第720話 ハーレとレナの対決……? 下


 さて、俺がハーレさんにアドバイスをしながらレナさんに一撃を入れるという内容にはなったものの、実際結構厳しいとこではあるんだよな。それが分かってるからこそ一撃当てたら勝ちというハンデなんだろうけど、逆にこれはレナさんが油断しているという事でもある。チャンスがあるとすれば、その油断だろうね。

 今回のメインは投擲の使い方ではあるけど、それ以外を使ってはいけないという制限はない。そこからどう展開させて、レナさんの油断を突くか……って言っても1対1でレナさん相手にチャージは無理だろうし、かなりキツいなー。


 ハーレさんはクラゲのスキルを含めても有効な近接の攻撃手段は少ないし、かといって魔法もまだ育成中だから劇的な効果はまだ期待出来ない。

 他に可能性があるとしたら、投擲の弾の種類だけど……って、あっ! 昨日手にいれたあの弾が有効なんじゃないか!? よし、あれを起点に……うん、レナさんが全力で警戒してたら無理だろうけど、油断している今ならこれでいけるかも……。


「ハーレさん、昨日ミヤ・マサの森林で手に入れたあれを使うぞ」

「はっ!? あれですか!?」

「……あれってなんだろうねー? なにかとっておきがあるんだねー?」

「まぁな。ハーレさん、あれを連速投擲で、同時に拡散投擲を昨日のカニ相手と同じで準備!」

「了解です!」

「およよ!? 弾の種類は分からないように、そういう指示の仕方なのー!?」


 そりゃ俺とハーレさんは同じ共同体なんだし、俺達にしか分からない形で伝える手段はあるんだからそれを活用しないとね。それにどっちも昨日だから思い出せる範囲の合図になって良かったよ。


「どうやらケイさんとハーレさんは同じ共同体という強みと、特殊な弾を使用して対抗していくようですね」

「この場合に有効そうなのは毒の弾とかか? あー、そういや閃光弾とかもあるからそれで隙を作るって事もありえるな」


 あ、そういや発光草と木の実を不動種の人が合成して作れる閃光弾とかもあったっけ。……それについては普通に忘れてたけど、今度それを入手しとくのもありかもね。

 まぁ使う弾は別のものだけど、紅焔さんの発想自体は間違ってはいない。それに今回は投擲についての講義も兼ねてるから、これからのやり方は参考になるはず。……ある意味では、これからの戦法が投擲の最大の強みかもね。


「レナさん、勝負なのさー!」

「ふっふっふ、策はあるみたいだけど簡単に当てられるとは思わないでよねー!」

「油断してるレナさんに目にものを見せてやれ、ハーレさん!」

「了解です! 『並列制御』『連速投擲』『拡散投擲』!」

「……あ、その弾は見覚えないし、ちょっと嫌な予感がするねー。『並列制御』『連爪回蹴撃』『ファイアウォール』!」


 あ、やば!? 折角の花粉の弾がファイアウォールで焼かれた上に、砂漠の砂での拡散投擲も連続回し蹴りで吹き飛ばされていっている。レナさんの蹴りもハーレさんの投擲も銀光はどんどん強まっていているけど、こんなにあっさり迎撃されるんじゃ最大連撃数まで行っても躱されるだけな気がする……。

 くっ、ハーレさんがインベントリから取り出して手に握った弾を見ただけで、ここまで適切な対応をしてくるのか!? レナさんは油断してるように見えて、そこまで甘くは――


「ふっふっふ、レナさんは油断をし過ぎたのさー!」

「……え? あっ!? あー! これって、まだ生産方法が分かってない花粉のレアなやつー!?」


 おっ、これはハーレさん、グッジョブ! 俺の指示じゃないけど、ファイアウォールで一発目の花粉の弾が焼かれたのを見て、咄嗟に連速投擲の1発を山なりにファイアウォールを避けるように投げていた。レナさんも流石に花粉の弾は予想していなかったようで、直接は当たってはいないものの地面に当たってばら撒かれた花粉の影響を受けたようである。


「もらったのさー! 『狙撃』!」

「当てられたー!? それより目がー!?」


 それに前方からは砂の拡散投擲が続いていたし、レナさん自体が相殺に攻撃をしていたから危機察知が上手く機能してなかったのかもしれない。……ファイアウォールがレナさん自身の視界を遮っていたのもありそうだな。

 てか、思いっきり効いてるね、花粉の弾。ふむ、これは是非ともどこかで追加入手……いや、安定入手をしたいところ。弾を消費しない模擬戦で、レナさん相手に通じたのは大成果だな。


「あ、今のハーレさんのは上手いですね。同時に多方向からの攻撃でしたし、レナさん自身が連続の回し蹴りの最中だったので、対処が遅れたようですね。逆にレナさんはファイアウォールでの防御が視界の邪魔になって墓穴を掘った感じですね」

