第691話 川に立ち寄って
襲いかかってきていたタカをヨッシさんが氷塊を生成して捕獲し、ハーレさんは左手で貫通狙撃と、右手でLv3で爆散投擲のチャージを行っている。そこでどうやら麻痺毒が切れたようで、タカが暴れ始めて氷塊が削れているけど、そこは追加生成で修復して対応出来てるな。ってか、氷塊だと岩と違って中が透けて見えて分かりやすくていいなー。
それにしてもヨッシさんはさっきまで氷塊の操作でコツを掴んだおかげか、比較的安定してる様子だね。うん、時々あらぬ方向に行きそうにはなるけど、明確に変化が出ているし、さっきのは無駄じゃなかったみたいだ。
「ヨッシ、チャージ完了です!」
「了解! ぎりぎりで氷塊を解除するから、任せたよ、ハーレ!」
「はーい! それじゃ、えいやっ!」
「……今!」
そうしてハーレさんの両手からの投げ放たれる2種類の応用スキルの投擲が着弾する直前に氷塊が消え去り、タカの頭を竹串が貫通し、胴体部分で弾が破裂した。
おー、流石に応用スキル2発を同時かつ、片方がLv3ともなると威力が凄いな。今のだけでタカのHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていったよ。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
ほほう、どうやら今のタカは瘴気強化種だったんだな。残滓の方が多い状態の今では、この敵はラッキーだね。
「ハーレ、お疲れ様」
「ヨッシもナイスなのさー!」
そんな風にハーレさんとヨッシさんがハイタッチをして……あれ、ハーレさんは手だけど、ヨッシさんはハチの羽根でしていたからハイタッチで良いのか……? 何か気にするだけ無駄な気もするから、そこは普通にハイタッチという事にしておこう。
「ハーレさん、思い切った使い方をしたな?」
「ふっふっふ、アルさん、今回は一気に使っても回復は余裕だから遠慮なくやったのです!」
「ま、確かにそりゃそうだ。それじゃ今日のこれからは、到着までそんな感じで交代しながらってのはどうだ?」
「お、アル、そりゃいいな。だったら俺とサヤ、ヨッシさんとハーレさんの組み合わせで交代しながらやってくか」
「おー! 賛成なのさー!」
「確かにそれはそれでありだね」
ボスでない敵については行動が特殊になる特性を持っていなければ2人で充分だしね。ちょっと行動値を奮発する事にはなるけど、2人1組で回復と討伐を交代していけば効率も良いだろう。
「その場合だとケイが捕獲担当で、私が攻撃担当かな?」
「まぁそれで良いけど、俺は逆でもいけるぞー」
「……まだ私には逆は無理かな?」
「それじゃ俺が拘束担当って事で。サヤはさっきのハーレさんみたいにチャージでやる?」
「んー、連撃とチャージを並列制御ででもいいかな?」
「それについては問題ないぞー」
「なら、それでお願いかな。他の応用スキルのLvも上げていきたいからね」
「あー、そりゃそうだな」
現状では俺らのPTの中でLv3になっているチャージや連撃の応用スキルは、サヤの爪刃双閃舞とハーレさんの爆散投擲の2種類だけだしね。ちょいちょい竜やクラゲの強化が増えてたけど、クマとリスの応用スキルのLvも上げていきたいとこか。
「私も連速投擲と拡散投擲のLvは上げたいのです!」
「あれ? ハーレって拡散投擲は持ってなかったんじゃ?」
「ふっふっふ、夕方に取ったのさー!」
「あ、そうなんだ。うーん、それなら私もそれに合わせて捕縛出来るように頑張ろっと。とりあえずは毒で状態異常を狙ってから、氷の生成で捕縛の方向が確実性は高そうだよね……」
ふむふむ、ヨッシさんもハーレさんも今の段階での鍛えて行く方向性をそれぞれに定めていっている。ま、1stの進化先に関わってきそうな部分を強化って感じか。
俺は俺で、水魔法の強化は出来ているから鍛えるとしたら土魔法だな。あるかどうかは不明ではあるけど、水と土の両方の魔法型のもう1段階上の進化があれば狙いたい。……ロブスターの方の進化先を出しておきたいけど、まぁそこは順番にという事で。
「あー、盛り上がってるとこ悪いんだが、俺は……?」
「アルは移動に余裕があれば、どの戦闘にも加わるってので良いんじゃないか?」
「おっ、移動だけしとけって訳じゃないんだな」
「いや、流石にそれは一緒にやってるのに無いって」
「……それもそうだな。よし、それなら俺はまず木の魔法型の進化を出すとこからやっていくか」
「おう、アルも頑張っていこうぜ!」
「だな」
さて、これで今日のこれからの動き方は決まったわけだけど、そろそろサヤの竜の小型化は取れるんじゃないか? サヤはログインしているのが竜のままだとこれからやる戦い方では戦いにくいだろうしね。
「サヤ、竜の――」
