第631話 土属性のドラゴンと対決 その4


 アルの用意してくれた水流で方向を調整しもらいながら、落下していっているドラゴンに目掛けて突っ込んでいく。

 思ったほど回復の為の時間が確保出来なかったので、サヤとベスタはさっきの攻撃でもうほぼ行動値が残っていないはず。俺もそんなに余裕はないけども、ドラゴンのHPは残り1割だ。意地でもこれで決める!


<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』を発動します>  行動値 7/33(上限値使用:41)

<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 力無く落下していくドラゴンの首に向けて右のハサミを開き、挟み込んだ状態で水流と一緒に地面へと叩きつけられていく。うっわ、凄い衝撃! でも、このハサミは離さないぞ。


「アル、水流はもういい!」

「おう! だが、念には念を入れとくぞ! 『移動操作制御』『ウィンドクリエイト』『魔力集中』『操作属性付与』『砲弾重突撃・風』!」

「……あれ? アルのクジラの応用スキルってそれだっけ?」

「凝縮破壊Ⅰを取った時に取得になったやつだよ!」

「あ、なるほど」


 そういやアルも凝縮破壊Ⅰを取得しているんだから、その時に新たな応用スキルを取っているのが当然か。今までの頭突きではなく、全身で突撃していくタイプのスキルだな。

 ともかくアルのクジラは全身から緑色を帯びた銀光が放ち出しているし、水流の操作を解除した後に水のカーペットを移動動作制御で発動して上空で待機か。……もし俺の万力鋏で仕留めきれなかった時の後詰めだな。


「うおっと!?」

「ケイ、大丈夫かな!?」

「大丈夫、大丈夫!」


 どうやら凍結の効果が切れたようで、再びドラゴンが暴れ出した。……ヨッシさん自身が言っていたけども、昇華魔法に使う魔力値が少なければ発生する状態異常の効果時間も短くなるっぽいな。

 だけど、大型化してドラゴンの首を挟み込んで抑えている今の状況からはもう逃さない。万力鋏はこの状態から徐々に締まっていくというスキルだしね。ギリギリ、ギリギリとハサミに力が入っていく。


「はっ! ケイさん、付与をしてくるっぽいです!」

「げっ、マジか!?」


 ここで土属性を付与されたら、万力鋏の斬撃性能が落ちるぞ!? でも、今の状況からどうやって防げばいい!? くっ、仕方ない。付与された状態でも削りきれる事に賭けるしか――


「させないかな! 『略:尾伸ばし』!」

「……ほう? 視線を遮れば、対象を変えられるのか」

「サヤ、ナイスなのさー!」

「あー、状況がよく分からんけど、とりあえずサヤ、サンキュー?」

「どういたしましてかな!」


 正確なとこは状況的に見えないけど、俺には土属性が付与された様子はない。さっきはサヤが咄嗟にドラゴンの顔と俺の間に竜の尾を伸ばしてきてたけど、声を聞く限りではサヤの方に付与魔法がかかったっぽいね。

 ……なるほど、付与魔法の防ぎ方は視界を遮る事なんだな。今回はサヤの竜がドラゴンの視界を遮って、俺ではなくサヤへの付与に変えた訳だ。

 

「コケのアニキがドラゴンにマウントを取ってる!?」

「おや、残り1割でこの状況って事は決着寸前かい? 少し辿り着くのが遅かったかもしれないね」

「状況が状況だったから、これは仕方ないって、シュウさん。まだ決着がつく前で良かったというとこだね!」

「えぇ、弥生さん、そうですとも! ドラゴンを押し倒し、その首を今にも切断しようという大きなロブスターも見物ではありませんか! これは是非ともスクリーンショットを――」

「ルストさん、暴走は力づくで止めますよ?」

「……段々と水月さんに止められる事が多くなってきた気がします。……えぇ、自重はしますとも」

「……水月、怖!?」

「何か言いましたか、フラム?」

「……いえ、何も」

「何やってんのさ、フラム兄」

「うぐっ!? 最近のアーサーの視線が俺の心にダメージを!」

「……まだまだ余裕がありそうだな、フラム」

「鍛えがいがありそうじゃねぇか。なぁ、ラピス、ディー、蒼華」

「……面倒いから、ガストとラピスに任せた」

「……私も過剰になりそうなので遠慮しておきますよ。それより4人ともお疲れ様です」

「だとよ、ラピス」

「……ふん、その分密度を上げるまでだ」

「ぎゃー!? 更にスパルター!?」


 どうやら俺らが強行突破で乗り越えた岩山を迂回して他の人達が辿り着いたようである。ちょっと直接様子を伺う余裕はないから声だけにはなるけど、まぁ余計な事を言ったフラムについてはどうでもいいや。


