第681話 氷塊の準備


 魔法や遠距離攻撃が飛び交う様子を傍目に、同行するメンバーの決定を待っているところである。まぁこれが今回の氷塊の操作の取得を狙ったフィールドボスの誕生の対価ではあるからね。こういう状況になるとは予想してなかったけど……。


「そういえば今の内にケイさん達とザックさん達のPTは、どっちか解散して1PTにまとめておいてもらえませんか?」

「……確かに今の内にやっておいた方が良いかな?」

「それもそうだなー」


 連結PTの機能としては3PTまでだから、カグラさんの言うように4人PTの俺らと2人PTのザックさんと翡翠さんの2つのPTを、1つの6人PTに統合しておいた方が良いだろう。

 別に決まった人達を分散してPTに入ってもらって、その後に連結して18人に調整するのでも良いけど、今の内に整理しておいた方が後がスムーズだもんな。となると……。


「えーと、人数的にはザックさん達のPTの方に解散してもらって、俺らの方に入ってもらった方が楽か?」

「……うん、ケイさん、それで良いよ。……ザック、PTの解散をして」

「別にそりゃ良いんだが、普通に連結で良いんじゃね? なんで解散なんだ?」

「……PT連結は18人までじゃなくて3PTまで。……バラバラにPTの人数調節をするより、こっちの方が早い」

「あー、そういやそうだっけか! いやー、完全に3PTまでってとこを忘れてたわ!」

「忘れてたんかい!」


 なんか話の流れがおかしい気はしたけども、どうやらPT連結の仕様をザックさんは完全に忘れていたようである。

 あー、でもフルの連結PTで戦う事ってそう多くもないか。未成体のヒノノコとかの周回PTとかだと、人数が少ない方が瘴気石の入手率も上がるって話だったしね。本当に連結のフルPTである18人で戦わなければならない状況というのも、現状ではあまりないよな。……って、ちょっと待った。


「……カグラさん、少し質問いいか?」

「構いませんが、どのような内容でしょう?」

「ヒノノコとかのボスの再戦だと人数が少ない方が良かったと思うんだけど、フィールドボスの方は無意味に人数を増やしていいのか……?」

「あぁ、それですか。それについては問題はないですよ」

「……ヒノノコの再戦には瘴気石は1個、だけどフィールドボスには強化済みの瘴気石が必要。……必要個数の条件が違うから、入手率が全然違う……だったはず」

「えぇ、翡翠さんの言う通りです。ただ補足しておくとフィールドボスに関しては、PTメンバーの平均LvがフィールドボスのLvより10以上離れると確定では無くなるそうですよ」

「あ、そういう仕様なのか」

「私達はLv20だから、問題なしなのです!」


 ふむふむ、そういう内容なのであれば俺らに関しては問題はないか。俺らグリーズ・リベルテのメンバーは今は全員Lv20だから、よっぽど平均を下げまくらなければ大丈夫なはず。

 それにしてもボスの再戦とフィールドボスでは瘴気石の入手率が全然違うんだな。まぁ誕生手順が全然違うんだから、当たり前といえば当たり前か。……ふむ、全員が揃わない時とかに少人数でヒノノコを倒して瘴気石の増産というのもありなのかも……?


「おし、PT解散完了っと! ケイさん、PTに入れてくれや!」

「……私もお願い」

「ほいよっと」


 とりあえず気になった事の確認も出来たし、ザックさんと翡翠さんをPTに入れて整理しておかないとね。こうしている間にも先に勝ち抜いた人を中心に連結する為のPTも組んでいるみたいだしな。


<ザック様がPTに加入しました>

<翡翠様がPTに加入しました>


 って事で、これで俺らのPTとしては整理完了! 後は他の12人のメンバーが決まるのを待つだけだけど……うわー、さっきよりも更に激しい乱戦になってるな。


「行かせるか! 『根縛』!」

「ちょ、離せ! 『重脚撃』!」

「2人揃って凍ってろ! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「……この状況で自分が動きにくくなる操作をしてどうすんだ?」

「はっ!? しまった!?」

「操作をしながら移動は地味の高難度だもんなー!」

「貰い! 『飛翔疾走』!」

「お、チャンス! 『触手伸張』!」

「って、おいこら!? 巻き付くな!」

「いやー、サンキューな! せーの!」

「あー!? 人を土台代わりにすんな!?」


 うん、それぞれがお互いの行動の邪魔をし合ったりしつつ、それを空中を駆ける事で切り抜けたオオカミの人に触手を伸ばして引っ付いたクラゲの人が、オオカミに巻き付いた触手を支点に勢いをつけて振り子の要領で大ジャンプをしてきたね。……みんな、色々やるもんだなー。


「おっしゃ、ゴール!」

「はい、これでまた1人決定ねー! 後4人だから、みんな頑張ってー!」

「負けん!」

「うー、毎度の事だけど勝てる気がしないー!?」

「……今度は募集をかける側にすっかなー」

「それもありだが、今は今の事をするまでだ!」

「はいはい、その辺もまた考慮はするけど、今は集中してねー!」


 どうもざっと見た感じでは力量が高い人から勝ち抜いていて、残っている人達はお互いに出し抜くだけの力量差はあまり差がない様子だな。まぁこういう内容であればそういう差が出ても仕方ないか。


