Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜

第６９０話 扱いの難しい段階

　さて、一通りみんなの進化の情報は確認し終えたし、後回しにしていたサヤの竜が小型化を取得をやっていこう。ま、俺は特に何もしないんだけどね。

「進化情報確認も終わったし、サヤの竜の小型化の取得をやっていくのさー！」

「……それじゃやってみるけど、サヤ、もし途中で失敗したらごめんね？　流石に氷塊の操作はまだLv1だからさ」

「あ、うん、それは大丈夫かな」

「ケイさん、私が駄目そうなら岩の操作でお願いしてもいい？」

「まぁそれは別に良いけど、そこは成功するつもりでやっとこうぜ！」

「あはは、確かにそれはそうだね。初めから失敗するつもりじゃ、成功するものも成功しなくなっちゃうし……」

「ま、そういう事。失敗前提で考えるのは、博打の戦法や何かを試す時だけで良いって」

　こういうプレイヤースキルが絡む所では失敗はしないつもりでやっていかないとね。実際にやってみて結果的に失敗してしまう事があるのは仕方ないとしても、初めから失敗するのを前提にするのは完全な実験の時だけで良いのだよ！

「ケイさんが言うと説得力あるねー！？」

「ふっはっは、何回もやってきてるからな！」

「あはは、そういう所はケイさんらしいね。ふー、ちょっと落ち着いたよ」

「……あれ？　意外とヨッシさん、氷塊の操作を使うのに緊張してた？」

「制御が難しいのは分かってるから、ちょっとね？　サヤ、振り回す事になるかもしれないけど、大丈夫？」

「そこは問題ないかな！」

「うん、それじゃ成功するつもりで……いくよ、サヤ」

「ヨッシ、お願いかな」

「『アイスクリエイト』『氷塊の操作』！」

「ヨッシ、ファイトなのさー！」

　気合の入った返事をしたサヤが凍らせやすいように普段はクマの首にいる竜を腕に這わせるようにして、それをヨッシさんが氷漬けにしていく。んー、氷塊というほど大きくもないけど……あ、クマの腕ごと盛大に氷漬けになった。

　ふむ、竜とクマの腕肩あたりまで同時に氷漬けになってるけど、これはこれで武器代わりや防御にも使えそうな感じになったな。……必要以上に範囲が広くない？

「……ヨッシ、これは流石に凍らせ過ぎじゃないかな？」

「ご、ごめん！　氷塊の操作だと最小サイズが決まってるみたいで、それが最小サイズみたい……」

「あ、それなら仕方ないかな？」

「ちょっと最小範囲があったのは予想外……あ、やっぱり操作が難しい！？」

「わっ！？」

「サヤ、大丈夫ー！？」

「だ、大丈夫かな！」

　おっと、どうやらヨッシさんが少し不安そうにしていた氷塊の操作の制御の甘さが結構影響が出ているっぽいな。サヤの竜をクマの腕ごと氷漬けにしている状態だから、サヤが氷塊にクマの腕を引っ張られていくような状態になっている。

「ヨッシさん、少し移動速度を落とそうか？」

「アルさん、それは大丈夫。むしろ動いてくれてる方が多分やりやすいしね」

「あー、確かに完全に静止させる方が難しいもんか。……でもそれで氷塊の操作はいけるのか？」

「……あはは、やっぱりケイさんに変わってもらった方が良いかも？」

　ふむ、決してヨッシさんの操作が下手という訳でもないけど、やっぱりLv1の操作系スキルの扱いは難しいかったか。まぁ俺でもLv1の操作系スキルを扱うのは、多少慣れたとはいえ難しいものだしなー。

　んー、ヨッシさんが折角失敗しないように気合も入れていたんだから、交代するにしてもそれなりに何かをしてあげたいところだね。……よし、ヨッシさんの氷塊の操作を主体にして、俺がその補佐をするって形でいくか。それなら失敗になっても多少は低Lvでの操作の練習にはなるはず。

「ヨッシさん、Lv1での操作の練習をしてみる気はない？」

「はっ！？　ケイさんがまた何か変な事を思いついたみたいなのさー！？」

「おいこら、ハーレさん、変な事って何だ、変な事って！」

　思い付きではあるけど、今回のは変な事ではないと思うぞ！　まぁやろうと思えば、色々と攻撃転用も出来そうな気もする……いやいや、決して変な事ではないはず！　

「えーと、ケイ、何をやるのか……きゃ！」

「あ、また……」

「元々この可能性は分かってたから、ヨッシは気にしなくてもいいかな。それにケイが何かをしてくれるみたいだしね」

「ケイ、とりあえず勿体ぶってないでさっさと言ったほうが良いぞ」

「……そうみたいだな」

　思いっきりヨッシさんの荒れた動きの氷塊の操作でサヤが振り回されているし、この状況を長く続けない方が良さそうだ。元々こうなる可能性があると分かっていても、これ以上はヨッシさんが気にしそうだしね。

