第633話 色々あった日の終わり


 水月さんからの再戦のお誘いがあったけども、サヤの様子を見てみるとちょっと悩んでいる様子である。あ、これ、多分だけど水月さんの言葉が少し足りてないな。


「……流石にこれからは勘弁かな?」

「あ、その点は言い忘れていました。今日これからではなく、日を改めてという事です」

「それなら私は構わないけど、みんなは良いのかな?」


 やっぱり今日ではなく後日での再戦のお誘いだったようである。ま、流石の今日これからは厳しいもんな。時間的にはまだ11時になった頃ってとこだけど、ボス戦で疲弊している状態ではサヤも難色は示すよね。

 さて、サヤは俺らの都合を気にしてくれているようだけど、俺的にはそこは問題はない。というか普通にこの2人の対戦は見てみたいしね。って事で、答えは1つ!


「サヤさえ良ければいいんじゃないか?」

「ケイさんに賛成です! サヤの好きにしていいよー!」

「うん、それはサヤが決めて。特に反対はしないからさ」

「俺もその辺りは同意だぜ」


 みんなとしても同じ意見のようである。まぁ時間やどこで戦うかという調整は必要にはなるけども、反対する理由は特にないし、サヤがやりたいのであればそれを尊重するまでだ。


「……それじゃ私も戦いたいかな」

「それはありがとうございます、サヤさん。時間や場所はどうしましょうか?」

「出来ればみんなが揃っている時が良いから、夜でお願い出来るかな? えっと、8時以降くらい?」

「明日の8時頃ですね。場所についてはどうしましょうか?」


 延期しまくっている探索も再開したいし、晩飯を食ってからの合流だから時間はそれくらいが丁度良いだろう。……って、その前に場所決めるのが先か。


「あー、行きそびれたままの雪山エリアの中立地点でどうだ? 夕方のうちに俺らは移動しとくから、アルは俺らが晩飯食ってる間に移動してもらう感じでさ」

「俺はそれで良いぜ。中立地点には行けてないままだしな」

「おー! やっと行けるのさー! でもあそこなら移動時間を考えて8時半くらいだと助かります!」

「あ、確かに時間はハーレの言う通りだね。……うん、前に行こうとした時は色々あったっけ」

「……そういえば、例の騒動があった時でしたか。では明日の8時半に雪山エリアの中立地点で待ち合わせという事でよろしいですか?」

「うん、それで問題ないかな」


 そうして明日の予定の1つが決定した。ま、今回は俺は見物だけなので気は楽だし、サヤと水月さんという近接のプレイヤースキルの高い人同士の戦いはぜひ見ておきたい。


「コケのアニキ! 俺もコケのアニキと戦ってみたい!」

「お、アーサー、随分とやる気だな?」


 ふむふむ、アーサーはアーサーで俺と戦ってみたいのか。……色んな面で成長しているみたいだし、それも良いかもしれないな。おー、なんか期待に満ちた目線が向いているような気もしてくる。


「よし、それじゃやるか、アーサー!」

「え、ホントに! やった!」

「よかったですね、アーサー。ケイさん、ありがとうございます」

「ま、これくらいはな。ただし、一切の手抜きはしないから覚悟しとけよ、アーサー」

「おっす!」

「はい! 実況をしても良いですか!?」

「あ、私は却下かな」

「あぅ!? サヤはこの件については容赦ないよね!?」

「……集中出来なくなるから、勘弁かな」

「だってさ、ハーレ?」

「……了解さー!」


 と言いつつ、俺とアーサーを交互に見てくるのはやめい! いや、ハーレさんが何を要求しているのかは分かるけどさ。


「はぁ、まぁたまには良いか。アーサー、それで良いか?」

「俺は問題ないです! あ、でもフラム兄が中継したがるかも?」

「ん? アーサー、何か面白そうな内容が――」

「フラム君、戦闘中に余所見を……あっ」

「ぐはっ!」


 あーあ、フラムは弥生さん達と一緒に戦闘中だったのに、余所見をして敵にぶっ飛ばされてるよ。お、吹っ飛ばした敵って、全体に茶色くて羽の部分が石っぽい感じだけどペンギンか。


