第685話 たまには気分を変えて
サヤとヨッシさんは6時になったということで食事の為にログアウトしていった。さてと俺とハーレさんはまだ1時間はあるから、一旦移動だな。実験をするにはやっぱりミズキの森林の方が他の群集の目がなくて良いからね。
「んじゃ、ミズキの森林まで戻るか」
「それでケイさんは何を試すのー!?」
「それは見てのお楽しみって事で!」
「それならすぐに出発なのさー! ところで、帰還の実はどうしますか!?」
「あー、そういやさっきサヤ達は森林エリアへの帰還の実を使ってたっけ」
ふむ、確かに今日のプレイを終わらせる時には森林深部に戻っておきたいし、俺らも森林エリアに行くというのもありか。
別に今から森林深部へ戻るのに帰還の実を使って、そこで新しい帰還の実を貰って夜に使うのでも良いんだけどね。でもそれをすると明日の帰還の際に困る……あ、明日ログインした時にすぐに貰えば問題もない……? うーん、何度も死にまくる訳じゃなければどうとでもなる範囲だけど……よし、たまには趣向を変えてみるか。
「ハーレさん、1つ提案」
「どんな提案ですか!?」
「たまには森林深部からミズキの森林じゃなくて、森林からミヤ・マサの森林に行ってみない?」
「おー! そういうのもたまには良いかもー! 賛成です!」
「よし、んじゃそういう事で、とりあえず森林エリアに移動な」
「了解なのさー!」
ミズキの森林とミヤ・マサの森林のマップ自体は似たようなものだし、極端に代わり映えもしないだろうけど、たまにはこういう風に違う場所で特訓ってのも良いだろう。灰の群集は競争クエストで勝ち取ってるエリアも多いしね。
という事で、森林エリアへの帰還の実を使っていくぞー! えーと、森林エリアへの帰還の実はこれだな。とりあえず使用っと。
<『ニーヴェア雪山』から『始まりの森林・灰の群集エリア1』に移動しました>
よし、無事に森林エリアへとやってきた。ここに来るのは青の群集との競争クエストの総力戦以来か……? あ、違う。共闘イベントの時に青の群集の森林深部の先のボス戦に行った時に通ってたっけ。
それにえーと、確かスターリー湿原……で良かったよな? あそこに行く時も来てたはず。……思っていたより意外と来てたね。
ふむふむ、ここの群集拠点種の名前はエニシだったっけ? まぁ見た目はエンとあまり変わらないけど、巨大な木なのは同じだよなー。とりあえず新しい帰還の実を貰って……よし、これでいい。
お、ここの付近にも大きく模擬戦のダイジェスト映像が映し出されているんだね。この辺はどこの群集拠点種も同じかな? それに人が集まっているという点も同じなのかもしれない。まぁ群集拠点種は初期エリアの中心部なんだから当然と言えば当然だけどね。
「よっと!」
「……なぜ登る、ハーレさん?」
「なんとなくです! ところでミヤ・マサの森林までは転移と陸路どっちで行くのー!?」
「折角だし、陸路で行くか」
「了解なのさー!」
ミヤ・マサの森林までそれほど移動に時間がかかる訳でもないし、いつもの森林深部とは違った場所だからな。この森林エリアには川もあるし、軽く今の森林深部との違いを見てみようじゃないか。
そして思いっきりハーレさんが俺のロブスターの上に乗っているけど、まぁこれはいつもの事でもあるから別にいいや。あ、そういやボートの形にしたままだけど……まぁそれもそのままでいいか。実験したいのはこの移動操作制御が解除にならず、攻撃を受け流す手段だからね。
「あ、ハーレさん、森の上を飛ぶのと森の中を通るのはどっちがいい?」
「森の中ー!」
「何となくその答えの気はしてた。んじゃ森の中をいくぞ」
「了解なのさー!」
ま、森林エリアは森林深部エリアよりも木々の密度は低いから、森の中を進んでいっても問題はないんだよね。アルのクジラの大きさだと流石に森の中は影響があるけど、俺もハーレさんも大型の種族ではないからな。
そうしてミヤ・マサの森林へ向けて移動をしながら、周囲を観察していく。……ん? しばらく進んでいる内に気になる点があった。森林深部に比べるとこれは結構な違いがあるような気がするぞ?