「ヨッシさん、俺が岩の操作で氷塊を覆って操作で荒れる範囲を強引に限定するから、その範囲内で操作出来るように特訓って感じでどう？　それならサヤが今みたいに振り回されるのは防げるけど」

「えっと、操作の可能範囲を限定して、操作のイメージを限定するって事だね？　あっ、また！？」

「きゃっ！」

　あ、サヤが動きの荒れた氷塊に引っ張られて、アルのクジラの上からバランスを崩してしまった。まぁそれでもサヤには竜がいるから落ちはしない……って、今は氷漬けになってるから飛べないじゃん！？　氷塊があるから完全に落下はしないけど、氷塊で宙吊りにされる状態になりかねない！？

「サヤ！？　『略：ウィンドボム』！」

「ハーレ、ありがとうかな！」

「どういたしましてなのさー！」

　ほっ、ハーレさんが下からサヤを爆風で吹き飛ばして体勢を元に戻してくれたか。……それにしても、この状況は思った以上に危なっかしいな。まぁこれだけでは死ぬ事はないけどさ。

「……ケイさん、言ってたやつをお願い。やっぱり私だけじゃ5分間は無理みたい」

「ほいよっと。ま、Lv1の操作は操作の中で一番難しいからなー」

「……あはは、本当にそうだね」

　ヨッシさんが既に持っていた氷雪の操作と、今の氷塊の操作では操作感の勝手が違うと思うから、その辺は仕方ないだろう。まぁLv1でもある程度制御出来るようになれば、Lvが上がった時に圧倒的に操作が楽にはなるから、これは良い特訓になるはず。って事で、補佐の為の岩の操作を発動していくか。

＜行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1：アースクリエイト』を発動します＞　行動値　76/77　：　魔力値　211/214

＜行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します＞ 　行動値　57/77

　とりあえず補佐が目的だから、ヨッシさんの氷塊への視界を閉じるのは無しだな。えーと、格子状かつ筒状にした感じの岩で氷塊を覆って、氷塊には当たらないように生成して……よし、こんなもんだろう。

「あ、これは良さそうな感じかな？」

「私はこの岩の筒にぶつけないイメージで操作をすれば良いんだね？」

「おう、そんな感じで良いぞ」

「……難しそうな気はするけど、頑張ってみるよ」

「ヨッシ、ファイトかな！」

「ヨッシ、頑張れー！」

　とりあえずこれでヨッシさんの操作が荒れ狂っても俺の方で抑え込めるから、サヤが振り回される事もないだろう。ただ、荒れた制御を整える為に強引な操作をするとそれはそれで操作の時間を削るから、これで5分間の維持は無理だろうね。

　ま、それまでのヨッシさんの氷塊の操作の特訓って事で良いだろう。そこから俺が交代して、サヤの竜を固めてしまえばいい。

「それにしても氷と岩での二重の捕縛みたいだねー！？」

「もしこれを実戦で使うなら、氷の方にも穴を空けて、ハーレさんの竹串での狙撃とかがいけるぞ？」

「やっぱりケイさんは変な事を考えてたのさー！？」

「変な事とか言うな！？」

「ふっふっふ、冗談なのです！」

「いや、そこは踏ん反り返って威張るとこか！？」

　ま、これは実際に実戦でも使える手段であるのは間違いはないだろうね。拘束魔法とこの手段での拘束がどっちが良いかは状況次第なとこはあるけどなー。

　あくまでLv1の魔法で生成したものだから拘束魔法よりは強度はないけど、追加生成で補うという手段もある。あと形状の自由度はこっちの方が遥かに上だしね。

「……ちょっと様子が気になるんだが、俺は見えないんだよな……」

「はっ！？　それならアルさん、しばらく私が前方を見張っているので、木の視点で見てくると良いのです！」

「お、良いのか、ハーレさん？」

「もちろんなのさー！　あ、もう少しで競争クエストの森エリアなんだねー！？」

「そうなるな。しばらくクジラはそのまま真っ直ぐ進めるから、そこの手前まで行ったら教えてくれるか？」

「了解です！」

　どうやらアルのクジラの上で色々やってる内に、赤の群集の森林深部エリアと青の群集の森林エリアの競争クエストのエリアの近くまでやってきていたようである。

　そして俺らの様子が気になったアルが木の方に視点を移動して、その間はハーレさんが前方の様子を確認する事になったか。ま、アルにばっか任せるのも悪いし、パッと見た感じでは近くに飛んでいる人の様子もないし、それで問題はなさそうだね。

