第739話 使い方は色々と


 刹那さんが俺らの想像していなかった戦い方をしてあっという間に水刃鮫を瞬殺してしまった。タチウオが2体になるって……あ、もしかするとあれか? いやでも、絶対にそうだとも言い切れないんだよな。


「さて、先に進みますぞ!」

「刹那さん、ちょっと待った!」

「……ケイ殿、拙者が何をしたかを分析したいのは分かるのであるが、待っている方々もいるので……」

「あー、そういやそうだった!? それじゃ移動してからで!」

「それなら問題ないであるな!」


 俺らが分析しようとするのを分かってて、わざとやったな、刹那さん!? あー、でも俺とアルがタチウオの戦い方は斬雨さんのイメージが強いって言ったのも原因か。

 さっきの一戦はどう見ても今まで斬雨さんが使った戦い方とは全く違うから、同じ種族だから似たような戦い方だと決めつけた俺らが悪かったのかも……。


「アル、大急ぎで出発!」

「お、おう!」

「……あはは、あれは確かに真似出来そうにないかな?」

「今のはちょっとびっくりしたのさー!」

「……どうやったんだろうね、今の」


 みんなも気になっているみたいだけど、とりあえず今は移動が先! 次にボス戦をする人も大勢いる状態だし、それ以上の分析はエリアを移動してからだな。


<『始まりの海原・灰の群集エリア5』から『海の新緑』に移動しました>


 サクッと移動して、エリア切り替え完了! ここの色んな海藻とか魚とかも気になるけど、今はそれは後回しだ!


「よし、アルはそのまま進めー!」

「あー、まぁそのつもりだが、方向はどっちに進んだら良いんだ?」

「それについては北西と南東を避けてくれれば、どの方向に進んでも問題はなしである! ……もちろん来た方向は駄目であるよ?」

「……そりゃ来た方向は戻るだけだから意味ないよな。まぁ単純にこのエリア……『海の新緑』の北から東が『カイヨウ渓谷』に繋がっているって認識で良いんだな?」

「然り! アルマース殿、ここは『カイヨウ渓谷』に近付くにしたがって深くなっていくのでその点は注意されたし!」

「あー、そうなってんのか。まぁ深くなった方が俺としては動きやすそうだけどな」


 パッと見た感じでは海底から海面に向けて巨大な海藻があちこちから伸びているけど、群集拠点種のヨシミの部分に比べるとかなり浅いもんな。……今って深度どのくらいなんだろ?

 昼間なら日光の差し込み具合で多少は深さの違いが分かりやすい気もするけど、今日は夜の日だからその辺が全然分からないんだよね。


 んー、俺のコケの発光で周囲は割とよく見えてるけど、海藻が多いって事もあるから見通しはあんまり良くないな。……特に何も考えず後回しにしようとしたけど、ちゃんと見てみればこのエリアを本格的に移動するならそうもいかなさそうだね。


「アル、光の方向は前方に調整しといた方が良いか?」

「……その方が良さそうだな。ケイ、任せるぞ」

「ほいよっと」


 とりあえず展開中のままの飛行鎧に組み込んでいる光の操作を使って、アルの真正面の方に光を向けてっと。よし、結構視界は良くなったからこれでいいだろう。ネス湖から海エリアにそのまま転移してきて発動しっぱなしだったけど、それが役に立ったね。


「わー! これは完全に海の中にある森だねー!」

「アル、これってヨシミと同じジャイアントケルプってやつかな?」

「あー、まぁ大きさはヨシミの方がデカイが、基本的には同じだと思うぜ」

「……これだけ海藻があるなら食べられるのもありそうだね」

「はっ! ヨッシ、海苔が食べたいです!」

「海苔って言われても、流石に作ったことないよ?」

「ヨッシなら出来るのさー!」

「いや、ハーレ? そう言えば何でも作れる訳じゃないからね? ……まぁちょっと作り方を調べてはみるけど」

「やったー!」


 なんというかハーレさんが甘え上手なのか、ヨッシさんが単純にハーレさんに対して甘いのか、何とも判断し難いところだよなー。

 っていうか、ヨッシさんが料理を出来る理由にはハーレさんの存在が大きく関わっている気もするよね。ゲーム内でこれなら、リアルでヨッシさんが引っ越していく前にも普通にこういう事は日常的にあったんだろうな。


「……海苔といえば、字としては苔だよな?」

「いきなり何を言い出してんの、アル!?」

「という事は、今のケイさんは海苔を乗せたロブスター!?」

「ハーレさんも食いつくな!? それ、どう考えても違うから!」

「ま、海苔は苔ってなってるけど、実際は苔じゃなくて藻だけどな」

「アル、違うのを分かってて、それを言うかー!?」

「それは置いといて、刹那さんに質問なんだが海藻と海草の区別ってどうなってんだ?」

「おいこらー!? あ、でもそれはちょっと気になるかも……?」


 確かその辺はリアルでは区別があった気もするけど、このゲーム内ではどうなっているのかって気にした事は無かったよ。……どう区別されてたのか、ぶっちゃけ覚えてないけど。

