第648話 中立地点の変化


 ようやくやってくる事の出来た雪山の中立地点である。まぁそれぞれの群集で優先的に使う場所も決まっているみたいだから、完全にごちゃまぜという訳でもないか。


 アルのクジラに乗って徐々に近付いて行きながらざっと見回した感じでは、氷結洞の周りに沢山のかまくらがあるね。前に騒動があった時にチラッと見ただけだから自信ないけど、かまくらの数が増えてない……? それに何か全部南側に向いて入り口が……あれ? 入り口が無くて、氷の壁で埋まってる……?


「……かまくらにしては、ちょっと妙じゃないか?」

「あ、ほんとかな」

「どれも同じ向きにもなってんのか」

「でも、あれだと中に入れないんじゃ……?」

「不思議だねー!? という事で、レナさん、説明をお願いします!」

「はいはい、任せておきなさいー! えっと、あのかまくらが氷結草の栽培場所なんだよねー」

「「「「「……え?」」」」」


 え、あのかまくらが氷結草の栽培場所? あー、でも栽培が可能になったって言ってた時にもかまくらは存在してたし、あれが何かの条件を満たす為に必要なものって事か……?


「あはは、みんなして不思議そうにしてるねー! まぁよく見つけたもんだとはわたしも思うから、気持ちは分かるよー」

「レナさん、詳細をよろしく。流石に訳が分からない」

「ケイさん、説明はするから焦らないー! そろそろ、見覚えがないもの見えてくる来ると思うよ」

「……見覚えがないもの? あっ!」


 少しずつ進んでいたアルのクジラの背から、以前にはなかった湖……いや、これは地面を加工した感じがあるから池っぽい雰囲気だ。あ、でも水は凍って氷に覆われているっぽい? ……これ、一体何だ?


「あー! スケートみたいに滑って遊んでるネズミの人がいるー!」

「あ、ごめん、ハーレ。それは本題とは全然関係ないんだよね」

「え、そうなのー!?」

「まぁそうだろうね」

「うん、私もそう思うかな」

「楽しそうではあるが、まぁどう考えても違うよな」

「だよなー」


 うん、あのスケートみたいに滑って遊んでいるのが氷結草の栽培方法だと言われたら困る。……でもまぁ、この凍っている池が何か関係ありそうではあるね。


「簡単に説明すると、氷結草の栽培に必要な条件は2つあってさ。1つは雪解け水を凍らせた氷で透過した月の明かりを浴びる事と、もう1つはその氷が日の光で溶けた水を浴びる事みたいでね」

「あー、そういう条件か!」


 そういや氷結洞の中にあった氷結草の群生地への外側からの入り口は夜は氷で閉ざされて、昼間には溶けていたんだったっけ。……なるほど、その環境を再現してみたのがあのかまくらという事か。


「へぇ? そうなると、あの凍った池って雪解け水を集めてんのか?」

「うん、アルマースさん、正解! ま、雪を溶かしてあそこに貯めておいて、放っておけば夜の日には勝手に凍るから、それをかまくらの南側に埋め込む感じだねー」

「で、ついでにスケートをして遊んでいると」

「まぁ、全部は使わないしねー」

「なるほどな」


 ふむふむ、アルが確認を取ってくれたけども、あの謎の凍った池はそういう役割があるんだな。あ、氷の塊を操作しているのか、空中に持ち上げてる人がいるね。

 ……ん? ちょっと待って、3メートル四方はありそうなかなり大きな氷の塊だけど、あれって氷の操作や氷雪の操作でなんとかなる大きさか……?


「……なぁヨッシさん、あれってもしかして……?」

「……私もその可能性は考えたよ。ねぇ、レナさん?」

「んー? なんとなくどういう質問か想像はつくけど、一応ちゃんと聞いておこうかなー?」

「やっぱり想像はつくよね。それじゃ単刀直入に……あの池の氷を使えば氷塊の操作、称号で取れるの?」

「うん、取れるよー!」


 おぉ、やっぱりか! もしかしてとは思ったけど、あれで氷塊の操作が取れるというのは朗報だ。氷の昇華を持っているヨッシさんにとっては、氷塊の操作は是非とも欲しいところだろう。


「ヨッシさん、これは是非とも取っていこう!」

「……そうしたいけど、レナさん、それって出来る?」

「んー、操作自体は問題ないけど、他の称号取得と重ねる必要があるからね。ヨッシさん、雪山で取れる空き称号はある?」

「えっと、『雪山を荒らすモノ』か『雪山の強者を打ち倒すモノ』が使えると思う」

「うん、それなら取るのは問題はないねー。でも、今からは流石に無理でしょー」

「あ、そっか。先に予定の事を済まさないとね。折角、サヤがハーレの要望に応えてくれてるんだしさ」


 あー、ちょっと良い状況を見つけてテンションが上がって失念しかけたけど、今は水月さんやアーサーとの対決が控えているから、そっちが優先だよね。……まぁここで手に入るという事が分かったし、二度と機会がない内容ではないから後回しだな。


