第651話 サヤと水月の対決 前編


 サヤと水月さんが向かい合った状態で、ルストさんから試合開始の合図を待っている。……まだルストさんが開始の合図を出していないという事は、ちょっとフラムとかの実況準備を待ってる感じかな?


「さぁ、お集まりの皆さんは知ってる方もいるとは思いますが、開始までの少しの間に今回の選手の紹介だー! そのクマの首に竜を巻きつけるは灰の群集『グリーズ・リベルテ』所属のサヤ選手ー! それに対するは、赤の群集『赤のサファリ同盟』所属の水月選手ー! こちらをどう見ますか、解説のアルマースさん、ゲストのレナさん!」

「えー、今回はサヤ選手と水月選手の、ある戦いで不完全燃焼に終わった戦いに決着をつけるという所から始まっていますね。現在、水月選手が勝ち越しているという状況となっています」

「あ、聞いたよー! 昨日の夜に、岩山の例のドラゴンを巡って集団戦をやったんだってねー? それでグリーズ・リベルテのみんなとベスタさんで挑戦権は勝ち取ったので合ってる?」

「えぇ、その通りです! その際に他の人の敗退によって2人は決着つかずとなっております! それが今日、これからの戦いで勝敗を決します!」

「という事なんで、軽い事情説明は終わりねー!」


「あー、そういう理由だったのか、この対決」

「リーダーとグリーズ・リベルテがあのドラゴンを倒したってのは本当っぽいな。赤のサファリ同盟の方は否定してたって話だし」

「リーダーに確認したかったけど、なんか今日は見かけないんだよなー?」

「そういや夕方にちょっと見たけど、それっきり見てないな。ま、そういう時もあるだろ」

「サヤさん、頑張れー!」

「赤のサファリ同盟に負けるなー!」

「……聞こえてねぇぞっ……て言うのも無粋か」

「ま、無粋だろうねぇ」

「いやー、楽しみだなー!」


 そういやどういう経緯でこの対戦が行われる事になったのかは、ここに集まってる人達はほぼ知らないのか。

 まぁ偶々居合わせた人が楽しそうだからって見物に来てる訳だし、桜花さんの方は告知はしてるだろうけど、こっちでは俺らは何も言ってないもんな。その辺の説明を簡潔に説明してくれたレナさん、グッジョブ!

 

「2人とも気合は充分なようですし、そろそろ準備も終わったでしょうから開始しても宜しいですか?」

「「はい!」」

「分かりました。それでは対決、始め!」


 そのルストさんの宣言と共に、サヤと水月さんの対決が始まった。てか、やっぱり準備を済ませるのを待ってたみたいだね。ま、赤のサファリ同盟というか赤の群集の方でもフラムが中継をしてるんだから、それに合わせていても不思議ではないか。

 

「行くかな! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「こちらこそ! 『魔力集中』『アイスクリエイト』『操作属性付与』!」

「『並列制御』『略:エレクトロプリズン』『強斬爪撃』!」

「そう来ますか! 『双爪撃・氷』!」


 お、サヤが竜の電気魔法で拘束を狙っていったか。でも、水月さんは麻痺にはならず即座に魔力集中の効果のかかった爪の左側で拘束を破壊し、右側の爪でサヤの1撃を逸らしていた。

