第737話 久しぶりの海エリア


 割と混雑しているからか、みんなと少しバラバラな転移になったけど無事にアルの所で集合は出来た。他にもクジラの人はいたけど、背中に木が生えているのはアルだけだったから分かりやすかったね。

 それにしても今日の海エリアは陸の種族の人も結構いるようである。普段の海エリアに陸エリアの人がどの程度いるのか知らないけど、これらの人達もイカの討伐作戦に参加しに来たんだろうね。まぁ俺達もそうだから、人の事は言えないんだけど。


「さてと、刹那さんはどこだろ?」

「ケイ、近寄ってきてるタチウオの人がいるからあの人じゃないかな?」

「あ、ホントだな」


 ちょっとまだ名前がハッキリと分かる距離ではないけど、明確に俺達の方に向かってきているタチウオの人がいる。ふむ、これはハーレさんが言ってたように刹那さんの1stで確定かな?


 あ、こっちに来てるタチウオの人の名前が確認出来る距離になれば、名前が刹那になっているのが見えた。うん、これでこのタチウオの人は刹那さんで確定だね。タチウオにヒトデだと、忍者の刀と手裏剣ってイメージなのかもな。

 

「思った以上の混雑で焦りはしたが、ようやく見つけましたぞ! よくおいで下さった、グリーズ・リベルテの皆々様。今日は拙者、刹那が皆々様のご案内をさせていただく!」

「やっぱり刹那さんの1stはタチウオだったー!」

「……やっぱりですと? やや、これは大変失礼な事をしましたな! 拙者、1stはタチウオ、2ndはヒトデの刹那と申す者! 改めてよろしく申し上げる!」

「こっちこそ聞き忘れててごめん、刹那さん。改めてよろしくな!」

「刹那さん、よろしくなのさー!」

「今日はよろしくな!」

「刹那さん、よろしくかな!」

「よろしくね、刹那さん」


 そうして何とか海エリアで案内役をしてくれる刹那さんと無事に合流出来た。それにしても何度かチラッと見かけた事はあったけども、斬雨さん以外のタチウオの人とこうやって行動するのは初めてだね。

 やっぱりタチウオなら斬雨さんみたいに斬撃メインで戦ったりするんだろうか? ……刹那さんはタチウオでもオリジナル詠唱みたいな事をしそうだよね。


「それでは早速、『海の新緑』に向かうのである! ところでグリーズ・リベルテの方々は『海の新緑』への妨害ボスの討伐はどのようになっておりますかな?」

「それはまだだな」

「左様であるか! ではまず、そちらの討伐からであるな!」

「そうなのさー!」

「ところで、そのボスは何になるのかな?」

「……なんだったっけ?」


 あー、まだ倒してない海エリアのエリア移動の妨害ボスって、これから行く『カイヨウ渓谷』の途中経路になる『海の新緑』に行くとこだけだったなー。……なんだったっけ、残ってるボスって。

 厳密に言えば倒してないのはアサシイカもなんだけど、群集拠点種での転移が可能だからアサシイカについては倒す必要はないんだよね。


「確か水刃鮫だったか?」

「アルマース殿、正解なのである!」

「あー、鮫か! ……水刃って事は水属性?」

「属性は水で、特性に斬撃があるバランス型のボスであるな!」

「なるほどね」


 何で海で水属性って気もするけど、まぁその辺は進化の軌跡の取得に関わってくるんだろうなー。水属性なら海から川へと来るとかだと使いそうだしね。


「んじゃ、まずは『海の新緑』に行く為のボス戦からだな」

「そうなのではあるが、今は混雑しているのでもある……」

「そっか、みんなイカの討伐戦に参加しに来てるから、移動ルートが被ってるのかな」

「そういう事なのである! 少し待機時間が発生する筈なので、そこは勘弁願いたい!」

「ま、そればっかりは仕方ないか」


 これに関しては誰が悪いという訳でもなく、ただ人が集まってきて混雑しているから発生している事だしね。……でも他のエリアから回り込んで行くって手段もありそうだよな。ふむ、その方向性で聞いてみるか。

 えーと、北西側から回り込むなら『ナギの海原』で、南東から回り込むなら『マークの海原』か。どっちも競争クエストのエリアで勝ち取ってる場所だから問題はないはず。


「刹那さん、『ナギの海原』か『マークの海原』から回り込んで行くことは可能?」

「……可能ではあるが、あまりオススメは出来ぬであるよ?」

「えー!? なんでー!?」

「直接繋がっている訳ではなく、更にその先のエリアを経由する必要があるからであるな。『ナギの海原』の先のエリアは水深が浅く、速度を出すには不適格である。そして『マーク海原』の先のエリアは海流が強く、その流れ自体が『カイヨウ渓谷』には向かわず逆に遠くなる流れなのである」