「およ? ハーレの要望にサヤさんが応えたってのはどういう事ー?」

「ふっふっふ、アルさんの樹洞の中で音声を遮断するという条件付きだけど、実況の許可が降りたのです!」

「え、それは良いね! ハーレ、連日にはなるけどわたしもそれに混ぜてもらっていい?」

「勿論、レナさんなら大歓迎さー! はっ!? でも解説をアルさん、ゲストをケイさんにするつもりだったんだ!?」

「アルはともかく、俺がゲストだったんかい!」


 思いっきり初耳なんですけど!? っていうか、同じ共同体内でゲストをやってどうするんだよ!? 


「ぐぬぬ、悩みどころです!」

「いや、俺は辞退するから、ゲストはレナさんにしてくれな?」

「お、ケイさん、気が利くねー!」

「それならそうします!」

「……まぁ、それでいいや」

「あはは、ケイさん、ドンマイ」

「……地味にヨッシさんは巻き込まれてないのな?」

「……多分そうでもないよ。ケイさんの対戦の時にゲストになってた可能性はあるし……」

「あー、確かにそれはありそうだな」


 まず間違いなくサヤには断られるだろうけど、俺やヨッシさんについては巻き込まれる可能性は充分過ぎる程にあるか。……ま、そこはレナさんが引き受けてくれた……というかやりたがってるみたいだし任せようっと。


「さてと、いつまでもここで話してても仕方ないから、氷結洞の中に行くよー! アルマースさん、小型化してもらえる?」

「あー、確かに洞窟内はその方がいいな。俺は戦闘はしないからこっちでいいか。『略:小型化』『根脚移動』!」

「おわっ!? アル、小型化するなら降りるのを待ってからにしてくれって!」

「あ、すまん、ケイ」


 ふー、急に小型化するもんだから、バランス崩して落ちかけた。……てか、サヤは普通に竜に乗って対応してるし!? うーむ、サヤもかなり竜の扱いが良くなってる気がする。


「……まぁ別にいいや。あんまり待たせてもあれだし、さっさと移動しよう」

「それもそうだな。それじゃレナさん、道案内を頼む」

「任せてくださいなー! それじゃ着いてきてねー!」

「「「「「おー!」」」」」


 そうしてサヤは竜で飛び、俺は小型化したアルに乗り、ハーレさんとヨッシさんは木にある巣の中にいる状態で、レナさんを先頭に氷結洞へと入っていく。


<『ニーヴェア雪山』から『ニーヴェア雪山・氷結洞』に移動しました>


 お、命名クエストで名も無き雪山からニーヴェア雪山に変わった事によって、氷結洞の方の名前もそれに合わせて変化しているんだね。ま、当たり前といえば当たり前か。


「お、グリーズ・リベルテが来たぞ」

「赤のサファリ同盟の人と対決をやるんだってな」

「さっき話してたあれか。折角だし、一旦中断して見に行くか?」

「そだな、そうすっか!」

「賛成ー!」

「おーい、氷柱集めは一旦中断だ! 多分他の群集も集まってくるから、カキ氷を多めに持っていくぞ」

「「おー!」」


 えーと、前に俺らが氷柱を採集したとこに来たけど、そこに集まっていた結構な人数の灰の群集の人達が騒ぎ出していた。あ、赤の群集や青の群集の人も混じってる。少しはギャラリーがいる事を想定してたけど、これはちょっと予想外に多いぞ……。


「……レナさん、もしかして色々とみんなに伝わってるのかな?」

「あはは、これはわたしじゃないからねー。……言わなくても誰が広めたかは想像つくんじゃない?」

「……弥生さんか!」

「正確には赤のサファリ同盟の一部の人だけどねー!」


 フラムが無許可の内に喧伝していた可能性も考えたけど、赤のサファリ同盟が大きく動いたのか! というかフラムを通して赤のサファリ同盟の方に話を纏めていたんだから、レナさんが俺らの迎えに来た時点で気付くべきだった! ……まぁ今更どうしようもないし、中継を許可した以上はこうなっても仕方ないか。


