第655話 ケイとアーサーの対決 後編


 俺の発動したアップリフトによってアーサーは洞窟の天井に叩きつけられ、今は朦朧になった状態で落下し始めている。うーん、サヤが対決した際に叩きつけた辺りの氷柱はほぼ無くなっているから、流石に氷柱で串刺しとはいかなかったな。

 さて、とりあえず追撃をしていく為に飛行鎧も展開したし、追撃をやっていくかな。……とは言っても、行動値が有り余ってる訳ではないから、どう行くか……。


「ここでケイ選手が岩の鎧を身に纏い、アーサー選手に追撃するべく飛び上がっていったねー!」

「……あれは私が使っていたものを鎧風にアレンジしたものでしょうか? ふむ、この空中での飛行速度と安定性は中々……後で私も試してみましょうか」

「解説のジェイさん! 分析も良いですが、1人で納得してブツブツと独り言をするのは控えるようにお願いしますー!」

「あぁ、これは失礼」

「ぷっ! ジェイ、注意されてやんの!」

「うるさいですよ、斬雨!」


 まぁジェイさんの岩の操作を使って浮いていたのとか、その岩に斬雨さんが突き刺さっていたのとかを参考にはしているからね。うーん、迂闊にジェイさんにはこの機動力を見せるべきではなかった? ……もう遅いか。

 

「うっ、コケのアニキは凄い……! でも、まだだ! 『アースクリエイト』『重突撃』!」

「おっと!」


 おー、アーサーが落下している途中に小石を生成して、それを足場にしてスキルを発動してきたか。ただ、流石にこれは苦し紛れってとこだな。

 その突撃をサッと躱して、アーサーはそのまま地面に勢いを増して突撃……いや、違う!? さっきの移動操作制御での岩が、別の位置へと動いてる!?


「『コケ渡り』『猪突猛進』!」

「ちっ、それが残ってたか!」


 くそ、コケ付きの岩の移動操作制御は勝手にもう使えないと思い込んでた! 狙いは俺への攻撃ではなくて、また猪突猛進で走り回っていく状況に戻す為か。まぁ空中だとアーサーは間違いなく不利だもんな。


「アーサー選手はケイ選手の意表をついて、地上に戻る事に成功したねー!」

「コケ渡りといい、グリースで滑る事といい、イノシシの猪突猛進は扱い辛いとは聞いていましたが、うまく補っているものですね」

「さぁ、アーサー選手! ここから飛んでいるケイ選手に反撃となるかー!?」


 猪突猛進で走り回り、グリースと移動操作制御の岩で方向を変え、今はしてないけどそれらと同時にチャージを行うのがアーサーの今の戦法ってとこか。しかも移動にはコケ渡りも組み込んでいるとはね。やっぱり赤のサファリ同盟で鍛えられただけの事はありそうだ。


「あー、コケのアニキはやっぱり強いなー。ここからどうしよ……」


 さて、何やら困ったように呟いているアーサーだな。どうやら地面へ降りたものの、空を飛んでいる俺に対して有効な手段は持ってないっぽい? 手段としては移動操作制御の岩に乗ってくる事だろうけど、それはいくらなんでも分かりやす過ぎるもんな。

 流石に土の昇華までは持ってないとは思うけど……いや、少なくとも岩の操作は持ってそうだし油断は禁物だな。アーサーの場合だと、土の昇華で俺のように岩で鎧を作るのとかは効果的ではありそうだし、飛翔疾走を持っている可能性もある。……問題はそこまで育成が進んでいるかどうかか。


 とりあえず念の為、現時点で有効な手段である移動操作制御の方を無効化しておくか。ただ今は魔力値は使い切ってるから、直接攻撃しにいかないと駄目なんだよな。……うーん、ちょっと手順をしくじった……いや、そうでもない? ふむふむ、少し位置をズラせばサヤが落としていない氷柱もあるからこれを使うか。


<行動値を3消費して『連殴打Lv3』を発動します>  行動値 19/65(上限値使用:11)


 ササッと氷柱が残っている位置に移動して……さて、まだ実戦でろくに使った事のないスキルだけど、使ってみようじゃないか。狙いは天井から伸びていて、サヤに落とされずに残っている氷柱! 右のハサミを振り被ってー、3連打! あー、全然見当違いの方向に……。


「わっ!? あ、でも大丈夫……あー!?」

「……あっ。……作戦通り、無力化成功!」

「コケのアニキ、それは絶対嘘だー!?」


 うん、思いっきり全然違う方向に飛んだ殴り飛ばした氷柱だけど、他の氷柱に当たってそれが運良くアーサーの移動操作制御の岩の上に落下したからね。ふっふっふ、運も実力の内ってな!