 オフライン版では区別されていなかったというか、そもそも海の植物系ってプレイヤー側では存在してなかったもんな。オンライン版ではワカメやコンブが敵で出てきたくらいか。


「そこは『特に区別されていない』が正解である! まぁリアルでも草であっても藻と呼ばれるものもある故に! ちなみにそこの巨大なコンブは藻だったりするのである!」

「……え、コンブって藻なのか?」

「うん、藻だね。コンブ以外にもワカメとかヒジキとか、よく食卓に出てくるのも大体藻だったと思うよ」

「……なるほど。深く考えない方が良い気がしてきた」

「……ケイに同感かな」


 とりあえずゲーム内において海藻と海草には明確に区別はないという事が分かれば良いや。そもそも草花系の分類が野菜とか毒草とかで、現実とは分類方法が違うゲームでそこを気にするだけ無駄だよね!

 それに他に気になってる事がそのままなんだから、そっちを優先していこうじゃないか。


「……さてと、そろそろ刹那さんのさっきの手段の分析に戻ろうか!」

「ケイ、それは任せるぞ。俺は聞きながら先に進んどく」

「ほいよっと。あ、そういやアルがそのまま進んだら海藻に絡みそうだけど、それは大丈夫か?」

「それならこれで何とかするさ。『根の操作』!」

「あ、なるほど、その手があったか」


 無造作に進めば駄目そうだけど、根で掻き分けながら広めの間隔の所を通れば問題はなさそうだね。

 他にチラッと見えたクジラの人は特に広めの場所を移動しているみたいだけど、アルの背中にある木の根で掻き分けて行くのであればそのまま一直線でも行けそうだな。


「アルマース殿、それは少しご注意を。巻き付いてきて動きを阻害してくる海藻の敵もおります故に!」

「お、そんないるのか」

「それならサヤの出番なのさー!」

「そういう事なら任せてかな!」

「サヤばっかに任せるのもあれだから、私もそれは手伝うよ。ケイさんが岩の大剣を使ってたし、あれの氷版を私も使える様になっておきたいからね」

「あー、あれか。それじゃ周囲の敵の妨害の対処はサヤとヨッシさんに任せた!」

「うん、任されたかな!」

「私も頑張っていかないとね。とりあえずLv上げを兼ねていこうっと。『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「私は索敵に専念するのさー!」


 何だかみんなも刹那さんの戦法を気にしていた気もするんだけど、サヤとヨッシさんはいつでも戦える様に臨戦態勢になっているし、ハーレさんも警戒状態にはなっているね。

 まぁ警戒してはいるけども、そこまで念入りに警戒している様子でもないな。あくまで無防備にはならない程度にしている感じだね。あとヨッシさんは単純にまだLv3になってない氷塊の操作をLv3まで上げておきたいってとこか。


「……警戒と言いつつ、拙者とケイ殿に注意が向いているのは気のせいであるか……?」

「気のせいじゃないと思うぞー。なぁ、みんな」

「ま、それを否定する理由もないな」

「さっきの刹那さんの戦い方は気になるかな」

「そうなのさー! という事で、分析はケイさんに任せつつ、聞き耳は立てておくのです!」

「……あはは、まぁそうなるね」

「なるほど、そういう事であるか! それは承知した!」


 どうやらみんなも気になっている事を隠す気はまるでないようだけど、刹那さんの戦闘の分析は俺に丸投げなんかい! いや、まぁ移動はアルに丸投げしてるし、巻き付いてくる敵の対処はサヤとヨッシさんに任せるんだから、妥当なとこではあるのか。


 とりあえずそんな役割分担でアルが木の根で邪魔な海藻を掻き分けながら進んでいく。ふむ、パッと見じゃ一般生物と敵の見分けがつかないな、このエリア。……まぁその辺は森林エリアの木々と同じようなもんか。


「まぁいいや。それじゃそういう事で、刹那さんがさっき使ったスキルを当ててやる!」

「……拙者は普通に教えても良いのであるが……?」

「それじゃ面白みがないから、とりあえず推測をさせてくれ」

「ケイ殿がそう言うのであれば、拙者としては特に言う事はないのである」

「あ、それと斬雨さんの戦い方のイメージしかないみたいな事を言ったのは悪かった!」

「ふふふ、それは拙者としては気にしていないのである! むしろグリーズ・リベルテの方々を驚かせる事が出来て満足なのだ!」


 ……あはは、余計な事を言ってしまったけど、それが結果として満足出来る状況になったのなら良かったよ。今回は刹那さんが怒る事はなかったけど、口は禍の元だしこの辺の発言は気をつけないとね。


 さて、とりあえずこれでまともに刹那さんのタチウオの戦い方を分析出来る状態にはなったね。問題はあの2体のタチウオになったスキルの正体が一体何かという点だな。

 可能性としてはが俺の知らないスキルという可能性もあるけど、思い当たる要素がない訳じゃない。厳密にはスキルとしての存在は知らないけど、特性としては知っているからね。

 個体として増える特性はコウモリの持っていた分裂か、タケノコが持っていた分体生成のどちらかのはず。……分裂したようには見えなかったから、こっちか?


