第652話 サヤと水月の対決 後編
ギャラリーの反応を気にしている内にサヤの自己強化と水月さんの魔力集中の効果が切れたようである。……ここまでの通常攻撃での攻防戦でも多少は行動値も回復はしただろうし、そろそろ決着だな。
「おおっと、ここでサヤ選手は自己強化が、水月選手は魔力集中の効果が切れたー!」
「スキルを使わない攻撃が当たれば行動値も僅かながら回復はしますし、そろそろ大詰めでしょう」
「HPはサヤさんの優勢ではあるけど、まだ水月さんがひっくり返せる可能性のある範囲だしね。大詰めだけど、ある程度行動値が回復した段階での攻撃が決め手だね」
あ、そういや俺は普段は通常攻撃をする事が殆どないから忘れかけてたけど、スキルを使わない通常攻撃でも行動値は回復するんだったっけ。まぁPTでやってれば攻撃役を交代した方が楽だし、こういう1対1とか、ソロでなければあまり意味もないんだよな。
コケの養分吸収みたいに行動値の回復速度を上げるスキルがあれば、通常攻撃での行動値の回復というのも実用性はあるんだろうけどさ。
「これで決着です! 『自己強化』『連閃』!」
「このタイミングを待ってたかな! 『共生指示:登録3』!」
「……えっ! いえ、これくらいならば!」
「『略:エレクトロボール』『略:エレクトロボール』!」
「ここで両者共に動いていくー!! 先に動いた水月選手の連閃の発動を妨害する形で、サヤ選手の竜による電気の拘束魔法が決まったー!」
「やはりサヤ選手はこの手を温存していましたね。ですが、それを即座に破って攻勢へと立て直す水月選手も中々のものです」
「うーん、サヤさんは麻痺狙いー? この状況で麻痺が入れば相当有利ではあるけど、水月さんは躊躇なく電気の弾を斬っていくねー」
ふむ、サヤが竜の魔法で麻痺狙いというのもありそうではあるけど、この状況ではかなりの博打ではあるんだよね。ヨッシさんみたいに状態異常に特化していれば状態異常にかかる可能性は高くなるけど、そうでなければ確実性のある戦法ではない。
「麻痺は凌ぎました! この勝負、もらいます!」
「まだかな! 『氷雪の操作』!」
「なっ!?」
「おおっ、これは予想外の展開だー! 天井にあった氷柱がサヤ選手の氷雪の操作によって、水月選手に襲いかかるー! そしてその落ちてくる氷柱もお構い無しにサヤ選手は躊躇なく突っ込んでいったー!」
「これは全くの意識外からの攻撃ですね。しかも安定して操作が出来ている訳ではないので、水月選手にとっては攻撃の先読みも難しく非常に避け辛いでしょう」
「あはは、これは確かに厳しいねー! これは決まったかな?」
あー、確かにここの天井部分には氷柱があったし、氷雪の操作を使えばあのくらいを折って落とす事くらいは出来る。
まぁ制御が甘くて単純に真下にしか落下してないんだけど、それが逆に水月さんの対応を鈍らせているようである。それにしてもサヤがここぞというタイミングで氷雪の操作を使ってきたのは意外だったね。
「これで終わりかな! 『魔力集中』『強斬爪撃』!」
お、落ちてくる氷柱に対処している水月さんに向けてサヤが1撃を入れたね。今回は連撃の応用スキルではなく、通常スキルでの攻撃か。まぁ単純に行動値が足りなかったとかだとは思うけど、それでも充分だったみたいだな。
「サヤ選手の氷雪の操作から強斬爪撃へと繋げた攻撃がクリーンヒット! これで水月選手のHPが全て無くなったー!」
「サヤ選手自身にも落ちてきていた氷柱は当たってはいましたが、自分の攻撃ではダメージが発生しないという特徴を上手く利用していましたね」
「あれでも結構な衝撃はあるし、当たりどころが悪かったら朦朧とかにはなるんだけど、その辺の危ない部分だけは上手く避けてたね」
「……今回は負けましたか。お見事です、サヤさん」
「こちらこそかな!」
「勝負ありです! 勝者、サヤさん!」
その言葉を残して水月さんはポリゴンとなって砕け散っていき、ルストさんにより対決の終了と勝者の宣言がされていった。よし、サヤのリベンジ達成だな!
「今回のクマ同士の対決は灰の群集『グリーズ・リベルテ』所属のサヤ選手となりましたー! リベンジ達成、おめでとうございます! さて、最後の決め手も含めて、全体的な総括をアルマースさんとレナさんにお願いしたいと思います」
お、最後はアルとレナさんが総括をして終わりになるのか。ふむふむ、どんな総括になるんだろ?
