第658話 中立地点での役割
氷結洞を抜け、青の群集の割り当てとなっている場所へとやってきた。へぇ、見た目は灰の群集とあんまり変わらないんだな。かまくらの数がちょっと少ないくらいか。
「あ、そうだ。忘れてた」
「ん? どうした、ヨッシさん?」
「えっと、ほら、氷結草の補充をしようと思ってたんだけど、そのまま忘れてて……」
「あー、そういやそうだっけ」
うーん、灰のサファリ同盟の雪山支部でトレードをしておけば良かったけど、そのまま素通りで来ちゃったもんな。まぁ頻繁に使う訳でもないし、今無理にトレードする必要もないけど……。
「おう、それなら別に青の群集の方でも問題はねぇんだぜ?」
「えぇ、そうなりますね。この中立地点では所属群集を理由に取引拒否は禁止してますし、赤の群集の方はそもそも栽培されていないので、トレードに依存してますよ」
「え、そうなの!?」
「通りで赤の群集で栽培してる様子がなかった訳かな」
「そもそも栽培自体をしてなかったんだね」
ふむふむ、弥生さんが花壇みたいにしてた所には氷結草があったけど、あれは採集用ではないって事か。まぁあれを採集してしまうと台無しではあるもんな。
「……1つ気になったんだが、赤のサファリ同盟を除いた赤の群集自体はここではどういう立ち位置になってるんだ? 普通に見かけはするが……」
「ふっふっふ、アルマースさん、それは俺が答えよう!」
「っ!? この声は……ライさんか!」
「ライさん、どこだ!?」
いつもいきなり唐突に現れるよな、ライさんは! 周囲を見回してみるけど、その姿は確認出来ない……。くっ、上の方から声が聞こえるのは分かるんだけどそれ以上は分からないな。流石は隠密特化のライさんってとこか。……でも、あれを試す良い機会かもしれないね。よし、それでいこう。
「えーとね、ライさんなら――」
「ハーレさん、ストップ。……俺が見つける」
「え? あ、了解です!」
「え、ハーレはもう見つけたんだ?」
「えっへん!」
「私も見つけたかな!」
「……あはは、サヤもなんだ? よく見つけられるよね」
「……だな。で、ケイは……あぁ、あれで見つける気か」
「ちょっと待って!? 結構鍛えてるのに、まだこうもあっさり見つかるのか!? ハーレさんとサヤさん、とんでもなくね!?」
なんだか納得がいかない感じのライさんの声が聞こえてくるけど、その辺の観察力の凄さに関しては今更だしなー。ぶっちゃけどうやって見つけているのかは俺にもよく分からないし……。って事で、俺は俺の手段で見つけるまで!
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 68/75(上限値使用:1): 魔力値 191/212
ライさんを驚かせる為にあえてここは思考操作で発動して……付与対象を確認していく。ふむふむ、PTメンバーであるアル達に付与の指定が出るのは当然として、ジェイさんと斬雨さんにも出てはいる。これは敵としてだから、後でPTの連結をしておかないとね。
さて、肝心のライさんは上の方から声が聞こえてたから、とりあえず上の方を見て……お、氷結洞の出入り口の上の方に積もっている雪に指定する事が出来るね。多分あれだな。
って事で、その雪に見える部分に水付与をかけて……よし、雪の周りに3つの水球が漂い始めて、その内の1つがカメレオン型に水が纏い始めていく。他の水球は2つが漂ったままみたいだね。ほほう、魔力集中や自己強化を使ってない場合は纏属進化みたいになるというのはこういう事か。
まぁ強制的に水を纏わせている感じなので、雪に擬態したカメレオンが水を纏うという妙な感じだけど。
「おわ!? え、あれ!? これ、どうなってんの!?」
「……へぇ、この使い方は知りませんでしたね。付与魔法ではそういう事も出来るのですか」
「あ、これってシュウさんから報告のあった付与魔法か! そういや隠密状態にもかけられるってあったっけ!?」
「……あ、やば。青の群集はこれはまだ知らなかった……?」
「えぇ、情報提供をありがとうございますね、ケイさん」
「しまった!? やらかしたー!?」
くっ、よりによってまだ青の群集では未発見の情報をジェイさんの目の前でやってしまった!? これはいきなり声をかけてきて、今度こそ見つける手段があったから見つけたい気分にさせたライさんが悪い! よし、ここは盛大にライさんを叩き潰して――
「ちょ!? ケイさん、待った! なんか殺気を感じるけど、ホントに待った!」
「ケイ、流石にそれは待ったかな!」
「離してくれ、サヤ! ここはライさんに一撃入れておかないと、気が済まない!」
「さっき氷結草のトレードとかって言ってたよな!? 氷結草を渡すから、勘弁してください!?」
「……あー、サヤ。ケイを止めなくていいぞ」
「……うん、今ので私もそうしようと思ったかな。……ライさん、盗み聞きはどうかと思うよ?」
「ぎゃー!? 墓穴を掘ったー!?」
さーて、俺自身が迂闊だった面があるとはいえ、思いっきり盗み聞きをしていたという自白も取れた。なーに、殺すまではする気はないけど、それ相応の八つ当た……反撃はさせてもらおうか!
