第632話 ドラゴン戦を終えて


 何とかドラゴンには勝ったけど、流石に今日はバトル続きで疲れたー! みんなもみんなで、その場に倒れ込む……とまではいかないけど疲れた感じで休憩に入っている。……とりあえず大型化は解除しとこ。


<『大型化Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 4/35 → 4/72(上限値使用:4)


 よし、解除完了。魔力集中は……勝手に切れるのを待つのでいいや。とにかく疲れたから、しばらく休憩!


「皆さん、今の戦闘は素晴し――がふっ!」

「だから、ルストは勢い任せで突っ走って行かない! ほら、今は休ませてあげてねー」

「……ダメージがないとはいえ、もう少しお手柔らか……いえ、何でもないですよ、弥生さん。ですから、その爪で幹を研ごうとするのはやめてくださいませんか!?」


 あー、たまによく見る光景がまた繰り広げられている。……それはそうとして、この周辺ってドラゴンを突き落としてからそのまま激戦になってたからよく見てないんだっけ。

 赤のサファリ同盟との合流地点……いや、正確に言えばここにいる青の群集や白の無所属のメンバーも含めての乱戦をやったあの場所はちょっとした水場や植物もあって休憩場所みたいになってけど、今のここはどうなんだろうか?


「あー、さっき乗り越えた岩山が頂上って訳じゃないのか」


 そんな独り言を呟きながらちゃんと周囲を見回してみると、割と拓けた場所にゴツゴツとした岩が点在している感じだね。ふむ、なんだかんだで戦闘をするには丁度良い場所だったみたいだ。

 そして俺らの来た反対方向には……つまり更に奥には切り立った岩山が存在していた。しかもさっき乗り越えた岩山よりも更に高いし、角度的に頂上がどうなってるかは見えないけど、頂上が尖った岩ではないようである。……何かありそうだな、あの頂上。


「あの岩山の頂上、何かありそうじゃないかな?」

「そだね。でも今日はこれ以上は勘弁だよ……」

「……同感です!」


 いつもは元気で、これから行こうと言いそうなハーレさんも流石に今日はギブアップか。まぁ昼間はアルバイトだった訳だし、そりゃそうもなるよな。俺もあそこに何かありそうでも今日は行く気はしないしね……。 


「お、マジか! よし、何があるか見に行こうぜ、羅刹、ウィル!」

「……流石にこの状況で行くのは気が引けるんだが」

「イブキ、いくらなんでもそれはやめとけ」

「えー、別に良いじゃんよ! あの勝負で決めたのはドラゴンへの挑戦の優先権を賭けただけで、その後の行動は駄目ってルールもないだろ?」

「……へぇ、そりゃ良いな。ラピス、一緒に大暴れと行くか?」

「……良いだろう、ガストのその案に乗ってやる」

「ほう? 赤のサファリ同盟で対人戦も気にしない連中か。イブキが余計な事を言ったかと思ったが、こりゃおもしれぇな」

「お、おい!? イブキも羅刹も何言ってんだ!? ガストさんやラピスさんまで!?」


 あらま、何やら羅刹とイブキのコンビと、ガストさんとラピスさんのコンビが一触即発の状況になってきた。まぁ言ってる事は全く的外れという事でもないし、俺らに止める権利もないから放っておくか。


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 16/30


 あ、唐突ではあるけど、群集クエストが少し進んだね。ようやくこれで折り返し地点を過ぎたんだ――って、痛!? いや、痛くはないけど、何かが降ってきたロブスターの頭に当たった……って、黒い方の進化記憶の結晶の破片だ!

 よし、とりあえずこれは貰っとこ。……ふむ、光ってる方のヤツと同時に所持は可能みたいだな。


「痛!? え、なんだ!?」

「これは……進化記憶の結晶の破片か! イブキ、ウィル、まだ近くにもあるはずだ。いがみ合ってないで、そっちを探すぞ!」

「おいこら、羅刹! いがみ合ってたお前が言う事か!?」

「ちょ!? おい、お前らそれで良いのかよ!?」

「中々手に入らないレアアイテムなんだから、こっちが優先に決まってるっての!」

「……ふん、好きにしろ」


 そんな風に慌ただしくもイブキと羅刹とウィルさんは黒い欠片を探しに移動していった。うーん、まぁそれは別にいいんだけど、ガストさんとラピスさんが呆れてはいるね。

 ……羅刹もイブキも戦闘好きではあるけども、それだけって訳でもないか。まぁ無所属にとって、どこで破片が散らばったかという情報の交換は出来ないだろうし、その辺もあるのかもしれないね。


