第654話 ケイとアーサーの対決 前編
俺とアーサーの対決の番という事になったので、他のみんなは距離を取って見学中である。そして協議の結果、弥生さんが実況、ジェイさんが解説、ハーレさんがゲストという事になった。
てっきりハーレさんが実況をするのかと思ったけど、弥生さんがする事になったというのは意外だったね。というか、普通に赤のサファリ同盟からは弥生さんだった。相談してた風に見えたのはもしかしてフラムとかとのPT会話だったとか……? まぁ、それはいいか。
流石に斬雨さんはこの状況ではジェイさんとは離れていて、普通に空中に浮かんでいる。……ふむ、さっきまでは全体像が見えていなかった斬雨さんの様子は見れたけど、ジェイさんのカニみたいに目に見えた変化はなしか。
てか、ジェイさんが岩の操作で実況席みたいなのを即興で生成してるんだよな。ジェイさんは岩製の机の上に直接乗っているけど、弥生さんとハーレさんにはそれぞれの高さに合った椅子代わりの土台も用意して、その上に座っているようになっている。
「さてと、それじゃ選手の紹介をしていくよー! 西に控えるのは赤の群集の『赤のサファリ同盟』所属のアーサー選手だー!」
「えー、アーサー選手についてはイノシシとコケの融合進化という事のようですね。融合進化で変化したスキルについては癖が多いものが多数ありますので、その辺りに注目です」
「えーと、ゲストだと何か勝手が違うねー!? えーと、えーと、これはまだ言うのは早いから……赤のサファリ同盟の成長株のアーサー選手に注目さー!」
あー、うん、何だか普段は実況の主導権を握っているハーレさんだけど、今回はゲストっていう立ち位置になって、何を言っていいのか盛大に迷ってたな。ハーレさん自身が主導権を握っていない場合だと戸惑うというのは意外というか、普段とは雰囲気の違う様子が見られたものだね。
それにしても、目の前で実況となるとギャラリーの盛り上がりも凄いな。みんなから歓声は上がるし、果物や焼き魚や焼いた肉などを食べながら完全に寛いでいるし。あ、カキ氷を食べてる人も結構いるっぽい。
「さー、次の選手の紹介だー! アーサー選手に対するは、灰の群集の『グリーズ・リベルテ』所属のケイ選手ー! 今回はケイ選手をアニキと慕うアーサー選手の挑戦となっております!」
「おや、その様な関係性なのですか。進化の方向性は違いますが、同じコケを扱うプレイヤー同士で、慕う者と慕われる者の対決というのは見所がありますね」
「言いたかった事が先に言われるのさー!? 師弟対決……ではないけど、因縁の……でもないね!? ともかく、注目の一戦なのです!」
見事にハーレさんの調子が狂っているみたいだけど、たまにはこういうのも良いか。何もかも自分の思った通りにはいかないという事もあるからね。……まぁそれについては色々とあったし、ハーレさんはよく知っているか。
でもどういう協議の結果でそうなったかは分からないけども、そこら辺は俺がどうにか出来る事でもないからね。ハーレさん、頑張れ!
それはそうとして、俺とアーサーは向かい合った状態で待機をしている。今回もサヤと水月さんの対戦と同じように、ルストさんが審判役をしてくれる事になったしね。
「ケイさん、アーサー君、準備はよろしいですか?」
「問題ないよ、ルストさん!」
「俺も問題なし。いつでも良いぞ」
「コケのアニキ、全力で行くからね!」
「おう、かかってこい!」
「それではお二人の健闘を祈ります。……試合開始!」
そうしてルストさんの合図によって俺とアーサーとの勝負が開始になった。さて、一切の手加減抜きで相手をしようじゃないか!
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 75/75 → 74/74(上限値使用:2)
とりあえず夜目の発動だけだったから、魔法砲撃を発動しておいてっと。アーサーは物理型の筈だから、一気に昇華魔法で削るか……?
「『増殖』『増殖』『グリース』!」
ほほう? 融合種になったコケでも着火する潤滑油を生成するグリースが使えるのはベスタとの戦いで分かっていたけど、アーサーの初手がこれってのは意外だったな。でも地面にまでコケを増殖させているけど、何を狙っている……?