「あれって花粉のやつか……。地味に辛いんだよな、あの花粉症の状態異常……」

「あー、涙が止まらないー!?」

「えーと、レナさんが少し大変な様子になっていますけども、勝利条件はケイさんとハーレさんが達成しましたので、勝者はハーレさんですね!」

「やったー! レナさんに勝ったー!」

「うー!? 完全に不覚を取ったー!?」


 うん、思いっきりハーレさんは喜んで、レナさんは悔しがっているね。まぁこれは完全に意表を突いただけだし、このまま普通に戦えば今のレナさんの花粉症の状態異常は一時的なものだし、ほぼ確実に負けるだろう。

 とはいえ盛大にハンデがあったけど、一応勝った事には違いないからね。今は盛大に喜んでもバチは当たらないよな。


「正直かなり予想外な事になりましたけども、今回の模擬戦はこれにて決着ですね。勝者は『グリーズ・リベルテ』所属のハーレさんとなります!」

「後はセコンドのケイさんの勝利でもあるな」

「え、俺ってセコンドになるの?」

「状況的にはそうじゃねぇの?」

「……まぁ、そうなるのか?」


 ふむ、まぁセコンドでもセコンドでなくても別に良いか。とりあえずレナさんが設定した勝利条件を達成して勝ったというのが重要だもんな。


「わたしの負けは負けで良いんだけど、この花粉症はどうにかしてー!?」

「花粉症は洗い流せばすぐ治ったはずだよね!? ケイさん、水をお願いします!」

「……いや、ハーレさん、それは無理だからな?」

「はっ!? そういや模擬戦エリアだった!? えーと、えーと!?」


 そんなレナさんとハーレさんの焦ったような声が聞こえてくる。どうやらレナさんが影響を受けている花粉の効果がかなりえげつないみたいだね。……あの花粉の弾はアリスさんがマサキから情報ポイントで手に入れた物を少し交換してもらったものだから、効果としてはかなり高性能なのかも?

 てか、ハーレさんも俺は直接の手出しが出来ないのを失念して助けを求めてくるのは流石に慌て過ぎだろ。ふむ、レナさん自身が水の生成が出来れば良いんだろうけど、この感じだと無さそうだね。


「あーもう!? ダメージ無いし、自分で焼き払うまで!」

「レナさん、そこは森林エリアですしどこかに川があるはずですよ」

「あ、そういえば……」

「そういばやそうだね!? レナさん、ちょっと川の位置を確認してくるから待っててー!」

「……うん、ありがとね、ハーレ」

「あー、ちょっと良いか?」

「ん? どした、桜花さん?」

「いや、もう決着自体はついたんだから、模擬戦を中断すればいいだろ? すぐに元の状態に戻るぞ?」

「「それだー!」」


 あ、そういやその手があった。そもそも今回の勝利条件はレナさんに一撃を当てる事にしてたから、模擬戦の本来の勝敗の確定を待つ必要はないんだ。わざわざ川を探しに行って、花粉を洗い落とすよりはそっちの方が早いよな。


「ハーレ、模擬戦の中断をお願い!」

「了解です!」


 そうしてすぐにハーレさんが模擬戦の中断を選択してレナさんがそれを承認した事で、この模擬戦は中断となった。へぇ、中断の場合は『両者の合意による模擬戦の中断』って表示されるのか。

 あ、それほど間を置かずにそれで投影されている中継画面が途絶えたね。なんだか変な締め方にはなったけども、今回の模擬戦はこれで終了である。


「えー、少し変則的にはなりましたが、これで今回の模擬戦は終了となります。……一応実況は灰のサファリ同盟・草原支部リーダーの琥珀と」

「……本当に一応だけど、解説は『グリーズ・リベルテ』所属のケイと」

「ほぼ何もしてなかった気がする一応ゲストだった『飛翔連隊』所属の紅焔でお送りした!」


 うん、全力で解説をするとは言ったものの、色々な要因でグダグダな実況になってしまったもんな。琥珀さんも紅焔さんも『一応』と言いたくなる気持ちは分かる。俺もそれは言っちゃったし、今回の実況は報酬をもらうには不完全な出来だったかも――


「一応とは言っているが、変則的ではあるが講座としての役割は果たしていたのではないか? なぁ、疾風の」

「そりゃそうだな。投擲は弾によって大きく変わるってのはよく分かったぜ。なぁ、迅雷の」

「僕もそれは思ったね。レナさんの参考に出来ない挙動よりも、使用する弾によっては凶悪に化けるという事を明確に示したんじゃないかい?」


 あらま、風雷コンビとソラさんからの思わぬ高評価をもらったね。ふむ、まぁ実況としてはグダグダだったけど、投擲の講座としては役立ったのかな? ……とりあえずレナさんに関しては参考にならないというのは覆りそうにないけどもね。


