第657話 氷結洞を通って


 予定していた対決が終わり、ジェイさんと斬雨さんと一緒にもう1つの予定の赤の群集の森林深部エリアと青の群集の森林エリアの隣接している場所へと向かう事になった。

 とりあえずみんなで中立地点の青の群集の割り当て場所に向けて氷結洞を移動中である。俺らは小型化したアルに乗り、そしてなぜかジェイさんが俺の上に乗っていた。


「えーと、ジェイさん?」

「あぁ、私の事はお気になさらずに」

「いや、無理だから!?」

「……ふむ、このコケがジャック達の言っていた閃光用の仕込みですか。……ですがそれだけだと移動操作制御は解除になるはず……。これはまだ何かありますね?」

「あ、それを探るのが狙い!? これ以上は探らせないって!?」


 なんで乗ってきているのかと思ったけど、思いっきり分析されてますがな!? 昨日の戦闘の時の閃光は移動操作制御を解除してから発動したから、閃光に使ったのはそのコケじゃないけどね。……普通に使われそうだから言わないけど。


「……まぁ多少は参考になりましたし、これくらいにしておきましょうか。魔改造の余地があるのがよく分かりましたしね」

「……元々はジェイさんの真似だから別に良いけどさ」

「それは何よりです」


 はぁ、流石にジェイさん相手ではこういう時に神経を使うね。別に悪い人ではないんだけど、中々に情報面では侮れない人である。……とりあえずこれ以上探られる前に飛行鎧は解除しとくか。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 46/69 → 46/75(上限値使用:1)


 よし、飛行鎧の解除は完了っと。まぁこれでジェイさんが改良を加えてくるなら、俺もそれを分析して取り入れるまで! ふっふっふ、情報を取られるだけで終わらせる気はない!


「それにしても、随分と通りやすくはなったもんだな」

「これならアルさんも元の大きさに戻しても良いんじゃない?」

「あー、まぁ前回来た時でも通れたから問題はないんだろうけど、余裕があるって訳でもないしな。おっと、すみません」

「あ、こちらこそ失礼しました」


 おっと、前から来た青の群集のクマの人とすれ違いになったか。どこも通りやすいように整備されてはいるけど……あ、いや、まだ整備中って感じの場所や、邪魔な岩や氷柱を撤去している最中の人もいるね。

 まぁ整備されていても、されていなくても、流石にアルのクジラのサイズじゃ余裕があるとは言えないもんな。人の行き来が増えているなら小型化している方が無難か。


「少し青の群集側の方が整備は遅れてるのかな?」

「まぁそこは否定するだけ無意味ですか。……それについては、灰のサファリ同盟の方々の影響が大きいのですよ」

「おー、灰のサファリ同盟のみんなが頑張ったんだー!?」

「やはり灰のサファリ同盟は地形の加工には手慣れていましてね。聞きましたよ、灰のサファリ同盟の本拠地にはプレイヤーが作り上げた池があるそうですね?」

「あー、うん、まぁ、そうなるなー?」


 それ、一番初めに作ったのは俺達なんだけどね。まぁその後に完成させたのも、更なる拡張をしたのも灰のサファリ同盟の人達だけど。なるほど、あの経験がこの雪山の中立地点の整備にも役立ったのか。


「どうもケイさんの反応が妙ですね? ……さてはその池とやらはケイさんが作ったものですか?」

「さーて、何の事やら……?」

「……まぁ良いでしょう。大体その反応でケイさんが元だというのは見当がつきましたしね」

「不思議なもんだよなー。戦闘中だと何を考えてるのかさっぱり分からねぇのに、そうでない時は分かりやすいってもんだ」

「それがケイさんなのさー!」

「ま、違いないな」

「それについてはみんなの共通見解かな」

「まぁ、ケイさんのは分かりやすいよね」

「味方が誰も居なかった!?」


 いや、そこはもう少し誤魔化すのに協力してくれるとか、何かしらフォローをしてくれるとかをしてくれても良いんだよ? ……うん、この辺については今までの経験上、期待するのが間違いだな。ま、流石に初対面の相手にそういう扱われ方をされるのは嫌だけど、みんなからなら悪意があってやってる訳じゃないのも分かるし別に良いか。



 そんな風に雑談をしながら氷結洞を通り抜ける為にどんどん進んでいく。そういやジェイさんと斬雨さんが一緒に来るという事もあって、本来の予定だった転移の種を使って川下りをしていた平原とは違う経路で行く事になったけど、その辺の詳しい情報が欲しいとこだね。