 ふむ、今のサヤの拘束の破壊と爪の迎撃を同時に行うとは、水月さんはやっぱり強いね。サヤの魔法の使い方は上手くなってるし、並の相手なら今のは決まっていたはず。


「おぉーっと! 初手から互いに違う手を繰り出してきました! これをどう見ますか、アルマースさん、レナさん!?」

「サヤ選手の方は攻撃力よりも速度を重視して、竜の魔法を交えながら1撃1撃を着実に当てに行くのが狙いといったところでしょうか」

「逆に水月さんは、威力を上げて一気に削るってとこだろうねー。うん、単独進化と共生進化の違いもあるし、お互いの強みを活かす戦い方だねー」

「そうですね。同Lvだとしても単独進化の方がステータスは上になりますし、共生進化のサヤ選手には真っ向からの魔力集中での打ち合いは分が悪いでしょう」

「解説ありがとうございましたー! さぁ、ここから両選手がどのように戦っていくのかー!?」


「出し惜しみは無しで行くかな! 『上限発動指示:登録1』『略:雷纏い』『略:尾鞭』!」

「大型化ですか!? 『並列制御』『アースボム』『土の操作』!」


 サヤにしては珍しい戦い方だけど、これはこれでありだな。せっかく共生進化の強化スキルを得て、竜のスキルも活用しやすくなったんだからこういう使い方もありだろう。


「ここでサヤ選手が竜を大型化させ、雷を纏った状態で鞭のように叩きつけていくー!」

「対する水月選手も咄嗟に自身を吹き飛ばして回避をしましたね」

「んー、咄嗟の判断での回避としては妥当だけど、それが通じる相手かなー?」

「おおっと! 水月選手の着地の瞬間を狙ってサヤ選手が距離を詰めていくー!」


 水月さんが着地すると同時にサヤが大型化した竜に乗って突っ込んでいく。でも、水月さんはそれに慌てた様子はないね。……流石にそこまで動揺もしないか。


「その竜、思った以上に厄介ですね! 『アースクリエイト』『操作属性付与』『爪刃双閃舞・土』!」

「そうはさせないかな! 大型化解除!」

「っ!?」


 おー、水月さんがサヤの竜を仕留めに土属性の証である茶色を帯びた銀光を放ち始めた爪で斬り裂こうとしていくけど、すぐにサヤが大型化を解除した事で1撃目が見事な程の空振りに終わっていた。


「ここでサヤ選手が発動したばかりの大型化をもう解除したー! この解除の早さは狙っていたかー!?」

「おそらく竜を倒す為に土属性へと切り替えるのを狙っていたのでしょう。サヤ選手の竜は雷属性なので土属性が弱点ではありますが、クマの方には風属性を付与していますしね」

「ここまではサヤさんの優勢って感じだけど、それだけで終わるとも思えないねー。そんなに甘くはないよ、水月さんは」

「まだまだ見逃せませんね、この勝負!」


 うん、確かにこの位で勝敗が決するならサヤも水月さんもこの対戦の機会を作りはしなかっただろう。今はサヤが今までにはない戦法で翻弄している感じではあるけども、水月さんだってレナさんの言うように甘くはないはずだ。


「いえ、まだです!」

「『略:魔法砲撃』『並列制御』『略:ウィンドボール』『略:ウィンドボール』!」

「その程度!」

「えっ!?」

「竜の両手は貰いましたよ!」


 あ、やっぱり水月さんは何もなかったようにすぐに体勢を立て直して、そのまま元の大きさに戻った竜を狙っていた。

 それを狙っていたかのようにサヤが竜の両手から風の弾を連射していくけども、水月さんの連撃のカウント稼ぎに使われて、連撃の最後の1撃で竜の両手が斬り飛ばされていた。うわー、流石に部位を破壊されるとHPの減りが凄まじいな。一気に竜のHPが6割くらいまで減っているよ。


「おーっと、ここで水月選手がサヤ選手の竜にクリーンヒットー!」

「サヤ選手の竜には魔力集中も自己強化もかかっていませんからね。魔力集中ありの連撃数を着実に稼いだ応用スキルの1撃では、こうなっても仕方ないでしょう」

「うーん、風の弾は悪くはなかったけど、出来れば魔法砲撃でないほうが良かったかもねー」


「まだかな! 『略:尾伸ばし』『並列制御』『連強衝打』『略:尾巻き』!」

「っ!?」


「まだサヤ選手の攻撃は終わっていなかったー! 銀光を放つ連打が水月選手の頭部に決まる、決まる、決まるー!」

「どうやらサヤ選手の先程の一連の攻撃は、竜の尾で巻き付いて拘束をする為のものだったようですね」

「おー、今のはやるね、サヤさん。さてさて、ここから水月さんはどうするのかなー?」


 ほー、思った以上に今回の1戦はサヤが竜を上手く使っている感じだね。クマの方がサヤのプレイヤースキルと合わさって近接攻撃が強力だけど、そっちに気を取られ過ぎれば竜の魔法や尾での巻き付きによって妨害され、隙が出来れば竜で捕まえクマで攻撃をする……か。

 うん、サヤの魔法や操作系スキルの向上もあって、思った以上に凶悪なコンボになっているっぽい。


「……やり……ますね……! 『アースバレット』『アースクリエイト』『風の操作』!」

「わっ、目潰しかな!?」

「『強硬牙・土』! ここです! 『連閃・土』!」

「っ!? これは危ないかな!」


 思いっきり水月さんの茶色を帯びた銀光を放つ爪によって、サヤの竜が盛大に斬り刻まれていく。あ、連撃が終わる前にサヤが後方に飛び退いたね。……うーん、流石に今の連撃をうけたらもう竜が瀕死状態か。倒され切ってないだけマシってとこか。


「水月選手、自身がダメージを受けながらもアースバレットを撃ち出す事で強力になる終盤の連撃を凌ぎきったー!」

「それに続いて砂を生成し、周囲の空気を操作して飛ばして目潰し攻撃というのは見事ですね」

「うんうん、砂での目潰しだと投擲系を使いたくなるけど、竜に巻き付かれて両手が封じられているのを噛み付いて破るのも中々だねー。さて、これでサヤさんの竜は瀕死だし、水月さんも6割くらいまではHPが減ったかな」

