第682話 戦略を立てて


 手早く勝ち抜いた12人……2PTと連結して、フィールドボス戦を行なう場所へとやってきた。この辺って山の下の方の傾斜がないだけの場所か。

 とりあえず氷塊を持ち上げている岩を一度地面に……下ろそうかと思ったけど、人がそれなりに多いので俺のだと潰しそうだな。ボス戦を開始したら流石に距離は取るだろうし、そのまま浮かしておこうっと。


「ここって初めて雪山エリアに来て手分けをして探索した時に、サヤ達が探索に行った周辺だよな」

「そうなのさー! 何だか懐かしい気がするのです!」

「それほど前でもないけど、あれからここも結構変わったからそんな気がするかな」

「確か、この上を少し行った辺りでサヤが――」

「ヨッシ、それ以上は勘弁かな……」

「……あはは、ごめん、ごめん」


 あー、そういやクモが現れて驚いたサヤが転がり落ちていくって事もあったっけ。いやー、何だかんだで雪山でも色々あったもんですなー。


「おっ、サヤさんが何かあったのか!?」

「……ザック、それは無神経」

「ちょ!? え、俺ってそんな変な事を聞いた!?」

「……聞かれたくない事くらい、誰にだってある」

「そりゃ確かになー! そういう事ならすまんかった!」

「まぁ……それほど大した事ではないから、大丈夫かな」

「それなら良かったぜ!」


 うん、ザックさんのこういう遠慮のないとこは嫌いでもないけど、人によっては嫌がりそうではあるね。どうやら翡翠さんがストッパーにはなってるみたいだから、大した問題にもならないとは思うけど……。

 まぁザックさんがこういう性格だからこそ、一切の失敗を恐れずにヒノノコに食われに特攻していくとかが出来るだろうなー。そういや群集内交流板でも無駄に突っ込みまくってるみたいな書き込みもあったっけ。……無駄死にが多いようで無駄死にではない人だったっけ。うん、ある意味それは凄い評価だな。


 そうしている内にラックさんがみんなの前に出てきて、こちらに向き直っていた。ふむ、雑談はこのくらいで切り上げておいた方が良さそうだな。


「それじゃフィールドボスの誕生やっていくよー! えーと、瘴気石は……ハーレに渡すのが良さそうだねー?」

「はっ!? そういえば地味に手が空いているのは私だけだー!?」

「という事で、ハーレ、これね」

「任されたのさー!」


 そうしてサヤの竜から飛び降りたハーレさんがラックさんから瘴気石を受け取っていく。今は俺とヨッシさんと翡翠さんは氷塊を持っているし、サヤとザックさんもそれぞれに成長体の敵を持ってるもんな。

 ここはハーレさんが受け取って使用するのが適任だろう。まぁ他の12人の誰かに任すというのでもありなんだけど、地味にどの人もほとんど面識が無かったりするし、今回はあくまでも俺らとザックさんと翡翠さんがメインだもんな。


「あ、サヤさん、俺の持ってるウサギを預かってもらっていいか? もう1個の瘴気石は俺が使うからよ!」

「それは問題ないかな」

「んじゃ、サヤさん、よろしく!」

「任されたかな!」


 そうしてサヤは既に持っていたタカに追加して、ザックさんから受け渡されたウサギを持っていく。……うん、クマが両手にタカとウサギを掴んでいるという光景は中々のインパクトがあるね。


「……ザック、瘴気石を持ってるのは私」

「あー、翡翠、受け渡しは可能かー?」

「……スキルの使用中はインベントリ経由でのアイテム受け渡しは無理。……少し待って」

「あ、ギャラリーの人、少し置けるだけの場所を空けてあげてー!」

「はーい!」

「おっと、俺らは邪魔か」

「今のうちに邪魔にならない位置まで退避しとくか」

「だなー」


 翡翠さんはギャラリーが退避した事で空いたスペースに浮かせてい氷塊を下ろして、ザックさんはサヤの竜から飛び降りていった。まぁそれで瘴気石の受け渡しをするんだろう。

 そういやスキルの使用中にアイテムの受け渡しってした事なかったけど、インベントリ経由でのアイテムの受け渡しは無理なんだな。まぁ何でも受け渡し可能だと流石に便利過ぎるし、出来るのは取り出した後の回復アイテムを投げ渡す程度なのかもね。


「おし、受け取ったぜ!」

「……これは先にやっておくべきだった。……改めて『氷の操作』!」

「さてと、それじゃ準備は終わったみたいだねー! 後はケイさんに任せるよー!」

「ま、俺らの戦闘だしな。それは了解っと!」


 ラックさんが指揮や案内をしてくれるのはここまでのようである。ま、ここから先の手順は分かっているし、氷塊の操作の取得をやっていこうじゃないか!


