第706話 青の群集の森林エリア


 とりあえず青の群集の森林エリアに辿り着き、ジェイさんと斬雨さんとレナさんと合流してここの群集拠点種であるノドカの所まで移動中である。……まぁ移動開始までに色々あったけどね。


 そうしてしばらく川を遡った所で変化があった。ふむふむ、ここまでの川は北の方から流れてきているし、この上流は単純に広範平原で目印として沿って移動してきた川なんだろう。

 それとは別に途中から合流している小川があった。方向としては南西方向が上流だね。 


「あ、川が分かれてるかな」

「あー、そういや赤の群集の森林深部から流れてきてる川もあるって言ってたもんな」

「こっちの小川の先が赤の群集の森林深部に繋がってるんだよね」

「確か、そうなのさー!」

「初期エリアとは言っても多少の違いはあるんだな」


 うん、確かジェイさんはそんな風に説明してたはず。一目瞭然で水量は明確に少ないけど、森林深部の渓流みたいな小川に比べればまだまだ水はある方だな。


「ジェイさん、これはどっちに進めばいいんだ?」

「そこは小川の方に進んで下さい、アルマースさん。小川沿いに進んで行けば南側に陥没している地形がありますので、その上に行っていただければノドカとなっています」

「あー、そういう感じか」


 そういや大して気にしてなかったけど、森林エリアも群集拠点種がいる場所は陥没してるんだったっけ。全部を確認した訳じゃないけど、初期エリアになってる森林深部と森林は共通してそういう風になってるのかもね。


「あ、そうだ。ジェイさん、例の中継の権利の話があるんだけど今は大丈夫?」

「……あまり長話をするほどの移動距離ではありませんが、概要を聞くくらいなら問題ないかと」

「おし、とりあえずそれでいいや」

「お、ケイさん、何かを決めたんだねー!」

「まぁね。って事で、話というか提案がある。赤のサファリ同盟の人からの提案なんだけど、赤の群集から1人、灰の群集から1人のコンビと、青の群集から2人のコンビで対決ってのはどう? 中継の権利は赤の群集も灰の群集もそれでまとめて使う感じでさ」


 厳密にはフラムの独断という形でまだ明確に決定をしてる訳じゃないんだけど、これについては先に青の群集からの同意を得てからでないと話が進まないからね。ここでジェイさんが了承まではしなくても、前向きに検討してくれる状況になるなら本格的に話を進めていけばいい。


「……なるほど、そう来ましたか」

「へぇ? ジェイ、これって割と良い提案じゃねぇか?」

「……そうですね。私としても面白いとは思いますが……ケイさん、先ほど赤のサファリ同盟と言っていましたが、赤の群集とはどの程度の話がついていますか?」

「あー、赤の群集とは現段階ではまだ殆ど進んではない。先に青の群集の方の意見を聞いてからにしようかと思ってさ」

「……なるほど、そういう感じですか。……流石にここで私の独断で決めるという訳にもいきませんので、前向きに検討をしつつ、改めて3つの群集で話し合って詳細を詰めるという形にさせてもらっても構いませんか?」

「それについては問題なしだな。んじゃ、その方向性で赤のサファリ同盟経由で赤の群集の方に話を伝えといて良いか?」

「えぇ、それは大丈夫ですよ」


 よし、発案がフラムであるという事だけは気に入らないけど、ジェイさんから前向きに検討をするという言質は取れた。後はフラム辺りに話を伝えたり、灰の群集で誰が戦うかとかを決めていけば良いだろう。


「ケイさん、面白い事を考えたねー!」

「あー、ぶっちゃけ俺の案ではないんだけどな」

「およ? あ、そういや赤のサファリ同盟って言ってたねー。ちなみに赤のサファリ同盟の誰の案ー?」

「えー、あんまり言いたくない……」

「ほほう、ケイさんがその反応で分かったね! ズバリ、フラムさんとみた!」

「……大当たり。まぁ大体予想はつくよなー」

「そりゃフラムさんは、なんだかんだで不動種としては人気があるからねー」

「あー、そういやそうなんだっけ」


 なんだかツチノコでのポンコツイメージの強いフラムだからすぐに忘れそうになるけど、杉の不動種の方では人気があるって話だもんな。……まぁあいつが中継をしてる所を見た事がないからピンと来ないけどさ。