「あ、竜の小型化が取れたかな! あ、えっと、ケイは今何を聞こうとしてた?」
「あー、うん。ちょうど意味が無くなったとこだな……」
「……あはは、竜の小型化の事だったのかな?」
「まぁそうなる。……少し遅かったけど」
そろそろ取得になりそうだと思って確認しようとしたけど、まさかその確認の言葉に取得が重なるとは……。時間感覚が正確だったのか、ただ単に間が悪かっただけなのか、判断に困るとこだよねー。
ま、無事に取得出来たならそれで良いとしておこうっと。さて、もう不要になった岩の操作は解除しておこう。
「サヤ、竜で小型化が取得出来たなら、少し待ってるからクマに戻してきたらどうだ? その方が戦いやすいだろ?」
「あ、それは確かにアルの言う通りかな。それじゃササッと切り替えてくるね」
「サヤ、小型化を上限発動制御に登録を忘れないようにね? 簡略指示に登録でも良いけど、出来れば両方の方が良いよ」
「あ、忘れかけてたかな!? ……少しの間、大型化は使えなくなるけどそこは仕方ないよね」
「常用してたら上限発動制御のLvは上がりやすいから大丈夫だよ」
「確かに俺も割とすぐに上がった覚えはあるが……ヨッシさんもウニの小型化は常用してるし、上限発動制御はLv2なのか?」
「うん、そうだよ。まぁLv2で増えた2枠目には何も登録してないけどね」
ほほう、ヨッシさんはいつも無発声でウニを小型化してはいるけども、いつの間にやら発動の為の上限発動制御のLvは上がってたんだな。アルにしても最近は不要気味になってる気はするけど、空中浮遊と小型化を同時発動するのに2枠使ってたもんな。
今の会話を聞く限りだと、意外と上がりやすいんだね、上限発動制御って。ま、それならサヤの大型化の使用不可の期間も短くて済みそうだ。
「……うん、上限発動制御に小型化と、簡略指示に大型化と小型化の両方の登録は完了かな」
「あ、両方共を登録したんだね」
「サヤの竜は、大型化も小型化も出来る竜になったのさー!」
「あはは、まぁ行動値の上限利用量が多いから気軽には使えないかな……?」
「ま、それが大型化と小型化の特徴だしな。おし、それじゃ一旦この辺で移動を止めるから、サヤはログインし直してこいな?」
「うん、分かったかな」
そうしてアルが速度を落としながら、地面へと降りていく。おー、いつの間にやら青の群集と赤の群集の競争クエストのエリアの目前か。ふむ、あまり地面の方は気にしてなかったけど、ちょうど川の真上を通っていたっぽいね。
まぁここまでの方向の目印としては丁度良かったの……いや待て、途中からハーレさんが前方の確認をしていたから、アルは前を見てなかったはず。となると、ただの偶然か? あ、でもそもそも川沿いに進んでたっけ。
っていうか、アルは目の前に流れている川に着水する気っぽいね? まぁ森の直前だから位置的に分かりやすいし、折角川があるんだからそれでもいいか。
「あれ? アルさん、川に降りるのー!?」
「おう、そのつもりだぞ。昨日の夜に盛大に使ったから、サヤを待ってる間に水分吸収で川から水を補充しとこうかと思ってな」
「あー、なるほど。……ちなみに昨日の夜に、どういう風に盛大に使ったんだ?」
「……あれだ。俺が最初の頃にやったのと同じ事をしてた初心者に会ってな。そこで水をばら撒いてきた。後はちょっと少人数でヒノノコ戦をやった時に回復に使ってな」
「……あー、あれか。それとヒノノコか」
「あぁ、あれとヒノノコだ」
プレイ初日に俺とアルの2人で行動して、俺が初めて称号を手に入れた時のあれだな。アルが周囲の草木を枯らす勢いで水分吸収をし過ぎて、俺が代わりに水をばら撒いたやつ。いやー、懐かしい。あの時はまだこのメンバーは揃ってはいなかったもんなー。
それとここで言うヒノノコは、未成体へと進化してる方のヒノノコだろうね。ふむ、アルの木がダメージを受けたとなると、確か強化した瘴気石でちょっとLvを上げられるって話だったし、そのパターンってとこかな。
おっと、そんな事を考えてる内にアルが川へと着水した。うん、変に流されないように上流に向かって軽く泳ぐ形で現在地に留まっているから、これなら流されて他の場所に行くという心配もないか。
ふむふむ、前よりも下流に来ているからか、川幅は少し広がってる気もするね。まぁ極端に違うというほどでもないけども、河原も広がってるなー。あ、でも下流の森の中に入れば両岸木々があって河原がほぼ無いような感じになってる。……ま、そこは青の群集が勝ち取ってる競争クエストにエリアで、通る予定はないから別に良いか。
「それじゃ私は先に再ログインを済ませてくるかな」
「ほいよっと」
「おうよ」
「サヤ、いってらしゃーい!」
「いってらっしゃい、サヤ」
「すぐに戻ってくるかな!」