「あはは、無所属の人はマイペースだねー!」

「え、それを弥生さんが言いますか?」

「そのままそっくり返そうかな、ルストー?」

「弥生、ルスト、ストップだよ。折角の機会だから、みんなで宝探しとでも行こうじゃないかい?」

「そだねー、折角だしそうしよっか」

「お、それいいな! よし、水月、アーサー、誰が先に見つけるか勝負のしようぜ!」

「すみません、弥生さん、私は少し別行動してても良いでしょうか?」

「それは構わないけど、水月さんはどうするの?」

「いえ、久々に面と向かってサヤさんと会いましたので、少し話がしたくてですね」

「あー、そっか、そっか。うん、そういう事なら了解だよ。それじゃ参加したい人だけの自由参加にしよっか。あ、ベスタさん、ジャックさん、申し訳ないんだけど、今のって灰の群集と青の群集のどっち?」

「青の群集ではないぞ。……弥生さんがそれを聞くという事は――」

「あぁ、今のは灰の群集だ」

「なるほどね、うん、確認はそれだけ。ありがとねー!」


 弥生さんが手早くどこの群集から発生したものかの確認を済ませていき、赤のサファリ同盟も黒い進化記憶の結晶の破片を探しに行くようである。まぁ自由参加という事で、水月さんはサヤと話したい様子だし、興味がないのか面倒なのかは分からないけど動かずにのんびりと寛いでいる人もいるね。


「それなら俺もコケのアニキと話したい! あとベスタさんとも!」

「……水月とアーサーに盛大にスルーされた……」

「まぁ最近よくある事じゃねぇか、フラム。元気出せよな?」

「励ましてるようで励ましてないよな、ガストさん!?」

「おっと、バレたか。ま、俺が付き合ってやるから元気出せな?」

「……まぁそういう事なら」

「フラムが負けたら、特訓量増加な?」

「げっ!? ガストさん、それは勘弁!?」

「いやいや、こうやって鍛えた方が伸びるっぽいしな、フラムは。って事で、開始だ!」

「ちょ、待ってー!?」


 そうして飛んでいくガストさんを追いかけて跳ねていくフラムの姿があった。へぇ、フラムってスパルタで鍛えた方が伸びるのか。ふむ、通りで思った以上に上達していたんだな。


「ホホウ、ジャック、私達はどうしますので?」

「……まぁ本命の用件は無駄足に終わりはしたが、成果がない訳でもない。戻ってジェイ達を呼んで、分析を行うぞ」

「それもそうだな。ま、ドラゴンは残念だったけどな」

「だなー。でも楽しかったぞ」

「ホホウ、それは同意ですな」

「そういう訳だ、俺らはこの辺りで撤退させてもらう。だが、次に戦う時は勝たせてもらうぞ、ベスタ、灰の暴走種!」

「あぁ、受けて立とう」

「ジャックさん、ちょっと待った! そのあだ名はやめてくれ! 俺らの共同体名は『グリーズ・リベルテ』だから!」

「ふっ、冗談だ。またな、『グリーズ・リベルテ』!」

「……ちょっと複雑な気分だけど、またなー!」


 そうして青の群集の面々とそれぞれに挨拶を交わして、お別れとなった。まぁこれから色々と分析をしていくみたいだし、青の群集のこれからにも要注意だな。……いくつか新しい手札も見せちゃった事だしね。


 あ、青の群集と挨拶を終えた頃にアーサーと水月さんが俺らのとこにやってきた。フラムは……おー、なんか知らないけど岩っぽい何かの敵から逃げ回って……あ、シュウさんが風魔法で仕留めたね。

 雷属性のフラムにとってはここは相性の悪いエリアなのかもね。……なんでそれでフラムが主戦力PTに入ってたのかが疑問だけど……。


「コケのアニキー! さっきのドラゴン戦、凄かった!」

「お、そうか? あんがとな、アーサー!」

「えぇ、連携が素晴らしかったですね。私達の方は、フラムが少し独断専行気味ですからね……」

「あ、そうなんだ?」


 確かにドラゴンの優先権を賭けた戦いではフラムは後方支援に徹するものかと思っていたけど、思いっきり攻撃してきてたもんな。……その辺を甘く見て思いっきり捕まったけど、あれは独断専行だったのか。


「……既に無意味になった事だから、ダメ元で聞いてもいい?」

「それは内容によりますね」

「雷属性のフラムがあのドラゴンとの戦闘に参加って、結構無茶な気がするんだけど、その辺って何か意図があったりする?」

「……すみません。それについては答えかねます」

「あー、まぁそれなら仕方ないか」


 つまりは何らかの意図があった上で、それは俺らには開示出来ないという内容なんだね。……ふむ、フラムしか持っていなさそうで、有効な手段……あ、そういう事か。


「ケイ、それはまた後でかな」

「……それもそうだな」


 思い当たった内容はあるにはあるけど、今ここで水月さんの前で答え合わせをする必要もないか。って、あれ? 共同体のチャットのアイコンが光ってる? とりあえず内容を確認してみるか。


 ハーレ   : ケイさん、それはどんな内容ですか!?

