第639話 2体目の成長体の確保
ハーレさんがチャージと連撃での攻撃準備をしている内にサヤが雷雲から飛び出してきた。あー、水の守勢付与は全て無くなってるし、少なからずクマがダメージを受けている。……竜は全くの無傷ではないけども、あまりHPは減っていないか。
そして竜の尾に巻かれて捕まっている……盆栽みたいな小さな松……? え、そんなのあり!? いや、今はそっちより、後ろから追いかけてきているカラスの方が優先だ! あ、地味にこいつ動きが素早い!?
「ヨッシさん、岩の下の氷を解除! それで何発か適当に牽制を入れてくれ」
「了解! 『アイスニードル』『アイスニードル』!」
「それなら私もなのさー! えいや!」
ヨッシさんが即座に岩の下に敷いていた氷の板を解除して、適度に方向をバラつかせた尖った氷の射出していく。それに合わせてハーレさんの茶色を帯びた銀光を放つ連続投擲をカラスが避けようとするけども、半分くらいは普通に命中した。……どうも移動速度は早めでも回避性能は高くないみたいだね。
だが、念には念を入れるまで! いや、実際に時間の問題もあるからなー。まぁ行動値も魔力値も使い過ぎない程度でやるまでだ。
<行動値6と魔力値18消費して『土魔法Lv6:アースインパクト』を発動します> 行動値 42/64(上限値使用:12): 魔力値 167/212
通常発動で土の衝撃魔法をカラスの下部から打ち上げるように発動し、完全にサヤから分断していく。よし、HPは半分を切ったな。
「ヨッシさん、ハーレさん!」
「いくよ、ハーレ! 『並列制御』『アイスプリズン』『氷の操作』!」
「いっけー!」
そうして氷の檻に閉じ込められたカラスにハーレさんのチャージを終えた強力な一撃が炸裂して、カラスはポリゴンとなって砕け散っていった。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<『進化の軌跡・雷の小結晶』を1個獲得しました>
お、今のカラスは瘴気強化種だったんだな。しかもドロップ率の低い進化の軌跡が出たのはラッキーだね。とにかく雑魚の未成体についてはこれで討伐完了っと。
「みんな、お見事かな。はい、ミドリさん、これをお願いかな」
「あ、はい。『根の操作』!」
「すっげー!」
「見事な連携だったなー!」
何やら感動している様子のフェルスさん達だけど、慣れればこれくらいは出来るようにはなると思うぞ。今のはボスではなく、普通の雑魚敵だしね。
ま、それはともかくとして、とりあえず1体目の成長体は確保! ……一応識別してちゃんとLv20雷属性かは確認は必要だけどね。
「ちょっとちゃんとLv20か確認しとくから、少し待っててくれ」
「あ、はい!」
「ミドリ、間違っても逃がすなよー!」
「そうっすよー!」
「逃さないって!?」
この3人は同じ共同体だし、結構仲が良さそうだよな。そういや共同体は最低3人からだけど、この3人のとこはどうなんだろ?
その前に識別が先か。……それにしても電気を纏った盆栽みたいに小さな松って、また変わったのが出てきたな。
<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します> 行動値 38/64(上限値使用:12)
『電気小松』Lv20
種族:黒の瘴気強化種(小型電魔種)
進化階位:成長体・黒の瘴気強化種
属性:樹、雷
特性:小型、浮遊、移動
ふむふむ、これといって物理的な特性もないし、属性も樹と雷だから魔法型で間違いないね。でも、こんな小さな樹木系の進化先ってあるんだな。
まぁ俺もコケの進化の際に『進化の輝石・樹』との合成進化って選択肢はあったっけ。……そういや最近全然使ってないや、『進化の輝石・樹』。ふむ、3rdで作るキャラに樹属性を合成してみるのも面白いか……?