「あ、ペンギンだー!」

「ペンギンは初めて見たかな」

「あはは、普通ならペンギンを見るような場所じゃないけどね」

「ふっふっふ、3枠目にペンギン候補に考えてるからラッキーです!」

「お、ハーレさんは3枠目にペンギンを作る予定なのか?」

「他にも考えてるけど、候補の1つなのです!」


 ほほう、ハーレさんは既に3枠目の候補も考えているんだな。今はまだ3枠目の解放条件は不明だけど、遭遇した敵やプレイヤーが選べる選択肢にはなるんだから今のうちに希望する種族と遭遇するってのも大事かもなー。

 俺は俺で3枠目はどうしようか? 前にドラゴンを作ろうかと冗談混じりに言ったことはあるけど、実際にドラゴンを作るのもありなんだよな。『部位合成の種』を今後のどこかの機会で手に入れておけば翼ありの西洋風のドラゴンも不可能ではないし……。ま、この辺はじっくり考えるか……。


「ベスタ、さっきから会話に加わってないけど、どうかした?」

「……あぁ、悪い。少し気になった事があってな」

「あの上?」

「あぁ。だが、ここからだと角度が悪いし微妙に遠くて望遠の小技でも判別しきれなくてな」

「あ、ホントだー! 何か動いてるのはチラッと見えるけど、カーソルは表示されないねー!」

「ケイの水魔法Lv7でなら見えるんじゃねぇか?」

「あ、地味に俺が望遠の倍率が一番高くなるのか」


 望遠の小技に使う『視覚延長Ⅰ』の効果は、魔法とか操作系スキルとかの視界を介して発動するスキルで見える距離を伸ばすスキルだもんな。Lvが高ければ高いほど倍率が上がるから、Lv7の水魔法の俺が一番上にはなる訳だ。

 それであの上というと、結局誰も行っていない岩山の頂上の部分……? よし、ちょっと確認してみるか。


<『魔力集中Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 72/72 → 72/75(上限値使用:1)


 あ、このタイミングで魔力集中が切れたか。まぁそれは良いとして、とりあえずアルとベスタが気にしている崖上の様子を見ていこう。えーと、無駄撃ちにはなるけどアクアエンチャントを発動して指定画面を望遠に――


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 17/30


 あ、このタイミングでもう1回、群集クエストが進行した!? これは昼間はサッパリだったみたいだけど、その分を取り返している感じもする。元々クエストの宝探しという性質上で短期間に重なる時もあるさ!

 今回は破片が降ってくる様子はないから、黒い進化記憶の結晶だけど近場ではないか、光る方の進化記憶の結晶だったかのどっちかだろう。ま、すぐにどうこう出来る訳でもないから、気にせずに望遠でチェックしていこ。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 65/75(上限値使用:1): 魔力値 191/212


 さてと、ここで何も指定せずに最大倍率まで上げてっと。おー、今いる場所の角度的に岩山の頂上の端の方しか見えないけど、そこに何かいるのは……って、あれ?


「あー、誰が居るのか分かった」

「ケイ、誰だ?」

「あそこにいるのは十六夜さんだ。しかもハサミで光ってる何かを今、岩山の頂上のここから見えない方に投げ捨てた」

「……なるほど、そうきたか」


 うん、さっきの群集クエストの進行のアナウンスは、タイミング的にほぼ間違いなく十六夜さんなのだろう。そっかー、あの岩山の頂上部分には光る方の進化記憶の結晶があったんだな。


「あ、十六夜さんの姿が消えたね。多分、帰還の実を使ったっぽい」

「もしかして、あのドラゴンがいたから誰もあそこまで辿り着けてなかったのかな?」

「おー! それなら、あれだけドラゴンを弱らせた十六夜さんが持っていっても問題はないのさー!」

「それもそうだよね。……それにしてもいつの間に戻ってきてたんだろう?」

「おそらく、転移の種か実を使用したんだろう。……後で何か渡しに行こうかと思っていたが、独自にしっかりと報酬を得たのなら構わないか」

「ベスタ、そんな事を考えてたのか」

「……まぁ、途中まで弱らせてもらってはいたからな。途中で負けてもそれほど時間が経たない内に討伐されれば経験値は入るが、アイテムは手に入らないから、その分の瘴気石くらいは渡そうかと思ってはいたが……十六夜には抜け目はなかったようだ」

