第653話 引っかき回されて
俺とアーサーの対戦についてはそれぞれ樹洞の中で遮音設定にして実況をするのではなく、大々的に外にギャラリーが集まった状態でやる事に決まった。ま、これはこれで見られながらの戦闘に慣らすという意味でも良いのかもしれないね。
「おや、少し呼ばれてやってきましたが、面白い話をしているではありませんか」
「こりゃ面白ぇ組み合わせじゃねぇか、なぁジェイ」
「えぇ、同感ですよ、斬雨」
「げっ、ジェイさん!? なんでここに居るんだ!?」
「『げっ』とは失礼ですね、ケイさん。ここは中立地点で、各群集の割り当て地点へも出入りは自由になっているんですから、私が居てもおかしくは無いでしょう?」
「……あ、それもそうだった。すまん、ジェイさん」
「……いえ、素直に謝ってくれるのであれば構いません」
ふー、唐突にジェイさんと斬雨さんが現れて気が動転して、少し失礼な事を言ってしまった。これは猛省しておかないとね。それにしても神出鬼没な登場だったな。……まぁただ会話をしていて、誰かが入ってくるという状況を全くの考えてなかったってのもあるけど。
改めてジェイさんと斬雨さんを見てみると……あれ? ジェイさんの土台であるカニの色が赤くなってる……って事はカニが火属性に変わったのか? 近接は得意じゃなさそうだったジェイさんだし、近接は斬雨さんに任せて完全に後衛型に切り替えた?
斬雨さんの方はこれと言って特に変わった様子はない……というか、ジェイさんの生成している岩に刺さっている……いや、収納された状態でタチウオの頭の部分しか見えていないからよく分からん。
「あー、とりあえず青の群集もこの対戦の中継や実況に混ざりたいって事で良いのか?」
「基本的にはその認識で構いませんが、主には実況の方ですね」
「……なるほど」
まぁこの中立地点で赤の群集と灰の群集だけでお祭り騒ぎをしているのなら、少しでも参加したいと思ってきても不思議ではないな。ただの見物だけなら既に青の群集の人もいるけども、堂々と分析をしながら解説も含めてやっていきたいってとこか。
うーん、あのジェイさんだしなー。ただ実況に加わりたいというのではなく、ドサクサに紛れて知らない情報を探る為という事はありそうではある。……でも、逆に言えば俺ら灰の群集が知らない情報が出てくる可能性もあるからなー。それに俺だけの問題ではないから、俺が独断で決められる話でもないか。
俺としては……まぁ、実況を拒んでもジェイさんと斬雨さんは見物はしていくだろうし、そういう意味ではこちらからも情報を引き出せる可能性のある実況にジェイさんを混ぜた方が良いような気もするけど……。よし、ここは共同体のチャットでみんなに相談しよう。
ケイ : 緊急作戦会議、始めるぞー!
ハーレ : おー! それで具体的にどんな内容ですか!?
サヤ : 私はケイの判断に任せるかな。
ケイ : いきなり丸投げ!?
ヨッシ : あはは、まぁ私も同じくだね。
ケイ : ヨッシさんまで!?
あれ、ジェイさんへの対策会議のつもりだったのに、思いっきり丸投げされて全然対策になってないぞ……? くっ、ここはアルに託すしか!
アルマース : ま、ジェイさん達が関わるのは別に良いんじゃね? ちょっと気になる点はあるにはあるが、その辺は赤のサファリ同盟が何か話し合ってるっぽいしな。
ケイ : ……え? あ、そういや誰も何も言ってこないな?
あまり気にしてはいなかったけど、確かに弥生さんやもう1人の対戦の当事者であるアーサーや保護者である水月さんが何も言ってこないのも変ではあるか。……あー、今の俺らみたいに共同体のチャットで相談中なのかも?
あ、そうしている内に弥生さんがジェイさんの方へ向かって歩き出している。ふむ、この感じだと赤のサファリ同盟としての結論は出たっぽいね。
「ジェイさん、ちょっと良い?」
「弥生さん、何でしょうか?」
「多分言わなくても分かっていると思うけど、この対戦では赤の群集も灰の群集も少なからず手の内は晒しているし、互いの群集で条件付きで中継を解禁しているんだよねー。普通に見ていくだけなら何にも言う気はないけど、後から来て実況に混ぜろとなると『ご自由にどうぞー!』とも言いにくいんだけど、その辺りはどうなの?」
「それは弥生さんの仰る通り、そのままでは筋が通らないですね。……それでは後日、青の群集も赤の群集と灰の群集に対して今回の件と同様な形で中継を許可するというのはどうでしょう? もちろんその際は青の群集からの中継は拒否していただいて構いません」
おっと、これは思った以上の折衷案か。……いや、具体的な中継の相手の対象の指定がないから、微妙? うーん、その辺は俺の方から突いてみるか。
「んー、なんで後日かなー?」
「あぁ、それはですね。昨日はこちらも色々あって仕方なかったですが、来ると言いながらいつまで経っても来ない方々を迎えに来たという事もありましてね?」
え、思いっきりジェイさんがカニの向きを変えてこっちを見てきてるんだけど!? 俺らが今ここに居るって話を聞きつけてやってきたっていうのがジェイさんの本命の用件か!
