第649話 氷結洞で変わったところ
灰のサファリ同盟の雪山支部に所属している松の不動種のカグラさんも同行する事になり、レナさんの先導に従って氷結洞の奥へと進んでいく。……背後に揃ってきているギャラリー目的の人達はとりあえず気にしない方向で。
前に来た時は氷柱を採集した場所から真正面と左側へと2つの分岐になっているけど、前に来た真正面の道へと進んで……って、あれ? 一度来た事がある筈なのに、全然雰囲気が違うような……? 何かが大きく変わってる気がする……。
「あ、氷柱とか岩とかがなくなって、全体的にスッキリしてるのか!」
「うん、そだよー! どうしても行き来の際に邪魔になったりしてたから、主要な通路に使う場所だけは邪魔そうな岩とか氷柱は撤去したからねー」
「確かにそう言われると通りやすくはなってんな」
ふむふむ、実際にアルが通ってみてもクジラを小型化しているのを差し引いた上で、前に来た時よりもかなり余裕を持って移動が出来ている。全群集が行き来する中立地点として使うならこれくらいの改造は必要か。
そんな事を考えながら進んでいくと、前に洞窟の天井部分が崩れている場所らしき場所が見えてきた。ほほう、ここはここで改造されてるんだな。
「わー!? ここって前は野ざらしだったよねー!?」
「あはは、これは凄いね。氷をガラスみたいにしてるんだ」
「ここって前は積もった雪が落ちてたよね。」
「あはは、まぁ土で埋めるって言う案もあったんだけど、氷で塞ぐ事にしたんだよねー!」
へぇ、今は氷で塞がれている崩れた洞窟の天井部分だけど、月明かりが氷を通して差し込んでいて神秘的な感じになってるな。……ふむ、地味にその下に氷結草がそこそこの数が植わっているんだね。まぁ柵で囲われて花壇みたいになってるけど。
「あ、そこの氷結草は採集したら駄目なのでご注意くださいね。そちらは完全に鑑賞用となっておりますので」
「了解です! あ、でもスクショは撮ってもいいよね!?」
「えぇ、それは構いませんよ。折角ですし、皆さんの集合のスクショでもお撮りしましょうか?」
「カグラさん、良いのかな?」
「えぇ、構いませんよ。ここに初めて来られる方は大体撮っていきますしね」
「あ、そうなんだ? みんな、折角だし撮ってもらう?」
「もちろんさー!」
「折角撮ってくれるんなら、遠慮なく撮ってもらうか」
というか、ここで撮ってもらった方が俺としては楽でいい。多分、断っても俺が遠隔同調で撮る事にはなりそうだし、それなら俺よりスクショを撮るのに慣れていそうな灰のサファリ同盟のカグラさんに任せた方が確実だ。ここに来た人が大体撮っていくのなら、スクショのコンテストには向いてないだろうしね。
「俺も賛成だな。サヤとヨッシさんはどうだ?」
「私も賛成かな」
「同じく私も」
「それじゃ決定なのさー! カグラさん、お願いします!」
「はい、承りました。レナさんはどうします?」
「わたしは写らなくていいよー! 折角の共同体での集合スクショだし、ちょっとわたしは桜花さんとか弥生さんにフレンドコールをして色々と調整をしておくね」
「あ、それもそうですね」
しまった、よく考えたらアルとカグラさんの役割を変えたんだから、すぐにでも桜花さんと調整の話をすべきだった。っていうか、待ち合わせ時間ももうすぐだし、ここでのんびりしてる場合じゃないって!?
