第705話 ちょっと違った使い方


 さて、青の群集の周回PTというギャラリーもいる事だし、元々見せた事のあるやつの改良版でやっていこうじゃないか。こっちは見られても良いんだけど、もう1つの思いついているやつはジェイさんにはまだ知られたくないからね。

 今からやるのはジェイさんなら多分すぐに真似が出来るだろうし、場合によっては既に似たような使い方をしてるかもしれないな。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 77/78 : 魔力値 213/216


 まずは攻撃の要となる大きめの長細い石を生成していく。ま、後で追加生成をしていくから今は大雑把でいい。さて、次!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 58/78

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を8消費して『獲物察知Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 50/78

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 予定としては獲物察知を使う予定はなかったんだけど、水の中にトンビが潜っちゃったからね。俺がアルのクジラの頭の上から飛び降りて水中で対応しても良いけど、今回は実験も兼ねてこれでいい。……よし、水中に黒いカーソルは1つだけだからそこを狙えばいけるね。


 そして今回の目玉は岩の追加生成で形成中の、岩で出来た大剣である。ふっふっふ、氷のナイフが出来るなら、こういう事も可能だろうと思ってたけど思った以上にスムーズにいけたね。


「わっ!? 岩の大剣だー!?」

「あ、そういう使い方もあるのかな」

「……あはは、私のを参考にってそういう事なんだ」

「ほう? こりゃ面白いな」


 どうやらみんなの反応は上々と判断して……良いのか微妙な気もするけどまぁいいや。それじゃ黒いカーソルに向かって最大加速で岩の大剣を振り下ろすように操作だ!


 よし、水飛沫を上げながら川へ切り下ろしたけど、手応えあり! あ、少しだけ水が割れて、そこから青い色のトンビがポリゴンになって砕け散っていく様子が見えた。


<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


<『進化の軌跡・水の欠片』を1個獲得しました>


 よし、これで妨害ボスの瞬殺は完了っと。ふー、これって見た目は派手ではあるけど、生成した普通の魔法産の岩だから威力は不安ではあったんだけど……あ、生成した岩が消滅していく。……一発でこれか。

 ふむふむ、最大加速で振り下ろしたから一気に操作可能な時間を使い切ったみたいである。刃を鋭利にしたとはいえ、ただ生成した岩だったから威力には不安があったけど、一発限りで後の操作を考えなければ威力は補えそうだね。


「へぇ、岩の操作での大剣か」

「ちょっと真似してみよっと。『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「おーい、それじゃ大剣っていうよりただの長い岩だぞ」

「あれ!? 地味に成形が難しいんだけど!?」

「あ、生成する難易度が高いやつか」

「でも、これくらいならジェイさんなら出来るんじゃない?」

「てか、ジェイさんも似たような事をしてなかったっけ?」

「そういやさっき、岩で槍を作ってたな。あの例のタコの人をぶっ刺したのを見たぜ」

「お、マジか」


 ほほう、ジェイさんが岩で槍をねぇ? それって多分だけど雪山の中立地点でやった俺とアーサーの模擬戦で俺がやった事を真似してはいるよな。

 まぁそれは想定済みだったから別に良いんだけど、その辺の情報を俺らの前で話してて良いんだろうか……?


「ちょーと、みんなストーップ! 灰の群集の人の前で話し過ぎ!」

「「「「「あっ……」」」」」

「……いやまぁ、同じような発想のやつだし今のはセーフ!」

「そうそう、今のはセーフ! むしろ情報を得られた分だけ、こっちも得をしている!」

「だな! うん、セーフだ、セーフ!」


 なんか必死にセーフだと言ってるけど、まぁセーフといえばセーフか……? このくらいの内容であれば岩の形状の問題だけではあるし、ジェイさんには既に槍の形状では見られてるからなー。しかも既に使っているなら、セーフはセーフか。


「……まぁあの槍の発想元を考えればセーフではありますね」

「そもそもジェイのはケイさんのを真似ただけだからな」

「……うるさいですよ、斬雨?」

「って、おい!? 炙るなよ!?」

「……なんとかして焼けませんかね、このタチウオ」

「悪かった! 俺が悪かったから、ダメージがないからって淡々と炙っていくな!」


 ……なんというかジェイさんと斬雨さんが岩に乗って飛んでやってきたのはいいんだけど、来て早々に斬雨さんを新たに生成した岩でタチウオの頭と尾を固めると同時に、胴体部分を火で炙り始めるってのはどうなんだ? いや、全く無意味なんだろうけどさ。てか、ジェイさんは真似と言われるのは好きではないみたいだね。

