第656話 対決が終わって
予定していたアーサーとの対戦も終わり、蒼華さんの松からアーサーが復活してきていた。ほうほう、不動種の方がリスポーン場所として指定できる人数が多いはずだし、もしかすると赤のサファリ同盟は本拠地この場所に植わっている蒼華さんの松の指定しているのかも?
パッと見で鳥の巣っぽいのは見えているし、樹洞の中に入ればサヤのクマの寝床みたいなのが色々あるのかもしれないな。地味にキノコも生えてるのか。
「お疲れ様、アーサー君。とりあえずこれを飲んでおきなさい」
「あ、ありがとうございます、シュウさん!」
「思ったよりは健闘したんじゃねぇか、アーサー!」
「そうだね。まだまだ実用段階に達していないけど、それでもそれなりの成果は出ていたと思うよ」
「やった! ガストさんとシュウさんに褒められた! ……でも、コケのアニキには全然勝てなかった」
「あー、アーサー、それは気にすんな? ケイさんが相手だと俺でも勝てるか怪しいからな」
「赤のサファリ同盟の中でケイさんに勝てる可能性があるのは半分くらいだろうしね。まぁまだまだアーサー君のはスキル強化が追いついていないから、これからだよ」
「だそうですよ、アーサー。私も次はサヤさんにリベンジとなりますし、一緒に頑張りましょうか」
「うん! 水月、一緒に特訓しよう!」
とりあえずアーサーは、俺の少しやり過ぎた感のある攻撃で倒された事を気にしてる様子はなく、シュウさんから渡された何かを飲んでいる。まぁタイミング的に氷結草茶なんだろう……って、俺もそろそろ新しく飲まないと時間切れが近いな。
それはそうとして、思いっきり会話の内容が聞こえているんだけど、俺と同等な戦力が赤のサファリ同盟の半分くらいって地味に恐ろしくない!? いや、確かにルストさんとかガストさんとかが相手だと俺も勝てるかどうか怪しいけどさ!?
あー、でも全員が全員、対人戦に出てくる訳じゃないのか。赤のサファリ同盟で対人戦に出てきそうな人は数人はいるけど、ルストさんは出てきそうな気配はないもんな。
要注意なのは違いないけど……いや待てよ、もし対人戦をするっていう条件で半分だとするともっと恐ろしいんじゃ? 戦わない人をカウントしているのか、していないのか、それによって大きく意味が変わってくるね……。
さて、恐ろしい可能性はとりあえずどうにもならないし、いつまでも突っ立ってないで、みんなのとこに戻っていくか。あ、流石に大型化したままは面倒だから、大型化……というかいらないやつは全部解除しとこ。
<『大型化Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 4/27 → 4/65(上限値使用:11)
<『魔力集中Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 4/65 → 4/68(上限値使用:8)
<『魔法砲撃Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 4/68 → 4/69(上限値使用:7)
よし、とりあえず色々解除して、元の大きさに戻ったのに合わせて飛行鎧のサイズも調整してっと。飛行鎧についてはアルの背中の上に乗ってから解除すればいいだろう。
という事で、みんなの元へと移動していく。あ、ハーレさんは既にアルのとこまで移動して、竹の器を抱えて何かを飲んで……っていうか他のみんなも飲んでるね。
まぁ一緒のタイミングで氷結草茶を飲んだんだから効果時間切れも同じタイミングになって当然だな。
「はい、ケイさん、氷結草茶ね」
「お、サンキュー、ヨッシさん」
「ケイ、お疲れ様かな」
「相変わらず、ケイさんは敵対認定した相手には容赦がないのです!」
「流石にここの壁面で摩り下ろすとは思わなかったぞ、ケイ」
「いやいや、この場合は変に手を抜く方がアーサーに失礼だろ!?」
全力で戦うと言っておいて、思いついている手段があって、それを出し惜しんで知られている手段だけで手抜きをして勝つというのはなぁ……。フラム相手ならそれでも別に良いけど、自分を慕ってくれている相手が全力で戦いたいっていう時には出来ないって。
……ちょっとあの手段は別の意味でやり過ぎた感はするけども。いや、でもさっきの様子を見た限りでは問題なさそうだったし、大丈夫なはず! ……うん、やっぱりあれは有効とはいえ、基本的にプレイヤー相手にやるのは無しかもしれない。
「ま、そういう事にしとくか。実際、そうみたいだしな」
「……ん? やけにあっさりと認めるんだな、アル」
「まぁな」
「ケイ、後ろかな」
「……後ろ? あ、アーサーか」
いつの間にやらアーサーがすぐ後ろまでやってきていたようである。なんだかやる気に満ち溢れているような雰囲気がしてるな?