「この対戦が終わったら、今日こそ行く予定だから……」
「そう言いながら、何かに遭遇してまた延期とかになりそうなんですよね、ケイさん達の場合は……。青の群集の森林まで来ると言いながら、私達は数日待ちぼうけですし」
「うぐっ!?」
そう言われると否定するだけの要素が見つからないなくて反論出来ない!? そもそも今日の雪山の中立地点に来るのも、かなり予定がずれ込んだ結果だし……。
「ま、これでもジェイなりの気遣いってやつでよ! 色々企んじゃいるが、素直に遊びに来てほしいってのが――」
「斬雨、余計な事は言わなくても良いですから!」
「あっはっは! なるほど、そういう事かー! ふーん、ジェイさん、ちょっとこっち、こっち」
「……何でしょうか、弥生さん?」
「いいから、いいから。ちょっと耳貸して……って、耳はどこ?」
「えぇと、ゲーム的にはどこでも問題はありませんが……」
「あ、そっか。それでなんだけど…………で、それ…………にして…………可能?」
「……そう……ね。…………次第で…………すが、可能………はありますよ?」
何か弥生さんがジェイさんと小声で何かを相談しているけど、内容が聞き取れないな。……何かちょっと嫌な予感がしてきた。
開きっぱなしになってる共同体のチャットにアルが書き込んでるな。どれどれ……?
アルマース : なぁ、ケイ。あれって、俺らの誰かと青の群集の誰かの対戦を組んで、それを赤の群集で中継とか考えてるんじゃないか?
サヤ : あ、それはありそうかな!
ケイ : あー、確かにその可能性はありそうだな。
ヨッシ : でもそれなら断れば良いだけじゃない?
ハーレ : そうなのです! 嫌なら断れば良いだけなのさー!
ケイ : ……それもそうだな。
仮にアルの推測通りだったとしても、俺らが了承しなければ済む話ではある。……まぁその辺は推測でしかないし、もし本当にそういう話が出てきたらその時に考えれば良いだろう。
ただ、まぁ対戦してみたい相手というのはいない訳じゃないから、その相手次第でもあるんだよなー。……うん、そこが罠になりそうな気がするから、要注意しておこう。
「あ、ケイさん、罠にハマって中継する事になったら、わたしの方に連絡よろしくねー! 灰の群集の方はわたしの方で手配するからさー!」
「レナさん、俺が対戦して、中継になるのを確定みたいに言わないでくれない!?」
「あはは、ケイさんとジェイさんのコケ対決も見てみたくてねー!」
「……いや、確かにそれは俺もやってみたいけどさ」
ジェイさんのカニにも変化があるし、地味に今の実力が未知数になっているから確認してみたいとこではあるんだよね。……その辺は後でジェイさんに確認してみるか。
「うんうん、それじゃもしそういう事になったらよろしくね、ジェイさん」
「えぇ、了解しましたよ、弥生さん」
「あっ、ごめん、その前に聞き忘れ。アーサー君はそれで良い? それとケイさんもだね」
「俺はそれで大丈夫! コケの兄貴はどう!?」
なんだか俺を放置気味で話が進んでいたけども、ちゃんとそこは確認してくれるんだね。まぁ意思を無視されて決定される訳ではなくて一安心だけど、ジェイさんが来てから大きく予定が変わったなー。
「……ジェイさん、1つ確認しときたい。中継の対象になる対決の指定はどうなる? 流石に青の群集が関わってるって理由で、対戦の当事者の意思を無視して無条件で中継を許可するって訳じゃないよな?」
「……やはりそこはスルーはしていただけませんでしたか」
「あ、目の前で相談したのは失敗だったかなー?」
「やっぱりそこが罠だったか!?」
やっぱりジェイさんと弥生さんは、ここで今のを確認していなかったら俺らと対戦を組んで、それを赤の群集の指定する中継にするつもりだったな!? でも、今のでちゃんと言質は取ったから俺らへ対戦の申込みを頼まれたとしても、青の群集の中継だから無条件で赤の群集の中継の権利を行使という事は出来なくなったはず。
「……まぁ、流石にそれは冗談という事で」
「割と本気っぽかった気もするんだけど!?」
「やだなー、ケイさん。本気なら本当に気付かれないようにこっそり手を打つよー?」
「えぇ、バレバレで仕込んでも仕方ないですしね」
「……今の一連の話すら罠な気がしてくるんだけど……」
えー、ちょっと弥生さんとジェイさんのこの会話が地味に怖いんですけど……。いや、でも悪質なのを仕掛けてくるような事はないはず!