「大きな要素と言えば、まずは共生進化の共生指示でしょうか。あれは行動値を消費せず、独自の再使用時間が設定されていますからね。後は全体的な立ち回りの違いでしょう」
「うん、そうなるねー。後は魔力集中と自己強化の使い方の違いかな。全体的にサヤさんはがんがん攻めるんじゃなくて絡め手が多くて、逆に水月さんは力押しが多かった印象。どっちに優劣があるとかって話じゃないんだけど、共生進化も上手く活用したサヤさんが少し上を行ったって感じだねー」
「そして1番の決め手は、終盤の氷雪の操作でしょう。水月選手もあの状況には慌てていましたからね」
「その辺は先入観もあるだろうねー。お互いに知っていたからこそ、使う筈がないと油断していた事を使われたのが勝敗へと繋がってたかなー」
「立ち回りの違いはあってもそれは直接の勝敗には繋がらず、先入観と油断が明暗を分けたということですね! アルマースさん、レナさん、総括をありがとうございました!」
その辺は同意だね。まぁサヤの戦法がいつもと大きく違っていたというのもあるんだろうけど、どっちが勝ってもおかしくはない戦いではあったもんな。今のサヤの戦い方を知った上で、もう一度対戦をすればまた違った結果になる可能性もありそうだ。
「それでは今回の実況はリスのハーレと!」
「木とクジラのアルマースと!」
「リスのレナでお送りしましたー!」
「少しの休憩時間を挟みまして、第2部として灰の群集『グリーズ・リベルテ』所属のケイ選手と、赤の群集『赤のサファリ同盟』所属のアーサー選手の対戦も行います! 興味のある方は、引き続きご覧下さい! それでは一旦休憩とします!」
という事でサヤと水月さんの対戦の実況は終了である。さて、次は俺とアーサーの対戦だな。……俺の方は実況についてはどうしよう? ベスタを相手にする程の集中力が必要になるとも……いや、それは成長しているアーサーを甘く見過ぎだな。……実況を聞きながらは無しで全力でいくか。
「凄かったな、今の戦闘」
「どっちも近接のプレイヤースキルが高かったなー!」
「サヤさんって操作系スキルとか魔法スキルは苦手って聞いた覚えがあったんだけど、そうでもなさそうだよね?」
「それなら特訓してたのを見た事あるぞ」
「へぇ、そうなのか! ……なるほど、特訓すればちゃんと上達するんだな」
「ちょいちょい魔法や操作系は苦手って人もいるもんねー。いっそ、どこかで魔法の特訓会でもやる?」
「お、そりゃいいな!」
「ちょっと検討してみてもいいかもな。……そうなると、魔法が得意な人の協力が――」
「あー、確かにそこに適任そうな人が何人かいるね」
「なるほど、サヤさんの特訓に関わってそうだし……」
ちょ、ちょっと待って! 思いっきり俺の方に目線が集中してる!? あ、俺だけじゃなくて、アルの方にもか!? ……地味にヨッシさんもじゃね!?
「はい、みんな、そこでストップ! この場で強引に言質を取ろうとするなら、それ相応の覚悟はしてもらうよ」
「そうですよ、皆さん。グリーズ・リベルテの皆さんに協力を求めるにしても強制はいけません」
「レナさん、カグラさん、助かった!」
おぉ、ここでこの2人が庇ってくれるとはありがたい! 別に魔法や操作系スキルの特訓方法を教えてくれという事自体は断る理由もないから受けるのは良いんだけど、その前に具体的な相談とかそういうのはして欲しいからね。
あれだね、灰の群集には行動力のある人が結構多いから、何かしらの絶好の機会を見つけると盛り上がって一気に動き過ぎるとこがあるのが欠点か。……まぁそれが原動力でもあるだろうから、一概に欠点のみとも言えないんだけど。
「魔法の特訓会については色々と調整はしてみるから、無理強いは絶対にしない事! みんな、分かった!?」
「「「「「「おう!」」」」」」
「なら良し! カグラさん、次の1戦が終わったらその辺の話し合いをしたいんだけど、今のうちに色々と声をかけてもらえる? わたしはわたしでやっとくからさ」
「えぇ、お引き受けしましょう。あ、ケイさん達はサヤさんの方に行ってあげてくださいね」
「はっ! そうだった!」
「確かにそりゃそうだ!」
「ですよねー!?」
「……あはは」
妙な流れになってしまってサヤのリベンジ成功の激励に行きそびれてしまっていたよ。あー、うん、今は復活した水月さんと会話をしているけど、このまま放ったらかしって訳にはいかないもんな。