「サヤ、ウサギとタカを抑え込んでおいてくれ!」

「うん、分かったかな!」


 よし、サヤが捕まえていた2体の成長体を雪の上に押さえ付ける形で動きを封じてくれている。これで必要な瘴気石目の前に置いて食べさせればフィールドボスに進化はさせられる。

 えーと、魔法型のウサギをメインにして進化させるという予定だったから、灰のサファリ同盟から提供された+10の瘴気石はウサギに食べさせて、ザックさんと翡翠さんの持ってきた+6の瘴気石はタカに食べさせればいいな。


「ハーレさんはウサギの前に、ザックさんはタカの前に瘴気石を置いてくれ」

「了解です!」

「おうよ!」

「サヤはその直後に2体とも解放して、進化が済むと同時に竜で巻き付いてくれ。ザックさんも草花魔法で拘束を狙う感じで!」

「うん、分かったかな!」

「おっしゃ、即座に捕縛に動けば良いんだな!」

「そこから先は臨機応変に行くけど、ヨッシさんの状態異常を優先する可能性があるからその辺は気を付けといてくれ」

「了解!」

「……うん、分かった」


 さて、他の12人のメンバーについては今回は戦力としてカウントしていないからこれで問題はないだろう。ぶっちゃけ18人で戦うと完全にオーバーキルだしね。今回は瘴気石の個数集めの人数合わせだし、これで良い。


「それじゃ作戦開始!」

「「「おー!」」」

「……頑張る!」

「おう、やってやるぜ!」


 そうしてサヤがタカとウサギを解放し、ハーレさんとザックさんの置いた瘴気石に食いついていき、互いに引き寄せられ、禍々しい瘴気に包まれていく。これでフィールドボスへの進化が開始である。

 さてさて、今回の組み合わせはどんな進化になるのかな? 単純に考えるならウサギの背中に翼の生えた合成種ってとこだろうけど、実際に進化を終えてみないと断言は出来ないからね。


「あ、瘴気が晴れてきたよ」

「ザックさん、やるかな! 『略:尾巻き』!」

「おうよ! 『コイルルート』!」


 おし、薄っすらと見えてきていた敵のシルエットにサヤの竜とザックさんの根が敵を捕らえる事には成功していた。……ふむ、こんなにあっさりと捕まるとはちょっと拍子抜けだったんだけど――


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『雪山の強者を生み出すモノ』を取得しました>

<スキル『氷属性強化Ⅰ』を取得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『雪山の強者を生み出すモノ』を取得しました>

<スキル『氷属性強化Ⅰ』を取得しました>


「きゃっ!?」

「うおっ!?」

「……なるほど、進化が完全に済む前にやるとこうなるのか」


 フィールドボスを誕生させた証の称号を得た瞬間に、普通は晴れていく瘴気が爆発的に広まって拘束を強引に破っていた。進化が終わる前からそう簡単には捕まえさせてはくれないって事か。


「ハーレさん、識別!」

「了解です! 『識別』!」


 氷塊を3回はぶつけないといけないからあんまりダメージを与え過ぎてもいけないし、サヤとザックさんには継続してやってもらいたい事があるから、識別はハーレさんに任せておこう。

 それにしても……さっきの背中に翼が生えるという予想とは違って、ウサギの耳が翼みたいになって飛んでるんだよなー。……これはちょっと想定外だったし、こうなると合成種ではなく最適化の変異進化もしている可能性があるな。


「サヤはザックさんを竜に乗せて、改めて捕獲に動いてくれ!」

「分かったかな! 『略:大型化』! ザックさん!」

「おうよ! 空中で追いかけっこになるとはなー! 『並列制御』『コイルルート』『コイルルート』!」


 よし、ザックさんがサヤの大型化した竜に乗って空を飛んでいるウサギの捕獲に動き出してくれたね。……ちっ、思っていたよりもウサギの動きが早いな。あ、翼に変わった耳でザックさんの根を受け流した!? って事は回避スキル持ちか!


「識別情報です! 『雪飛ウサギ』でLv17の黒の瘴気強化種の豪傑氷飛行種です! 属性は氷、特性:は豪傑、翼化、飛翔、俊敏、回避です!」

「うげっ、完全に回避型じゃん!?」


 一応魔法型にもなってるんだろうけど、それ以上に回避に特化した特性になってますがな!? うーん、移動速度が早い種族を混ぜたのが失敗だったか……?

 いや、他に居なかったんだし、そこは気にしても仕方ない。回避型とはいえ、完全に回避する事は不可能なんだしな! 回避されるというのであれば、作戦を練って着実に当てるまで!