「アーサー選手が背中のコケを増殖させて、それを滑りやすくしたねー! ふむふむ、これは何かの下準備かー!?」
「へぇ、いきなり突撃するかと思いましたが、これは意外ですね。ですが、いまいち意図が読みきれません。これでは自身が動きにくくなるだけの筈ですが……」
「アーサー選手が何をする気なのかが気になりますね!」
ま、確かにそれは気になるけど、それの完成を待つ気はない。さて、どう攻めるか。初手から昇華魔法をぶっ放してもいいけど――
「『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』」
おっと、風属性で攻撃速度を上げる気か。うーん、何かを企んでるっぽいけど、これは妨害をしておくべきだな。
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 67/74(上限値使用:2): 魔力値 191/212
よし、これでアーサーに付与魔法をかけたから、強制的に水属性へと変化させられる。これで風属性の移動速度の上昇は抑えられるはず。アーサーが使ったのは魔力集中だけど、突撃系の攻撃だと全身での攻撃だから、普通に移動速度が上がりそうだしな。
付与した3つの水球の1つがアーサーの魔力集中の属性を上書きしていくように、青色のオーラへと変化させていき、残りの2つの水球は周囲を漂ったままである。
魔力集中か自己強化が発動中ならそれに属性を上書きなんだな。まとめでは纏属進化みたいな見た目になるってあった気がするけど、それは魔力集中や自己強化を使っていない場合か。
「やった、狙い通り! 『群体同化』『移動操作制御』『猪突猛進』『砲弾重突撃』!」
「あ、今のはわざとか!?」
しかも猪突猛進で勢いをつけつつ、コケを増殖させた地面ごと浮き上がらせて増殖させたコケのグリースを使ってわざと滑る事で方向転換をしていた。
ほう、そういう使い方もありか。……発想としてはアルの木をサヤが引っ張ってた頃に、滑る為に俺がコケを使っていたやつと同じ方向性だな。
「お、どうやら今のはわざとケイ選手の付与魔法を受ける為に発動した風属性の付与みたいだねー! これはケイ選手の主力である水魔法に対する耐性を得る為かなー?」
「おそらくそうでしょうね。それにしても、自分の意思では止まれなくなる猪突猛進の方向の誘導の為にグリースで滑りますか。これは中々面白い使い方をしますね」
「アーサー選手はチャージをしながら、減速せずにどんどん勢いと銀光が共に増していくー! さて、これをケイ選手はどう対処するのかー!」
「その対処方法もまた見所だねー! さー、ケイ選手はここからどういう対処をするんだろうねー!」
「……実況が2人になってませんか? ……いえ、まぁ別に構いませんが」
うん、ジェイさんのそのツッコミには同意だけど、地味にアーサーのこの戦法は油断出来ないな。……周囲をかなりの速度で走っているし、それに合わせてグリースの発動しているコケを地面ごと移動操作制御……多分だけど岩の操作で動かしているのが厄介か。
やはりアーサーは思った以上に成長しているみたいだし、水属性への耐性を得る為にわざと付与魔法を使わされるとは思わなかった。ま、それならそれでやりようがあるから別にいいや。……よし、今思いついたのでやってみよ。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 66/74(上限値使用:2): 魔力値 188/212
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 47/74(上限値使用:2)
とりあえず下準備として、右のハサミを覆うような形で大きな槍状の岩を生成していく。まぁこれは本命ではないので、中は空洞にしておいてっと。
ぶっちゃけ、アーサーの表皮を覆っているコケにもグリースの効果がかかっているから、これだけだと角度をズラされればあっさりと回避されるだろうしね。
「ここでケイ選手はロブスターのハサミを覆うように岩の巨大な槍を生成したねー! ジェイさん、これだけだと甘い気もするけど、どう見ますか?」
「……そうですね。ただの岩の槍であれば、アーサー選手の今の動きを見る限りでは回避は簡単でしょう。ですが、ケイ選手の操作の水準を考えれば、グリースで滑らない垂直方向への攻撃も可能なはずです。……それだけとも思えませんが、現時点では何とも言えませんね」
「さぁ、そうしている間にもアーサー選手のチャージも完了しようとしているー! 解説のジェイさんもでも読み切れないケイ選手はこれから何を仕掛けるのかー!」
もう完全にハーレさんまで実況をしてんじゃん!? ……弥生さんが止める気配もないし、それならそれで別に良いけどさ。
それにしてもジェイさんは俺が何かを企んでいるのは予想はしてるけど、具体的に何をするかまでは判断しきれてないんだな。……さて、アーサーもそろそろ攻撃を狙ってきているし、タイミングが重要だから集中していくか。
「いっけー!」
おっ、アーサーは移動操作制御の岩の向きを変え、グリースで滑って方向転換をして真正面から俺の生成した岩の槍へと突っ込んで来た。そういう真正面から挑んで来るのって嫌いじゃないぜ、アーサー! だからこそ、ここは全身全霊で応えるまで!