「相当変則的ではあったけど、参考にはなったぜー!」

「あの拡散投擲の方で使ってたのって砂だよね? 魔法で生成はしてなかったから、普通の砂……?」

「もしかして、砂漠の砂か……? あれは確かスタック可能だったはずだし、大量入手は簡単だよな」

「砂は魔法で生成して使うのばっか考えてたから盲点だったー!?」

「魔法で生成した砂なら試した事あったんだけどな。そこで土の昇華を持ってて追加生成が出来ないとろくに使えないって判断が出てたから……」

「あー、あった、あった。それで砂は使えない気がしてた」

「拡散投擲と砂漠の砂は相性が抜群に良いんだな。……あー、なんで気付かなかった!」

「砂漠ってエリアへの適応が必須だし、用がなければ基本的に行かないもんね」

「……そういや砂漠は1回しか行ってねぇな」

「海岸付近の塩田に使う以外に、砂の使用方法があったんだな」

「桜花さんー! 砂漠の砂を仕入れる事って出来ますかー!?」

「おう、それくらいなら多分可能だぜ。……こりゃ砂の持ち込み取引も検討しといた方が良さそうだな」


 ほほう、どうやら土の昇華で魔法産の砂を試す人はいても、砂漠の砂を弾に使うというのは意外と試されていなかったみたいだね。というより、魔法産で土の昇華が必須という判断でそれ以上は追求されなくなってた感じか。

 まぁ言ってる人もいるけど適応が必須だから、わざわざ砂漠に行って目的もなく無駄に砂を採集する人も少なかったんだろうね。


 というか、海岸では塩田が作られているんだな。……うん、まぁリアルで昔の塩の作り方だし、望海砂漠の海岸沿いとかでやってたりするんだろうか? それとも他の場所? ……ま、それは今は良いか。


「桜花さん、あの花粉の弾っぽいのは入手可能?」

「あー、あれか。……悪い、存在自体は知ってはいるんだが安定した入手経路が無くてだな」

「……となると、どこで手に入れたんだ、あれ?」

「是非とも知りたいね」

「ケイさん、可能であればあの花粉の弾入手先を教えてくれねぇか?」


 おっと、桜花さんが代表して聞いてきているけども、他のみんな……特に投擲の講座を目当てにやってきたっぽい人が興味津々のようである。そりゃこれから投擲を使おうかと考えている、もしくは既に投擲を使っている人からすれば気になる話か。

 まぁこれについては教えてしまっても問題はないよな。ぶっちゃけ教えたところで安定した入手が可能な訳でもないしさ。


「えーと、あれだ。ミヤ・マサの森林のマサキから情報ポイントで手に入れた人からトレードで譲ってもらったやつ」

「……なるほど、その経路か。それじゃ意味ねぇか……」

「え、あそこで手に入るの!?」

「……あそこは争奪戦だからな。もしかすると手に入れたものの、貴重で使ってみてない奴が多いんじゃ?」

「あ、それはありえそう!? ちょっと呼びかけてみよっか?」

「通常の戦闘では勿体なさ過ぎて試用が出来てない可能性は充分あるな。模擬戦で投擲を使う奴、少ないもんなー」

「いても距離を取って遠距離から一方的に倒す人か、逆に距離を詰められて何も出来ずに倒される人ばっかだもんね」

「生産の方の可能性は探ってみるか?」

「花粉の攻撃って、杉の木の人だけだったっけ?」

「確かそうだったはず。……生産には何か条件とかがありそうだな」

「とりあえずこっちも通達して、杉の木の人に協力を頼んでみよう!」

「よし、その方向性で動いてみるか!」

「「「「「おー!」」」」


 おー、盛り上がってますなー。これでこそ灰の群集のみんなって感じだし、もしこれで安定して花粉の弾が手に入るようになればハーレさんの強化にもなりそうだよね。


「ただいまなのさー!」

「戻ったよー、ってあれ? 何か盛り上がってるねー?」

「花粉の弾についてで盛り上がってるってとこじゃねぇの?」


 おっと、そうしているうちにダイクさんの水のカーペットに乗ったハーレさんとレナさんが戻ってきたね。途中でダイクさんと合流して、そのまま送ってもらったってとこなんだろう。


「ダイクさん、大当たり!」

「お、やっぱりか。出処はさっきハーレさんから聞いたから、生産方法を探ってるってとこか」

「ま、そんなとこだな。ハーレさんとレナさんもお疲れさん」

「ケイさん、ナイスアドバイスだったのです!」

「いやー、あの花粉の弾の存在は知ってたけど、あそこまで強力なのと、ハーレが持ってたのは誤算だったねー」

「ふっふっふ、それでも私の勝ちなのさー!」

「それについては後からどうこう言う気はないし、素直に負けは認めるよー。ただ、ハーレ、『私の』じゃなくて『私とケイさんの』でしょ?」

「あぅ、そうでした! 私とケイさんの勝利なのです!」

「ま、そうなるな」


 ぶっちゃけレナさんに勝てるとは思ってなかったけど、条件付きではあっても勝ちは勝ちだ。でもまぁ、今度はハンデ抜きで勝てるようにはしたいもんだな。


「さーて、負けちゃったもんは仕方ないから気分は切り替えるとして……ケイさん達は調べものがあるんだったよね? わたし達の都合に付き合ってもらったし、その辺の事を手伝おうかー?」


 お、このレナさんからの提案はありがたい。ちょっとトラブルを起こした連中とかのせいで予定が狂って調べるタイミングを逃していたけど、夜から海エリアに行く為の下調べをしていきたいからね。色んなエリアに詳しいレナさんの協力が得られるのは助かるな。

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