてただろ!?」
「…………」
「顔を逸らすなー!?」
くっそ、最近はあまり呼ばれなくなってきてたけど、いざ呼ばれたからって俺だけに押しるけるなよなー。まぁ今まで何度もあった事だから、本気で怒ったりはしないけどさ。
とりあえずそれは良いとして、ジンベエさんのサメの姿は非常に気になるところ。単独進化や共生進化だとは思えないから、可能性としては合成進化か融合進化か支配進化だな。……支配進化でもこの見た目にはならないだろうから却下。
さて他の可能性は合成進化か融合進化だけど、合成進化で何を合成すればこうなる……? そもそも組み合わせた種族はなんだ?
「アル、ジンベエさんの1stと2ndって何だったんだ?」
「2ndは知らなかったからサメが2ndだろうな。1stはサンゴだったぞ」
「……サンゴか」
「サンゴって、ケイのコケと同じで色物枠じゃなかったかな?」
「お、サヤさん、よく知ってんな。まさしくその通り、サンゴは色物枠だぜ」
あ、ジンベエさんの進化の組み合わせが何となく分かったかも。確かサンゴってコケと同じでHPのないタイプの種族だったはず。掲示板で見たような覚えがあるような、ないような気が……?
そして1stがサンゴだという情報を聞いてから、今のジンベエさんのサメの姿を見てみればピンと来た。サメの身体を構成してるのがサンゴなんだな、これ。もうこれ以上深く考える必要もなさそうだ。
「ま、深く考えるほどでもないか」
「あ、アルも分かった?」
「なんだ、ケイも分かったのか」
「まぁなー。それじゃ一緒に言ってみるか?」
「おう、良いぜ」
「私も大体分かったし、アルさんとケイさんの予想が当たるに1票です!」
「私もそれに1票かな」
「私も……って、みんな同じじゃ意味ないね」
「では拙者がどちらも外すに1票を投じよう!」
おー、刹那さんはチャレンジャーだな。まぁ別に具体的に何かを賭けてる訳でもないお遊び的なもんだし、あえて誰も賭けなかったとこに賭けただけなんだろうね。
「それじゃアル、せーので行くぞ」
「おうよ!」
「せーの!」
「「サンゴをメインにした融合進化!」」
「お見事、大正解だぜ」
「よし、正解!」
「おっしゃ!」
いやー、無事に正解を引き当てたね。うん、やっぱり想像通り、ジンベエさんはサンゴをメインにしたサメだったか。サンゴっぽいもので全身が構成されているんだから、サメがメインだとすると妙な感じではあるもんな。
「参考までに、なんでサンゴがメインだと思ったんだ?」
「え、ただ単純にサンゴ要素が強過ぎるから」
「だな。あと地味にHP表記じゃないじゃねぇか?」
「ケイさんもアルマースも正解だな。ま、こっちが本来の姿になるぜ。群体擬態、解除!」
「あー!? ただのサンゴになったー!?」
「これはビックリかな!?」
「これは興味深いね」
ふむふむ、ジンベエさんが『群体擬態』とやらを解除したら、サメの姿が崩れていき、普通にあるようなサンゴの姿へと変化していた。今の『群体擬態』って、もしかすると融合進化の際に改変されるスキルか? ベスタやアーサーが使っている『コケ渡り』みたいにさ。
「ジンベエさん、その『群体擬態』って融合進化での改変スキル?」
「まぁ、そうなるな。サンゴの固有スキルで『群体浮遊』っていう海底とかに繋がっている群体から完全に切り離して海中を自由に漂うスキルがあるんだが、それが改変されたスキルだぜ。これを使えばサメ型に変化出来るって内容だ」
「あー、そういう感じなんだ」
これは興味深いね。コケと全く同じって訳でもないだろうけど、HPがない同系統のサンゴをメインに融合進化をすればこうなるんだね。今から俺が実行する事もないだろうけど、コケをメインに融合進化をしたら同じような感じに進化するのかな? その場合は『群体塊』が改変さえるスキルになりそうな予感がするね。
それにしてもサメ型のサンゴと普通のサンゴでの形態変化かー。あ、サンゴ形態でもサメのヒレっぽい部分や歯の部分とかもあるんだな。
「さて、サンゴ形態だと移動が面倒だから戻しとくか。『群体擬態』!」