「なぁ、ハーレさん。森林エリアの方が不動種の人が多くね?」
「話には聞いてたけど、そうみたいだねー!」
「……話ってなに?」
「ふっふっふ、ラックから不動種の人には森林か草原エリアが人気だと聞いていたのです!」
「あー、そういう話」
ふむ、言われてみれば確かに納得ではあるのか……? 不動種の人はどうしても場所を占有し続けるという特徴があるし、元々のエリアとしての特徴として森林深部にはその広さの余裕があるとも言い辛い。
いやまぁ別にゲームを始めたばっかで木の人は植わった状態から始まるから、それなりに場所はあるんだろうけどね。アルも初めは植わったままで移動出来なかったしさ。
ただ、不動種を選ぶという事になると他の人が来やすいという場所選びは重要になってくるもんな。そういう意味では不動種の人にとっては、森林深部よりは木々の密度が低い森林エリアや木々が一気に減る草原エリアがやりやすいのかもしれないね。
「ハーレさん、それに関して重要な情報とかはある?」
「エリアによって極端な質の差はないから、特に重要な要素はないよー! 私達は桜花さんや灰のサファリ同盟の本部との接点があるから、こっちまで出向く必要はないのさー!」
「……なるほどね」
だからハーレさんが情報としては知っていても、具体的な話をした事がないのか。というか俺らにとっては、森林深部に灰のサファリ同盟の本部があるのと桜花さんと知り合った事の影響が大きいんだな。
「あー!」
「どした、ハーレさん?」
川を飛び越えてもう少しでミヤ・マサの森林という所で、唐突にハーレさんが声を上げた。ちょっと止まって周囲を見てみたけど、特に変わったものもないし、不動種の人が中継をしている訳でもない。……精々、初心者っぽい人がカブトムシと戦っている様子が見えるくらいだけど……。
「ケイさん、ケイさん!」
「なんでそんなにテンションが高いんだ? 特に何も目立つようなものは見当たらないぞ……? それとも何かを見つけたのか?」
「何も見つけてはないけど、見覚えがある場所なのさー! ここ、私のスタート地点!」
「ん? あー、なるほど、ここなのか」
「そうなのです!」
そういやハーレさんはヨッシさんに仲間の呼び声で森林深部に来たのであって、元々はこの森林エリアの出身だったっけ。
ふむふむ、特に何も加工された様子もない普通の森っぽい。ここのエリア妨害のボスである火バチからは少し外れた南の方を通ってきたけど、結構マップの外れの方である。ここがハーレさんのスタート地点だったのか。
「……アルのスタート位置と比べると、まぁ普通だな」
「一番変わり過ぎてるアルさんの初期位置と同じ扱いはどうかと思うのよー!?」
「まぁそりゃそうか」
今や灰のサファリ同盟の本部となっているアルの初期位置は、池があったり畑があったり不動種の人が植わってたりして元の面影は全然無いもんな。
そのきっかけになった池を作った俺らが言う事では無い気もするけど……。まぁ変わる所もあれば、変わらない所もあるって事だな!
「もうちょい眺めていくか?」
「ううん、大丈夫ー! ここなら来たくなったらいつでも来れるのさー!」
「……それもそうだな。んじゃ、そろそろミヤ・マサの森林に行くか」
「おー!」
とりあえず森林エリアの知らなかったの状況やハーレさんのスタート地点が分かった事だし、目的地であるミヤ・マサの森林に行こう。まぁたまにはこうして別の場所に行ってみるというのも、意外な収穫があって楽しいもんだね。
<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『ミヤ・マサの森林』に移動しました>
そうしてやってきました、ミヤ・マサの森林! なんかちょっと離れた所から盛大に火の手が上がっている様子が見えて……お、その火が盛大に動いているって事は、これは炎の操作か。誰かが森を荒らすモノで火の昇華を取ったってとこかな?
「こっちはこっちで特訓に使われてるんだな」
「勝ち取ってるエリアなんだから、有効活用しない手はないのです!」
「ま、そりゃそうだ」
「あ、折角ここまで来たし、マサキのとこに行こー!」
「あー、そういや群集支援種のキツネだっけ。えーと、大体中央部だったよな」
「マサキは移動しないからねー!」
ミズキの森林で徘徊しているヤナギや、ミヤ・マサの森林のミヤビの近くで忠犬のように座っているキツネのマサキからは情報ポイントでアイテム交換が出来るんだったね。交換出来る内容は毎回違うって話だったはずだけど、折角ここまで来ているんだから見ておいても損はないだろう。
「あれ!? なんでこっちにハーレさんが!?」
「あ、アリスさんだ! やっほー!」
「おっす、アリスさん」
「ケイさんも!? あ、2人ともこんばんはです!」
ミヤビとマサキの場所に向かって少し飛んで進んでいたら、リスのアリスさんと遭遇した。前にフィールドボスの誕生手段の検証の時に一緒になった、森林エリアを拠点にしている実践型の検証勢の人だったよな。
えーと、ツキノワさんとか黒曜さんとかの姿はなしか。ふむ、どうやらアリスさん1人だけだったみたいだね。
「こっちで見る事は殆どないのに、どうしたの?」