「なるほど、そういう感じか。……回り込んだら待つ以上に時間がかかる?」

「行けない訳ではないであるが、そういう事になるであるな」


 ふむふむ、行って行けない訳じゃないけども、時間の短縮にはならないっぽいね。まぁボス戦の順番を待てば行けるルートがあるなら、そこで大人しく待つのが正解か。

 こういう事なら、待たずに済むようにどっかの機会で倒しに来とけば良かったな。うーん、今度灰の群集のだけでも、全エリアの妨害ボスの討伐を済ませておく……? ありと言えばありだけど、Lv上げもしたいから優先順位が微妙か。


「そういう事なら普通に待つかー」

「ま、それが無難だろうな」

「承知した! では、拙者に着いて――」

「あ、刹那さん、ちょっと待って」

「ヨッシ殿、何か問題が……? あぁ、そういえばこれは重要であるな」

「うん、これはしておかないとね」


<刹那様がPTに加入しました>


 ヨッシさんが刹那さんを呼び止めたのは何事かと思ったけども、PTへの加入処理をする為だったみたいだね。ま、一緒に動く以上はこれは最重要ではある。


「それじゃ改めて出発なのさー!」

「「「「おー!」」」」

「仲が良いであるな! それでは拙者に着いてきていただきたい!」


 そうして泳いでいくタチウオの刹那さんの後を追いかけながら、海エリアを進んでいく。それにしても久しぶりに来た海エリアだけど、夜目があっても夜の日で暗いと若干不気味さはあるもんだね。地味にネス湖で使ってた飛行鎧に組み込んでた懐中電灯モドキが役立ってるよ。

 まぁ俺らのホームである森林深部も、他のエリアから来た人なら同じ様に感じるのかもしれないな。この辺については単なる慣れの問題か。


「あ、タツノオトシゴがいるかな!」

「え、サヤ、どこー!? あ、擬態してるー!」

「……相変わらず、サヤもハーレさんもよく見つけるもんだな」

「あはは、まぁ何となく分かる感じかな?」

「えっへん! ……あれ? タツノオトシゴがどっか行ったよー!?」

「え、あ、ホントかな」


 ほほう、サヤとハーレさんが一度見つけたタツノオトシゴをすぐに見失ったとなると、やるじゃないか、タツノオトシゴ! ライさん以上の擬態性能を持ってるプレイヤー……って、プレイヤーとは一言も言ってない気もする?

 ライさんだって高水準なはず……あー、でも結構見つかってるからそうでもない……? いや、俺が知ってる限りでは見つけてるのはレナさんとかサヤとかハーレさんだし、俺は見つけられてないんだから、見つけてる人の方が凄いはず。……多分。そのサヤとハーレさんが見失うほどのタツノオトシゴ……?


「サヤ殿もハーレ殿も良く見つけたであるな! 今のは幼生体で動けない海草系プレイヤーを仕留めていく、進化誘発用のタツノオトシゴである」

「あー、そういやそんなのいたっけ」

「……最近は縁がないし、そもそも俺らはその手のには世話になってないから忘れてたな」


 うんうん、今言われて思い出したけど、初期エリアには幼生体で動けない種族がLv上限に達した時に進化を誘発する為に襲いかかってくる敵もいたんだった。確か森林深部にその種類のコケがいた筈だけど、そういや未だに見た事はないんだよなー。


「ふと思ったんだけど、その進化誘発用の敵って倒せるの? 確か、進化階位って未成体じゃなかったっけ?」

「ヨッシ殿の疑問ももっともであるな。それに関しては討伐を試みた事はあるものの、失敗続きで一度も成功していないのであるよ」

「あらら、成功してないんだ?」

「えー!? なんでー!?」

「まず基本的に見つからないのと、Lv上限の幼生体以外の相手だと逃げに徹するからであるな。識別には成功しているのであるが、特性に『進化誘発』という特殊なものがあるのである」

「え、そんな特性があんの!?」

「……それが倒せない原因か?」

「おそらくは……。その特性の効果がいまいち判明していないのである」

「なるほどなー」


 久々に聞いた進化誘発を行う初期エリアにいる未成体の話だけど、そんな風になってたんだな。まぁ倒されたら倒されたで、動けない幼生体の人の進化に影響が少なからず出てくるから簡単には倒せない様になってるのかもね。

 まぁ他の群集との行き来が増えて、進化自体も進んでいる今ならそこまでその進化を誘発する未成体の個体に依存する必要性も薄れてる気もするけどね。


「さて、とりあえず到着であるな!」

「お、思ったより早か……って、やっぱり人が多い!?」

「割合的に陸エリアの人が多いみたいだな」

「まぁそれは当たり前といえば当たり前かな?」

「ま、そりゃそうだ」


 ぶっちゃけ海エリアの人なら、普通に隣接エリアへの妨害ボスは大体は倒してるだろうしね。……まぁ普通にイルカとか、カニとか、ウニとか、ウミウシとか、色んな種類の魚とかのプレイヤーもいるから、行く機会がないって事でまだ倒してない人もいるっぽいけど。