「……この人数のギャラリーがいるのはやりにくいかな」

「あー、そっか。サヤさんは目立つ状態で対決をするのは苦手なんだっけ? うーん、アルマースさんの樹洞には大人数は入れないよね?」

「俺はあくまで移動種だしな。人数的な制限はあるから、この人数はどうしようもないぞ」

「やっぱりそうだよねー。うん、それじゃちょっと雪山にいる不動種の人に手を借りよっか」

「え、レナさん、そんな事が出来るのかな?」

「うん、可能だよー。赤のサファリ同盟の本拠地には氷属性の桜の不動種の人がいるし、灰の群集の方にも……ほら、そこに不動種の松の人がいるしねー」

「あ、マジだ」


 そう言いながらレナさんが指し示した先には、氷で出来たような松の木の人がいた。ふむ、灰のサファリ同盟の雪山支部の所属になっている2ndのカグラさんか。


「カグラさん、ちょっとお願いがあるんだけど、今は大丈夫ー?」

「あ、レナさん! えっと、大丈夫ですけど、どういう用事ですか?」

「えっと、これから赤のサファリ同盟の人と対戦をする人がいるんだけど、ギャラリーが多くて集中出来ないって話でさー。ギャラリーを樹洞の中に入れて遮音にして集中出来るようにしたいんだけど、その役目をお願い出来ない?」

「それってグリーズ・リベルテの人の対戦の件ですよね? あ、既に来てるんですか。そういう事でしたらお引き受けしますよ」


 おぉ、ここで不動種の人の樹洞にギャラリーを収容出来るのならありがたい! それならハーレさんの実況も仲間内だけでやるよりも、より良い感じになるはず!


「あー、ちょっと横槍を入れてすまん。これ、森林深部の桜花さんと中継の約束もしてるんだがそっちはどうすりゃいい? 俺が樹洞の中に入ると投影の映像を中継する事は出来ないから、任せられるならそっちも任せたいんだが……。無理なら無理で、俺だけ外で中継するけどよ」

「中継先が桜花さんなのでしたら、私も桜花さんとはフレンドですので話さえ通していただければ可能ですよ」

「お、そりゃいいな。それじゃ任せてもいいか?」

「えぇ、お引き受けしましょう。……順番がおかしな事になりましたが、灰のサファリ同盟・雪山支部所属のカグラと申します。」


 あ、確かに初対面だったのに挨拶も何もないまま話が進んでしまっていた。色々とお願いをする状況になってるんだし、ちゃんと挨拶はしておかないとね!


「俺はケイだ。よろしくな、カグラさん!」

「私はサヤです。よろしくかな」

「ハーレです! よろしくねー!」

「ヨッシです。よろしくお願いします」

「俺はアルマースだ。……先に挨拶をすべきだったが、改めてよろしく頼む」

「いえいえ、皆様の事は色々と話には聞いておりますので大丈夫ですよ。こちらこそよろしくお願いしますね、グリーズ・リベルテの皆様」


 そんな風に簡潔に挨拶を済ませていった。……俺らの事は色々聞いているって、まぁ大体ラックさんやレナさんとかなんだろうなー。他にも心当たり自体はいくらでもあるけどね。


「それでレナさん、私はすぐに移動した方が宜しいですか?」

「うん、一緒に来てくれるとありがたいかなー?」

「それではお供します……と言いたいのですが、あいにく手持ちに樹の進化の軌跡がありませんで……」

「あ、それならわたしの方で負担するよー! はい、これで行き来の分は大丈夫だよね?」

「はい、大丈夫です。それでは少しお待ち下さいね。『纏属進化・纏樹』!」


 そうしてレナさんから進化の軌跡を2個受け取ったカグラさんが纏樹を行っていき、進化を終えた後には松の木に霜が下りたような蜜柑の実が生った状態へと変わっていた。


「おや、これは大当たりですね。レナさん、先程の進化の軌跡の代わりと言ってはなんですが、この蜜柑をいくつか持っていきますか?」

「あ、それなら貰っていこうかなー! みんなも貰っていく?」

「え、いいのー!?」

「えぇ、構いませんよ。おそらくカキ氷やお茶が普段以上に出るでしょうしね」


 あー、確かにこれから対戦の見物をしようという人が集まってくるなら、そのお供としてカキ氷とかを食べたくなる可能性はあるもんな。そういう目論見も含めて、俺らにこの蜜柑をくれるって感じか。


「この蜜柑って、普通の蜜柑とどう違うんだ?」

「私が氷属性ですので、その影響で初めから冷凍蜜柑になってますね」

「へぇ、そういう効果もあるのか」

「属性にもよりますけどね。それでは皆様、参りましょうか。『根脚移動』!」

「そだねー! それじゃ赤のサファリ同盟の本拠地まで一気に行くよー!」

「「「「「おー!」」」」」


 そうして樹洞に入れる人数が少ないアルの代わりに、大人数が入れる不動種のカグラさんも加わって氷結洞の奥の赤のサファリ同盟の本拠地に向けて移動を再開していく。

 俺らの後ろから、これからの対決し見物をするつもりの人達も着いてきてるね。ま、気持ちも分からなくはないし、サヤの集中力を削がない為の対応は出来たから問題はないはず!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る