　それはそうとして、ちょっと気になる事もある……。まぁ、理由自体はそこそこ想像は出来るんだけど、ちゃんと確認しておきたいんだよね。

「なぁ、アル。敵って全然いなかったのか？　今日は攻撃を受けた覚えがないんだけど……」

「あー、いるにはいたぞ？　ただ地上にいただけで、こっちには見向きもしてなかったけどな」

「……やっぱり飛んでた事が理由か」

「まぁそうだろうな。後は他のPTもチラホラと見かけたし、俺らの方に来そうな飛んでた鳥とかはその辺の人達が持っていったのもあると思うぜ」

「え、マジで？」

「おう、マジだ。ま、俺らの敵を横取りになるかと思ったのか初めは遠慮してたのが大半だったけどな。俺が敢えて距離を取って、それで持って行ってたりしたぞ」

「あー、なるほど、そんな感じか」

　一瞬俺らの方に来そうな敵なのに横取りしていくような連中が居たのかと考えてしまったけど、その辺はアルが調整していただけって事か。まぁ普通に戦闘しても良かったけど、進化の情報の確認中だったからその辺はありがたい配慮だね。

「私たちが話してる間はそんな事になってたのかな」

「ま、そうは言っても3〜4回ってとこだけどな。今もだが、とりあえず色々と片付くまではその方が良いだろう？」

「……確かにそう……だね！　あ、なんとなくコツが掴めてきたかも！」

「え、ホントかな！？」

「うん、これって集中しておけば制御が乱れる時に微妙な予兆があるみたい。あ、そこ！」

「お、ヨッシさん、ナイス！」

「……あはは、ケイさんありがと。でも、これはかなり難しいね……」

　ほほう、俺の岩に操作が乱れた氷塊がぶつかりそうになった直前に引き戻してぶつかるのを回避したか。どうもヨッシさんが何やらLv1での氷塊の操作のコツを掴んできたようだね。

　えーと、今のを軽く見た感じでは氷塊の操作は意図しない方向に動いていく感じで操作が乱れているみたいだから、まぁその辺は岩の操作と同じだな。その意図しない動きの反対方向の操作をすれば少しは制御出来るんだけど、素早い対応が必要だから簡単ではないよね。

「あ、サヤ、ごめん。これ、私にはやっぱりまだ無理」

「ヨッシ？　え、どうしたのかな？」

「……あー、ヨッシさん、もしかして操作の時間切れか？」

「アルさん、正解。もう時間切れ……」

　ヨッシさんのその言葉と同時に氷塊が消滅して、氷塊の周囲を覆っていた俺の岩が残っている状態になった。まぁそれは想定済みだったから、サヤの竜が解放されないように即座に岩の追加生成を行って固めていく。……当然といえば当然なんだけど、岩だとサヤの竜の姿が見えないな。

「……生成が早いな、ケイ」

「ま、ヨッシさんがやってた分の時間を無駄にするのもあれだからな」

「あはは、それじゃ残りはお願いね、ケイさん」

「おう、任せとけ。……ちなみに後は何分くらい？」

「えっと、あと2分くらいかな？」

「あ、思ったよりは私も出来てたんだね」

「うん、ヨッシ、ありがとうかな」

「……あはは、まぁ完遂は出来なかったけどね」

「それでも、途中までやってくれた事にはありがとうかな」

「そう言われたら、どういたしまして……だね。あー、次に何かする時には成功させないとね！」

「そういうヨッシに朗報なのさー！　正面から、敵の襲来です！」

　あらま、これは凄いタイミングで敵が来たか。でもまぁ、ヨッシさんの気分転換には丁度いいかもしれないね。どっちにしても俺もサヤも今は動けないし……あ、敵って側面に回り込んできたタカか。

「うん、それは私とハーレで相手をするのが良いね。ハーレ、敵はあのタカで良いの？」

「そうなのさー！　私が仕留めるから、足止めをお願いなのです！」

「了解！　麻痺毒で『並列制御』『ポイズンインパクト』『アイスプリズン』！」

「一気にやるのさー！　『魔力集中』『貫通狙撃』『爆散投擲』！」

　ヨッシさんは気分を切り替えるようにアルの背の上から飛び立って敵のタカを氷の檻で閉じ込めると同時に毒を叩きつけていく。お、ポイズンインパクトの方はハチの針を照準に使った感じに見えたし、取ろうという話をしていた魔法砲撃を狙っているっぽい。

　そしてハーレさんは左手で普通に強くなっていく銀光を、右手で明滅する速度の早い銀光を放ち出していた。って、爆散投擲はLv3での発動かい！

　氷の檻はすぐに風魔法で破壊されたみたいだけど、ポイズンインパクトは命中したみたいだな。お、麻痺毒が入ったみたいで、タカが痙攣しつつ落下していく。

「あ、落ちちゃってるね。それなら折角コツは掴んだんだし、これでいくよ！　『アイスクリエイト』『氷塊の操作』！」

「おー！　ヨッシ、ナイスなのさー！」

「チャージが終わったら、解除するからね」

「了解です！」

　ボスでもない普通の敵だし、ヨッシさんがちゃんと捕獲もしているし、ハーレさんが思いっきり全力で攻撃するつもりのようだからここは2人に任せてしまっても大丈夫だろう。そもそも俺は今、スキルが使えないしね！