 とはいえ、ここからどうするかなー。少し動きを鈍らせれば、その隙を狙って捕縛して氷塊を叩きつけていけばいいけど、それをするには……。


「うわー、当たんねー!?」

「ケイ、どうすれば良いかな!? 倒すつもりで良いなら当てられるけど、それはマズいよね?」

「……確かにまだ倒すのはマズいな」


 サヤなら一気に距離を詰めて、連撃を回避させずに叩き込む事は可能だろうけど、それにはまだ早いもんな。さて、ダメージを少なくした上で動きを制限しつつ捕獲か。あー、思いついた手はあるけど、実際に可能かどうか条件もあるし、少し情報の確認が必要だな。


「翡翠さんは風を持ってたよな? 昇華にはなってる?」

「……うん、昇華にはなってるよ」

「よし、1つ目の条件クリア! ヨッシさん、あんま使ってないけど『発光針』って、切り離した後に他のプレイヤーが投げるのは可能?」

「……どうだろ? ちょっと試した事がないから大丈夫だとは言えないけど、しばらくその場には残るから出来る可能性は高いと思うよ」

「……そこは博打か。まぁ可能性があるだけ十分だ」


 よし、これで大筋の作戦は決まった。……後は、俺とヨッシさんと翡翠さんが持っている氷塊が邪魔だな。ま、これについては再度操作し直せば良いだけだから、気にしなくていいや。

 さて、サヤとザックさんがウサギを追いかけ回してくれている間に準備を整えないとね。……それにしても本当に良く避けるな、あのウサギ。あ、サヤにカウンターで蹴ってきたけど、サヤもあっさり躱してるね。


「翡翠さん、ヨッシさん、一旦氷塊をその辺に置いてくれ。それで2人で合図をしたら、風と氷でブリザードの発動を頼む」

「え、でも相手は氷属性だから、その辺の状態異常は期待出来ないよ?」

「それは承知の上。だからその前にヨッシさんの『発光針』をハーレさんに投げて撃ち込んでもらう」

「おー! ブリザードで視界が悪い中での目印にするんだねー!? でも、今の状況だと当てられる気がしないのです……。そもそも投げられるのかが分からないのです……」

「投げられるかどうかは博打になるけど、当てる為の手段としては俺が閃光を使う。それでウサギに盲目が入ったら発光針をハーレさんが投げ込んで、ブリザードで目隠し。出てきた所を俺が岩で捕まえるから、そこからヨッシさんと翡翠さんは再度氷の操作を使ってくれ」

「……うん、分かった」

「ちょっと賭けの部分もあるけど、それが良さそうだね」

「うー! 地味に私の役目が重大なのですさー!?」

「ま、ハーレさん、頑張ってくれ!」

「もちろん頑張るのさー!」


 とりあえずこれで作戦自体の考案は完了っと。敵が氷属性だからブリザードでの目くらましがどれほど通用するかという問題もあるにはあるんだけど、そこについては俺がなんとかするしかないだろう。……最悪、閃光と同時に岩の操作でなんとかするまでだ。


「……とりあえず氷塊は置いておくね」

「邪魔にならない位置で、再操作がしやすい位置にしておかないと……」


 ヨッシさんと翡翠さんが戦場のど真ん中にならなさそうで、それでいてすぐに操作が可能なくらいな距離を保って氷塊を置いていく。俺も今は岩で持ち上げてる氷塊が邪魔だから、すぐ下に置いて岩の操作を解除っと。俺の持ってきた氷塊については大きいので、多少の余波で少しくらいは砕けても問題ないからね。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 65/70(上限値使用:7)


 うーん、ボート状の岩の中に格納していたコケを増殖させたけど、表面に出てきているコケが少ないな。群体塊を使っても良いけど……もうちょい増殖させるだけにしとこうか。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 61/70(上限値使用:7)


 よし、ロブスターのハサミの表面の方までコケで覆われたし、これだけあれば充分だろう。とりあえずこれで俺の方は準備は完了したから、閃光を使う際に確実に盲目にする位置取りをしっかりしないとな。


「サヤ、ザックさん! この後に閃光を使うから要注意な! その時は方向誘導を頼む!」

「うん、分かったかな!」

「おうよ!」

「ヨッシさん、発光針の用意!」

「了解! 『発光針』!」


 そうしてヨッシさんは自分が持ってきていた氷塊に光る針を刺してへし折っていく。うん、折れた状態の針でもちゃんと光っている様子だね。

 後はこれがブリザードの中で目印になればいいけど、ここも賭けの要素だな。まぁ目印にするというスキルの特徴的に大丈夫だとは思うけど。


「はい、ハーレ」

「受け取りましたー! あ、ちゃんと投擲用に使えるよー!?」

「仕様的にはこういう使い方も想定済みだったんだな」


 こっちの賭けの要素はクリアしたし、下準備はこれで万端である。さーて、空飛ぶ逃げるウサギの捕縛作戦の開始だね!

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