「刹那さん、特性に分体生成を持ってたりする?」

「ケイ殿、それは正解だが、少し足らない部分もあったりするのである!」

「……足りないもの?」

「まぁこれは単純な話であるな。特性で分体生成を持っている事で、その専用のスキルが手に入るのだ!」

「あー、まぁそりゃ特性だけじゃ実際に何も出来ないもんな。……で、具体的になんてスキル?」

「そのまま『分体生成』というスキルであるな! 特性として分体生成が必須な応用スキルなのである!」

「……なるほどね」


 へぇ、応用スキルではあっても『分体生成』が固有スキルではなかったのは意外だった。特性さえ手に入れれば他の種族でも普通に使えるんだね。


「刹那さん、ちょっと質問を良いかな?」

「サヤ殿、何であるか?」

「その特性はどうやって手に入れたのかな? 合成進化か、特性付与の水?」

「それは特性付与の水である! タチウオでの二刀流というロマンを求めたのである!」

「あー、ロマンかー!」


 確かに日本刀によく似たタチウオで二刀流とか、このゲーム内でやろうと思うのはロマンではあるよな。うん、何となく刹那さんの気持ちも分かる。

 でも、よくタチウオに分体生成の特性を追加しようと思ったもんだね。実際に上手く行くかは博打だっただろうし……っていうか、実際のところ分体生成をしたら操作感ってどうなるんだ?


「刹那さん、分体生成を使った場合って操作とかHPとかはどうなるんだ?」

「それはHPは分体の生成数だけ等分され、分体自体には性能差はないのだ! 操作は……拙者自身が使った事がないので断言は出来ないのであるが、支配進化から同調になった際に得る遠隔同調に近いのではないかと……」

「え、遠隔同調に近いのか!?」

「拙者は遠隔同調を使った事がないので、あくまでそんな感じな気がするという事である!」

「あ、それもそうだよな……」


 そりゃ刹那さんはタチウオとヒトデを別々に育てているんだから、遠隔同調の使用感を知るはずがないか。……それにしても分体生成をすると遠隔同調に近いかもしれないというのはちょっと興味深いな。


「って、ちょっと待った。刹那さん、さっき分体の生成数だけ分割になるって言った!?」

「言ったであるな! 拙者、現時点で2分割までは可能であるが、視点が2つに分かれるのは流石に操作が難しいのである……」

「ちょ、それって遠隔同調と本当に同じ感じなんじゃ……」

「……そうなのであるか?」

「うん、多分な」


 ぶっちゃけ遠隔同調で同時に2キャラを操作するのはかなり難易度が高いのに、分体生成という同じような事が行える手段があるとはね……。タケノコはもっと盛大に分体生成してた気もするし、Lvが上がれば分体生成数も増えるんじゃ……。

 でも1体ずつのHPが生成した分体の分だけ等分されて減っていくなら、分体を生成し過ぎるのも危険そうだよな。


 ……ふむ、それらを踏まえた上で全部が同じ性能をしているのなら、中距離くらいに限定すれば他の視点からでも同時操作は可能といえば可能か? 遠隔同調に近い部分もある気はするけど、刹那さんのタチウオみたいな場合であれば操作系スキルと同じような感覚でもいけそうな気もするね。


「それって意外とタチウオと分体生成は相性が良いんじゃない? 複雑な動きをする種族ならともかく、タチウオで斬るならどことなく操作系スキルに近い気もするし……」

「やや!? そう言われてみるとヨッシ殿の意見も一理ある気がするのである。……そうなると、下手に全部の視点を見ずにメインの視点のみで操作系スキルを扱うにと同じ感覚で操作するのもありかもしれないであるな!」

「俺もそれは同感。意外と盲点かもしれないぞ、刹那さんの戦法ってさ」

「そう言ってもらえると試してみた甲斐があるのである!」

「あ、それと使ってた応用スキルって連閃?」

「それはそうであるな。分体の生成中はどちらも同様に光るようである!」

「ふむふむ、そういう仕様か」


 うんうん、なんだか予想してなかった方向にはなったけど、刹那さんの戦法の強化のコツを見つけてしまったのかもしれない。

 それにしても分体生成しててもちゃんとどっちでも連撃数のカウントにはなるんだね。まぁその辺はサヤが連閃を使う時と同じではあるか。


「……そういや刹那さん、その組み合わせは結構貴重な情報な気はするんだが、情報は上げてないんだな?」

「アルマース殿、それはそうであるよ! なにせ今日の夕方に思いついて試行錯誤をし始めたばかりであるからな!」

「って、試したのは割と間近なんかい!」

「……そりゃ情報が上がってる訳がねぇか」


 もっと前から試して身に着けた戦法かと思っていたら、それほど試し始めてから時間が経ってなかったとはね。

 それならこれから応用の余地のある新戦法になるかもしれない……って、すぐに分体生成の特性は得られるとも限らないか。ま、次に特性付与の水を手に入れる機会があれば、試してみる人もいそうだよな。

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