そう言ってサヤは河原に飛び降りてから一度ログアウトしていった。まぁ再ログインだけだし、戻ってくるのもそれほど時間はかからないだろう。
「なんだか懐かしい気もするけど、まだ1ヶ月も経ってないんだよねー!」
「あ、そっか。もっとやってる気分になってたけど、まだそんなに経ってないんだっけ」
「ま、色々あったからな」
「確かになー」
オンライン版を始めて早々に俺はランダムでコケになって困惑もしたし、サヤと初めて会った時はスリップで転ばせてしまったし、アルと会った時は一発芸・滑りとかを手に入れたし、ヨッシさんと会った時は行き倒れてたし、ハーレさんと会った時は黒の暴走種のフクロウに襲われてたもんなー。
「ま、思い出話をするって程でもないし、とりあえず水分吸収していくか」
「アル、俺も手伝おうか?」
「あー、そうしてもらえると助かる」
「ほいよっと」
俺自身は天然産の水を使う事はほぼ無くなったけど、アルの木では水は自己回復に使えるもんな。使った分だけ補充をしておくのも重要だろう。俺は水分吸収をしてもインベントリに入るだけだけど、アルには重要なものだしね。
えーと、別にロブスターもコケの水属性のおかげで淡水内は平気だし、そのまま川に飛び込んでそれで水分吸収をしていこうっと。
「あ、ヨッシさん、ハーレさん、周囲の警戒は任せて良い?」
「うん、それは問題ないよ」
「もちろんさー! あ、でもまだ行動値は全快じゃありません!」
「あー、流石にそれは仕方ないか。ま、何かあればみんなで戦えばいいし、大丈夫だろ」
「そだねー! それじゃ何かあったら報告します!」
「任せたぞー!」
「任されました!」
という事で、俺はとりあえず川の中へとダイビング! おー、飛び込んだ時の水飛沫というか泡に日光が反射して綺麗な光景が……あ、すぐに収まっちゃったか。これは飛び込むと同時にスクショを取らないと無理なやつっぽいな。
まぁその辺は水分吸収で水を補充して、サヤが戻ってきてから考えようか。ぶっちゃけ俺が撮るよりハーレさんが撮るほうが良い気もするしね。
「あっ、川を見て思い出したー!? ヨッシ、スイカを川で冷やすのさー!」
「あ、そういえばそうだったね」
「……また完全に忘れてたな」
「あー、そういや昨日スイカを報酬で貰ったから食べようって聞いて、そのままだったか」
今日の夜の移動中に食べるという話を夕方にしてたのに、またすっかりと忘れてた。うーん、今日は進化情報の不具合の件があったから、意識が盛大に逸れていたね。
というか、物語の中で川でスイカを冷やすのは見た事あるけど、実際にやってるの見た事はないな。……よく川から連想で思い出したな、ハーレさん。
「んー、このまま川で冷やしちゃうのでいい?」
「ヨッシさん、それはいいが、誰が持っておくんだ? 俺もケイもこれから水分吸収を使うから、そのままじゃ持っておけないぞ」
「あー、そういやそうなるか。ハーレさん、持っておく?」
「私じゃ流されるのさー!? 分かってて言ってるよね、ケイさん!?」
「いやいや、クラゲの触手でアルの根にでも巻き付いて、リスで抱えてたらいけるだろ」
「出来そうだけど、それをすると行動値が回復しないのさー!?」
「あ、そういやそうか。それだとヨッシさんも回復をしないとだから無理だな」
「うん、そうなるね」
手段としては可能かもしれないけど、ハーレさんとヨッシさんは行動値の回復をしようとしてるんだしなー。スキルの使用中だと行動値の回復が出来ないから、これは却下。
そうなるとサヤの再ログインを待ってサヤに川の中で持っててもらうのが無難か? うーん、それはそれでどうなんだって気もする……あ、悩む必要は特にないじゃん。手段、普通にあったよ。
「おし、それじゃ俺が水のカーペットで川の水を汲むか」
「……ケイ、それなら普通に魔法産の水で良いんじゃねぇか?」
「ふっふっふ、甘いな、アル! ヨッシさん、氷柱をよろしく!」
「あ、天然産の氷水にするんだね? ……流水で冷やすのが良いんだけど、それだとどうしても時間はかかるからとりあえずそれでもやってみよっか」
「おー!? それは良いのですさー!」
てか、スイカって流水で冷やすのが良いのか。ふむ、冷蔵庫に切って入れてるか、庭の池に適当に放り込んでいるのくらいしか知らなかったけど、そういうのもあるんだな。
「そういう事だな。ま、割れてるスイカだから意味があるか分からないけどなー」
「気分的にはバッチリなのさー!」
「ま、夏の気分を先取りってのも悪くはないな」
「よし、それじゃそうしよう」
さて、今回は忘れかけてたけどもハーレさんのおかげでスイカの事を忘れずに済んだから、今のうちにスイカを冷やして食べてから移動を再開するのでいいか。
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