 ケイ    : こっちで聞いてくるんかい!

 サヤ    : 私も気にはなるかな?

 アルマース : 俺は一応、見当はついてるぜ。

 ケイ    : ほほう? アルが考えたのはどんな内容?


 まぁ内容としては複雑ではない……というか、かなりシンプルな話だろうから、アルなら気付くか。ヨッシさんも気付きそうではあるけど、書き込みがない……って、竹の筒をいくつか出して何かを用意してるね。


「お茶を用意するけど、みんな何が良い?」

「ヨッシ、俺は漆黒草茶を頼む」

「あ、俺もそれで」

「ベスタさんとアルさんはコーヒー味だね。あ、水月さんとアーサーくんも用意するから言ってね?」

「それじゃ俺は発光草茶!」

「ヨッシさん、私達の分までわざわざありがとうございます。私はラベンダーのハーブティーでお願いできますか?」

「いえいえ、気にしなくて良いですよ。えっと、アーサー君がフルーツオレ味で、水月さんはラベンダーだね」


 そんな風にヨッシさんがテキパキとお茶の用意をして、手渡していく。まぁ完全に休憩モードになってるし、お茶でも飲みながらまったりしてればいいか。

 BGMとして、周辺から爆音が聞こえてたりもするけどそれは気にしない方向で。……どうやらフィールドボスがいなくなったら、雑魚敵が少し活性化したみたいで弥生さんやシュウさんが筆頭になって殲滅してるっぽいんだよね。


 まぁそれは良いとして、俺は何にしようかな? 疲れてるし、ちょっと甘いものが飲みたい気分だから俺もアーサーと同じにするか。まぁ実際に糖分が取れる訳じゃないけど、気分的な問題で!


「ヨッシ、私は旋風草茶をお願いします!」

「私もハーレと同じでお願いかな」

「あ、俺は発光草茶でよろしく」

「えっと、ハーレとサヤがメロンジュースで、ケイさんがフルーツオレだね。……私もサヤとハーレと同じにしようっと」


 そうして全員の要望を聞いたヨッシさんが、手早く全員分のお茶を用意していく。まぁ相変わらず名前はお茶でも味は全くの別物だけどね。さて、今のうちにチャットの続きをしとこう。


 アルマース : さっきの続きだが、あれだろ? ドラゴンに電気の付与魔法をかけて、雷属性を強制的に付与して土属性の耐性を無理矢理下げるんだろ?


 ハーレ   : あ、そっか! 弱点関係にある属性を同時に持ってたら、耐性が下がるんだよね!

 サヤ    : 雷属性を付与されたら、水属性への耐性は上がるけど、土属性の耐性が下がる事になるのかな?


 ケイ    : ま、そういう事だと思うぞ。ついでに土属性の攻撃の威力も下がるだろうしな。

 ヨッシ   : あ、やっぱりそうなるんだね。付与魔法の応用方法って思ってる以上に広いみたい。

 ケイ    : だなー。……1つ付与魔法で試してみたい案件があるんだけど、流石に今はやめといた方がいい?

 

 アルマース : 今から検証は勘弁してくれ……。

 サヤ    : 同じくかな……。

 

 うん、流石にやっぱり今からは無しか。ま、俺もまったりと休憩していたいし、これは明日に持ち越しで良いか。

 誰か1人、戦える相手で付与魔法を使える人の協力が必要だけど、それは灰の群集の人と模擬戦機能で試せばいいや。あ、でも自分に付与魔法をかける必要が……いや、遠隔同調を使えばコケからロブスターへの付与は出来るから可能といえば可能ではあるな。よし、その方向性で行こう。


「それにしても、今更ではありますがこのゲームはかなり奇妙な光景ですよね」

「あー、まぁ確かに今更だけど、奇妙な光景ではあるよなー」


 こうやってお茶という名の謎の飲み物を切った竹に入れて、それを抱えて飲むリスのハーレさんやハチのヨッシさん、普通に持って飲んでいるクマのサヤと水月さん、背中の木の根で掴んで飲んでいるクジラのアルとか、まぁ普通のゲームじゃあり得ない光景である。

 オオカミのベスタやイノシシのアーサーは口で竹を咥えて飲んでいるんだな。俺は俺でハサミで竹を持っているけども、まぁこれも妙な感じではあるよね。本当に今更だけど。


「ところで水月、サヤ話があるんじゃないのか?」

「話と言ってもそれほど重要なものでもありませんけどね。サヤさん、よろしいですか?」

「何かな、水月さん?」

「今回の対決は中途半端に終わってしまいましたので、改めて勝負をしませんか?」


 少しお茶を飲んで落ち着いて来たところで、ベスタに促されて水月さんが本題に移ってきた。なるほど、乱戦では中途半端な勝負だったから、仕切り直しての勝負のお誘いなんだな。

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