「悪い、レナさん、それ俺らの方でやるべき事だ!」
「あー、辿り着いてから連絡するつもりだったが、のんびりしてる場合でもねぇか……」
「いいよ、いいよ。わたしの方で調整しておくから、ケイさん達は観光気分でも楽しんでおいて。その氷結草の花壇、弥生がこだわったとこだしねー」
「これって弥生さんがやったんだー!?」
「……例の件があった時に呼ばれる寸前まで、ここの整備をしてたらしくてねー。弥生……というか赤のサファリ同盟の自慢の場所になってるから、素通りするよりもスクショを撮っていった方が喜ぶよー?」
「あ、そうなんだ?」
「……そういう事なら少しくらいなら良いかな?」
「うん、それもそだね」
「そういう事なら、お言葉に甘えさせてもらうか」
「手早く済ませるのが一番みたいなのです!」
「うんうん、それでいいよー! さてと……あ、弥生? もう近くまでは来てるんだけど、あそこの花壇で――」
弥生さんのこだわりの花壇という事みたいだし、レナさんも弥生に向けてもう連絡をしてくれているようである。そういう事ならアルの言う様にここは少し甘えさせてもらおうっと。……まぁ大々的に何十分も遅れる訳じゃないし、大丈夫だよね。
「それでは手早く撮りましょうか。……そうですね、アルマースさんは花壇の向こう側のスペースに移動してもらえますか?」
「おう。……えーと、こんなもんか?」
「はい、大雑把な位置的にはそのような感じで……クジラを左側に向けて、木を花壇の右隣に出来ますか?」
「あー、こんなとこか?」
「えぇ、構いません。サヤさんは花壇の左隣に移動していただけますか?」
「あ、はい。……こんな感じかな?」
「はい、それで大丈夫です」
おー、カグラさんの指示で位置を変えて、氷結草の花壇の左側からサヤのクマ、背景部分にアルの小型化したクジラ、右側にはアルの木をという形になっているね。サヤの竜は邪魔にならないように、クマの首に巻き付かせた状態か。
「ケイさんとヨッシさんとハーレさんはどうしましょうか?」
「はい! 氷結草の上をクラゲで飛んでても良いですか!?」
「それは良いですね。それでしたら、ヨッシさんも隣を一緒に飛ぶような感じでどうでしょうか?」
「あ、はい。私はそれで大丈夫です」
「それではそうしましょうか。後は……ケイさんは、氷結草の花壇の手前と、アルマースさんのクジラを地面に下ろしてもらってその上でと、どちらが宜しいですか?」
「あ、その2択なんだ」
ふむ、氷結草自体はそんなに高さがある草ではないし、俺が手前に行くとちょっと微妙な気がしなくもない。……それならアルのクジラの上が良いかも? っていうか、今もアルのクジラに乗ったままだしね。
「それならこのままアルのクジラの上で!」
「はい、分かりました。それではヨッシさんには氷結草の上を飛んでもらって、ハーレさんがスキルでい良い位置に来た時に撮りますね」
「あ、分かりました」
「了解です! 『略:傘展開』『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
そうしてヨッシさんとハーレさんが氷結草の花壇の上を飛び始めていく。氷で出来たような草の上を、他の属性の色も混ざっているけど青白い色のヨッシさんと、クラゲをパラシュートにして飛んでいるリスという光景になっていく。
その周りにはサヤと俺とアルが囲んでいるような状況だし、結構変わった雰囲気のスクショになりそうだ。
「……はい、撮れましたよ。それではこちらをどうぞ」
<スクリーンショットが共有化されました。表示しますか?> はい・いいえ
それからカグラさんが撮ってくれたスクショをすぐに共有してくれた。おー、こりゃ何とも不思議な感じだね。
ふむふむ、洞窟の天井に埋められた氷が月明かりを微妙に乱反射させていて、キラキラと輝いているように見える。……これはハーレさんとヨッシさんが氷結草と一緒に引き立てられるように撮られてるようだ。……俺が一番おまけ感が強いなー。
「おー! 良い感じなのさー!」
「カグラさん、ありがとうございます」
「いえいえ、構いませんよ。それでこちらは承諾を出しておきましょうか?」
「お願いします! これが外部出力をしたいです!」
「これは私もしておきたいかな」
「分かりました。それでは時間が空いた際にはスクショの承諾を送っておきますね」
とりあえずこれで記念のスクショの撮影は終わりだね。さて、待ち合わせ時間はもう間もなくだけど、ほんの少しの遅刻くらいで済みそうではあるか。えーと、レナさんの方はどうなったんだろ?
「――うん、そう。あ、ちょうど終わったみたい。うん、後でカグラさんから連絡してもらうから、よろしくね、桜花さん。うん、それじゃまた後で」
お、どうやらいつの間にかフレンドコールの相手は弥生さんではなく、桜花さんに変わっていたようである。それに今の言葉を聞いた感じではちょうど調整が終わったっぽいね。
「レナさん、そっちはどうだった?」
「あはは、ちょっと向こうは向こうで色々あったみたいでねー? フラムさんが強制ログアウトになって、今水月さんがリアルで連絡を取りに行ってるんだって」
「……なんだろう、何か少しホッしてしまった……」
「いやー、わたしもそれは流石に予想外だったからさー! とりあえず戻ってきたら折り返しの連絡をくれるって話にはなったし、桜花さんとの調整は完了出来たからね」
流石はレナさんだな。フラム……というか赤のサファリ同盟の方ではちょっとトラブルが発生のようだけど、桜花さんの方についてはもう片付いているんだね。
