第647話 再びやってきた雪山


 アルのクジラの背の上に乗ってみんなで色々と特訓をしつつ、雪山の目前までやってきた。とりあえず闇の操作はLv2になったし、現在時刻も8時20分を回ったくらいである。うん、約束の時間には間に合いそうだ。

 ハイルング高原だと成長体の方が遥かに多いから、未成体の残滓のイタチが1体襲ってきたくらいで後はほぼ戦闘は無しだったね。


「あ、雪山の山頂の方は吹雪いてるみたいかな?」

「みたいだねー!? でも、今日は外側には用はないので問題なしです!」

「えっと、確か中立地点は氷結洞の中とその入り口付近だったよね」

「そうなのです! まだ行った事がないから、各群集で場所を割り当ててるって事くらいしか知らないけどね!」

「何だかんだで来そびれてたし、それは仕方ないかな」

「ま、そうだよね。具体的にどういう風になってるか、楽しみだね」

「だなー」


 ようやく伸びに伸びた予定を消化して、雪山の中立地点に来れたんだ。それぞれの群集でどういう風に割り振っているかというのも楽しみだね。

 赤の群集については赤のサファリ同盟の本拠地も兼ねているという事だから、特にそこが気になるところ。……さて、それじゃいざ雪山へと言いたいとこだけど、アルがさっきから交渉している件が片付いてからだな。


「――んだな? よし、それじゃこっちの話がついたらまた連絡する」

「アル、桜花さんはどうだって?」

「面白そうだから中継は引き受けてくれるってよ。後は相手の方の許可待ちってとこだ」

「お、ナイス!」


 よし、これで俺らの方が実況をしようと思えば出来る準備は整ったか。後は実際に水月さん達と会ってから詳細を決めていかないとね。……よし、ちょっと今のうちにもうすぐ到着するってフラムに連絡入れとくか。


「もうすぐ到着するってフラムに連絡しとくわ」

「おう、任せた!」

「あ、ケイさんちょっと待って」

「ん? ヨッシさん、どうかした?」

「どうかしたっていうか、これを渡しとかないと雪山は危ないでしょ。はい、氷結草茶」

「あー、そうだよな。ヨッシさん、サンキュー」

「いえいえ、どういたしまして」


 雪山には氷属性持ちで平気なヨッシさん以外は何かの手段で環境適応の対策が必要だもんな。……うん、忘れてた訳ではないけどこのままアルに乗ったまま連絡をしていると、その間にエリア切り替えになるから今のタイミングで飲んでおくべきだよね。

 

「はい、みんなもね」

「ぷはー! ヨッシ、もう1杯!」

「ハーレ、飲むの早いかな!?」

「はいはい、効果が勿体ないから薄めたやつね」

「ヨッシ、ありがとー!」

「よし、これで全員適応は出来たな。それじゃ行くぞ」

「「「おー!」」」

「んじゃ、今度こそ俺は連絡してくるよ」


 ハーレさんだけは何故か余分に1杯ほど飲んでいたけども、まぁ薄めて効果が無くしてるやつみたいだし別に良いか。

 さてとアルが雪山へと移動を再開したので、急いで連絡をしないと先に到着してしまう。えーと、フレンドリストを開いて、フラムは……あ、2ndのツチノコでログイン中だけど場所は表示されないね。

 昨日の岩山の件で位置表示を切ったままなんだろうけど、この先の中立地点に居そうだな。……そういや俺も位置表示は切ったままだけど、まぁいいや。とにかくフラムにフレンドコールっと。


「ケイか! 中継はどうなった!?」

「……いきなりうるせぇよ、フラム」

「あ、すまん。……水月、今のは俺が悪かった! フレンドコール中だから、それは勘弁して!?」

「……おーい、何やってんだよ」

「お、おう! まぁ気にすんな!」


 いやまぁ、無意味に大声を出した事で水月さんに怒られかけたってのは容易に想像はつくけど、ホント何やってんだか……。


<『ハイルング高原』から『ニーヴェア雪山』に移動しました>


 あ、そんな無駄話のせいで本題に入る前に雪山エリアに入っちゃった。……うん、もう強引にで良いから、話を進めよう。フラムに合わせていたら話が進まん!