「だから中立地点だけで良いから擬態は解除しとけって言ってただろ、ライさん」
「……これで何度目でしたっけ、ライさん?」
「えーと、6回目……?」
「そこまで行くともう自業自得だと思います!」
「……あはは、ごめんね、ライさん?」
「よし、このラインハルト、皆のその怒りをしかと受け止めよう!」
うん、その覚悟は良し。でも、ライさん、6回目はもう冗談抜きで怒られてもいいと思う回数だぞ。って事で、遠慮なくぶっ放す!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 68/75 → 68/69(上限値使用:7)
<行動値を10消費して『連強衝打Lv1』を発動します> 行動値 58/69(上限値使用:7)
即座に飛行鎧を展開して、ライさんをすくい上げるように下から殴り上げ、そのまま銀光を放つ連撃を叩き込んでいく。
「とりあえず普通にしてる時は擬態を解除しとけ!」
「ですよねー!?」
そのまま連撃の最後の一撃で上空へと殴り飛ばして、少しした頃にライさんが落下してきた。ふー、ちょっとだけスカッとしたよ。ま、魔力集中も連鎖増強Ⅰも無いから大したダメージではなかったけどさ。
お、連撃が終わった段階で纏っていた水が1度消えて、残っていた2つの水球の1つがライさんに纏って……あ、落下した際にも水がまた消えて再び水を纏い直して、漂っている水は無くなったか。へぇ、落下ダメージも付与の解除のカウントに入るんだな。これは地味に新発見。
「これに懲りたら擬態は解除しとこうぜ、ライさん」
「……流石にこれ以上は迷惑になりかねんかー。ま、しゃーないから、赤の群集のエリアだけにしとくか」
初めからそうしてくれと言いたくなったけど、もう殴ってしまったしそこはぐっと飲み込んでおこう。ようやくあの擬態にこだわっていたライさんが改善の意思を示してくれたんだしね。
「そうしてくれるとこちらとしても助かりますよ」
「そんじゃそういう事にする……って、あ、やば!? 氷結草茶の効果が切れた!?」
「え、ライさん、氷結草を持ってたよね!?」
「あれをお茶にしてもらいに行くとこだったんだよ!? やばい、このままだと凍結と凍傷になって死ぬ!?」
「……はい、どうぞ」
「うぉ!? ヨッシさん、助かる!」
そうしてライさんは大慌てでヨッシさんが渡した氷結草茶を飲み干していった。……なんでこんな変な状況になってるんだろ?
「ぷはー! 助かったぜ! お詫びと言っちゃなんだが……ヨッシさん、これな」
「え、あ、氷結草! でも、量が多いと思うんだけど」
「いやいや、お礼と迷惑料も兼ねてだぜ。新しいのはこの後、すぐにトレードに行ってくるからよ」
「あ、うん。そういう事なら貰っておくね」
「なんだか妙な流れにはなったけど、とりあえず確保は出来たのかな?」
「……まぁ、そうなるんだろうな」
「……何か複雑だけどなー」
「同感です!」
なんというか、これで良いんだろうかって気分になってきているけど、まぁライさんがそれで良いなら、良いって事にしようか。うん、深く考えても仕方ない気もするし、そうしよう。
「ところで、俺が聞いた赤の群集が何をしてるかってのを教えてもらえるか?」
「あー、そうだった、そうだった。赤の群集はここへの素材の持ち込みがメインなんだよ。ほら、かき氷シロップ代わりの果汁とか凍らしてのシャーベット用にとかな」
「ほう、そうなのか?」
「おう、そうだぜ、アルマースさん。赤の群集は自前で加工するってのが苦手ってのが多くて、加工は割と人任せなんだよ。な、ジェイさん」
「えぇ、そうなっていますね。灰の群集や青の群集ではドライフルーツの加工や果汁への加工に使って、地味に不足するんですよ」
「……それって、対戦型のイベントの時は大丈夫なのかな?」
「それはルアー達が危惧はしてるから、赤の群集でも加工メインの共同体の発足の準備中だな」
「あ、そうなんだ」
ふむ、流石にルアーさんはその辺を放置した状態にはしないか。ただまぁ、赤の群集ってバトル好きが多い印象だから、アイテムの加工を専門にやる人は少ないんだろうな。