「えー、何やら思いっきり単なる偶然によってアーサー選手の移動操作制御が破られましたねー。うーん、アーサー君、今のは仕方ない!」

「……そうですね。今のは、ただ単に不運だったとしか言いようがないでしょう」

「アーサー君、どんまいです!」


 あ、流石に実況組も今のは運が悪かったとして、アーサーに慰めの言葉を……って、実況が話しかけてくるのってありなのか!? ……まぁ気持ちは分からなくもないし、戦闘中にアドバイスをして不公平な状況にしてる訳でもないから、これくらいならいいか。


「あー! とりあえず意識を切り替える! 『飛翔疾走』『激突衝頭撃』!」

「やっぱりあったか、飛翔疾走!」


 この可能性は考えていたけど、大当たりだったか。でも猪突猛進の効果と、グリースによる方向転換が出来なくなった事で走る軌道は随分と大回りだな。


「さぁ、ここで空中戦へと突入したねー! これをどう見ます、解説のジェイさん?」

「これはアーサー選手の方が不利でしょうね。猪突猛進による攻撃と移動速度の強化はかなり有用ではありますが、それ故に足を止められないという非常に大きなデメリットが存在しますからね」

「かなり大回りで駆けてるもんねー! これはアーサー選手にとって厳しい戦いになると思います!」

「私も同感ですね。飛翔疾走も同様に止まれないという性質はあるので相性自体は悪くはないのですが、1対1で、空中での機動力の高い相手ともなると厳しいでしょう」


 うん、まぁ俺が感じている事を大体実況の方で言ってくれた感じだな。アーサーの戦法は決して悪くはない。悪くはないんだけど、あと一手、あの大回りの軌道を変化させる何かが欲しいってとこだな。

 さて、これ以上は何も出てきそうにないし、そろそろ仕留めるか。……とはいえ、何で仕留める? まだ魔力値はほぼ回復していないから、使える手段は限られるからな。……よし、決めた!


 チャージをしながら空中を駆け回るアーサーへと一気に距離を詰めて、イノシシの背後側へと回っていく。さーて、ただ単純にスキルの威力だけでは削り切れそうにないから、他の要素も使うまで!


<行動値上限を38使用して『大型化Lv1』を発動します>  行動値 19/65 → 19/27(上限値使用:49)


「わっ!? コケのアニキが大きくなった!」

「悪いな、アーサー。これで終わりだ」


 おっと、ちょっと大型化したら飛行鎧が窮屈になったので、大きくなった状態に合わせて飛行鎧も大きくしてっと。……よし、これでいい! それにしてもかなり消耗してからの発動だから問題はないけど、大型化の使用コストは多いなぁ……。


「おーっと、ここでケイ選手が一気に距離を詰めて大型化をしてきたねー! これで勝負を決める気かなー?」

「……大型化すれば攻撃の威力は増しますが、それだけでアーサー選手の残り3割のHPを削り切れるでしょうか?」

「アーサー選手も慌てているようです! 果たして、ケイ選手はどう攻撃を仕掛けるのでしょうか!」


 ハーレさんがゲストではなく第2の実況者になっている事はもうツッコまない! そこは気にしたら負けな気もするし、今は勝負の大詰めに集中!

 なんだかんだで軌道が大回りだから予測して追いかけているけど、猪突猛進での移動速度の強化は凄まじいな。大回りでなければ予測してイノシシの背中に張り付くように飛び続けるのは地味に難しいぞ。


「逃げ切れない!?」

「逃さねぇって!」


 ただイノシシの背中側に張り付いて追いかけているだけでは倒せないけど、ここからが最後の仕上げだ。ま、アーサーに逃げ切られたらこれからする事は実行不可能なんだけど、なんとか追いつける範囲で良かったな。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 4/27(上限値使用:49)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を2消費して『強連打Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 2/27(上限値使用:49)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 今のアーサーが発動してチャージしているのは頭突き系統の応用スキルだから、有効範囲は頭部だけ。とはいえ、少しでも狙いを外せば俺の万力鋏もチャージも途中で中断になるからここは左のハサミで先に頭部に連打を叩き込んだ上で、右のハサミでアーサーのイノシシの首を挟んでいく。

 これでアーサーのチャージの妨害と、身柄の確保が完了! ま、まだ猪突猛進の効果があるようだけど、そこも折り込み済みだから問題なし!


「あっ!?」

「さーて、覚悟は良いか、アーサー!」

「……え? う、うわー!?」


 とりあえず銀光を放ち出した右のハサミでアーサーの首を抑えて逃げられなくし、飛行鎧で飛ぶ方向を変えて、洞窟の側面へとアーサーを押し付けていく。


「ちょっ!? コケのアニキ!?」

「さーて、頑張れよ、アーサー。壁を走りきれなくなったら、洞窟の壁で摩り下ろされるぞ?」

「えー!? わっ、わっ、わっ!?」


 ふっふっふ、行動値が足りなくて削りきれないなら、地形を利用してダメージを増やすまで! そしてその間に万力鋏のチャージが徐々に進んでいくというおまけ付き! 