「ケイ、他の事を考えるのも良いけど、識別の結果をお願いかな」
「あ、悪い。えーと、『小電気松』でちゃんとLv20の成長体だ。属性は樹と雷、特性は小型と浮遊と移動だな」
「おー!? 浮遊って事は、その松は浮けるんだー!?」
「まぁそうなるよね。そうじゃなかったらどうやって雷雲の中にいたんだって話だし」
「ま、そりゃヨッシさんの言う通りだな」
浮遊の特性が無ければどう考えてもこの小さな松があの雷雲の中にいる訳がないもんな。それにしてもホントに何でもありになってきたな、最近の敵。
「ま、この松については色々とツッコみたいとこはあるけど、とりあえずは雷属性の成長体は確保出来たし、フィールドボスへの進化のメインはこっちだな」
「……ねぇ、フェルス、レイン。ちょっと予想してなかったようなフィールドボスになりそうな予感がしてるんだけど」
「奇遇だな、ミドリ。俺もだぜ」
「レインもっすか。俺もっす!」
「やっぱり2人もそう思うよねー」
そんな風にフェルスさん達が話しているけど、まぁそう思うよなー。電気を纏う小さな松って時点で、相当な変わり種であるのは間違いない。これに他の種族と合成進化させる事になるんだから、どういう風になるかは予想がつかないな……。
「ま、その気持ちは分かるけど、それはそれでスクショとしては面白いものになるだろ」
「それもそうですね!」
「そうっすね! もう1体次第だけど、これはこれで面白そうっす!」
「だよな! おっし、頑張るぜ!」
「って事で、2体目の捜索に……ってあれ?」
意識を切り替えてもう1体の敵を探しに行こうと周囲に視線を巡らせてみたら、妙な光景が目に入ってきた。プレイヤーに鳥が群がっているって、どことなく既視感があるんだけど……。
「ケイ、どうしたのかな? あっ……!」
「えっと、プレイヤーが大量の敵に襲われてる……?」
「あ! 灰の群集のプレイヤーです!」
「え、マジか!?」
「うん、ホントだよー! でも割と平気そうな樫の木の人です!」
「あー、樫の木は防御が高いんだったっけ」
ハーレさんが見た限りでは平気そうな様子らしいし、経験値稼ぎの為には樹液分泌か何かで敵を集めたってとこか。……まぁ鳥が集まってると考えたら、他の肉とか魚を使ってるかもしれないけどね。
そういや昨日ベスタがこのエリアで魚を出すと鳥が群がってくるとか言ってたような……。実際にやればああなるんだろう。
ま、前に虫に群がられ過ぎて困った事になっていた桜花さんみたいに困ってるみたいではなさそうだから、助けはいらないだろう。さて、2体目の成長体の確保に――
「お、良いとこに灰の群集の人がいるじゃねぇか! おーい、そこでこっち見てるPTの人! ちょっとの間で良いから、預かって欲しいものがあるんだけど手伝ってくれねぇか!?」
助けはいらないだろうと判断したと思ったら、思いっきり向こうから話しかけてきた!? え、なに、声は焦った様子もないから普通に余裕そうだけど、預かって欲しいものってなんだ?
「あー、みんな、どう思う?」
「……預かって欲しいものって何かが気になるかな」
「同じくさー!」
「だよね。……でも、あんまりゆっくりもしてられないよね」
「そうっすよ! 西の方を見てくださいっす!」
「あ、やべ!? 雨雲が薄くなってきてる!?」
「わー!? 急がないと失敗になっちゃう!」
おっと、まだ距離はあるとはいえ、フェルスさんの言うように岩山を隠していた雷雲が薄れてきている。夜の闇で昨日ほどは見えないけども、それでも薄っすらと岩山のシルエットくらいは見えている。……冗談抜きで悠長にはしてられないし、ここは樫の木の人には悪いけどスルーさせてもらおうかな。
「ケイさん、手早く用件を聞いてきます!」
「……ハーレさん、時間はあんまりないぞ?」
「それは分かってるよー! ただ、あの樫の木の人が根で掴んでるコウモリが気になります!」
「……え、マジで?」
ちょっと待って、あの状況で倒さずに確保している敵と、預かって欲しいものがある……? これはひょっとするとひょっとするのか……?