「たまには気分転換でこっちに来たのです! これからマサキの所に行って交換出来るアイテムを確認してから、ケイさんと特訓なのさー!」
「ま、そんなとこだな」
「おー、そうなんだー! でもハーレさん、マサキのアイテムならさっき品切れになってたよ?」
「えー!? そうなの!?」
「うん、ちょうど争奪戦で戦利品を確保してきたとこなんだー!」
「あぅ……それは残念なのです……」
あらま、ハーレさんのガッカリした声が聞こえてきたよ。というか、アリスさんが戦利品を確保してきたって事は、ついさっきまでマサキでアイテムの取引は可能だったんだな。うーん、今更言っても遅いけど転移を使っていれば手に入った可能性もあった訳か。
「……アリスさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど良いか?」
「何ー? 何でも聞いてくれていいよー!」
「んじゃ遠慮なく。マサキでアイテムの争奪戦があるって事は、もしかして補充の時間帯って決まってる?」
「え、決まってるけど、なんでそんな当たり前の……あ、そっか。ミズキの森林だとヤナギさんは徘徊しているから、ちょっと仕組みが違うんだったね。えっと、マサキは2時間に1回、アイテムが総入れ替えだよー!」
「あー、なるほど、そういう風になってるのか」
「定期的に変わるのは知ってたけど、2時間に1回だと知らなかったのです!?」
「あはは、まぁ普段からの活動範囲じゃないとその辺はどうしても網羅出来ないもんねー」
「あぅ、それは確かにそうなのです……」
まぁそれについてはアリスさんの言う通りだよな。普段は居ないエリアでの日常的な取引アイテムの更新時刻とか把握してないし、よく居るミズキの森林で徘徊しているヤナギの事もよく知らないや。
もしかして、ヤナギはヤナギで徘徊するルートとかが決まったりしてるんだろうか? ……うん、俺が知らないだけでその可能性もありそうな気がする。
「あ、そうだ、ハーレさん。ダメ元で聞いてみるけど、氷柱を持ってたりしない?」
「氷柱ならあるけど、必要なのー?」
「わっ、やった、言ってみるもんだね! えっと、ツキノワが近いうちに氷の操作を取りたいって話をしててね? でもちょっと今日は他のとこに行きたくて、また後日に雪山に行こうかって話になっててさー」
「それで雪か氷柱があれば、雪山まで行かなくて済むって事か」
「そう、そうなの、ケイさん! ねぇ、ハーレさん、さっきの戦利品と氷柱とトレードしてくれない?」
「っ!? それは戦利品の内容によるのさー!」
おっと、今度は一気に元気の良い声になったね、ハーレさん。氷柱はカキ氷の材料という認識の方が強かったけど、そういや採集した際にスタック可能って言ってたっけ。
アリスさん……というよりはツキノワさんが必要としてるっぽいけど、まぁ氷雪の操作や氷塊の操作を取るならまだしも、氷の操作だけならわざわざ雪山まで行く必要はないもんな。ここでトレードで済ますというのもありといえばありなんだろう。って、ちょっと待った。
「アリスさん、森林エリアの不動種の人からトレードは無理なのか……?」
「あはは、それは可能は可能なんだけど、そろそろご飯でログアウトしなきゃいけなくてねー? 食べ終わったら取り扱ってる人を探すつもりだったけど、ダメ元で聞いてみただけなんだー」
「あー、なるほど」
そういやダメ元でって言ってたっけ。この時間帯は食事時だから、アリスさんもそれほど時間に余裕はないって事か。
「そういう訳であんまり時間がないから、急がせてねー! 肝心の戦利品なんだけど……ずばり、これなのです!」
そう言いながらアリスさんのリスの手に何かが握られている。……これは、え、何? 何かの粉が固まっているように見えるけど、よく分からないぞ……? なんだ、これ。
「アリスさん、それ何ー!?」
「えっとね、杉花粉の塊だって。これを動物系の種族の顔に当てたら、花粉症の状態異常になる優れもの! 20個手に入ったから、そのうちの5個と氷柱1スタック分……確か20個だっけ? それと交換でどう?」
「あー! それ、使われたら嫌なやつだー!? そのトレード、乗ったー!」
「交渉成立だね! それじゃトレードをお願いー!」
「了解なのさー!」
とりあえず取引が成立したようである。……っていうか、杉花粉の塊とかってあるんだな。うん、前にハーレさんが杉花粉の攻撃を食らって嫌がってた時もあったしね……。
俺は花粉症じゃないからよく分からないけど、フラムがリアルで花粉症で辛そうにはしてたもんな。……そういやあいつ、それが理由で杉を進化先に選んでたっけ。
「思わぬところで手に入って良かったよー! それじゃもうログアウトしないといけないから、ハーレさん、ケイさん、またね!」
「おうよ」
「アリスさん、またね!」
そうしてアリスさんはログアウトしていった。マサキからアイテムの取引は出来なかったけどもちょっと思わぬ収穫にもなったし、たまには違う場所に行ってみるのはやっぱり良いのかもね。
さてと、まだ7時までは30分くらいはあるから、本来の予定の実験をやっていこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます