第680話 手段を探って


 ザックさんと翡翠さんが用意するフィールドボスにタダ乗りするのは流石に悪い気がするので何かの対価になる依頼をしていこう。ただ、それほど都合の良い依頼があるかどうか、それが問題だな。……とりあえず考えても意味がないから、運任せで聞くだけ聞いてみないとね。


「ラックさん、ちょっと質問なんだけど瘴気石やLv20の成長体を報酬にした依頼って何かない?」

「んー、そだねー。Lv20の成長体と瘴気石の交換は今は全く意味ないよね……。それだと護衛依頼かなー? でもそれはちょっと時間がかかるし、竹はそれなりに備蓄出来てるし……。あ、モンスターズ・サバイバルの方で薪割りがあるけど……今からは微妙だし、競争率高いかー。うん、依頼自体はあるにはあるんだけどね……?」

「……今すぐにってのはない訳か」

「そういう事になるねー」


 うーん、流石に急過ぎる内容だし、これは仕方ないか。そうなるとやっぱり俺が諦めて、ヨッシさんだけ雪山を荒らすモノを使って氷塊の操作を取るのが一番なのかもなー。


「なぁ、ケイさん。何もなしじゃ納得出来ないってのなら、後払いってのでもいいぜ?」

「……ザックが珍しく良い事を言った」

「がっはっは! そうだろう、そうだろう!」

「あー、後払いか……」


 ふむふむ、俺らから後払いにさせてくれというのは絶対に無しだけど、ザックさんと翡翠さんがそれで良いのであればそれも手段の1つではあるか。……ちょっとその方向性で交渉をしてみようかな。


「後払いでって事なら、こういうのはどう? このフィールドボス戦でケイさん達が手に入れる瘴気石は全て、ザックさんと翡翠さんに提供するんだよ」

「あ、そっか。その手があったかな!」


 ふむふむ、確かにそれなら俺らが一方的に得をするという状況にはならなくなるか。うーん、でも案としては良いとは思うんだけど、まだ微妙な点もあるよなー。 


「……それ自体はいい案だと思うけど、それだと数が足りなくね? 俺らで手に入る瘴気石は4個だぞ?」

「ふっふっふ、ケイさん、それは考えが甘いよー! フィールドボスについては、フルメンバー18人でも全員に1個は入手が確定だからねー。ケイさん達、グリーズ・リベルテの取得分4個はザックさんと翡翠さんに、私達の方でPTの人数を上限まで埋めて手に入った瘴気石の提供で成長体1体を提供というのでどう? どっちにしてももう1体の成長体はいるしね」

「お、そりゃいいんじゃねぇの? 元々何かとそれを交換予定だったしな!」

「……うん。……私達もその1体の成長体は必要」


 あ、そういえば参戦した全員に瘴気石が1個ずつ手に入るんだった。これだと俺らと翡翠さんとザックさんの入手分を差し引いても、灰のサファリ同盟としては12個の瘴気石が手に入る事になる。

 それにザックさんと翡翠さんにとっても必要なのだから、この内容なら決して悪くはない……か? というか、元々狙ってたのか、この展開?


「ついでに人数が増える分だけフィールドボスのLvも上げておきたいから、灰のサファリ同盟から+10の瘴気石も提供しましょうー!」

「ラック、ドサクサに紛れて灰のサファリ同盟の人のLv上げも狙ってないー!?」

「……ぎくり。やだなー、ハーレ。そんな事はないよー?」

「別に誤魔化さなくても、それならそれでも良いんじゃないかな?」

「それもそうだよ。私達が得する要素も多いから、むしろそっちの方が気は楽かも」

「そ、そう? それなら普通に私達のLv上げも狙っていると宣言しておくねー!」


 あはは、やっぱりラックさんはラックさんで狙いがある訳か。でも、ヨッシさんの言うように灰のサファリ同盟にとっても利益があり、翡翠さんとザックさんも元々何かと交換で用意するはずだったもう1体の成長体が確保出来るから誰も損はしていない。

 俺らに求められているのはフィールドボスを倒す戦力だろう。……さて、こういう状況になったのなら断る理由も無くなったね。俺らは瘴気石は得られないけど、前払いして使ったと思えば良い話だしな。


「よし、その案に乗った! 良いよな、みんな?」

「もちろんなのさー!」

「倒すのは任せてかな!」

「これなら私もケイさんも翡翠さんも氷塊の操作を取れそうだしね」

「おっしゃ、やってやろうぜ!」

「……うん、頑張る!」


 それぞれの狙いがありつつも、全員に利点のある形になったのは良かったね。さーて、ちょっと予定していたよりも規模は大きくなりそうだけど、フィールドボスとの戦いになりそうだ。


「それじゃちょっと他の参加メンバーを集めるから、少しだけ待ってねー! あ、赤の群集や青の群集の人が混ざるのは大丈夫ー? ここ、中立地点だから私達では群集での制限はかけられないんだ」

「あ、そうなのか。それについては問題ないぞ」

「もちろんなのさー!」

「まぁ中立地点ならそういう条件は仕方ないかな?」

「出来るだけ倒す時のスキルは、隠してないやつにしようね」

「……それもそうだな」


 昨日のアーサーとの対戦ではなんだかんだで思いつきの新戦法を使ってしまったけど、対戦以外で目立ちそうな時には控えておかないと……。えーと、今回は土魔法をメインで戦っていこうかな。……もしくは光の操作という手も……まぁ実際に戦う時に考えよ。


「ザックさんと翡翠さんもそれで良いか?」

「おう、問題ねぇぜ!」

「……私も問題ない!」

「みんな問題ないみたいだねー。えっと、そういえばザックさんと翡翠さんが持ってきた瘴気石の強化っていくつ?」

「翡翠、頼んだ!」

「……説明したのに、ザック忘れてるの……? ……今あるのは+5と+6の2個」

「あー、そうだった、そうだった!」

「んー、それなら+6の方を使って、Lv17のフィールドボスにしよっかー!」

「……うん、分かった」

「おう、折角ケイさん達がいるんだしLvは高い方が良いよな!」


 まぁ確かにLv17のフィールドボスなら敵の属性や特性にもよるけど、そこまで苦戦する程でもないだろう。それになんだかんだで18人のフル連結PTになるんだし、俺らの行動値の回復もしやすいはず。


「ラックさん、瘴気石を持ってきましたよ」

「あ、カグラさん、ありがとねー!」

「いえいえ、構いませんよ。+10を1個で良かったのですよね?」

「うん、それでいいよー!」


 あ、そういや不動種は根で繋がってたら分身体でも移動が出来るんだっけ。どうやらカグラさんの根が繋がっているオオカミの姿をした氷っぽい上に木目のある木の分身体が瘴気石を運んできてくれたようである。

 ふむふむ、さっきはペンギンだったけど、今はオオカミなんだなー。移動速度を重視したとかかな? それにしても、カグラさんが持ってきた瘴気石って俺らが桜花さんから頼まれて運んできた瘴気石だったりしません? いや、別にそうだとしても何も問題はないんだけどね。


「それと成長体のタカです」

「うん、届けてくれてありがとねー! あ、誰かこのタカを預かっててくれない?」

「それじゃ私が持っておくかな」

「サヤさん、ありがとー!」


 とりあえずサヤがタカの脚をクマの手で掴んで、捕縛している。あ、ついでに竜でも軽く巻き付くようにして暴れないようにしているね。……それでも暴れてはいるけど、まぁサヤのHPはどちらも全然減っていないので問題はなさそうだ。


「捕獲してた成長体ってタカなのか」

「そうだよー! 本部とかにはもっと居るんだけど、雪山支部には今はこれしか居なくてねー」

「いつもならもう少し居るんですけど、ちょっと使っちゃいましたからね」

「……なるほどね」


 今ここに1体しかいないというのは、割と珍しいっぽい感じか。まぁそれでもザックさんと翡翠さんが捕まえてきたウサギと、カグラさんの分身体のオオカミに咥えられているタカの2体がいれば俺らが使う分に問題ないな。


「はい、質問です!」

「はい、どうぞ、ハーレ!」

「どっちがどういう属性と特性ですか!?」

「タカの方は属性なし、特性は俊敏、斬撃といったところですね」

「……ウサギは属性は氷、特性は俊敏、回避だよ」

「おー! それじゃタカは物理型で、ウサギは……バランス型と魔法型、どっちー!?」


 うーん、タカが物理型なのは間違いないけど、ウサギはハーレさんが悩んでいるように微妙なとこだな。俊敏と回避なら物理攻撃は弱そうではあるから、回避タイプの魔法型ってとこか?


 って、何やらザワザワと声が聞こえ始めてきたんだけど、何かあったのか……って、俺らの方に向かってやってきてる人達が結構いる!?