「おーい、手間をかけるのは悪いとは思ってるんだけどよ! 偶々群がって来た中に紛れてただけだけど、成長体を倒すのは勿体無いんだ! 灰のサファリ同盟に持っていけば瘴気石と交換してくれるってのに!」
「っ! やっぱりか! ハーレさん、先行してあの樫の木の人からコウモリを預かって来てくれ!」
「了解です! サヤ、投げてー!」
「分かったかな! 『投擲』!」
「それじゃ行ってきます!」
とりあえずサヤがハーレさんを投げて、樫の木の人の元へと飛んでいっている。さて、この間に俺らも乗ってる岩を動かして樫の木の人の元へ移動しよう。
「うぉ、びっくりした!?」
「『略:傘展開』! 到着です!」
「来てくれたって事は、手伝ってくれるって事で良いんだよな!?」
「もちろんさー!」
「んじゃ、このコウモリは預けたぜ! ……って、あれ? ハーレ……? どこかで聞いたような……まぁいいや!」
「しっかりと預かりました! 『略:触手流し』!」
よし、とりあえずハーレさんが樫の木の人から成長体っぽいコウモリを受け取っていた。……コウモリが思いっきり暴れてはいるけど、進化階位が違うから逃げられる心配もないだろう。
それに群がっている鳥の攻撃もクラゲの触手で受け流して回避をしている。ハーレさんは遠距離だからそれほど使う事もなかったけど、回避用のクラゲのスキルが見事に役立ったか。
「さてと、ちょっと悪いが離れといてくれるか?」
「了解です! 『略:ウィンドボール』!」
「ほほう、面白い移動の仕方だな! よし、これなら気兼ねなく始末出来るぜ! 『並列制御』『アースクリエイト』『アクアクリエイト』!」
おっと、これはデブリスフロウか! おー、見事に群がっている鳥達を土石流で押し潰していってるね。……自分自身も巻き込んでるけど。まぁ自分にはダメージが無いから問題ないと言えば問題ないか。
「ふー、とりあえず助かったぜ! サンキューな!」
「どういたしましてー! でもまだ敵の生き残りがいるよー?」
「おっと、流石に全部は無理だったか。『水分吸収』『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
そんな風に気楽な感じで、多少減っていたHPを水分吸収で回復しつつ、多数の根で生き残っている5体くらいの敵を相手にしていた。……あ、根での威力は低めで弾き飛ばしているだけみたいだから、この樫の木の人は魔法型っぽいな。
えーと、この樫の木の人の名前は……ケンローさんか。ふむ、樫の木は2ndなんだね。
「あー、この種族のメンバーでケイさんとサヤさんとヨッシさん……。なるほど、『グリーズ・リベルテ』か。そりゃハーレさんの名前も聞き覚えもあるわ」
「……俺らの事、知ってんの?」
「いやいや、灰の群集で積極的に活動してりゃ知ってるって。それに直接会うのは初めてだけど、話すのは初めてじゃねぇよ」
「え、マジで?」
「ま、情報共有板経由だけだから、俺の方は名前を知られてなくても仕方ないか。シアンに食べられた事のあるカツオと言えば分かるか?」
「あー! あのカツオの人か!」
うっわ、まさかここのエリアであのカツオの人と会うとは思ってなかった! そっか、あの時のカツオの人だったのかー!
「さて、途中まではスルーされそうだったけど成長体の件を話したら様子が変わったし、なんか捕獲してるっぽい妙な松もいるって事は、ズバリ成長体をもう1体、大急ぎで探してるとこだな?」
「……ご明察の通りだな」
「それなら交渉の余地はありだな。俺はその成長体を灰のサファリ同盟に持っていって、何かのアイテム……可能であれば瘴気石と交換したいとこなんだが……ケイさん、瘴気石は持ってるかい?」
「未強化ので良ければ、あるにはあるぞ」
「よしきた! ちなみに何個ある? 今の相場なら瘴気石3個で成長体1体ってとこだが、今回は手伝ってくれたってので瘴気石2個で手を打つぞ?」
「よし、乗った!」
「おし、交渉成立だな!」
今の俺の手持ちの瘴気石は、昨日のドラゴン戦で手に入れた1個と、土曜日のスクショ撮影の前にしたダンゴムシとミズノコから誕生させたフィールドボスで手に入れたのがある。
まぁみんなも持ってるけど、今回は俺が出しておこう。ぶっちゃけ1個は回収出来るし、みんなの持ってる分と合わせればプラスだしな。
……よし、取引完了! 思わぬ展開ではあったけども、ケンローさんが見つけた成長体のコウモリを瘴気石2個との交換で入手できた。まだ雷雨は収まっていないし、何とか間に合ったぞ!
「おっし、それじゃ俺は魔力値の回復を待って、生き残ってる敵を始末するか。ケイさん達も頑張れよー!」
「おう、ケンローさんも頑張ってくれ!」
「おうよ! 『養分吸収』!」
さて、ケンローさんが他の敵の一掃へ本格的に動き出したので、邪魔をしないように俺らは撤退しますか。でもまぁ、予定外の状況ではあったけどこれは非常にラッキーだった!
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