第686話 夕方の実験


 たまには気分を変えてという事でやってきているミヤ・マサの森林で、ハーレさんと同じ投擲系のリスであるアリスさんと遭遇するという事があった。まぁ日常的には活動してないエリアに来たんだし、そのエリアで普段活動している人がいても不思議ではないよね。

 アリスさんは食事という事でもうログアウトしてしまったけど、俺とハーレさんはもう少し時間があるから、実験をやっていこう。


「さてと、どこか適当に空いてる場所を探さないとな。ここってミズキの森林みたいに湖の畔人が集まりやすいとかってある?」

「えーと、ミヤ・マサの森林にはミズキの森林と違って湖はないはずなのさー!」

「あー、そういやそうだっけ」


 ふむ、そういえば湖はないというのがミヤ・マサの森林とミズキの森林の大きな違いだったな。んー、そうなるとミヤ・マサの森林で混雑しやすい場所はどこだろ? 


「ここはミヤビとマサキが見える辺りの結構広い拓けた場所が混雑してるはずなのさー!」

「あー、そういう場所もあるんだな。それじゃそこは避ける方向で行くか」

「それなら北か南なのさー!」

「ハーレさんの希望としては?」

「うーん、何となく北側で!」

「ほいよっと。んじゃ北側の方に向かって、空いてる場所を探してみるか」

「おー!」


 実験をするにしても、どこかしらでそれなりのスペースは必要になってくるしね。ミヤ・マサの森林は灰の群集の森林と青の群集の森林深部の西側に位置している、縦に長いエリアだからね。

 灰の群集の森林の方が北側になるから、ミヤ・マサの森林の南側となると地味に遠いし北側の方が無難か。……ま、距離の関係で南側の方が空いてそうではあるけど、そもそもが広いエリアだし、勝ち取ってる占有エリアも多いから大丈夫だろ。


 という事で、北側に向けて飛行開始である。……ふむふむ、見知った名前の人は見当たらないけど、特訓をしている人はちらほらと見えているね。

 あ、大量に斬り倒された木を運んでいる人達がいる。これは薪用に伐採したやつ……にしては妙だ。計画的に伐採をしたにしては乱雑に斬り捨てられているようだ。……なにかあったのか、これ?


「これ、ちょっと様子が変じゃないか?」

「ケイさんもそう思ったの!?」

「……ハーレさんもか。これ、どう見る?」

「うーん、ケイさんとジェイさんが推測してた成熟体の魔法ダメージありの応用スキルの可能性があると思います! 多分、風属性!」

「ま、確実とは言えないけど、そんなとこだろうな」


 荒れ狂う風の刃で斬り刻むような魔法と物理を複合した応用スキルの可能性はありそうだよな。……これについては、後で目撃情報を調べてみる?

 いや、折角そこに斬り倒された木々を運んでいる人がいるんだから、聞いてみれば良いか。えーと、指揮を出してるクマの人の手が少し空いたみたいだから、あのクマの人に聞いてみよう。


「おーい、そこのクマの人ー!」

「あれ、ケイさんかい?」

「あ、ラーサさんか!」

「そうさ、私はラーサだよ。何か用かい?」

「あ、いや、この薙ぎ倒された惨状について、何があったのか聞きたくてさ?」

「これは、成熟体が暴れていったとは聞いたけど、私は直接は見てないね」

「あー、まぁそれなら仕方ないか」

「いやいや、それでも目撃情報は聞いているよ。なんでも大きなカマキリがが緑色の光と白光の明滅する鎌に暴風を纏って、風の刃と鎌の両方で周囲を無差別に斬り刻んで行ったって話さ。ま、幸いな事に逃げるタイプの成熟体だったらしくて、被害はなかったらしいけどね」

「……なるほど」


 ふむ、どうやら推測を裏付けるような目撃情報があったようである。しかも今回はチャージではなく、連撃の方みたいだね。てか、逃げるやつでも一撃は放ってから逃げていくんだな。


「ただ、そこらの木々を斬りつけただけじゃ連撃数は溜まらない筈なのに、どんどん白光が強くなってたらしいんだよね」

「え、マジで?」

「こんなとこで嘘をついてどうすんのさ」

「確かにそれはそうなのです!」

「……ですよねー」


 確かにラーサさんの言うようにちょっと連撃の強化については違和感があるな。一般生物の木を斬り刻んだだけでは連撃数は増えないとは思うんだけど、これってどういう事だ……?