「すぐに戻ってきてて、あそこにいたって事は元々狙ってたかー」


 そうでないと共闘をする気はないのに倒された後ですぐに戻ってくる意味も薄いもんな。元々あの岩山の頂上に何かがあるのを見越した上で、俺らに倒すのを託したって感じだろうね。ま、あれだけ戦っていた十六夜さんがするなら納得ではある。


「おい、十六夜の名前が聞こえたぞ! 結局会えてないんだが、どんな――」

「やめんか、このイブキのアホが!」

「ぐはっ!」


 あー、こっちはこっちでまた見覚えのある感じに、十六夜さんの名前を聞きつけたイブキが突っ込んで来たのを羅刹が蹴り飛ばしていた。なんというか、ルストさんと弥生さんとのやり取りと被るよな、これ。


「どこも暴走癖がある方を抑えるのは大変なのですね」

「随分と水月さんは実感が籠もってるかな?」

「……えぇ、弥生さんが不在な時にルストさんのテンションが上がった時に抑えるのは私になってますからね」

「あー、そりゃ実感があるわけだ」


 ルストさん自身が近接でかなりの実力者だから、それを抑えられる人となるとそうはいないだろう。……っていうか、それって今の水月さんがルストさんよりも強いという事なのでは……?


 え、確か水月さんってオンライン版から始めて、それほどゲームに慣れてなかった人だよね? ちょっと強過ぎません!? でも水月さんは今は赤のサファリ同盟に所属してるもんな。ルストさんや弥生さんが身近にいて、特訓とかをしてくれるならそりゃ強くもなる……?


「おーい、イブキ、羅刹、そろそろ切り上げるぞ」

「ちょ、ウィル、待ってくれ! てか、羅刹も蹴るのを止めろ!?」

「ちっ、ちょっとずつだが回避が上達してやがるか!」

「……おーい、そろそろ暴れるのも止めて――」

「いつまでも攻撃を受けてばっかでいられるかっての!」

「んだと、イブキ!」

「2人ともいい加減に止めろ!」

「おわ!? ウ、ウィルが切れた!?」

「……すまん、ウィル。今のはやり過ぎた」

「……イブキ、何か言う事は?」

「すみませんでしたー!」


 おー、ウィルさんの一喝はお見事! へぇ、今の様子を見た感じだと、ウィルさんはウィルさんで羅刹とイブキを抑えられるだけの状況にはなってるんだな。

 ……ふむ、これはイブキや羅刹も強敵になり得るけど、一番警戒すべきはウィルさんなのかもしれない。以前に騒動の元凶となった時とは、もう別人と考えたほうが良いかもね。


「さてと、どうやらその十六夜さんとやらが岩山の頂上で進化記憶の結晶を見つけてたみたいだけど、あっちはすぐにはどうにもならないから、わたし達もそろそろ撤退だねー!」

「え、バレてたのかな!?」

「あはは、断片的に聞こえてきてた内容から推測くらいはするよ。ね、シュウさん」

「まぁ、そういう事だね」

「うぐっ!? 声に出すんじゃなかった!?」


 流石は赤のサファリ同盟の弥生さんとシュウさん、観察力は並ではないか。……黒い進化記憶の結晶の破片を探しつつ戦闘をしていたからと油断をしていたのはあるけど、あっさり見抜かれてたね。……まぁそこまで機密性の高い情報でもなかったのが幸いだったかな。


「それじゃみんな、撤退準備ー!」


 そしてその弥生さんの号令に合わせて、赤のサファリ同盟のメンバーは1ヶ所に集まっていく。ま、撤退とは言っても、帰還の実や転移の種とかを使うんだろうね。


「それでは皆さん、今日はこの辺りで失礼しますね」

「コケのアニキ! 明日の対戦、楽しみにしてます!」

「おう! 水月さん、アーサー、また明日な! 赤のサファリ同盟の人達もまた!」

「ケイ、今度は倒してやるからな!」

「あー、はいはい。勝手に頑張ってくれ、フラム」

「相変わらず扱いが雑ー!?」


 そんなフラムは放っておいて、他の赤のサファリ同盟の人達ともそれぞれに挨拶を交わしていき、転移していった。光のツボミの演出があったから、転移の種か実で本拠地の雪山へと戻ったのだろう。