「ジェイさん、ここからだとどのくらいの時間がかかるんだ?」

「……そうですね。天気やメンバーにもよりますが、1〜2時間といったところでしょうか」

「おー!? 結構かかるんだねー!?」

「この先にある森がちと厄介な性質があってな。その先の平原も広めではあるし……そういやケイさん達はどの辺まで移動してたんだ?」

「そういえばその確認をしていませんでしたね。大雑把でいいので、位置を教えていただけますか?」

「ほいよっと。えーと、この雪山やその手前の雪に覆われた森が薄っすらと見え始めたくらいだったはず?」


 正確には覚えてないんだけど、確かそのくらいだったはず。あ、違う。そこら辺を過ぎた辺りで黒い方の進化記憶の結晶の欠片をハーレさんが見つけて、少し遡って羅刹とイブキと戦闘になった辺りだから……あ、結局は遡ってるからその辺で良いのか。


「思った以上に進んでねぇな……」

「……そうですね。距離的にはここから行くのと対して変わりはありませんか」

「あ、そうなんだ」


 ふむふむ、まだあの平原の全体像は全然掴めていないんだけど、それらを知っているジェイさんと斬雨さんがそう言うのであればそうなんだろうね。


「ま、あの時は進化結晶の結晶を探しながらだったしな」

「あぁ、それなら仕方ないですね。……時間があればにはなりますが、道中に光る方の進化記憶の結晶のある場所もありますが、そちらは寄りますか?」

「お、マジか! それは行きたいな!」

「……私から言っておいてなんですが、誰かが取った後で生成中という可能性もありますからね、ケイさん」

「あ、そういやそういう可能性もあるのか」


 光る方のやつは時間経過で一度手に入れていない人が再入手可能になるやつだから、そういう可能性は常にあるんだよな。ま、確保出来る状態であるかどうかは運次第ってとこか。


「でも、それって私達が聞いても良かったのかな?」

「それについては問題ありませんよ。既に灰の群集の方も取りに来ている場所ですので」

「それなら納得かな」


 灰の群集でも把握済みの地点なら既に群集クエストのカウントにも含まれているって事か。まとめ機能を確認すれば、既にその位置情報についてはまとめられてそうだね。……今日は厳しいかもしれないけど、明日くらいには判明済みの場所を確認するのもありか。


「さて、そろそろ着くぜ」


 その斬雨さんの言葉とほぼ同時に、以前来た反対側の出入り口へとやってきた。あの時は急いでいたから細かくは見てなかったけど、よく見てみると雰囲気自体は灰の群集の割り当てになっている側の入口に結構似ているんだね。


「ジェイさん、青の群集はここで氷柱の採集をしてる感じ?」

「えぇ、そうですよ。ここを出たところでは、灰の群集と同じように氷結草の栽培もしてますからね」

「青の野菜畑の人達がやっているのかな?」

「青の野菜畑が主体となって青のサファリ同盟での共同してやっている感じですね。まぁまだ灰のサファリ同盟ほどの生産量はありませんが、それでも必要量は賄えていますよ」

「ほうほう、なるほどね」


 俺らの灰の群集では灰のサファリ同盟が主体となって生産をしてるけど、青の群集については青の野菜畑の人達がメインでやってるんだな。この辺は群集によって結成されている共同体の違いってとこなんだろう。


「ジェイ、あんまりここでのんびりしてても意味ないだろ。サクッと雪山と森を抜けて平原まで出ようぜ」

「……それもそうですね。皆さん、それで宜しいですか?」

「問題なしなのさー!」

「うん、私も大丈夫かな」

「あ、ちょっとだけ良い?」


 おっと、みんな問題無しかと思ったけど、ヨッシさんから何かあるようである。……ん? あー、基本的に灰の群集の割り当て場所と同じ事をしているみたいだし、なんとなくヨッシさんの言う事の予想がついたね。


「どうかしましたか、ヨッシさん?」

「えっと、無理にとは言わないんだけど、氷塊の操作を取らせてもらえないかなって思ってね? あ、駄目なら駄目で良いんだけど」

「なるほど、そういう事ですか……」

「ジェイ、それくらいなら良いんじゃねぇか? 中立地点では群集を理由にその手の事を拒否するのは無しって話だろ?」

「まぁ、それはそうなんですが……ヨッシさん、その辺りは順番待ちになっている可能性もあるんですが、その場合はどうします?」

「え、順番待ちとかになってるの?」


 あらま、流石に順番待ちが発生しているとは予想していなかったな……。それほど氷属性持ちは多くないって聞いたような気もするけど、その辺は気のせいだったのか?