 それにしてもティラノとか、翼竜とか、サボテンとか、桜とか、イノシシとか、チューリップとか、ざっと見ただけでもカオスな光景だね。……まぁ俺らも人の事は言えないか。


 とりあえず海底に並んでるみたいだから、それに合わせて海底へと下りていく。って、あれ? 何か変わった感じの……サメ(?)の人がやってきた。フォルムはサメなんだけど、それ以外がサメっぽくないんだけど!? 何か枝というか細長い岩というか、そんな感じのものが繋がり合って、サメの形状を作り上げてるっぽい?


「お、刹那も来たな。そっちのは……あぁ、例のグリーズ・リベルテか。俺はジンベエってんだ、よろしくな!」

「あ、ジンベエさんか。俺はケイで、こっちは……」

「ハーレです!」

「サヤって言います」

「ヨッシです」

「俺は自己紹介は必要か、ジンベエ?」

「いんや、アルマースとは面識あるから要らねぇよ」

「え、アルは面識あんの!?」

「夜にクジラのみを育ててた時にちょっとな」

「あー、俺らがログアウトした後に1人で行動してる時の知り合いか」

「まぁそういう事だな」


 アルを除く学生組で夕方でしか知り合っていない人がいるように、アルには俺らが終わらせた後に深夜帯でやってる時に知り合ってる人もいるって事なんだな。

 まぁそれ自体は何一つとして問題はないか。えーと、ジンベエさんは……共同体は無所属なんだね。


「拙者、ジンベエ殿とアルマース殿が知り合いだとは思っていなかったであるな」

「刹那はそりゃそうだろうよ。俺がアルマースと知り合ったのは結構前だからな」

「まぁそれなりに久々ではあるしな。それにしても何がどうしてそういう姿なんだ、ジンベエ?」

「ふふん、面白いだろ、この姿!」

「まぁ、そりゃそうだが……」


 ん? このアルの言い方からして、ジンベエさんの姿はアルの知っていた姿とは全く別物なのか? あー、でもアルがクジラのみで育ててた時って成長体の頃だろうから、ジンベエさん自体が進化をして大幅に見た目が変わったって事なのか?


「その辺はちょっと説明しても良いんだが、まずはボスの順番待ちに並んでくれや。目的はそれだろう?」

「そうであるな! ジンベエ殿は順番の整理役であるか?」

「ま、そんなとこだな。あー、ちなみにPT単位と、連結PT単位の好きな方が選べるがどうする? 連結の方が順番としては早くなるぜ」


 あー、そっか。連結PTにして3PT分を一戦で片付けてしまう方が手っ取り早くはあるんだな。……ぶっちゃけ何もしない人の方が多い形にはなるんだろうけど、経験値が上手い訳でもないしそれもありではある。


「みんな、どうする?」

「拙者は皆の意見を尊重するのである!」

「手っ取り早く済ませるなら、連結PTで良いんじゃねぇか?」

「はい! 私も連結PTに賛成です!」

「私もそれで良いかな」

「私も同じく」


 うん、どうやらみんなの意見としては連結PTでも何も問題ないみたいだね。ま、ここで無意味に時間をかけても仕方ないし、同意も取れたから連結PTでやっていこう。


「そういう事なんで、ジンベエさん、連結PTでよろしく」

「おう、了解だ。つっても、前のPTまでは既に連結済みだから、次に来たPT2つとになるけどな」

「……時間的にそれじゃ大して変わらないような気が……?」

「はっはっはっ! まぁそういう事になるが、そこは協力してくれや!」

「……まぁ別に問題はないから良いけどさ」


 そういう事は先に言ってほしいとこだけど、まぁ連結PTにした方が他の人達の時間短縮にもなるから別にいいか。

 俺らの後から来る知らない人達と連結PTを組む事にはなるだろうけど、よっぽど変な人と一緒にならない限りはそう変な事にもならないだろうしね。


「よし、それじゃしばらくは暇だから、俺の進化の話でもしていくか」

「おっ、それは知りたいとこだ!」

「是非聞きたいです!」

「確かに気になるかな」

「そうだよね。うん、私も気になる」


 みんなもジンベエさんの異様なサメの姿には興味津々のようである。ただアルは何かを考えて黙り込んでるね。アルは元の姿を知ってるみたいだったし、ジンベエさんがどういう進化をしたのかの推測をしてるのかもな。

 ちょっとその辺の推測をしてみるのも面白いかもしれないね。ふむ、何かサメではないもので構成された形状はサメっぽい何かか。

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