「あー、面倒だから単刀直入で言うぞ。俺らの方にも中継させてもらうって条件付きでならいいって事になった」

「おっしゃ! って、え……? ケイの方も中継すんの?」

「……何でそこで疑問系になるんだよ。これで条件は同じだろ?」

「あー、そういやそうなるのか! いやー、全然考えてなかったわ!」


 フラムの奴、自分が中継したいってだけで俺らの方の都合は一切考慮してなかったな? やっぱり断っとけばよかったかなぁ……。


「ん? え、何、弥生さん? あー、なるほど、うん、伝えときます」

「……弥生さんは何て?」

「元々それは提案するつもりだったから問題ないってよ! いやー、そうなってたのかー!」

「おいこら、なんでフラムがそれを知らない!?」


 その内容って思いっきり重要情報なんだけど、なんで知らないという状況が発生する!? え、そんなに間抜けなの、フラムって。


「俺、ついさっきログインしたばっかなんだよ。で、ケイからフレンドコールが来る前に弥生さんが伝える事があるって言ってきたタイミングだったんだぜ」

「あー、ただ単にタイミングが悪かっただけか」

「そういう事だな!」

「……ま、いいや。んで、ついさっき雪山エリアに入ったから、もうそんなに時間はかからないと思う」

「おう、了解だ! ……ん? あ、了解っす」

「……ん?」

「いや、レナさんがケイ達の出迎えに行ってるってよ」

「あー、レナさんか」


 ふむふむ、まだ俺らはこの中立地点の具体的な群集毎の位置の割り当てとかは知らないから、レナさんが案内役をしてくれるってとこか。えーと、そうなると前に灰の群集が集まってた氷結洞の入り口の方に行けばいい?


「ま、とりあえず了解。で、赤のサファリ同盟って今は誰がいるんだ?」

「あー、俺と水月とアーサーはもちろんとして、弥生さんとシュウさんとルストさんはいるぜ。他の人はスクショを撮りに行ったり、Lv上げに行ったりで不在だな」

「ふーん、そんなもんか」


 もっと大勢いるかと思ったけど、案外少ないみたいだね。ま、常に本拠地に籠もりっきりって訳でもないか。ルストさんがいるのはほぼ確実にフラムと連携して中継をする為なんだろう。フレンド登録をしている不動種と移動種の2人が揃って初めて中継は成立するもんね。


「お、みんな来たねー! 迎えに来たよー!」

「きゃ!? あ、レナさんかな!」

「びっくりしたー!?」

「……レナさん、急に飛び降りてくるのはどうかと思うよ?」

「ふっふっふ、それは気にしなくても良いのさー!」

「……あー、まぁ実害も無いから別に良いか。てか、さっきケイがレナさんの名前を出してたが、こういう事なんだな」

「説明する前にレナさんが到着かー」


 まだフラムとのフレンドコールの最中で、みんなにレナさんが迎えに来ることを伝える前に張本人がやってきたなー。というか、思いっきり上空から飛び降りてきたけど、それをする意味ってあったのだろうか。


「おーい、ケイ? どうしたよ?」

「……フラム、案内役のレナさんが来たから、もうフレンドコールを切るぞ」

「お、なるほどな! そういう事なら了解だ!」

「おう。それじゃもうちょっとしたら、そっちまで行くからな」

「おうよ、待ってるぜ!」


 そうして何だか無駄に疲れるフラムへの連絡の為のフレンドコールを切った。中継についてはフラム自身は地味に考えなしだったようだけど、弥生さん達の方で対応してくれていたようでスムーズに話は進みそうだね。


「あー、とりあえずみんなに連絡。中継の件は俺らの方でもやっていいって事で話は纏まりそうだ。弥生さんの方で調整してくれてたっぽい」

「おー! それは朗報だね!」

「サヤ、ファイト!」

「サヤ、頑張れよ!」

「……あはは、まぁ了承した以上はそれでも頑張るかな!」


 ま、サヤも中継をするのを了承した以上は全力でやるつもりのようだね。サヤのとっては負け越している水月さんとのリベンジ戦だし、気合も入っているのだろう。


「……ところで、レナさんはなんで空から落ちてきたんだ?」

「良いところに目をつけるね、ケイさん! まぁただ単純に吹雪の中で色々やってた時に連絡を受けて、そこからケイさん達を見つけて小石を足場にして時間短縮をしてただけなんだけどねー!」

「あー、なるほど」

「レナさん、吹雪で何か面白いものはありましたか!?」

「んー、お茶で吹雪に着色出来ないかなーって試してたけど、残念ながら失敗だったよー」

「あぅ……それは残念……」


 へぇ、吹雪に着色というのは思い切った内容ではあるけど失敗だったのか。ふむ、お茶で染めるというのは根本的に量の問題もあって難しいのかも……?

