第684話 取得を終えて


 ちょっとサヤが土壇場で氷塊の操作を狙うという事はあったけど、一先ずは無事にフィールドボスに進化した空飛ぶウサギの撃破は完了である。さて、俺は無事に氷塊の操作を取得出来たけど、みんなはどうだろう?


「サヤ、ヨッシさん、翡翠さん、氷塊の操作は取れたかー?」

「バッチリかな!」

「うん、私も取れたよ。氷塊の操作もあれば出来る事の幅が広がるよね」

「……私も取れて満足! ……これで2属性目の昇華が手に入った」

「討伐、大成功なのさー!」

「ミッションコンプリートー! って言いたいとこなんだが、悪い、翡翠、氷結草茶をくれ……」

「ザックさんが萎れていく……って、俺らも効果時間がやばい!?」

「あ、ホントかな!?」

「わー!? 氷結草茶の効果時間、見てなかったー!?」

「……氷属性持ってると気付かないね。……はい、ザック」

「あはは、まぁ自分が大丈夫だから、確認がどうしても疎かになっちゃうよね。はい、みんな、どうぞ」


 そうして効果が切れてすぐに新しい氷結草茶を慌てて飲んで、無事に乗り切った。いやー、雪山に来る時はこの辺に気を付けないといけないのに、完全にボス戦で確認するのが抜けてたね。

 翡翠さんとヨッシさんは氷属性持ちだから問題ないけど、逆にそれが効果時間切れに気付かない原因にもなっているんだな。……まぁそこはヨッシさんに任せずに自分でちゃんと確認しないと駄目な事か。


「はーい、これでフィールドボスの討伐は終わりだよー! 瘴気石については、各自で他のアイテムに交換するなり、提供するなり、依頼の報酬に使うなり、自由にしてねー! それじゃ解散ー!」

「おっし、勝ち抜いた甲斐があったぜ! 回復アイテムと交換してこよ」

「これで+10に出来るから……カグラさん、強化をお願いしても良いですか?」

「えぇ、構いませんよ。それでは戻ってからやりましょうか」

「あ、それなら俺のも頼む!」

「フィールドボスの元になる成長体を捕まえに行くから、一緒に行く人いない?」

「お、いいな! 俺も行くぜ!」

「私も行くー!」

「ラックさん、成長体を持ち込みで瘴気石の後払いなら、先に瘴気石の提供は行けるよね?」

「ちゃんと成長体を確認してからにはなるけど、それについては問題ないよー!」

「おし、それじゃこのままのPTでちょっと成長体を探しに行くか!」

「ちょっと待てー! 勝ち抜いた奴ばっかずるいぞ!」

「それなら早いもの勝ちでやるしかないよねー?」

「やってやろうじゃん!」

「成長体2体を持ってきた人、もしくはPTを最優先で、もう1回勝負すっか!」

「異議なし!」

「次は負けるかー!」


 ラックさんの解散宣言の後は、そんな風に慌ただしく俺らとPT連結をしていた人達も解除して散らばっていった。連結を解除というよりは一時的な2PTが解散した形になったけども。

 残っているのはラックさんとカグラさんと、カグラさんに瘴気石の強化を頼んでいた人達くらいか。いやー、灰の群集の人がこういう時に動きが早いのは知ってるけど、赤の群集も青の群集も前よりかは明らかに動き出しが早くなっているね。……慣れてきたんだろうな、色々と。


「てか、ラックさん、灰のサファリ同盟の方で瘴気石の回収しなくていいのか? 元々そういう感じじゃなかったっけ?」

「うん、灰のサファリ同盟の所属の人についてはそうなんだけど、それは枯渇してる時だけかなー。それにさっきのメンバーだと灰のサファリ同盟は少なめだったし、あれでもまたボス戦の素材になって結果的には瘴気石は増えるから問題ないんだよー」

「あー、なるほどね」


 ふむ、灰のサファリ同盟のメンバー以外に提供しろとも言えないし、灰のサファリ同盟だとしてもそういう無理強いはしてないんだね。まぁ無理強いをすればやり辛くもなるし、さっきの様子を見ている限りでは瘴気石の回収は充分出来そうな気はする。

 そもそも灰のサファリ同盟は生産や加工をしている人もいるから、赤の群集とかから瘴気石を対価にしていたりしそうだよな。……ふむ、それは青の群集も同じだろうから、この中立地点はそういう風に持ちつ持たれつの関係性になってるのかもしれない。


「ラックさん、私は戻りますがどうしますか?」

「あ、そだねー。私も戻らないと……みんなはどうするー?」

「あー、とりあえず戻るだけ戻るか? もう6時までそんなに時間はないけど……」


 ベスタと蒼弦さんの模擬戦を見終わってからこの雪山へと急いで来たけど、もう地味に6時が目前に迫ってるんだよな。でもまぁ、夕方の内に氷塊の操作のが取れて良かったところではあるね。