 そして、赤のサファリ同盟が撤退したタイミングを見計らってウィルさんがやってきた。


「色々とあったが、今日は有意義だった。感謝するぜ、ケイさん、ベスタさん」

「えっと、ドラゴンを奪い合ってただけで、感謝されるような覚えはない気もするけど……?」

「いや、俺にとっては赤のサファリ同盟と向き合える機会になったからな。……そこに事情を知っている第三者がいてくれた事に感謝したい」

「ふん、まぁそういう事にしておいておこうか。……今の現状はケイ達から聞いてはいるが、無所属の方は任せるぞ、ウィル」

「あぁ、可能な限り、全力は尽くさせてもらう」

「ならいい」

「頑張れよ、ウィルさん!」

「あぁ!」


 そうしてウィルさんも決意を新たにしたようである。その後は羅刹やイブキも大人しくしており、普通に立ち去っていった。

 まぁウィルさんにとっては今日の赤のサファリ同盟との対峙は重要な事だったのかもね。そしてその辺は羅刹もイブキも理解しているんだろう。


「さてと、俺らも森林深部に帰りますか!」

「「「「おー!」」」」

「そうだな。激戦が多かったが、ご苦労だった」


 ベスタからの労いの言葉も貰ったし、今日の目標は全て達成したからね。時間としては11時半はまだ来ていないくらいだけど、結構疲れているから今日はここまで!


<『名も無き岩山』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 そして帰還の実を使って、戻ってきました、森林深部エリア! 帰還の実を使ったので、すぐに新しいのを貰ってっと。よし、これで問題なし。


「それじゃ今日はこれで解散!」

「お疲れ様です!」

「今日は疲れたかな」

「今日は早めに寝ないとね」

「アルマースはどうする?」

「あー、今日は俺もここで終わりにするわ。そういうベスタはどうするんだ?」

「……流石に俺も疲れたからな。今日は終わりにしておくか」


 という事で、普段はこの後もやっているアルもベスタも終わりにするようである。ま、今日のは流石に疲れるよなー。って事で、今日はこれにて終了だ。



 ◇ ◇ ◇



 そうしてゲームを終わらせ、いったんの所へやってきた。えーと、今回の胴体部分は『【Monsters Evolve Onlineの入門の手引き】の開設についてのお知らせがあります。詳細は公式サイトかいったんまで』となっていた。

 あー、そういやそんな話もあったっけ。確か、強制情報開示になる段階まで情報を公式サイトに載せるとかだったっけ? 一応いったんに確認しておくか。


「いったん、お知らせについて教えてくれ」

「はいはい〜。えっと、公式サイトの方に入門の手引きとしての情報のまとめの特設ページが明日の12時から開設されます〜」

「ほうほう、明日の12時からか」

「うん、そうなるね〜。内容については、強制開示用に用意していた情報……詳しく言うのなら未成体への進化までの情報と2枠目の解放条件までだね〜」

「あー、その辺までの情報になるのか」


 そうなると応用スキルとかの未成体から解放される内容については開示はなさそうだね。ま、新規プレイヤーに対する入門の手引きとしては充分な内容か。


「まぁ基本的には各群集のまとめの方が情報は多いから、これは新たに始める人向けの情報だね〜」

「だろうなー」

「という事でお知らせは終わり〜。スクリーンショットの承諾はしていく〜?」

「あー、それはまた明日で頼む。今日は疲れた……」

「お疲れみたいだね〜。それについては了解です〜」

「って事で、ログアウトをよろしく」

「はいはい〜。それじゃまたのお越しをお待ちしております〜」

「ほいよっと」


 そうしていったんに見送られながらログアウトをしていった。あー、今日は大規模な検証とか、激戦を何戦もやったから、かなり疲れたー! ……明日からまた学校だし、寝坊しないように気をつけないと。

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