「コケのアニキ、今日は対戦ありがとうございました!」
「お、おう! ……なんかさっきのはやり過ぎた感があって、何とも言い難いんだが……」
「あれくらいなら、俺は大丈夫!」
「アーサーがそれで問題ないなら良かったけど……」
「俺は変に手加減せず、遠慮なく戦ってくれて嬉しかったよ!」
「……なるほどね」
さっきはやり過ぎた感じがしてたけど、アーサーにとっては俺が手を抜かずに相手をしてもらった事自体が嬉しかったのか。……こうも慕われると、どうもむず痒いね。ま、嫌という訳でもないけどさ。
「よし! 機会があればまた相手はしてやるぞ、アーサー!」
「え、やった! 次はコケのアニキに有効打を入れれるように頑張る!」
「おう、期待してるぞ!」
「コケのアニキ、またね! 弥生さん、シュウさん、ガストさん、特訓お願いします!」
「おうよ!」
そうしてアーサーは赤のサファリ同盟のメンバーが集まっている所に戻っていった。フラムとは違って、アーサーは自分から特訓をしてもらっているみたいだし、向上心は強いみたいだね。
まぁそれはそれで良いとして、アーサーと話している間に俺を挟み込むようにやってきているジェイさんと斬雨さんがものすごく気になるんだけど!? まぁなんとなく用事は想像がつくけど、それは少し待って欲しいとこである。
「さて、それではケイさん、今日こそは来てもらいたいので一緒に行きましょうか」
「つっても、ジェイ。今日これからだと、時間は間に合うか?」
「……少し厳しいでしょうが、まぁ青の群集の森林エリアの手前のエリアくらいまでなら何とか行けるでしょう」
「あー、俺らを迎えに来たってのは分かったけど、ちょっと待った!」
「……おや、何か問題がありましたか?」
あー、うん、俺らに確認を取っていないという点は問題があるとは思うけど、その前にまだやるべき事があるからね。それだけでもさせてもらわないと困る事になる!
「シンプルに氷結草茶の効果が切れそうだから、とりあえず新しいのを飲ませてくれ!」
「……それは確かに問題ですね。これは失礼しました」
「そりゃ放置したら死にかねないから、問題大ありだよな!」
思いっきり斬雨さんが笑っているけど、冗談抜きで雪山の寒さで死にかねないからね!? とにかくヨッシさんから渡された氷結草茶を飲んで、雪山への適応をし直していく。……よし、これでもう大丈夫だな。
「ふー、とりあえずこれで一安心っと。……で、さっき会話を聞く限り、ジェイさんと斬雨さんは俺らと一緒に行動して、青の群集の森林エリアまで行くつもりって事でいい?」
「えぇ、その認識で構いませんよ。ケイさん以外の方には既に了承は取っていますので、後はケイさん次第ではありますが」
「え、いつの間に!?」
「おう、サヤさんとアルマースさんとヨッシさんには、見学しながら俺の方で了承は取ったぞ」
「ハーレさんには私の方で先程、了承を頂きましたよ」
「後は俺だけかい!」
PT会話で断片的に聞こえていたのかもしれないけど、実況の声やギャラリーの歓声とかもあったから普通に聞き逃していた可能性が高いな。まぁ順番的にやろうと思えばこうなるか。
「私達は良いと思ってるけど、最終決定はケイにお願いかな?」
「ほいよっと。ジェイさん、1つ確認」
「なんでしょうか?」
「移動経路はどうなるんだ? 俺らはあそこの平原の川沿いに転移の種を設定してるんだけど、ジェイさん達はそうじゃないよな?」
「あぁ、その事ですか。それについてはこの中立地点の南側……要するに青の群集の割り当てになっている側の出入り口から南下していく予定です」
「アルマースさんから聞いたが、ここから南にある雪に覆われた森は見たんだよな? あそこを突っ切って行くんだよ」
「あー、なるほど、そういう経路か」
確かにあの平原を川沿いに下っている時にこのニーヴェア雪山と、その手前の雪に覆われた森も見たもんな。ふむ、青の群集の人達がここの中立地点まで来る経路にはなってそうだし、それなら俺らとジェイさんと斬雨さんで一緒に移動する事も可能だろう。
そういう事なら転移の種を使わずに、ジェイさんと斬雨さんに先導を頼んで行くというのもありか。……場合によっては進化記憶の結晶についての情報交換をするのも良いかもしれないね。
「およ? ケイさん達とジェイさん達は移動の算段ー?」
「あ、レナさん。ま、そんなとこだな」
「そっかー。これから集まってる人達で希望者を募って、第3戦目をやろうかと思ってたんだけどなー」
「あー、続きをやるんだ?」