 ま、真似から発展させていく側面はあるけど、堂々と真似ていると言われるのもあまり良い気分ではないか。……一番の理由はジェイさんの相棒である斬雨さんが言ったからな気もするけどね。


「あー、とりあえずこんばんは、ジェイさん、斬雨さん」

「……少しお見苦しいところを失礼しました。改めて、グリーズ・リベルテの皆さん、ようこそ、青の群集の森林エリアへ」

「おう、ようやくここまで辿り着いたな!」


 いやー、なんだかんだで伸びに伸びまくっていた場所へとようやくやって来れた訳だしね。それにしてもこのタイミングでこの2人が迎えに来るという事は、例のタコの人の一件は片付いたのかな?


「ジェイさん、ちょっと確認したいんだけど――」

「例のタコの人はつい先程、通常の状態に戻る適応進化が発生しましたよ」

「あ、やっぱりか」

「無事に終わったんだな」

「えぇ、おかげでこちらの群集クエストも進みましたし……あ、この話は移動しながらでもよろしいですか? ここでは邪魔になりますしね」

「あ、それもそうだな」


 確かに今いる場所はボスの出現する地点だし、そこで話し込むのは邪魔でしかないか。パッと見た感じではジェイさんの後ろから何人かが来ているようだし、周回用のまだ未挑戦のプレイヤーだろうね。


「それではノドカ……群集拠点種の方へ案内しますので、着いてきて下さい」

「ほいよっと。ま、移動するのはアル任せだけど」

「おうよっと。あー、ジェイさん、俺はこのままの大きさ大丈夫か?」

「ここは森林エリアですし、幅は広いのでそのままで問題ありませんよ」

「ま、邪魔な木がありゃ、プレイヤー以外なら斬り倒してやるぜ!」

「……まぁ薪も必要にはなりますから、ほどほどでお願いしますよ、斬雨」

「おう!」


 まぁ確かに邪魔な木を斬って進むというのもありだけど、初期エリアでそれをするのはどうなんだろ……って、占有エリアの多い灰の群集と比べたらその辺の事情は変わってくるのか。

 それに成熟体が薙ぎ払っていく事もある現状も考えれば、回復しなくなるほどやり過ぎさえしなければ問題にはならなさそうだね。


「それはそうとして、ジェイ、そろそろ普通に戻せな?」

「あぁ、素で忘れていましたよ」

「おいこら!?」


 まだ拘束されて火で炙られたままだった斬雨さんが解放されていく。っていうか、何気なくやってたけど、ジェイさんも普通に思考操作での発動をやってるなー。

 まぁやってた事は盛大に無駄な事ではあるけど、岩の生成と岩の操作、火の生成と火の操作を並列制御で操作してたんだろうから、やはりジェイさんは侮れないね。まぁ近接攻撃が苦手って事だから……あ、だからこその岩の槍と岩の操作か。


「……そういえば太刀魚の塩焼きって美味しいよね!?」

「ちょ!? なんか寒気が走ったんだが!?」

「はい、ハーレ、それ以上はストップ。太刀魚の旬には少し早いしさ」

「え、そういう問題なのかな!?」

「太刀魚の旬は7月から10月くらいでしたか。……たまにはリアルで釣りにでも行ってきましょうかね」

「おー! それほど旬は遠くないんだねー!」

「おーい!? その話題はいつまで続くんだ!?」


 うん、その斬雨さんの絶叫の気持ちはよく分かる。俺も2ndでロブスターを作った時には、リアルでロブスターを食べたから複雑な気持ちになったものだしね。……流石にこの流れが続くのもあれだから、そろそろ軌道修正をしていく――


「そう考えるとワタリガニの味噌汁ってのもありだよな」

「……そうきましたか、アルマースさん。いえ、それを言うのであればクジラの肉というのもありではありませんか? それほど頻繁に見かけるものでもありませんが」

「おいこら、なんで更に広がっていくんだよ!?」


 あー、アルがジェイさんを見ながらワタリガニの話を追加してきたから、更にカオスな事になってきた。これ、下手に止めに入ると俺のロブスターにも流れ弾がくるやつじゃね?


「ワタリガニにクジラの肉……。じゅるり……」

「……あ、これはちょっと悪ふざけが過ぎたかも?」

「……うん、そう思うかな」

「どうすんの、これ?」

「……あはは、どうしよう?」


 ヨッシさんはウニがいるし、サヤのクマも熊肉判定が出る可能性はある。……流石にハーレさんのリスとクラゲには流れ弾はないとは思うけど、肝心のハーレさんは色んな食材に思いを馳せているのか役に立ちそうにはない。えー、この状況ってどうすりゃいいのさ!?