その次の瞬間にアーサーの頭に狙いをつけていた岩の槍を本当にぎりぎりの位置で、表面のコケで滑らせる事でアーサーは完全に回避していく。……なるほど、俺だって本命でないとはいえ甘い狙いにしたつもりはないけども、そこまで見事にぎりぎりで回避をするか。
「やるな、アーサー!」
「俺だって特訓したからね!」
ははっ、こりゃ思った以上の成長だな! ただ単純に防壁魔法を使って凌ぐ事は出来るけど、おそらくこれだけの勢いなら破壊される可能性が高いし、そこからの追撃もあるだろう。って事で、本命を行きますか!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を20消費して『闇の操作Lv2』は並列発動の待機になります> 行動値 27/74(上限値使用:2)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 25/74(上限値使用:2): 魔力値 185/212
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
「えっ!?」
操作中の岩の槍で横殴りして、思いっきりアーサーの表皮のコケで滑らせてたタイミングで岩の槍を解除して、即座に中に用意していた空洞の闇を支配下に置き、アーサーを包み込んでいく。ふっ、殴られると思ったのが全く違った様子になって戸惑ってるな。
そしてそれと同時にアーサーの目の前にただの砂も生成しておいた。……よし、チャージの銀光は消えたので、作戦成功っと。チャージの応用スキルはこうやって無効化するのみ!
「……それなら! 『コケ渡り』!」
「甘い!」
<行動値上限を3使用と魔力値6消費して『魔力集中Lv3』を発動します> 行動値 25/74 → 25/71(上限値使用:5): 魔力値 179/212 :効果時間 14分
魔力集中は先に発動しておかなければ後々困るので、とりあえず先に発動しておいて……。よし、大急ぎで次!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 24/71(上限値使用:5): 魔力値 176/212
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 22/71(上限値使用:5): 魔力値 173/212
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
<『昇華魔法:アップリフト』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/212
アーサーが群体同化でコケ渡りの準備をしていたのは確認していたし、移動操作制御で抉り取った地面以外にコケを残していたのは見落としてはいない。
それに直前で使った移動操作制御の岩の表面のコケは方向的にアーサーの視界には入っていないはず。そうなれば、初手で用意した増殖のコケを使うのは自明の理! そもそもこの空洞は凍りついている場所だから一般生物のコケは存在していないから、狙う場所はただ1ヶ所!
「うわっ!?」
そんなアーサーの声と共に、隆起した地面の直撃を受けて吹き飛ばされて、天井に叩きつけられている。アップリフトは見事に直撃したし、今の内に追撃をしていくぞ……って言いたいけど、アップリフトの効果が切れるまではまだ動けない。
「アーサー選手の裏をかいた、カウンターが見事に決まったー! ケイ選手、これはお見事! 具体的に何が起こったのか、解説のジェイさん、よろしくお願いしますー!」
「……また手段が増えたのかという個人的なツッコミは控えておくとしましょうか。やっている事は至極単純ではありますね。闇の操作で視界を遮り、チャージ攻撃を無力化する為の砂で標的を生成しただけですね」
「その辺りは弥生さんがよく使っている手段だよねー!」
「うーん、一応そうなるけど、使い方としては性質が異なるねー」
「えぇ、そうなるでしょう。弥生さんの手段は攻撃の手の内を隠して奇襲に使う事ですが、今のケイ選手の手段は敵の意表をつき無力化を狙ったものです。似てはいますが、攻撃的な使い方と防御的な使い方という面では大きく違いますね。それにしても比較的明るいこの場所で、あのように操作する為の闇を作りますか……」
あはは、まぁその辺はその通り。さてと、どうやら思いっきりアーサーに朦朧が入ったようで、アップリフトの効果が切れると同時に落下してきているね。……行動値が心許ないけど、アーサーのHPは6割以上は削れている。さて、ここから削り切るのはやり方次第か。
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 22/71 → 22/65(上限値使用:11)
よし、これで飛行鎧の展開は完了! 光の操作は今は使い道がないから放置で、とりあえずコケの増殖は岩の鎧の内側にしておいてっと。
さー、それじゃ後半戦と行きますか! って事で、落下してきているアーサーに向けて飛行開始!
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