 ベスタの推測にあった白光するスキルと、魔法と物理の複合したスキルはやっぱり別物……? そう過程すると白光するスキルの効果はなんだ……? 連撃の判定の拡大? いや、それじゃ俺らが見たモモンガの方が説明出来なくなる。うーん、分からないな……。


「ま、その辺の分析は検証勢に任せるよ。薪に加工しにいきたいけど、もういいかい?」

「あ、うん。情報はありがとな、ラーサさん」

「なに、これくらいどうって事はないさ。さ、みんな、薪を作っていくよー!」

「「「「おう!」」」」


 そうしてラーサさん達は無残な状態に斬り倒された木々薪に変えるための加工に移っていった。ま、ちょっとした情報収集にはなったもんだね。……まぁ謎が増えた気もするけど。


「あ、ケイさん! あっちの方が空いてるよー!」

「お、マジだな。んじゃそっちに行って、実験を始めていくか」

「何をやるのか楽しみです!」


 そうして惨劇となっていた部分を抜けて、見えていた拓けた場所へと到着した。……それほど広くはないけど、俺とハーレさんの2人だけならこのくらいの広さがあれば十分だろう。


「ちょっと準備するから、待っててくれ」

「はーい! あ、そうだ。気になってたスキルを今のうちに取っておくのさー!」


 ん? ハーレさんが気になってるスキルとかあったのか。ふむ、どんなスキルが気になっていたのかが気にはなるけど、今このタイミングで取得するのであれば実験の一環で試してみるのも良いかもね。……まぁ攻撃スキルだったらだけど。


 さて、それは後からにするとして、俺は俺で準備をしていかないとね。……んー、ボート状の岩でやっても良いんだけど、ここは単独で戦っている場合を想定して飛行鎧の形状に戻しておくか。

 って、色々形状を変えまくってたのと、追加生成もしまくってたから地味に形状が変えにくい!? あー、これってそういう欠点もあるのか。これは気をつけないとな。


「悪い、ハーレさん。飛行鎧を再発動したいから、降りてもらえるか?」

「あ、了解です!」


 特に文句もなくハーレさんはすぐに飛び降りてくれた。そして何かに集中している様子なので、スキルのポイント取得の一覧から目的のスキルを探しているってとこだろうね。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 70/70 → 70/76(上限値使用:1)


 とりあえず一旦ボート型の岩を解除して、地面に着地。魔法砲撃は発動したままだけど、まぁ発動したままで良いか。さて、それじゃ再発動っと。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 70/76 → 70/70(上限値使用:7)


 これで形状は普段使っている飛行鎧にして、光の操作は無し。ついでに増殖したコケも岩の内部に隠している。よし、次の手順だな。えーと、地面に増殖していっても困るから、少し浮いておいて……。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 66/70(上限値使用:7)

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 62/70(上限値使用:7)

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 58/70(上限値使用:7)


 1回の増殖では足りなさそうなので3回発動してみたら、飛行鎧の表面の大部分が増殖したコケに覆われたね。お、ロブスターのハサミもしっかりとコケで覆われたっぽい。

 ……ふむ、これは群体数は足りてはいるけど増殖範囲がもう無いみたい? ま、それは表面積に限度があるから当然か。てか、これって見た目が凄い状態になってそうだな。


「おー!? ケイさんの飛行鎧がコケまみれになったー!? でも、それって意味あるのー!?」

「それを試すのが今回の目的だな。ハーレさん、合図をしたらまずは投擲を頼めない?」

「それは良いけど、私の魔法の特訓はー!?」

「これで魔法にも効果があるのかを試したいんだよ」

「あ、そういう事なんだねー! 了解なのさー!」


 俺の予測としては、投擲については大半は問題はないはず。ただしっかりと確認しておきたいのは魔法の方なんだよね。流石に防御に関してはぶっつけ本番は危険だしさ。

 さて、それじゃ実験をやっていこうじゃないか。その為にもこれを使わないとね。


<行動値を1消費して『グリースLv1』を発動します>  行動値 57/70(上限値使用:7)


「ハーレさん、頼んだ!」

「了解さー! 『投擲』!」


 そうして飛行鎧の表面を覆ったコケに向けて、ハーレさんが小石を投げ放ってくる。……方向を見極めて、大きく回避するのではなくコケの表面で滑るように角度を合わせて……おし、受け流し成功!


「おー! ケイさん、その回避方法は良いねー!」

「ま、緊急避難的な回避方法だけどな」


 流石にタイミングがかなり重要になるから常用したい回避方法ではないけど、いざという時の回避策としてはありだな。でも、これ以上の威力の攻撃を滑らそうと思えばグリースのLv上げが必要な気もするね。

 まぁそれに関しては後々やっていくとして、どこまで有効かを試しておきたい。本命は魔法に対してなんだけど、こっちは正直あまり期待出来ないんだよね。


「それじゃ次はウィンドボールで頼む」

「了解です! 『略:ウィンドボール』!」


 今度は3発のウィンドボールが迫ってくる。あー、これは地味にグリースだけで滑らせて回避は難しそうだけど、それならこれでいくまで!