「みんな、サヤのとこに行くぞ」
「「「おー!」」」
そうして大慌てでカグラさんの樹洞から出ていき、サヤの元へと急いで移動していく。水月さんの他にも弥生さん、シュウさん、ルストさん、アーサーがいるね。ガストさんは蒼華さんの氷の桜の木の方に行ってるっぽい。
「皆さんはすぐに来るかと思っていましたが、随分と遅かったですね?」
「みんな、何かあったのかな?」
あー、やっぱりその辺は疑問に思うよな。魔法の特訓会とかの話題が出てくる事がなければすぐに出てくるつもりだったけど、サヤとは今は一時的にPTを解除しているからPT会話で状況が断片的にすら伝わっていない訳だし……。
「サヤの魔法と操作系スキルの使用方法を見て、ちょっとした騒動になってたのさー!」
「え、そうなのかな!?」
「まぁな。俺とケイとヨッシさんが、サヤの上達に関わってるだろうって事で捕まりかけてたんだよ」
「いやー、レナさんとカグラさんが止めてくれなかったら、まだ捕まってたかもしれなかった……」
「……みんな、もう検証時のテンションだったしね」
うん、あれは確かに誰かが新情報を上げて、その再現を試そうとする時の流れに近かった。いや、決して悪い事ではないんだけどね? 時と場所を少し考慮して……って、あれか。あの場には灰の群集の人しか居なかったのも一因か。
「……あはは、それは大変だったのかな」
「サヤも特訓の仕方を聞いてくる人がいるかもしれないから、他人事じゃないぞ?」
「……確かにサヤさんの竜の魔法の多用には驚かされましたからね。私も気になるところではありますが……」
「いくらなんでも水月さんには教えられないかな!?」
「……そうでしょうね。ですが、色々と考えさせられるとこもありましたし、反省点も色々ありますね。私も特訓が必要なようですが、サヤさん、また改めて勝負をしましょう」
「受けて立つかな、水月さん!」
「次は負けませんからね」
「それは私の言葉かな!」
おー、対戦が終わったばっかだというのに、サヤも水月さんも次の対戦へ向けて気合が入ってるなー。ま、これぞライバルって感じだね。
「コケのアニキ! 次は俺との勝負だー!」
「おうよ! 全力でぶっ倒してやるから、覚悟しとけよ、アーサー」
「そんなに簡単に負ける気はないけど、全力で頑張る!」
うんうん、アーサーとしても初めから負ける気で挑んで来る気はないようである。さーて、これは油断せずに全力で相手をしなければ、足元を救われかねないかもね。
「あ、ケイさん、アーサーとの対決の中継と実況なんだけど、どういう形にするのがいい? さっきのサヤさんと水月さんと同じ感じか、それともここに集まってるみんなでまとめてやる感じがいい?」
「あー、それはどうしようか……」
弥生さんから改めてそう聞かれたけど、ちょっと悩むとこだな。……完全に全力でやるのであれば実況の声がないほうが集中は出来るとはいえ、ベスタ級の相手でなければ全く集中が不可能という訳でもない。
それにある意味では他の群集での実況の仕方を堂々と聞くチャンスでもある。……俺自身がしっかりと聞けていなくても、みんなが聞いているからその辺は心配もいらないか。
「アーサーとしてはどうしたい?」
「俺は声を掛けられながらの戦闘には慣れたから問題ないよ!」
「あ、そうなのか」
多分だけど、それは赤のサファリ同盟の強いメンバーからの特訓によるものなんだろうね。具体的にいつだったかは忘れたけど、それっぽい様子は見た事をあるような気もするし……。
「まぁアーサーが良いなら、俺も良いか」
「おー! なにか楽しそうになってきたよー!」
さてと、何だか予定とは変わったものの、やると決めた以上はやるまでだ。……昨日の大乱戦では集中力が乱れ気味だったし、あえて雑音がある中で集中力を鍛えるというのもありだよね。
そういや、そういう意味ではサヤは昨日の大乱戦では普通に集中は出来てたよな。……サヤはあれか。雑音自体は問題ないけど、単独で自分だけが注目を浴びまくる状況が苦手なのかもね。
ま、なにはともかく、アーサーと対決をやっていこうじゃないか! ふっふっふ、ベスタとの模擬戦ではコケ渡りに翻弄されたけど、今回はそうはいかないぞ!
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