「……それなら一旦、森林深部に戻るかな?」

「んー、その場合って夜からの合流はどこにする?」

「あ、それだと帰還の実が少し勿体無いかな……?」

「俺はちょっと試したい事があるから、この後ミズキの森林に戻りたいんだけど」

「おー、そうなんだー!」

「って事で、ちょっとハーレさん、実験を手伝ってくれない? 多分ハーレさんの風魔法の特訓にもなるとは思うからさ」

「そういう事なら了解なのさー! それじゃ私はケイさんと一緒にミズキの森林に行けばいいんだねー!?」

「まぁ、そういう事になるな」


 ちょっと今のボート型の岩の表面に広げているコケを応用して、グリースでの回避を試してみたいんだよね。物理攻撃だけでなく魔法攻撃にも有効なのかも確かめておきたいから、ハーレさんの特訓にもなるだろうしさ。


「ケイとハーレがミズキの森林に行って、アルとの合流の事も考えたら、私とヨッシも戻っておくべきかな?」

「……ケイさんとハーレが戻るのを待つ時間を考えるとその方が良さそうだね。それじゃ森林深部への帰還の実は勿体無いから、森林への帰還の実を使っておくのはどう?」

「あ、その手があったかな!」

「それじゃそうしよっか」


 とりあえず俺らについてはこれで話は決まったかな。時々忘れそうになるけど、帰還の実は5つある初期エリアに対応したのをそれぞれ持っているから、こういう時に活用するのもありだな。


「……ザック、私達はどうする?」

「ん? そうだな、折角なら翡翠の氷雪の操作の方も取ってくか?」

「……ザックにしては良い事を言う!」

「がっはっは! そうだろう、そうだろう!」


 いや、ザックさん、それは明確に褒めてないからね!? まぁザックさん自身がそれで良いのなら別に良いか。

 あ、そういや雪山に来る前にちょっと聞きたい事があったんだ。つい忘れてしまってたけど、今の会話で思い出した。……今更聞いても意味はない気もするんだけど、気になる事ではあるから聞くだけ聞いておこうっと。


「ラックさん、雪山に来た時に聞こうと思ってて忘れてた事を今思い出したんだけど、聞いても良い?」

「あー! そういえば、忘れてたのさー!?」

「……そういえばそうだったかな」

「……あはは、私も忘れてた」

「あらま、みんなして忘れてたんだねー? 忘れてたのはどんな内容?」

「えーと、氷塊を使って積もった雪を叩いて、雪崩を起こして、荒らすモノの称号を取った場合ってどうなるか分かる? 氷雪の操作と氷塊の操作を同時に取れたりしないか?」

「……えーと、とんでもない事を考えるね。うーん、私はそれは覚えがないから分からないけど……カグラさん、何か知ってたりしない?」


 あー、どうもラックさん自身はその手段は全然知らなかったようである。これはまだ誰も試していないというパターンか……? いやでも、これくらいなら灰のサファリ同盟や灰の検証勢が試していないとも思えない……。


「あぁ、それでしたら情報はありますよ。……そういえばあの時はラックさんは不在でしたね」

「あちゃー、私が居なかった時に試してたやつなんだー。って事は、既にまとめに編集済み?」

「いえ、私が今編集中の案件ですね。あと少しでまとめ終わりますので、後ほど更新しておきますよ。それで今、その内容はお聞きしたいですか?」

「既に情報があるなら、聞いておきたいな」

「私も気になるかな!?」

「サヤが言い出しっぺだったもんね」

「カグラさん、説明をお願いなのさー!」

「えぇ、分かりました」


 今回の気になった手法についてはサヤが疑問に思った事だもんな。まぁ今更俺らが聞いても無意味な情報ではあるんだけど、思い出した以上はそのまま放置するというのも微妙な心境ではある。聞かせてもらえるなら聞いておきたいとこだよね。


「あまり長くなっても仕方ないので、結論から言いますね。何かの手段で氷塊を持ち上げて、雪崩を起こして、その一連の行為に称号の取得が重なれば『氷雪の操作』と『氷塊の操作』の同時取得は可能です」

「お、やっぱり出来るんだ」

「えぇ。ですが少し条件が面倒ではあるので、再現の方が微妙でして……。昇華の取得の際にどうなるかは未知数……あ、そういえば先程までの翡翠さんが条件を満たして……」

「あー!? そういえばそうなるんだー!?」


 言われてみれば、確かに今回の翡翠さんの昇華が取れる状態で、氷雪の操作ではなく氷塊の操作を優先して取りに来ていた。

 カグラさんの言う未知数の条件にぴったり当てはまってはいたけど、もう氷塊の操作を取得してしまったから今更言っても意味がない……。あー、くっそ! なんで終わってから思い出してんだー!?