「せーの!」

「わっ!?」

「きゃ! 水飛沫かな!?」

「急になんですか!?」

「あ、レナさんだー!」


 どこからともなく現れたレナさんが川を銀光を放つ脚で蹴り上げて、川の水を俺らにぶちまけるようにしてきた。あ、周囲を見てみれば周回PTの人がホッとため息をついている様子だね。……思いっきり今のは邪魔になってたようである。


「とりあえず今のでみんな、頭は冷えたー?」

「……えぇ、私としたことがつい変な意地を張ってしまいました。すみません、皆さん」

「あー、つい悪ノリをした俺も悪かったよ」

「……あはは、私も余計な事を言ってごめんなさい」

「よし、それで宜しい!」


 どうやって収めるか困っていたけども、レナさんの乱入により一気に収まったのは助かったー。なんでここにレナさんがいるのかは気になるけど、いてくれたおかげで助かったのは間違いない。


「レナさん、今のは助かったぜ! ありがとよ!」

「いえいえ、今のくらいはなんて事ないよー!」

「俺からもお礼を言っとくよ、レナさん。正直どうしようか困ってたとこだし」

「あはは、ケイさんでも困る事はあるんだねー! さっきみたいに周りが見えなくなってたら、無理矢理で良いから盛大に気を逸らすと良いんだよ」

「あー、なるほどね」


 ふむふむ、そういえば桜花さんの所できのことたけのこのお菓子で妙な流れになった時も、桜花さんの指示でスチームエクスプロージョンで無理矢理に制圧したんだっけ。……今後の為にもこの手法は覚えておこうっと。


「うー! なんだか海産物が食べたくなったのです!」

「ハーレの家の近所の人が釣り好きで、たまにお裾分けがあるって言ってなかったかな?」

「はっ!? そういえば、この間ちょっと会った時に次の週末に釣りに行くと言ってた!?」


 ほほう、ハーレさんは隣の家の釣り好きのおじさんとそんな話をしてたのか。隣の家の人が釣りに行ったからといって毎回お裾分けがあるほど釣れている訳じゃないらしいけど、それでも母さんやハーレさんが思いっきり喜ぶからそれなりに貰う事もあるもんな。

 ふむふむ、場合によっては今週末は新鮮な魚が食べられる可能性があるというのは少し楽しみではあるね。


「はいはい、とりあえず話はその辺で一旦中断ねー! これ以上の邪魔は駄目だし、さっさと移動するよー!」

「……そうしましょうか」

「それもそうだな。とりあえずジェイさん、先導を頼む」

「えぇ、了解しました」


 そうして岩に乗って飛んでいるジェイさんの後ろを、アルが追いかけて行く形で川を遡っていく。てか、ごく自然にレナさんもアルのクジラの上にいるんだよなー。

 まぁ今ここにレナさんがいる理由は想像はつくんだけど、一応その辺は有耶無耶にせずにちゃんと聞いておこう。


「えーと、レナさん? ちょっと質問いい?」

「ん? ケイさん、何かなー? わたしがここにいる理由なら呼ばれたからだよー?」

「……タコの人に?」

「タコの人……? 別にその言い方でも間違ってはないけど……あ、黒の統率種になってたら名前が分かんないだったっけ。うん、まぁ後で改めて紹介するけど、その通りだよー!」

「あー、やっぱりか」


 やっぱり想像通り、あのタコの人絡みでレナさんはやってきたんだね。タコの人はレナさんを通じて後から進化記憶の結晶のあった場所を教えてくれるという話にはなってたけど、行動が思った以上に早かった訳だね。ぶっちゃけ明日以降になるかと思ってたしさ。


「って事は、ジェイさん、タコの人ってまだこの森林エリアにいるのか?」

「えぇ、居ますよ。今は群集拠点種のノドカの前で待機してもらっています」

「そしてそこにわたしに連絡があって、ここに来た訳だねー! いやー、人使いが荒いねー! この場合だとリス使いが正確かなー?」

「……なるほどね」


 思った以上の手際の良さだし、あのタコの人の手助けをしたのは間違いではなかったようである。まぁそこまでには妙な流れもあったけど、とりあえず今はこの青の群集の森林エリアの群集拠点種であるノドカへ辿り着けば良いんだろうね。

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