それにしても、フラムが強制ログアウトって一体何があった……? うーん、これについては情報がなさ過ぎて何とも言えないけど、水月さんがリアルで連絡をしに行っているのなら任せるしかないか。ここで俺がログアウトして確認をしに行っても無駄足の可能性が高そうだしね。
「あ、カグラさん、中継を始める時に桜花さんに一報入れてねー。それですぐに出来るようにはなってるから」
「えぇ、分かりました。それにしても相変わらず良い手際ですね、レナさん」
「あはは、褒めても何も出ないよー! それはともかく、捕り終わったなら移動しよっか」
「そうだな。とりあえずレナさん、色々ありがとな」
「わたしが好きでやってる事だから、気にしなくて良いよー! それに昨日に引き続いて、ケイさんの実況にも加えさせてもらうしねー!」
「あー、そういや俺の昨日のベスタとの対決でもアルとハーレさんと一緒に実況はしてたんだったっけ」
まぁ俺は実況される側だったし、外部からの音声は遮断の設定にしてたからどんな内容なのかは全然知らないけどね。具体的な内容は知りたいような、知りたくないような複雑な気分ではあるんだよな。
「さてと、何はともあれ赤のサファリ同盟の本拠地へと出発だよー!」
「「「「「おー!」」」」」
「皆さんは聞いていた通り、仲が良いのですね」
「ふっふっふ、そうなのさー!」
はいはい、ハーレさんはそこで自慢げに胸を張らなくてよろしい。ま、元々は色んな偶然が重なったというのはあるけど、仲が良い事は否定する気もないけどね。そうでなければ悪ふざけも含んだやり取りなんて出来ないし。
そうして赤のサファリ同盟の本拠地へと向けて、氷結洞の更に奥へと進んでいく。ふむ、途中で前には通らなかった……っていうか気付かなかった分岐の道があったようで、そちらの方へと進んでいく。
「……この道は知らないな」
「あーやっぱり、ケイさん達はこっちには来てないんだねー。ま、それも仕方ないかー」
「レナさん、それってどういう事かな?」
「んー? ケイさん達が氷結草の群生地を見つけたって情報をもらった後に改めて来た時に、ここに岩で隠された通路があるのを見つけたんだよねー。放っておくと勝手に隠してた岩も復活するんだけど、今は定期的に破壊してるんだよー」
「え、隠し通路があったの!?」
「……あはは、ここに来てたのに私達は見落としてたんだね」
「まぁそういう事もあるだろうな。……ちょっと悔しくはあるが」
「アルに同意ー。隠し通路とかあったのか……」
これについては完全に俺らが見落としていたという事だから、微妙な心境にはなってくるなぁ……。でもまぁ、なんでもかんでも見落とす事もなく見つけるなんて無茶な話だし、多少の割り切りも必要か。
「ちなみにこの奥が広い空洞になってて、そこが赤のサファリ同盟の本拠地になってるよ」
「あー、なるほどね」
隠し通路の奥が広い空洞になっていたというのも驚きではあるけど、そういう場所だからこそ赤のサファリ同盟としては本拠地として都合が良かったんだろうね。
「あ、そうそう、話は変わるんだけさ。みんなって、今日はベスタさんと会った?」
「会ってないけど、ベスタがどうかした?」
「いやさ、今日は一度もベスタさんに会ってなくてさー。フレンドリストを見てもログインしてないみたいだし、いつも大体はいる情報共有板でもそれらしきオオカミの人もいないしさー」
「へぇ、ベスタが居ないってのも珍しいな?」
「別に不思議でもないだろ。正確なベスタのログイン時間が分からないから確実とは言えないが、ログインの上限に抵触しないようにしてるかもしれんし、単純にリアルの用事かもしれんしな」
「あー、まぁそりゃそうか」
大体いつもベスタはいるから、いつでもいるのが当たり前のような気にはなっていたけど、フルダイブでのログインには時間制限もあるもんな。俺の普段の生活パターンなら3連休以上になった時くらいしか引っかかる事はないけど、人によっては引っかかる可能性もあるから、それを回避する為にログインを避けているという可能性はある。
それだけではなく、ただ単純にリアルの都合という可能性もあるし、もしかしたら体調不良という可能性だって否定は出来ない。……なんだかんだで、ベスタも昨日は疲れてたみたいだし。
あ、でもラックさんから瘴気石を取りに来ていたって聞いたから、単純に用事があるだけか?
「脱線させたのはわたしだけど、赤のサファリ同盟の本拠地まであと少しだよー!」
「「「「「おー!」」」」」
「あ、着いてきているギャラリーの皆さんは、少しタイミングをズラして入ってきて下さいね」
「だよなー。最低でも防壁魔法は必須」
「いきなりツチノコやら木やら吹っ飛んで来る事があるもんな」
「……赤のサファリ同盟の本拠地に入る時は要注意」
「ですよねー」
「群集が違うから、油断すると死ねる」
「……レナさんが予め連絡をしてたから大丈夫だとは思うけどね」
「あー、まぁ確かにそれもあるな」
「ま、どっちにしても全員が一気に入れないしな」
「そりゃ違いない!」
え、ちょっと待って。割と物騒な内容……ってよく考えたらそうでもないな。吹っ飛んでくるのが木とツチノコなら高確率でルストさんとフラムの事なんだろうね。……という事は、ルストさんは除外するとして、フラムがスパルタ特訓をしているのはここなんだろう。
さて、今は大丈夫な気もするけど、そういう内容を聞いてしまえば警戒しない訳にもいかないか。……すぐにでも防壁魔法を展開出来るように気構えだけはしておこうっと。その上で、赤のサファリ同盟の本拠地へと突入だ!
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