「アーサー選手はケイ選手の容赦のないエゲツない攻撃に抗うのに精一杯だねー! さー、どこまで猪突猛進で壁を走り続けられるのかー!?」

「……この手段が有効なのは認めますが、弥生さんの言うようにエゲツない攻撃ですね。もう少し穏便なやり方もあったのではないでしょうか?」

「対戦相手には一切容赦のないのがケイさんなのさー!」

「……そういえばそうでしたね。私自身、経験した事があるのを失念しておりましたよ」

「いやー、聞くだけは聞いていたけど、ホントに容赦がないねー!」

「それは弥生さんが言ったら駄目だと思います!」

「……ここはハーレさんに同意ですね」

「……あはは? さー、この勝負の決着は果たしてどうなるのかー!?」


 あ、思いっきり弥生さんが最後は誤魔化したね。……うん、エゲツないって言われ過ぎな気がするけど、少なくとも本位ではないとはいえ大虐殺をやった弥生さんには言われたくはない。ついでにジェイさんも割とエゲツない作戦を立ててきたりもするんだし、人の事は言えないよね。

 そしてハーレさん、誰の味方だよ!? いやまぁ、割とエゲツない手段を使っている自覚はあるけど、まだもう1手あったりするんだよね。


「あっ!?」

「あぁー! ここでアーサー選手が耐えきる事が出来ずに、洞窟の壁面へと押し付けられたー! そして少しずつだけど、明確にHPが減っていっているねー!」

「ふむ、思ったほどはHPの減りは激しくはないようですね。……首を挟んでいる万力鋏の威力次第では、僅かにHPが残る可能性もありそうです」

「確かに微妙なとこだねー!?」


 うん、その可能性は考えていた。だからこそ、もう1手のエゲツない手段は考えてある。それを実行に移すには――


<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>


 チャージの完了が必要だと思っていた所で、チャージが完了したね。そんじゃ、トドメと行きますか!


「あがっ、がっ、ぐっ……がっ!」


 なんかアーサーの言葉になっていない言葉が聞こえているけども、そこは気にしない方向で! 押さえつけている向きを変えて、洞窟の天井へとアーサーを摩り下ろしながら移動していく。


「おぉーっと!? ここでケイ選手に更なる動きが出ましたー!」

「……あぁ、なるほど。不足分のダメージはその様に補うつもりですか。……理には適っていますが、さっき以上に容赦がありませんね」

「ジェイさん、それはどの様な手段でしょうか!?」

「すぐに現実のものとなりますので、見た方が早いと思いますよ」


 ふっふっふ、ジェイさんの言う通り、もうこの手段はあと少しで実際のものとなるからね。……よし、洞窟の天井まで移動したので、トドメの攻撃を開始する!

 まずはアーサーと俺が頭から落ちるように天井から離れていき、一気に飛行鎧で加速していく。……タイミングを外せば俺自身もダメージは無くても確実に朦朧は避けられないからそこは気を付けて……よし、今だ!


「コ、コケの、アニキの……全力……」

「……ちょっとやり過ぎた?」


 チャージを終えた万力鋏でアーサーの首を切断するダメージを与えて、俺自身はそこで急停止してアーサーをそのまま地面に叩きつけたけど、流石にやり過ぎたかな? まぁ全力でという話だったしなー。

 とりあえず俺は万力鋏の発動直後に、即座に離脱したので無事である。そしてHPの無くなったアーサーはポリゴンとなって砕け散っていった。


「ケイ選手がアーサー選手共々に地面へと急降下していき、応用スキルでの攻撃の直後に地面へと強烈に叩きつけていったー!」

「やはりそうしましたね。容赦の無さを度外視すれば、どれも地形を利用した非常に有用な戦法ではあったでしょう。それにもし称号の取得と重なれば、複数の操作系スキルも手に入るのではないでしょうか?」

「あ、そだねー! 氷柱を使ったから氷の操作はいけるし、地面や壁面でもダメージを与えていたから土の操作もだねー!?」

「えぇ、そうなりますね。まぁ対人戦での称号というのはまだ確認されていないのであまり意味はないですが……」

「そういやそういう称号は聞かないねー? あ、ルストー! 決着の号令をお願いー!」

「あ、はい! この勝負、ケイ選手の勝利となります!」


 何やら少しぼーっとしていたルストさんが、俺の勝利宣言をしてくれた事でアーサーとの対決は終了となった。

 今回の対戦はエゲツないとは言われまくったけど、アーサーが思った以上に強くなってたからなー。あんまりアーサーに余裕を持たせたくなかったってのもあるんだよね。……次にアーサーと対決する事があればもっと苦戦しそうな予感もしてるし……。


「これにて本日の予定分の対戦の実況は終了となりますー! 実況は赤の群集の『赤のサファリ』所属の弥生と!」

「解説は私、青の群集のジェイと」

「ゲストは灰の群集の『グリーズ・リベルテ』所属のハーレにてお送りしましたー! 途中で私も実況してたのは大目に見てくれるとありがたいです!」


 そんな挨拶で、今回の実況は終了となった。てか、ハーレさん自身もゲストではなく、実況してた自覚はあったんだな。……まぁ誰からもツッコミや文句は出ていないので別に良いか。

 さて、とりあえずこれで予定していた対戦は終了っと。まだ9時半くらいだし、もう1つの後回しにしまくってた探索の方をやっていかないとね。

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