「サメに戻ったのさー!? その状況で増殖とかできますか!?」
「ん? 良いところに目をつけたな、ハーレさん。ほらよ。『増殖』!」
「わっ!? 大きくなったー!?」
「ほほう、そういう風になるんだ?」
「まぁなー。てか、一応まとめに情報は上げてはいるんだが、色々と自分で試したいって人は結構見てないもんだな」
「拙者としても、その気持ちは分かるのである!」
「ま、俺も見てねぇからな!」
あはは、まぁ実際に必要最低限の確認にしか使ってないのは事実だもんなー。ただ、今回のは知っておいて損はなかった情報のような気はするから、どこまで確認しておくかってのも難しいとこだね。
「おっと、次のPTが来たな。ちょっと行ってくるぜ!」
「ほいよっと」
そう言いながら後ろから近付いて来ているPTの方へジンベエさんが話しかけにいった。なんというか、こうやって順番の整理をしていく人も大変そうだ。
それにしても待ってる間に今まで地味に見た事のなかった組み合わせでの融合進化が見れたね。何か融合進化での全く別物の可能性を見た気もするよ。
「ちなみにジンベエさんのサンゴってどうやったら死んだ事になるんだ?」
「あー、どうなんだろうな? HPがない種族って事になるみたいだし、個体数……サンゴはコケと同じ群体数だったな。群体を全滅させれば勝てるのか?」
「そこは拙者が答えようではないか! まぁアルマース殿の推測通り、群体数を全て消滅させれば倒せるのである! 先程ジンベエ殿はすぐに姿を切り替えていたが、戦闘中では群体数の変動があってから5秒間は姿は切り替えられないのであるな!」
「ほう、そうなってんのか」
ふむふむ、戦闘中に群体数変動があるとしばらくは切り替えられないという事は、ダメージを受けて群体数が減ったり、増殖で群体数を増やしたりしたら駄目って事か。まぁそれが出来たらとんでもない緊急回避が可能になるから、妥当な性能かもね。
「それって、むしろサメの姿でいる時が攻撃のチャンスか?」
「それは相手のプレイヤースキル次第であるな! プレイヤースキルが未熟であれば一撃で終わる事もあるし、逆に高度なプレイヤースキルを持っていれば相手からのカウンターの餌食である!」
「あー、そりゃHPじゃないもんな。……ちなみにジンベエさんの場合は?」
「後者であるな!」
「何となくそんな気はしたけど、やっぱりかー!」
俺の海エリアの知り合いって、シアンさんとか、ソウさんとか、セリアさんとか、ケンローさんくらいだけど、海エリアにもそりゃ実力者はいるよなー。今回の案内役をしてくれている刹那さんも実力者側っぽいしさ。
まぁHPのない種族は特殊仕様でクセが強いのは実体験として知っているから、それを主体にした融合進化にクセがあるのはある意味では必然なのかもしれないけどね。HPと違って、弱点をピンポイントで狙われてうまく決まれば即死もあり得るし……。
あ、そうしている間に順番が進んでいて次が俺らの順番になったようである。……結構人数がいたと思ったけど、どうも連結PTになってて一気に大人数が突破していったみたいだね。
「はーい、次のPTの方ー!」
そんな風に灰のサファリ同盟・海原支部に所属しているヤドカリの人が言ってきたけど、ジンベエさんが様子を見に行った後ろから来ていたPTはどうなってるんだろう?
やるなら連結PTにしてサクッと倒す方が早そう……って、何か地味に混雑してるー!? え、何か揉めてるっぽい?
「……って、何か揉めてるね? 私もジンベエさんの方に行ってくるけど、時間がもったいないからササッとやっちゃって。刹那さんがいるし、グリーズ・リベルテなら問題ないよね」
「ここは拙者にお任せを! ジンベエ殿の支援に向かって下され!」
「相変わらずな喋り方だね、刹那さん。まぁいいけど、それじゃちょっと状況の確認に行ってくるねー」
そうしてヤドカリの人はジンベエさんの方に向かって歩いていったね。んー、何か言い合ってるという訳ではないみたいだけど、困ってる様子だな。何があったんだろ?