「悪い、ジェイさん。俺は氷属性は少ないと聞いた覚えがあるんだが、それでも順番待ちが発生してるのか?」

「少し前まではそうだったんですが、この雪山に中立地点が出来た事で2ndで氷属性のキャラを作る人が増えてきていましてね。フィールドボスを生み出せるエリアという事と、荒らすモノの称号が狙えるという事と、氷塊を用意出来る事と、周囲の手伝いがあれば氷の昇華無しでも取れるという事で、取りたいという人が多くてですね」

「え、そんな事になってんの!? てか、昇華無しでも取れるってどういう事……?」


 氷の昇華なしでは氷の塊を扱うのは無理なはず……? ……ん? いや、それだと俺の岩の操作だって取れないって事になるよな。周囲の手伝いがあればって事は……あ、そういう事か!


「それについては――」

「あー、ジェイさん、それは自己解決。要するに既に氷塊の操作を持ってる人が雪山の上とかに移動させて、そこから突き落とす感じで氷の塊をフィールドボスに当てるなり、荒らすモノの称号を取ればいいんだな?」

「……ご明察の通りですよ、ケイさん。流石は似たような手段で岩の操作を取っただけの事はありますね」

「……そりゃどうも」


 環境こそ違うものの、やってる事は俺が岩の操作を取得した手段と同じって訳か。……そうなると俺も氷塊の操作を狙ってみたくもあるけど、順番待ちが発生するのも仕方ないか。


「ヨッシさん、悪いけど氷塊の操作はまた今度にしよう。今から順番待ちは流石に予定から外れ過ぎるしさ」

「……それもそだね。うん、それじゃまたの機会にだね」

「えぇ、それが良いでしょう」


 ま、必ずしも今日中に手に入れなければならない訳じゃないし、今日は元々の予定を優先しないとね。でもどこかのタイミングで取りに来たいスキルではあるよな。


「そういう事なら俺がログインしてない時にでも取ってきたらどうだ?」

「あ、その手があったか!」

「え、良いの、アルさん?」

「俺には必要ないスキルだし、今日こうやってここには全員で来れたしな。新しく進出する場所は一緒に行くが、それ以外はな?」

「……それもそだね。うん、アルさん、ありがと」

「良いって事よ! その分、強化を期待してるからな!」


 全員が揃って行くのを確定しているのは誰もまだ行っていない所だけだから、今日この中立地点にみんなでやって来たからその制約は外れるんだな。まぁアルが気を遣ってくれているという側面もあるんだろうけど、ここは素直に甘えさせてもらうのが良さそうだ。


「うん、分かった。そういう事なんだけど、サヤ、ハーレ、ケイさん、明日の夕方に付き合ってもらっていい?」

「それは勿論かな!」

「ヨッシの希望を断る理由は欠片もないのです!」

「俺も良いぞって事で、全員が賛成だな。それじゃ明日の夕方はヨッシさんの氷塊の操作を取りに行くぞ!」

「「「おー!」」」

「ま、頑張ってくれよな」


 これで明日の夕方の目的が1つ決定だな。場合によっては俺も取れなくはないけど、それに関しては順番待ちの状況を見て考えるか。


「相変わらず、仲が良い事ですね」

「ま、良いんじゃねぇの? いがみ合って騒動が起こるよりは遥かによ?」

「……確かにそれはそうですね。とりあえず話はまとまったようですし、皆さん、先に進みますよ」

「「「「「おー!」」」」」


 ヨッシさんの希望はこれからすぐにとはならなかったけども、それでも氷塊の操作の取得に関する状況が分かったのは収穫だね。


<『ニーヴェア雪山・氷結洞』から『ニーヴェア雪山』に移動しました>


 そうして氷結洞を抜けて、ニーヴェア雪山の南側へと辿り着いた。そこには灰の群集の割り当ての場所と同じように多くの氷結草の栽培用のかまくらが作られていた。

 そしてその先には雪に覆われた針葉樹の森林が広がっている。さてとこれからこの森を抜けて、その先の平原まで行くんだな。さー、頑張っていくぞー!

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