 あ、そうしている内に陥没してる地形と大きな木が見えてきて、アルが川の上から陥没している部分に向けて移動していく。おっと、崖の手前でアルが一旦止まったね。


「あの巨大な木がこのエリアの群集拠点種のノドカになりますね」


 へぇ、あれが青の群集の群集拠点種の1人であるノドカか。パッと見た感じではそれほどエンと違いはなさそうだし、結構な数のプレイヤーが集まっているね。

 あ、ここでもやっぱり巨大な中継画面が投影されているし、海エリアが転移してくる為の海水の大きな水球もあるんだな。……まぁ、その辺はあって当たり前か。


「おー! エンとあんまり変わらないのさー!」

「大体、森林と森林深部の群集拠点種はどこも同じ感じだよな、ジェイ?」

「えぇ、全ては見ていませんがそうなっているようですね」

「ん? その言い方だとジェイさんと斬雨さんは灰の群集の森林深部まで来た事あるのか?」

「普通にありますよ。雪山の中立地点からならそれほど大変な移動距離ではありませんしね」

「……あー、なるほど」


 確かによく考えてみたらそりゃそうだ。灰の群集の森林深部エリアからニーヴェア雪山に行くのと、ニーヴェア雪山から今いる青の群集の森林エリアとの移動の難易度……というか、距離が全然違い過ぎるもんな。

 雪山の中立地点に転移の種の登録していると言ってたジェイさんと斬雨さんからしたら、灰の群集の森林深部に来るのは特に無茶な移動でもなんでもないよね。


「とは言っても、行ったのは1度だけですけどね。普段はそれほど用事もありませんし、エリアとしての特徴は自分の群集のエリアと大差はありませんからね」

「まぁなー。てか、今更なんだがけどよ? ケイさん達ってここまで来て何をするんだ? ぶっちゃけ、途中の経路のほうが楽しいぜ?」

「辿り着いてからそれを言うんかい!?」


 えー、斬雨さんがぶっちゃけ過ぎてる気がするけど、ここに来た目的か。……あれ? そう言われてみればただの到達地点に設定してただけで、明確な目的と言えるものも特にないような気もする……?

 えーと、よく考えよう。青の群集の森林エリアに来て……そうだ、後から目的が出来た感じだけど中継の権利を……って、それはフラムの提案でもう目的から外れてるから意味なし! くっ、ジェイさんが辿り着いたら案内をするとか言ってたのに、大差ないと言ったら何を案内する気だったんだ!?

 他には……あ、そうだ。桜花さんや掲示板で見た、寡黙な不動種の人にはちょっと会ってみたい。ここのエリアにいるはずだよな。


「あれだ! ここにいるっていう寡黙な不動種の人に会ってみたい」

「あぁ、あの方ですか。それでしたら、陥没部分の反対側ですね」

「ほほう?」


 今は陥没している地形の北側の上部なので、その反対側って事は対岸部分か。どうやら思った以上に近い場所にいるっぽいね。……あー、なんか桜の不動種で中継をしていてそれを見ている人が沢山いるようである。おっ、それと同時に周囲に積んであった丸太を根で掴み、上に無造作に投げた?


「……あれは何をやるんだ?」

「え、あれって木の分身体のタチウオかな?」

「わっ! 一気に薪を斬ったよー!?」

「あ、それを根で縛り上げてまとめてるね」

「……なるほど、こりゃ手際が良いな」

「まぁ見ての通りですね。不動種にこだわりがあるようであそこから動く事はほぼ無いのですが、プレイヤースキルは非常に高いですよ、あの方は。それにまとめの編集もしてくれていますからね」

「ま、戦う気は一切ねぇみたいだがな」

「……まとめの編集までしてるのか」


 今の光景をざっと見た限りでも、中継をしつつ、そのギャラリーに当たらないように薪割りをしているんだもんな。しかも根の操作と木の分身体を同時に扱いつつ、その操作精度も非常に高そうだ。

 あの不動種の人、下手すりゃベスタと同じくらいの同時作業をやってるんじゃ……? うん、あの水準と比べられる同じエリアにいて不動種をやるのは確かにちょっと気持ち的にしんどいかもしれない。ベスタみたいにあちこち移動してみんなが認めるリーダーみたいなら違うんだろうけど、黙々と場所を変わらずに同じ役割の不動種をやるのはなぁ……。


「それで他に見物したい所とかはありますか?」

「おいおい、ジェイ。俺が言うのもあれだが、先にノドカのとこに行こうぜ?」

「……そういえば待たせていましたね」

「あー、とりあえず俺が見たいのはそれくらいだけどな……」

「……今ので終わりですか?」

「……まぁ、そうなる」


 正直、他の群集の初期エリアと大差ないという事であればこれ以上見るものってないんだよなー。あ、でも青の群集の模擬戦で、全群集に対して公開してるのがあれば見てみたいかも。……まぁ、これは運次第ではあるけどね。