 あー、これってさっきラックさんが募集をしてた参加メンバーか。……どう考えても空きの枠の12人分よりも人が多い。まぁただのギャラリーも混じってそうだけど……。


「氷塊の操作狙いの人がやるフィールドボス戦の早いもの勝ちって、ここか!」

「いやっほー! まだ集まってる人は少ないねー!」

「12人までって話だったよな。早いもの勝ちだ!」

「おい、他の機会でフィールドボス戦に参加した奴はちょっと自重しろー!」

「わっはっは! ここでのルールは早いもの勝ちだー!」


 って、全群集の人がごちゃまぜで思いっきり競争になってますがな!? え、この状況って大丈夫なのか!? なんかかなり気合が入ってる気もするんだけど。


「さーて、私はゴールの設定をしてこようかなー!」

「ラック、ゴールって何するのー!?」

「んー? 岩を地面に生成してゴールラインを設定するだけだよ。そこから、通り抜けた先着順に12人を参加にするからね」

「あれ? ラックさんは参加しないのかな?」

「あはは、どちらかというと私はまとめ役の方だからね。こういう時は自重してるんだ」

「あ、そうなのかな」

「という事で、ちょっと行ってくるねー!」


 そうしてラックさんは走ってきている人達の方へと向かって小走りで駆けていく。そして適度に拓けている場所で立ち止まって、こちらに向けてやってきている人達の方に向き直っていた。


「みんな、注目ー! これから岩の操作でゴールラインを作るから、それを超えた人が参戦ねー! あ、妨害自体はありだけど、他の人を仕留めた人は参加資格は剥奪だよー! それじゃ『アースクリエイト』『岩の操作』! はい、開始!」


 お、一直線に薄い岩を生成してゴールラインを用意した上で、それを見渡せるように高めの台も一緒に生成したのか。ラックさんはその台の上から見下ろして判定をするつもりみたいだな。


「ふはははは! くらえ、『棘杭』!」

「なっ!? くそ、行かせるか! 『アースプリズン』!」

「……『保護色』『飛翔疾走』!」

「隠れさせないよ! 『看破』!」

「……くっ!」

「ここは貰った! 『魔法砲撃』『並列制御』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリエイト』!」

「「「ぎゃー!?」」」

「はい、そこの昇華魔法を使った人は仕留めちゃったから失格ねー!」

「あー!? しまった!?」


 あーうん、なんだか思っていた以上にカオスな状況になっている……。でも、これって地味に楽しそうではあるよな。

 模擬戦機能の候補の中にレース型のもあったけど、実際にやるとしたらこんな感じになるのかもしれないね。……これは正式な機能として本格的に実装して欲しい気もしてきた。後々で全部を実装する可能性もあるみたいだし、ちょっと期待しとこ。


「はい、そこの2人はゴールだね! ちょっと邪魔にならない位置に避けといてー!」

「おっしゃ、勝ち抜き!」

「おう!」


 そうして、風の昇華魔法をぶっ放して失格になった人の昇華魔法を回避した2人がゴールをしていた。……昇華魔法の直撃は免れたものの、余波の影響を受けた人の方が多かったみたいである。

 さて、もうちょい見ていたい気もするけど、今のうちに決めておくべき事があるかんだよな。あっちはラックさんに任せて、それを決めておこうっと。


「とりあえず決めといた方が良いとは思うんだけど、フィールドボスの進化の方向性はどうする? ウサギをメインにして魔法型にするか、タカをメインにして物理型にするか……」

「はい! ウサギをメインで魔法型が良いと思います!」

「ハーレ、その理由は?」

「多分タカをメインにしたら、飛んで厄介だと思うのです!」

「でも、ウサギはウサギで回避性能が高そうじゃない?」

「そこはケイさんの操作系スキルがあるから、大丈夫だと思います!」

「俺に丸投げかい!?」


 でもまぁ元々飛んでいるタカをメインにするよりは、基本的には飛ばないウサギの方が捕らえやすそうではある。……まぁ進化する事でウサギでも飛ぶ可能性もあるけど、回避性能が高いからといって絶対に当てられない訳じゃないからね。

 それに丸投げとは言ったけども、ある意味では信頼の証でもあるもんな。俺自身も氷塊の操作を取りたいというのはあるけど、ヨッシさんと翡翠さんには確実に氷塊の操作を取らせてあげたいしね。そうなってくると……。


「……ザックさん、根での拘束は行けるか?」

「おう、行けるぜ! それに毒もあるから、行動阻害も任せとけ!」

「状況異常については私もやるからね」


 ザックさんの根の拘束と毒や、ヨッシさんの毒と電気による麻痺があればどれかは多分効果があるだろう。……流石に敵が氷属性になるから、凍結や凍傷は無効だろうなー。


「よし、それじゃウサギをメインに魔法型に進化させるって事で!」

「「「おー!」」」

「おっしゃ、やるぜー!」

「……ザック、今回は無駄に死なないでね?」

「おう、そのつもりだぜ!」

「……死んだら放置するから」

「それで構わねぇぜ! 今回は死なねぇけどな!」

「……ならいいよ」

 

 何というかザックさんと翡翠さんの会話を聞いていると、普段はどれだけザックさんは死にまくってるんだろう……? まぁ死ぬ事が条件になる進化も存在してるんだから、それが全面的に悪い事とも言い切れないけどさ。

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