 いや、でも発想自体は悪くない気もするよね。……後で時間が空いた時にでも何か手段を考えてみるか。


「さて、わたしの失敗は置いといて、みんなを赤のサファリ同盟の本拠地まで案内するのを頼まれてるからねー。もう移動を開始しても大丈夫?」

「それについては問題なしだな」

「だな。レナさん、案内は頼んだ」

「うん、任されたよ。それじゃまずは灰の群集の割り当てのとこに行こっか」

「え、赤のサファリ同盟の所じゃないのかな?」

「あはは、まぁそれはそうなんだけど、単純に通り道なんだよねー」

「あ、そういう事かな」


 なるほど、赤のサファリ同盟の本拠地に行く途中に灰の群集の割り当て場所があるんだね。えーと、灰の群集の割り当て場所って、前に遠目から見た氷結洞……俺らが氷柱を採集したとこの入り口付近か。確か、入り口付近にかまくらを作ってたよな。


「それって確か、かまくらとか作ってた氷結洞の入り口辺りだったよな?」

「うん、アルマースさん、それで合ってるよー」

「やっぱりか。他の割り当てってどうなってるんだ?」

「あ、それは私も気になるかな」

「サヤに同意だね」

「私も気になります!」

「俺もそれは気になるな」


 中立地点とは言ってもそれぞれの群集で多少の距離は保っているようだし、その辺が具体的にどうなってるかは知っておきたいね。まぁこれからすぐに向かう事にはなるんだけど。


「まぁそれは気になるだろうねー。えっと、赤の群集……というか赤のサファリ同盟の本拠地は氷結洞の中央の広い空間だね。ほら、氷結草の群生地への縦穴があった場所があるじゃない? あの近くだよー」

「あー、あそこか。……でもあそこって広かったっけ?」

「あれ? あの近くに思いっきり広い空洞があったんだけど、ケイさん達は知らない……?」

「……多分行ってないかも? いくつか分かれ道はあったけど、全部は通ってないし……」

「心当たりがないなら、そうなのかもねー。まぁそんな感じで広い場所があって、そこが赤のサファリ同盟の本拠地になってるよ。そこを通らなくても雪山の反対側まで抜けれるしねー」

「……なるほどね」


 あそこまでに行くまでにいくつかの分かれ道があったのは間違いないから、意外と人目にはつきにくくて赤のサファリ同盟の本拠地はとしては良い場所なのかもしれない。

 雪山の寒さへの適応は必須なんだろうけど、その辺は灰のサファリ同盟の方で氷結草の栽培は確立してたはず。赤のサファリ同盟は中立地点の戦力的な抑止力という役割にもなってるから、その辺は調達もしやすいんだろう。


「青の群集の方はどうなってるのかな?」

「青の群集は、氷結洞を通り抜けた側の出入り口付近になってるよー。そこで青の野菜畑の人達も灰のサファリ同盟と同じように氷結草の栽培をしてるからねー。あ、そうそう。氷結草については完全に栽培手段が安定して確立されたから、比較的簡単にトレードが出来るようになってるからねー」

「おー! 流石だねー!」

「それなら後でトレードをしに行かないとね」

「うん、それが良さそうかな」

「だな。そういや、ヨッシさんが作ったカキ氷はどうなってんだ?」

「ふっふっふ、アルマースさん、良いところに目をつけたね!」

「……何かあるのか?」


 なにやらレナさんが思わせぶりな口調になってるけど、あのカキ氷に何かあったのか? この雰囲気だと悪い事ではなく、良い事っぽい雰囲気ではあるけどさ。


「あのカキ氷は大人気なんだよねー。トレードの希望が多くて、ちょっと攻撃性の高いタケノコが多いせいで割に合わない判定されてた竹の器の調達が捗ってるのさー!」

「おー、確かにそりゃ良い話だな」

「そういやタケノコは異常に攻撃性が高いって話はだったな。……そんなに厄介なのか?」

「まぁ竹の調達は地味に面倒ではあるんだよねー。だからちょっと助かってるのさー」


 あー、俺らが竹を調達に行ったのは夕方だった筈だから、アルはあのタケノコの攻撃性は知らないんだな。まぁカキ氷を求めて竹の器の調達が楽になっているのなら良い話ではある。……カキ氷の器としても必要なのもあるんだろうけど。


「さて、大雑把な割り振りの説明はこれで終わりだね! 到着したよ、灰の群集の割り当て地点!」

「お、到着したか」

「ここに来るのは一応3度目か」

「中立地点としては見れてなかったかな」

「おー! かまくらが一杯だー!」

「人も結構居るんだね」


 そうして雪山の中立地点の灰の群集の割り当て場所である氷結洞の入り口前にやってきた。氷結洞には何ヶ所か出入り口はあるけど、ここは俺らが探索に来た時に入った場所なんだよね。

 でもその様子は初めて来たとは全然違っているし、青の群集の連中が騒動を起こしたのもここだったけど、その時ともまた違う様子である。あの時はトラブルで雰囲気は悪かったけど、今は活気があるもんな。

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