「他の皆さんはどうでしょうか?」

「俺も特にはねぇな。まぁあえて言うなら、ここでやってる模擬戦の中継くらいか?」

「はい! それは私も見たいです!」

「……なるほど、青の群集の模擬戦の中継は確かに青の群集でしか見れませんからね。後で何か面白い組み合わせでもあればどこかで見てみましょうか」

「ま、青の群集のみってのも多いから、見たい組み合わせがあるかどうかは完全に運任せだがな!」

「そりゃ当然だよねー! 灰の群集でもそういうの多いからね」


 それに関しては斬雨さんやレナさんの言う通りだね。俺ら灰の群集でも他の群集では見れないように設定している事も多いから、そこは文句を言えるところではない。

 今はタコの人を待たせている訳だし、ほぼ運任せの模擬戦の観戦をするのは後にしておかないとね。……まぁもうちょい具体的な目的設定をしておくべきだった気はするけど、道中の湿地帯の景色は良かったよなー。あ、そうか。初期エリアはあまり代わり映えしなくても、隣接のエリア景色を見るのはありだな!


「とりあえずその辺りは後にして、さっさとやる事を済ませていこうねー!」

「アルマースさん、こちらです。ノドカから少し西側に外れた位置の方で待っていてもらってますので」

「あ、そっちか」


 そうしてジェイさんに先導されて、タコの人が待っている場所へと進んでいく。とりあえず今はタコの人から進化記憶の結晶の位置を聞くのが優先だよね。さて、俺らがもらったやつはどこで見つけたものなんだろうか? 


「あ、そうそう。模擬戦はわたしも見れるのがあったら見たいけど、もっと重要な案件もあるからねー!」

「え、レナさん、何かあるのかな?」

「いやいや、サヤさん、ここは赤の群集と隣接してるんだよー? さっき言ってたタッグ戦の話し合いをするなら絶好の機会だよー?」

「あ、そうなるのかな!」

「でも、それって俺らで決めといて良いのか……?」

「大丈夫、大丈夫! これから、群集内交流板とか灰のサファリ同盟とか不動種の人達の繋がりで話を進めておくからねー!」

「……なるほどね」


 まぁ手段としては妥当なとこではあるとは思うけど、それを実行に移す手際が流石のレナさんだな。あちこちに顔が広いだけの事はありそうだ。

 ふむふむ、明日リアルでフラムと話してからどこかのタイミングで雪山の中立地点に集まって話し合いをって考えてたけど、今俺らが赤の群集と青の群集が隣接しているエリアにいるのは都合が良いのは間違いないか。


「ただ、今は海エリアが忙しいのと、赤のサファリ同盟のタイミングが悪いからねー。赤のサファリ同盟の方は少しすれば手が空くだろうから、その間にいか焼きの用事を済ませとこー!」

「あぁ、そういえば例のあれはもうすぐでしたか」

「……ジェイさん、例のあれって何? ってか、なんでいか焼き!?」


 え、いか焼きとか出てくる要素ってあったっけ? それに海エリアが忙しいとか赤のサファリ同盟のタイミングが悪いとかイマイチ分からない事が多いんだけど!? 


「あ、それは順番に説明しないとね。えーと、まずは……あ、いか焼き! こっち、こっち!」

「お、レナさんと一緒なのはありがたい……。いか焼きってのおいらの事だね」

「タコなのにいか焼きなのー!?」

「……いや、ツッコむところはそこじゃないと思うぞ」


 少し先の方にいたタコの人が空中を泳いでやってきたけど、話の流れ的にこのタコの人……いか焼きさんが黒の統率種になっていた人なんだろうね。

 てか、ちょいちょいネタ系の名前の人がいるけど、いか焼きさんもその1人か。このゲームでどの種族になったとしても、その名前で良いのかと思ってしまう。まぁその辺は承知の上で名前を付けてるんだろうけどさ。


「あ、自己紹介がまだだった……。おいらは無所属のいか焼きって言うのさ。川では無視せず、ちゃんと対応してくれてありがとうと言わせてもらうよ」

「それはどういたしましてだな。えーと、俺達は――」

「おいらは知ってるから問題ないよ。グリーズ・リベルテのケイさん。それにアルマースさん、サヤさん、ハーレさん、ヨッシさんだね」

「……やっぱり俺らの事は知ってた?」

「おいらみたいな無所属で知らない人は少ないと思うけどね? ウィルの件、おいらが把握してる限りでは知らない無所属はほぼいないしさ」

「あー、なるほどね」


 どうやらウィルさんの件は無所属の間では周知の事実のようである。まぁウィルさんが無所属で好き勝手する人を抑え込もうと思うのなら、そこに至るまでの経緯をイブキや羅刹が広めていてもおかしくはないか。実際にはどういう状況だったのかを知らなければ、ウィルさん自体が攻撃対象になるだろうしね。

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