<行動値を4消費して『スリップLv4』を発動します>  行動値 53/70(上限値使用:7)


 よし、回避が難しそうな1発を右のハサミのコケでスリップを使って滑らせて、他の2発はグリースで滑らせていく。

 ふむふむ、相手の狙いにもよるけどなんとか魔法も回避可能な範囲だな。魔法砲撃なら特に回避は簡単そうだ。……ただ、魔法の種類によっては無理だろうな。特に爆発系のやつ。


「あぅ、簡単に避けられた……」

「まぁ今のはなー。ハーレさん、同時に避けられないようには狙ってたけど、もっと避けにくくも出来ただろ?」

「投擲なら出来るけど、魔法はまだ無理なのです!」

「……あ、そうなのか?」

「そうなのさー!」

「それなら投擲の方でやってみるか? ちょっとどの程度までの投擲に対応出来るか試したいし」

「受けて立つのさー! 全力でやってもいいよね!?」

「……まぁ、実験だし別にいいか」


 もしこれで俺が回避し切れなくて移動操作制御が解除になっても、時間的に再発動が可能まで待ってもあと1回は試せるしな。ハーレさんの全力の投擲に対応出来るかを試してみるのも悪くはないだろう。


「それじゃ全力で新スキルを試すのさー!」

「え、ちょっと待って、新スキル!? さっき取ってたやつか!?」

「ふっふっふ、そうなのです! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』『拡散投擲・風』!」

「ちょ!? 拡散投擲!?」


 そういや名前しか確認した事はなかったけど、そういう投擲の応用スキルもあったよな!? え、名前的に散弾投擲の上位の面攻撃のやつじゃね……? いや、どう考えても相性が――


「って、これは無理!?」


 銀光を放ち出したハーレさんが拡散投擲を発動すると、初めは弱い銀光を放って散弾投擲と同じように投げ放たれる。……けども、途中でその散弾が更に分裂し、少しの時間差がある状態で広範囲に拡散し、当たった数だけ全弾の銀光が強まっている様子であった。


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 53/70 → 53/76(上限値使用:1)


 分裂しただけ弾の数が多く、それぞれの向きもバラバラなので結構な数はグリースで滑らせれたけど、それでも全てを回避する事は不可能だった……。いや、分類上は連撃なんだろうけど、これってとんでもなくね!?

 あ、落ちる……って言っても、大した高さでもないので、無事に着地っと。いやー、これは地味に凶悪だな。お、移動操作制御ではないコケはロブスターの表面に移動して、面積的に余る分は地面に勝手に移動するのか。これは初めて知ったな。


「ふっふっふ、勝ったのです!」

「……まぁそうなるよなー。で、デメリットは?」

「あぅ!? やっぱりデメリットがあるのに気付かれた!?」

「いや、どう考えてもかなち回避困難な投擲だしな!?」

「だよねー! えっと、弾の消費が散弾投擲の20倍です!」

「……弾が大量に必要なのか」

「そうなのさー! だから、取るのを悩んでたけど、いざという時の為に取る事にしたのです!」

「……なるほどね」


 ふむ、まぁ回避困難な連撃の応用投擲スキルならそういう形のデメリットがあって当然ではあるか。よっぽど小型の敵でなければ、さっきの感じだとほぼ確実に連撃の最大強化までは行けそうだしね。


 移動操作制御が解除になってからは連撃のカウントにはなってなかったけど、短時間にかなりの弾数は当たってたもんな。

 てか、今更だけど移動操作制御はカウント数に入るんだね。今までそんなに深くは考えてなかったけど移動操作制御って、実際にダメージが発生しない味方の攻撃でも解除になるんだよな。……強制解除の判定基準は、実際にダメージがある事じゃなく、移動以外でダメージが発生するような状態になる事って感じか。


「……ま、今のは今ので参考になったからいいや。んじゃ、移動操作制御の再使用が可能になったら、次はウィンドボムで試してみてくれ」

「了解です! それまではどうするー!?」

「……そうだな。また的当てでもやるか」

「おー! それは賛成さー!」


 それからしばらく的当てで魔法の特訓をしながら、移動操作制御が再使用出来るまで待った。そこから改めてウィンドボムで試して見たけども、これについては予想通りに受け流せず失敗である。

 どうやら一部の魔法についてはこの手段では防げそうにはなさそうだけど、核の移動で魔法吸収という手段もありそうではある。ま、ピンポイントで核を移動する必要があるから、難易度は高そうだけど……。


「ケイさん、そろそろご飯なのさー!」

「それじゃ一旦切り上げるか」

「今日のご飯はなんだろなー!?」


 ひとまず夕方の内にやっておきたい事は完了である。さて、夜からはみんなと合流して、青の群集の森林エリアを目指していかないとね! 移動については転移の種を使うから、今のログアウトはこのままこの場所で問題ないな。

 とりあえずこれにて夕方の部は終了! ハーレさんではないけども、今日の晩飯はなんだろう?

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