「どう考えるかはケイさんにお任せしますよ。話は戻しますが、対象につきましては中継そのものは構わないという方であれば、ご自由に指定出来るという形で説得させていただきます。中継は嫌だという方もいますので、その辺はご了承ください」
「……なるほどね。ちゃんと俺らに拒否権はあるんだな」
「ケイさん達が対象になるかは分かりませんが、まぁそうなりますね」
「さっきまで弥生さんと一緒にその方向を目論んでたよね!?」
「……さて、何の事でしょう?」
バレバレって自分で言ってたのに、思いっきり誤魔化してきたー!? やはりジェイさんが絡むと情報戦では油断が出来ない……。アーサーとの対決の準備をしようとしてたのが何がどうしてこうなった!?
そういえば、よく考えたらこの後に目指していくのは赤の群集の森林深部と青の群集の森林が隣接してる場所なんだから、中継を行うエリアを赤の群集の森林にしてしまえば、隣の青の群集の人も気軽に見に行けるんだよな。
「……やっぱり実況の参加を断る方が正解か?」
「それならそれで私は構いませんが、一方的に分析させていただきますよ?」
「ほんと、情報戦になると厄介だよな、ジェイさん!?」
「いえいえ、どこからともなく新情報を掘り出してくるケイさん程ではありませんよ」
「……はぁ、まぁいいや。青の群集の対決を条件付きとはいえ、中継の権利を貰えるならそれでいいよ」
「ケイさん、ありがとうございます」
色々とリスクもあるけども、極力まだ他の群集に見せていない手段を中心にアーサーと戦っていけばいいだろう。……ま、ジェイさんもコケではあるし、アーサーもコケとの融合進化ではある。
俺もコケだけどコケの全てを把握している訳でもないから、知らない部分の解説をジェイさんがしてくれる可能性もあるからね。
「それじゃ青の群集の人も実況に参加って事にはなったねー!」
「弥生さん、質問です! これって実況は誰がやりますか!?」
「あー、それはどうしよっか? 各群集から1人ずつ立候補を募ってやる?」
「それなら私は立候補します!」
「んー、わたしも立候補したけど、今回はハーレに譲るね」
「おー! レナさん、ありがとー!」
「青の群集でやりたい奴はいるかー?」
おっと、てっきりジェイさんがやるものかと思ってたけど、斬雨さんが元々見学していた青の群集の人達に向かって立候補を募って……って、あれー!? いつの間にか青の群集のギャラリーが増えてるし!? ……青の群集だけでなく赤の群集と灰の群集も全体的に増えてるな。
「いえ、斬雨、それは必要ありませんよ。青の群集は私が立候補しますので」
「お、そうか? んじゃジェイに任せるぜ」
「あ、やっぱりジェイさんがやるのか……」
「……なぜそこで気落ちするのですか、ケイさん? 私の事を何だと思っているんでしょうか」
「……青の群集の、最も警戒すべき情報絡みの人」
「ほほう、それはかなりの高評価のようですね」
「良かったじゃねぇか、ジェイ! ライバル視してる相手から、その認定は良いもんだろ!」
「……余計な事は言わなくても良いんですよ、斬雨」
「あいよっと!」
初対面の時に共生相手がカニとロブスターという構成が似ていたコケの人だったという事もあるけど、ジェイさんとは色々因縁的なものはあったからね。情報戦ではまんまと騙された事もあって要警戒な相手なのは間違いないし、ジェイさん自身も俺の事をライバル視してるみたいだからね。
ま、それでもお互いに悪意みたいなものはないから、こうやってやり取りも出来ている。可能であれば近い内にジェイさんの今の戦闘スタイルを確認したいとこだよなー。
それはそうとして、ジェイさんと斬雨さんが来て脱線にはなってたけど、そろそろ元々の予定をやっていきますか。
「おし、それじゃそろそろやるか、アーサー!」
「よろしくお願いします、コケの兄貴!」
さて、ここから本来の予定のアーサーとの対決である。……そういや誰が実況で、誰が解説で、誰がゲストになるんだろうか? 赤のサファリ同盟はそもそも誰が……って、今相談中みたいである。弥生さんかと思ってたけど、意外とそうでもないようだ。
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