赤の群集では加工する人が少なめでも、灰の群集や青の群集で素材が不足してるから、回復アイテムや、嗜好品になるかき氷やシャーベットの材料の持ち込みが成立するんだろうね。ま、今は持ちつ持たれつって所か。
「それともう1つあってだな。こっち側のルートは赤の群集とも青の群集とも遠いから、青の群集であまり強くない人の護衛とかもやってるぜ。そこの森、地味に厄介だし」
「あー、なるほど。そっか、青の群集は近くないもんな」
言われてみれば、青の群集はこの中立地点から一番遠いんだもんな。この先の雪に覆われた森はよく知らないけど、その先の平原はそれなりに強い敵も出てくるだろうし、そういう役割もあっても不思議じゃないか。てか、そこの森は厄介なのか。
ふむふむ、そうやって考えてみると赤の群集で採集した果物とかを運ぶのと同時に、青の群集の人がここまで来れるように護衛をする役割もあるんだね。青の群集だけで出来ない訳じゃないだろうけど、その手のは多く居て困る事でもないもんな。
「それじゃ俺は採集してきた色んな果物を氷結草茶やカキ氷とトレードしに行くから、またなー!」
「おうよ! 今度、普通のフィールド以外で擬態した状態で話しかけてきたら容赦なく仕留めるからなー!」
「ケイさん、怖!? そんじゃ、またなー! 『飛翔疾走』!」
そうして変な事になったライさんとの遭遇も一段落ついて、ライさんは姿がちゃんと見える状態で立ち去っていった。……ふー、これで次に会う時は変な事にはならないだろう。まぁ対人戦のイベントや通常のフィールドの時は例外だけどね。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 58/69 → 58/75(上限値使用:1)
もう不要だろうから飛行鎧を解除して、小型化しているアルのクジラの上に着地! さて、本題に戻ろう。
「……何か妙な事になりましたが、先に進みましょうか。そういえば皆さんはこの先の森の事はご存知で?」
「あー、いや、チラッと眺めた事はあるけど、雪が積もっている森ってくらいで他は何も知らないぞ」
「ま、まともに中立地点に来たのが初めてならそうだろうな!」
「……斬雨さん、その言い方だと何かあったりするのかな? さっきもライさんが厄介とか言ってたし……」
「おう、あるぜ! そこの森は命名クエストで『氷樹の森』って名前に決まってな?」
「『ヒョウジュの森』……? えっと、どんな文字?」
「氷の樹と書いて『氷樹』ですよ」
「ほうほう。『氷樹の森』か……」
えーと、命名クエストでは割とそのエリアの特徴を表す選択肢があったりするから、氷の樹森という事は……。
「もしかして氷属性の木が出てきますか!?」
「えぇ、その通りですね。それなりに敵のLvも高めですよ」
「おー! ちなみにどのくらいですか!?」
「……位置によってバラつきはありますが、森の中心部に向かうほどLvは高いですね」
「大体Lv10〜20の間ってとこだぜ」
「結構バラつきがあるんだね。中心部って言い方は、通る時は避ける場所とかもあったりするの? その辺りが厄介っていう理由?」
「えぇ、ヨッシさんの推測通りですよ。遠回りにはなりますが、確実性を取るなら中心部を避けた方が楽ですね」
「で、ケイさん達はどう通るよ?」
あ、なるほど。なんで先にこれから行くエリアの話をしてきたのかと思ったけど、そういう内容か。ふむ、中心部を通るのが距離的には短いんだろうけど、敵の強さを考えるのなら中心部は避けた方が良いんだな。
「ジェイさん、質問。空中で突っ切ろうとすればどうなる?」
「それはあまりおすすめしませんね。氷属性の木が多いですが、それ以外にも飛行系の敵もいて凍結の状態異常の確率が高いんですよ。そして空と中央部を移動する場合は敵の攻撃性が跳ね上がりますね」
「あー、そういう特徴か……」
ふむ、氷樹の森の空中や中央部は簡単には通らせないような仕様になってる訳か。……凍結にされてしまえばまともに動けなくなるし、厄介といえば厄介だね。
とりあえずいくつか取れる方法は思いつくけど、そこら辺はみんなと要相談だな。さて、どうするのが一番良いかな?
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