「うん、そだよー! まだみんな盛り上がってるしねー!」
ふむふむ、色々とみんなが賑やかな様子であるのは気付いてはいたけど、内容についてはスルーしてたんだよな。ちょっとどんな会話をしているのか、ちゃんと聞いてみるか。
「工夫次第で色々出来るもんだな」
「うー! 見てたら戦いたくなってきたー! 誰でもいいから勝負しよー!」
「おっしゃ、受けて立つ!」
「いや、お前らどっちも赤の群集じゃねぇか。模擬戦でやれよ」
「はっ、それもそうだった!?」
「んじゃ、青の群集か灰の群集のやつ、かかってこいやー!」
「お、やっちゃう?」
「あー、私はパス!」
「……うーん、俺は悩むなぁ」
「おし、それならば俺が受けて立つ!」
「いや、そこは俺が!」
「……仕方ない、それならば俺が行こう!」
「いやいや、待てって! そんなに立候補するなら俺だって!」
「「「どうぞ、どうぞ!」」」
「って、おいこら!?」
「いやー、これはちょっとやってみたかった!」
「だなー! ま、今のは冗談だから普通に俺もやるぜ」
「でもそうなると人数が多くね?」
「はーい、そういう希望が多いなら組み合わせをあみだくじで決めようかー! 蒼華、氷であみだくじは作れる?」
「あまり多くのものは無理ですが、少しくらいのものなら可能ですよ」
「それじゃ当たりって分かりやすい目印を2ヶ所に作ってくれる?」
「えぇ、分かりました。『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
「さてと、当たりは隠さないとねー! 『闇纏い』『闇の操作』!」
ふむふむ、何かしょうもないやり取りが紛れていた気もするけど、そこはまぁスルーでいいや。軽く内容を確認しただけだけど、結構な人数がこのまま対戦の続行を希望しているのは間違いなさそうではあるね。
その要望に合わせて赤のサファリ同盟の方で、最下部を闇で隠した氷製の立体的なあみだくじまで作ってるしね。ふむふむ、何事も使い方次第ってとこか。
「とりあえずこんな感じだけど、ケイさん達は参加せずに切り上げるって事でいい?」
「あー、うん。まぁちょっと伸びに伸びてる予定があるし、痺れを切らしたジェイさんが迎えに来てるしな」
「あはは、そういやそんな事も言ってたっけ。ま、そういう事なら仕方ないねー! それじゃ今日はここでお別れさー!」
「そういう事になるか。それじゃレナさん、またな!」
「レナさん、またねー!」
「他のみんなによろしくかな!」
「機会があったら、俺らも今度は参加させてもらうぜ」
「うん、アルさんの言う通りだね。今度はチーム戦も面白いかも?」
「お、ヨッシさん、その案はいいねー! とりあえずこれから色々弥生たちと試してみて、改めて機会を用意するのがいいかなー? ま、それについては今度って事で! あと青の群集のでの実況の権利について、使う時はわたしの方で調整を手伝うから、必要な時は言ってねー!」
「ほいよっと」
そうしてレナさんは慌ただしく、取りまとめをしている弥生さん達の方へと駆けて行った。……少なからず、このまま参戦していきたいという気持ちもあるけど、それは流石に迎えに来ているジェイさんに対して悪いからね。
そういえば、模擬戦機能のテスト実装の後半内容って共同体によるプレイヤー主催の対決イベントとかじゃなかったっけ? 違う群集を相手でやってはいるけど、今やっている事がそれに非常に近い気もするね。……まぁ、それについては続報が出てから考えればいいや。
「さてと、それじゃとりあえず南側の出口に向けて出発しますか!」
「「「「おー!」」」」
「それでは案内しますので、皆さん着いてきてくださいね。『移動操作制御』!」
「おっ、早速ケイさんの真似か、ジェイ?」
「岩を飛ばしていたには私の方が先ですけどね!?」
「おー、怖!?」
「馬鹿なことを言ってないでさっさと行きますよ、斬雨!」
「ほいほいっと」
そんな風な会話をしながら俺らはアルの背中の上に乗り、ジェイさんと斬雨さんが先導となって赤のサファリ同盟の本拠地になっている広い空洞を出ていく。さてと、この雪山が中立地点になってからだとジェイさん達の方が道には詳しそうだから、道案内は任せておこうっと。
それにしてもあの雪の覆われた森を進んでいくのかー! 前に来た時に見るだけは見たけど、実際にそのエリアへ行くとなるとワクワクしてくるね。さて、どんな感じなのか今から楽しみだ!
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