「ジンベエさん、何があったのかな?」
「私達と連結PTにすれば済んだ気もするけど、どうしたんだろ?」
「あ、その後ろの人達が先に来たよー!?」
「え、これってどうすりゃいいんだ?」
「……あー、どうも俺らの後ろのPTはメンバーが揃ってなかったっぽいな」
「そのようであるな! その後ろは既に3PTで連結した様子なので、手早く拙者達はボスを倒すべきだと具申するのである!」
ふむ、どうやら様子を見てた感じではジンベエさんがPTメンバーの揃っていないPTと、その更に後ろに来たPTとの調整を1人では対応し切れてなかったって感じだな。
PTメンバーが揃ってないなら揃ってないで、順番待ちから外れてたら良かったんだろうけど、どうもそうなってなかったんだな。今はもう1人のヤドカリの人が対応に行って、メンバーの揃っていないPTの順番を飛ばす形で決着したみたいだね。
「刹那さんの言うように、俺らも手早く済ませた方が良さそうだな。で、誰がやる?」
既に目の前には水刃鮫は再出現しているし、俺らの誰でも一撃で終わらせられるだろうからね。ここで変に時間をかけても仕方ないので、瞬殺してこの先の『海の新緑』へと進んでいきたいところ。
ここからでも凄い量の海藻が見えていて、ちょっと興味深いんだよな。なんというか巨大コンブ……ジャイアントケルプだっけ? 海の群集拠点種がそれだけど、それがこの先のエリア一帯に広がってるみたいなんだよね。
ちょっとアルが海藻に絡みそうな雰囲気もあるんだけど、ちょいちょい違った色の海藻らしきものや色鮮やかな魚とかも見えているから、結構面白そう。
「それではここは拙者が。まだこちらのタチウオでの戦闘は一切見せてないのである!」
「そういえばそうなのさー!?」
「そういう事なら、刹那さんにお任せかな」
「よろしくね、刹那さん」
「お任せあれ!」
あっという間に刹那さんがボスを倒す事になったな。まぁここはお手並み拝見といこうじゃないか。
「アル、刹那さんはどう戦うと思う?」
「やっぱりタチウオなら断刀じゃねぇか? もしくは連閃だろ」
「あー、やっぱりそうだよな。まぁ刺突攻撃という可能性もあるにはあるけど……」
「どうもタチウオだと斬雨さんのイメージが強いんだよな」
「そうなんだよなー」
タチウオという種族的に斬撃がメインになりそうだというのは間違いないとは思うけど、どうしても斬雨さんのイメージが強いんだよな。
まぁだからといってそれが別に悪い事でもないし、同じ種族で同じような育ち方をしていても不思議でも何でもないんだけどね。
「ほほう、ケイ殿とアルマース殿は斬雨殿と同じ戦法では見飽きているのであるな? それでは拙者のとっておきを披露しようではないか!」
「「……へ?」」
あ、思いっきりアルと声が被った。まぁそれは良いんだけど、刹那さんにはそんなとっておきの攻撃方法があるの!? それ、是非とも見たいんだけど!
「そんなのあるのー!?」
「それはかなり気になるかな?」
「サヤ、真似が出来そうならやる気だね?」
「もちろんかな!」
「拙者としても真似が可能なのであればしてもらっても構わないのであるが、おそらくサヤ殿のクマには不可能かと……」
「……そうなのかな?」
「見れば分かるである。【我が身を分かつは今ここに! 分身の術! そして彼のものを斬り刻め! 烈空閃・二重之太刀】!」
「はい!?」
え、タチウオが2体に増えて風を纏ったかと思ったら、緑の混ざった銀光を放つ2体のタチウオから連続斬りが放たれたんだけど……。えぇ、そんなのってあり!?
<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>
<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>
<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<『進化の軌跡・水の欠片』を1個獲得しました>
あー、あっという間に倒したの想定通りなんだけど、そこはオリジナル詠唱じゃなくて、普通に発声でスキルを発動して欲しかった……。
みんなはちょっと予想外過ぎて呆然としている感じだな。よし、落ち着いて何をしたかを分析してみよう。……って、2体になってたタチウオが1体に戻ってる。えー、今の戦闘って、一体何がどうなったんだ?
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