「……折角ならその情報はもう少し早く欲しかった……」

「あっ、そっか。翡翠さんはまだ氷雪の操作を持ってないんだよね……?」

「……うん。……そういう手段があったなら、同時に狙いたかった」

「ん? ブリザードを使ったんなら、翡翠は荒らすモノの称号は取れてんじゃねぇのか?」

「……雪山で吹雪があるには当たり前だから、荒らすモノの判定にはならないみたい。……そもそも氷雪の操作の取得条件に該当する操作はしてない」

「あー、そういやそうだっけか」


 え、そんな仕様があったの……? あー、でもよく考えてみたら当たり前と言えば当たり前か。強風が吹き荒れるエリアで強風で荒らしてもエリアとしてはいつもの事だし、落雷が多いエリアで雷で荒らしても珍しくもなんともない。

 特定の属性に偏ったエリアでは、それに類するスキルでは荒らすモノの称号は取りにくいのかもね。でも、海を海流では荒らせたよな……? 海についてはエリアとして特殊だし、あれは参考にならない可能性は充分あるか。


「まぁ、過ぎた事は良いじゃねぇか! どっちにしろフィールドボスで『氷属性強化Ⅰ』は取る予定だったんだしよ! まだちょっと時間はあるから、これから荒らすモノで氷雪の操作も取りゃいいじゃねぇか!」

「……そうだね。……ザックに励まされるとは思ってなかった」

「いつでも頼りにしてくれていいぜ!」

「……いつもは不安だけど、たまになら……ね」


 あはは、こういう前向きさはザックさんらしいとこではあるよな。ま、ザックさんの言うように過ぎてしまった事をあれこれ言っても仕方ないし、今出来る手段でやっていくのが良いだろう。

 あ、こうやって話しているのは良いけど、その前にやるべき事があったな。このまま解散になりそうだし、その前にやっておかないとまた忘れてたしまう。


「さてと、忘れないうちに渡しとかないとな。翡翠さん、これな」

「……? ……あ、瘴気石。そういえばそうだった」

「私のもどうぞなのさー!」

「今日は瘴気石と成長体をありがとうかな。はい、これ」

「ザックさんと翡翠さんが居てくれてスムーズに済んだもんね。私の分もどうぞ」

「……確かに受け取ったよ。……それと、私からもありがとう。……楽しかった!」

「だなー! たまにはこういうのも良いもんだ!」


 今回は本当に偶然が重なっただけではあるけども、俺らにとっても、ザックさんと翡翠さんにとっても良い結果にはなったと思う。こういう偶然で一緒の目的を果たしていくというのもオンラインゲームの醍醐味ではあるよね。


「……それじゃ私達は行くね。……ラックさん、荒らすモノの順番待ちはいける?」

「えーと、少し確認するから待ってね。……うん、氷雪の操作の方ならすぐにでもいけそうだよ」

「おっしゃ、それならすぐに行くぜ、翡翠!」

「……うん! ……それじゃみんな、またね!」

「おう、またな!」

「ザックさん、翡翠さん、またねー!」

「またどこかで一緒になったら、一緒にやろうね」

「今度はアルもいる時だったら良いかな」


 夕方にアルがいないのはいつもの事で仕方ないけども、可能ならアルも一緒にいる時にはしたいもんな。まぁそれについてはほぼ運みたいなものだけどさ。


「あ、カグラさん、しばらく灰の群集の割り当て場所の指揮は任せていい?」

「えぇ、構いませんよ」

「それじゃよろしくねー!」

「任してください。それではグリーズ・リベルテの皆さん、私もこの辺りで失礼しますね」

「ほいよっと。カグラさんも色々ありがとな」

「いえいえ、それはお互い様ですよ」


 そうしてザックさん、翡翠さん、ラックさん、カグラさんとそれぞれに挨拶をして解散になった。さて、これで雪山でやる事は完全に終了だな。


「あ、話している間に6時が目前かな」

「あはは、時間切れだね。サヤ、とりあえず私達は帰還の実で森林エリアに行こう」

「うん、分かったかな」

「って事は、とりあえず一旦解散だな。夜からの集合場所は結局どうする?」

「はい! 転移の種で集合で良いと思います!」

「私もそれに賛成かな」

「その方が確実に早いもんね」

「確かにそりゃそうか」


 既に昨日の夜に更新している転移の種の登録場所があって、今日の夜はそこから先に進んで青の群集の森林エリアを目指すんだしね。それ以外の選択肢もないか。


「それじゃ夕方は、これで一旦解散! 夜からは青の群集の森林エリアを目指すぞー!」

「「「おー!」」」


 そうしてサヤとヨッシさんは6時という事で、食事の為にログアウトをしていった。俺とヨッシさんはまだ1時間はあるから、ミズキの森林まで戻って特訓だな!

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