「さて、もう少しかかりそうですし、ケイさんとヨッシさんと翡翠さんの氷塊の操作の取得に使う氷塊の確保をしていきましょうか。ラックさん、それで構いませんよね?」

「うん、それは大丈夫だよー! カグラさん、お願いねー!」

「えぇ、お任せ下さい。それでは皆さん、参りましょうか」

「ほいよっと」

「まぁ氷塊は必須だもんね」

「……うん、絶対に必要」

「それでは皆さん、私に着いてきてくださいね」

「はーい!」


 なぜかハーレさんが代表みたいな感じで返事をしているけど、まぁ別にいいや。とりあえずカグラさんの根に繋がった木の分身体のオオカミの後に続いて移動をしていく。とは言っても、目的地はほぼ目の前の凍った池だけどね。


「あ、ところでカグラさん、フィールドボス戦ってどこでやるのかな?」

「池の東側に少し拓けた場所がありますので、そこですね。まぁフィールドボスとの戦闘用に整備した場所ですが」

「そんな場所があるんだー!?」

「そういう場所が用意されているのにびっくりかな!?」

「でも、よく考えたら必要性は高いよね」

「こういうのをよくやってるっぽいし、それなら必要だよな」


 そもそもこのニーヴェア雪山はフィールドボスの誕生をさせられるエリアかつ、中立地点が作られた事でフィールドボスの誕生をさせやすいエリアとも言える。そういう面を考えると、専用で戦いやすい場所を用意するのは自然な流れなのかもね。



 そんな話をしている内にあっという間に凍った池のすぐに側にやってきた。ふむふむ、割と溶けて亀裂が入っている氷が多いようだね。まぁ日当たりの良い場所ではあるから、昼間の日光でそこそこ溶けるみたいである。


「えぇと、ヨッシさんと翡翠さんは氷の操作で持っていく事になりますよね?」

「あ、そうです」

「……うん、そうなる」

「それでしたら、氷の操作の有効範囲のギリギリのサイズの氷を操作してください。夜の日だと周りの人がその大きさに合わせて砕いたり、切断する必要もあるのですが、昼の日であれば多少溶けているので昇華の取得まで育った氷の操作であれば強引に持ち上げられますので」

「あ、そうなんだ? それなら昨日やるより、今日にして正解だった……?」

「……私はヨッシと会えたのもあるから、満足!」


 ふむふむ、夜の日と昼の日での違いってこういう所にもあるんだな。まぁここの池は思いっきり直射日光が当たってるし、氷結草の栽培には雪解け水や氷が必要らしいからね。その辺の都合にも合わせているって事なんだろう。


「で、俺の場合はどうすれば……?」

「ケイさんの場合は岩の操作や水流の操作で、そのまま持ち上げてもらえれば良いかと。氷塊の大きさについては、ヨッシさんと翡翠さんのものを参考にしていただければ大丈夫だと思いますよ」

「ほいよっと。……大きさはヨッシさんと翡翠さんのを参考にすればいい訳か」


 俺自身は氷の操作は持っていないから、氷塊を持ち上げるには他の手段は必須だもんな。まぁそれについては元々岩の操作を使ってやるつもりではいたし、氷塊の大きさの基準も目安があるなら大丈夫だな。


「んじゃ、サクッと準備を済ましちまおうぜ! いつまでも捕獲しとくのも面倒くせー!」

「あはは、まぁ確かにそれはそうかな。……弱ってきてるしね」

「もうメンバーの方も決まりそうなのさー!」


 暴れるウサギを根で締め上げているザックさんと、カグラさんから渡されたタカの脚を掴んで捕獲しているサヤをそれぞれに見てみると、どっちも暴れて最初に見た時より明確にHPが減ってるもんな。……死なせたら台無しになるから、気を遣う必要もあるか。

 それとハーレさんの言っているように残りのメンバーの決定もあと2人くらいになっているようだから、ここは手早く済ましておかないとね。


「そんじゃやっていきますか」

「そだね。それじゃ翡翠さん、先にどうぞ」

「……ヨッシ、良いの?」

「うん、良いよ」

「……ヨッシ、ありがと! ……それじゃ『氷の操作』! ……そこ!」


 お、少しどこの氷を支配するか悩んだ様子はあったけども、翡翠さんの氷の操作によって氷の塊が浮き上がっていく。

 ほうほう、形状は全然違うけど大きさ的には俺が最初に岩で盛大に転がった時のあの岩のと同じくらいの大きさか。うん、これで大体の目安が分かった。まぁ岩の操作の対象になるサイズと大体は同じようなもんか。