「さぁ、お互いに様々な手段を出し合ってHPも減ってきたー! 共生進化のサヤ選手の方がHPとしてはまだ余裕がありますが、まだまだひっくり返る可能性は充分にあるー!」

「えぇ、水月さんが不利になってはいますが、最後までどうなるかはわかりません」

「ちょっとした油断やミスで一気に形勢が変わる事もあるからねー!」


 サヤと水月さんは一度互いに距離を取って睨み合ってる状況だけど、まぁレナさんの言う通りだよね。優勢だと油断をすれば足元を掬われるという事もあるから、今はお互いに手が出せないんだろう。

 サヤの竜はこれ以上戦闘に使えるような状態じゃないし、水月さんも結構HPが減っているから迂闊に手を出すのも危険な感じだな。水月さんは魔力集中を使っているから、攻撃を受ける位置によっては一気に終わりかねないしね。


「……やっぱり、水月さん相手だと簡単じゃないかな」

「それは私も同感ですね。その竜や魔法の扱いが良くなってるのではないですか?」

「あはは、それは特訓したからかな! 『並列制御』『爪刃双閃舞』『爪刃乱舞』!」

「そうでしょうね! 『アイスニードル』『アイスニードル』『アイスクリエイト』『操作属性付与』『連強衝打・氷』!」


 ん? 2人とも連撃数は多いし、応用スキルも銀光の強弱の感じとしてはLv2で発動しているっぽいけど、何か焦ってる感じがあるね。あー、どっちも応用スキルは使いまくってたから、行動値が底をつきかけてるのかも?


「ここに来て、連撃の応酬だー! 銀光を放つ連撃が互いに相殺しつつ、そうでない通常スキルは通常スキルでお互いに消し飛ばして行くー! これをどう見ますか、解説のアルマースさん!」

「お互いに行動値が無くなってきているのでしょうね。行動値が無くなってしまえば、通常攻撃の威力にも影響が大きい自己強化を使っているサヤ選手の方が有利となるでしょう」

「ま、そうだろねー。水月さんとしてはこの攻撃の応酬で少しでも多くサヤさんのHPを削っていきたいとこだと思うよー」


 あ、やっぱり実況組も分析内容については同じなんだな。うーん、流石に単独進化という事もあってここは水月さんの方が押し気味で、サヤのクマにも段々とダメージが蓄積されていっている。……まぁまだ7割は切っていないから優勢なのは変わりないけどさ。

 それにしてもサヤはもう竜を首に回して戦闘からは引っ込めているので、これ以上竜を使う気はなさそうだな。


「……やはり削りきれませんでしたか!」

「……あはは、やっぱり1対1での勝負だと行動値は足りなくなるかな……?」

「力量が近ければそうなるようですね!」

「それでも水月さんの攻撃の威力には押し負けるかな!」

「素早さでは私の方が一段落ちているような気もしますけどね!」


 そんな風に会話をしながら、サヤと水月さんは通常攻撃による攻防戦へと切り替わっていた。どうやらお互いに完全に行動値は尽きてしまったようである。


「先程までとは一変して、クマ同士による通常攻撃による攻防戦が始まったー!」

「サヤ選手は速度を上げている事で回避を優先し、水月選手は最小限の動きで弾き飛ばすようにしているようですね」

「あー、これはあれだねー。うん、まだ手が残ってる方が勝つね」

「それはどういう事でしょうか、ゲストのレナさん!」

「んー、決め手になるスキルを発動出来るだけの行動値が回復して、予め登録をしてたらだけどねー。まー、絶対とは言えないけどさー」

「大体の想像はつきましたが、確かにこれは言ってしまっては台無しではありますね」

「なるほど、分かりましたー! さぁ、この勝負ももうすぐ終盤だー!」


 サヤも水月さんもかなりHPが減ってきているから、もう決着までそれほど時間はかからないだろう。レナさんが言ってる事は……多分あれだろうなー。

 うん、確かに使う前に言ってしまえば台無しではあるね。サヤのこの戦い方なら、多分狙ってはいると思うけど……。


「あー、共生進化って事はあれだな」

「多分あれだよねー!」

「うーん、使い方次第ではあるか」

「え、分かってるやつ、結構いるの!?」

「そうっぽいな?」

「ま、見てれば分かるって」

「そりゃ確かに」

「まー、何が使われるかにもよるけどな」

「……いまいちよく分からんから見てみるしかないか」


 ほほう、ギャラリーの中では分かってる人と分かってない人がいるのか。ふむ、分かってるっぽい人には2ndの人が多くて、分かってない人は1stの人が多いっぽい。これはあれか。実際に少しでも使った事があるかって違いなのかもしれないね。


 さて、このサヤと水月さんの対決も終盤だ。サヤ、リベンジ成功になるように応援してるから、頑張れ!

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