「それじゃ私もいくね。『氷の操作』!」

「……もうちょっと綺麗に光が乱反射するかと期待してたけど、微妙なのさー!?」

「……ハーレ、そう言われても困るんだけど?」

「ヨッシが氷塊の生成を出来るようになったら、期待しています!」

「あはは、まぁその時になったらね?」

「やったー!」


 流石に乱雑に持ち上げただけの氷の塊だと、そんなに綺麗な感じに光が通っている訳じゃないみたいだしね。透明度に関してもアイスウォールとかの方が遥かに透き通っているもんな。まぁちょっと溶けかけている天然産の氷だとこんなもんか。


「さてと、それじゃ次は俺か」

「ケイ、頑張ってかな!」

「ほいよっと」


 まぁそれほど複雑な事をする訳でもないから、頑張るって程でもないけどね。えーと、岩のボート型にしている飛行鎧の岩でやるのは……止めといた方がいいな。それで氷塊を強引に持ち上げようとしたら、場合によってはダメージ判定が出て解除になるやつだ。今はそんな無茶をする必要もないだろう。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 69/70(上限値使用:7): 魔力値 211/214


 とりあえずヨッシさんと翡翠さんが持ち上げた氷……なんというか見た目的には抉り取ったって感じの池の氷の部分は避けて、薄い岩を生成してっと。

 ……ん? 抉り取った氷の下側は凍り切っていないっぽいな。それなら、その水中から持ち上げる感じに岩を広げていく感じで良いか。


<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 50/70(上限値使用:7)


 これで生成した岩を操作して、氷の下の水中から持ち上げるように岩を追加生成! そこから氷の亀裂部分に追加生成した岩を突っ込んでいって……よし、氷が割れた! ちょっとヨッシさんや翡翠さんのよりも倍くらいの大きさになったけど、大きい分については問題なしって事で!


「……別に問題はないんですけど、ケイさん、これは大き過ぎませんか……?」

「あ、やっぱり……? カグラさん、これは半分くらいに砕いた方がいい?」

「いえ、これならこれで構いませんよ。万が一の予備になりますしね」


 ほほう、予備か。あー、まぁ天然産の氷だし、強度はそれほどないっぽいもんな。場合によっては敵にぶつける前に砕かれるという可能性もあるにはあるのか。

 あー、だから取得したい人が全員個別に氷塊を持っていく形になるんだね。魔法産ではないんだから、上手くいけば1個の氷塊を何度もぶつけるという形で流用しても良いんだろうけど、失敗した時に備えているって感じなんだろう。


「あー、そうか! 砕け散るって場合もあんのか!」

「……ちょっとそれは考えてなかったかな?」

「同じくです! でも、判定の大きさ以上の塊が残ってたら流用も出来るよね!?」

「えぇ、可能ではありますよ。ですが、大体は1発で必要な大きさ以下に砕け散りますけども……」

「それでも今回はケイさんが無駄に大きくしたのがあるのさー!」

「無駄って言うな、無駄って!」


 まったく、地味に失礼なハーレさんだな。確かに無意味に大きくしてしまった感じはあるけど、この大きさであれば一度ぶつけた後でも十分な大きさは残る……って、あれ? もしかして、運次第ではあるけどもう1人分の氷塊が用意出来る……?


「みんな、メンバーが決まったから、氷塊の用意が済んだなら集まってー!」

「あ、はーい! それじゃ氷塊の操作の取得の開始なのさー!」

「おし、やったるぜ!」

「とりあえず戦う場所に移動してから、フィールドボスの誕生かな!」


 どうやらラックさんの方でのメンバー決めも終わったようである。さて、それじゃ他のメンバーの人達のPTと連結してから、近くにあるというフィールドボス戦が行える広さのある場所に移動していこう。っと、その前に……。


「ヨッシさん、翡翠さん、操作しながら移動は大丈夫か?」

「うーん、この大きさの氷の塊の操作をしながらはちょっと不安だね」

「……私もちょっと不安」

「あー、やっぱりか。それじゃ2人は俺のロブスターの上に乗ってくか?」

「ここはケイさんの厚意に甘えさせてもらうね」

「……私もお願いする」

「おう、任せとけ!」


 操作系スキルを使いつつ移動するのは、キャラの移動操作と操作しているものの移動を同時にやる必要があるから、慣れてないと意外と難しいからなー。


 これについてはヨッシさんは多分出来るとは思うんだけどね。でも翡翠さんは普段から一緒にやっている訳じゃないから一応聞いてみたんだけど、どうやらその判断は正解だったかもしれない。

 シンプルに操作しているものの上に乗るっていう割と簡単な対策もあるにはある。まぁ今回はもうヨッシさんも翡翠さんも俺のロブスターのボート型の移動操作制御に乗ってるし、別に言わなくても良いか。


「それならハーレとザックさんは私の竜に乗っていくかな?」

「お、そりゃありがてぇ!」

「もちろん乗るのさー!」

「私は普通に走って行きますね」


 そうしてみんなでラックさんと、勝ち抜いたメンバーのいる場所へと戻っていく。さて、これからPT連結をして、フィールドボス戦で氷塊の操作の取得の開始だな!

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