 お、蒼華さんが先に偵察をしていた4人に労いの言葉をかけてはいるようだね。ま、あの4人がドラゴンの居場所を探ってくれていたのには感謝しておかないといけないな。


「ちぇっ、これじゃリベンジならずかー。面白くねーなー」

「ルールを決めた上での勝負の結果だ。文句を言うのは無しだぞ、イブキ」

「羅刹に言われなくてもそりゃ分かってるっての。あー、よし、それじゃ代わりと言っちゃなんだけど、砂漠にいるっていう3体のフィールドボスのとこ行こうぜー!」

「……イブキ、気持ちは分かるがその辺の話は後にしような?」

「あー、確かにそりゃウィルの言う通りだな」


 ウィルさん達、白の無所属はリベンジ失敗という事になる……って、まだ倒せてないけどな!? でもここからドラゴンに逆転はされたくないぞ。


<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>


 おっと、少しだけ他に意識が逸れている内にチャージが完了した。……あ、今更言っても遅いけど、風属性を操作属性付与で付与しておけば良かった……。いや、済んだことは仕方ない! もし俺が削りきれなくても、アルが更なる追撃に備えてくれている。


「アル、俺の方はチャージが終わったから、そっちが終わったら教えてくれ!」

「おう、了解だ!」

「……いや、少し待て。ハーレ、俺の背の上に乗ってこい!」

「了解です! でも、ベスタさん、何やるのー!?」

「なに、アルマースの加速をするまでだ」

「おー! 何をするのか、なんとなく分かったよー! それじゃ失礼します!」

「では行くぞ! 『飛翔疾走』!」


 ベスタが背中にハーレさんを乗せて、アルの上まで空を駆け上がっていく。あー、うん、ハーレさんとベスタの組み合わせならなんとなく予想はついたね。


「……スリム、マムシ、紫雲、この戦闘をよく目に焼き付けておけ。次に他の群集との対決型のイベントで倒さなければならない相手だからな」

「ホホウ、それはごもっともなので」

「相変わらず強いが、負けてばっかでもいられねぇしな。ジャック、戻ったらジェイや斬雨達と色々と分析という事でいいか?」

「うへー、俺は勝てる気はしねぇ……」

「……紫雲の気持ちも分からなくもないから無理強いはしない。だが、持ち帰った情報で分析は行うぞ!」


 うわー、ジャックさんを筆頭にジェイさんや斬雨さん達から今回の戦闘を分析されるのか……。まぁ途中で遭遇して、こういう形になった以上は多少は諦めるしかないか。


「ケイ、俺の方もチャージ完了だ! 水のカーペット、解除!」

「よし、それじゃ決着をつけるぞ!」

「ハーレは尾ビレ側から範囲を広めにして吹っ飛ばせ。俺はアルマースの木の後ろから吹き飛ばす! 『並列制御』『ウィンドボム』『風の操作』!」

「了解です! 『並列制御』『略:ウィンドボム』『略:風の操作』!」


 お、やっぱり予想通りに、水のカーペットを解除して泳ぎながら落下し始めたアルに向けて、ベスタとハーレさんがウィンドボムの指向性を操作して、アルの加速をやっていた。どうやら万力鋏のチャージ時間で行動値が少しは回復出来たっぽいね。

 そうしてアルが俺のいる場所に眩い緑色を帯びた銀光を全身から放ちつつ、急速に落下してきている。


「ま、俺が仕留めきれれば良いんだけど、とりあえず喰らえ、ドラゴン!」


 どうしてもドラゴンとはLv差が10以上はあるから、ダメージ量に不安要素があるんだけどね。とにかく、チャージを終えた万力鋏でドラゴンの首を挟み斬る!

 よし、思いっきり決まった! まぁ、ゲームの仕様上、完全な切断技で首を切り落とすような攻撃でも首は残るのは仕方ない。……けど、まだHPが残ってるのかよ。


「え、仕留めきれなかったのかな!?」

「アル、最後は任せた!」

「おう、任せとけ!」


 今ので仕留めたかったけど、脱皮で防御が大幅に落ちていてもLv差によるダメージの通り具合が悪いな。それでも残り4%くらいまではなんとか削れたし、これならアルの加速付きなら削り切れる範囲!

 って、ちょっと待て!? 俺のハサミから解放された瞬間に口を開けて、何をする気だ、ドラゴン!? ……あ、もしかして同属食いで俺のコケを食べる気か!? 


「ケイ、危ないかな! 『略:魔法砲撃』『略:ウィンドボム』!」

「これならどう! 『アイスクリエイト』『同族統率』! 行け、ハチ1〜3号!」


 そこからサヤがドラゴンの横っ面に竜の口から風の弾を吐き出して、ドラゴンに直撃して爆風をおこしていく。そしてその隙をついて、ヨッシさんが氷属性にした同族統率で生成されたハチをドラゴンの口の中に突っ込ませていた。

 お、流石に氷属性の状態異常に弱いドラゴンが、氷属性のハチを食べたら効果は抜群だね。一気に凍結と凍傷の状態異常になった。ふー、即座にサヤとヨッシさんが妨害に動いてくれてなんとか助かったー!


「ケイ、退け!」

「おっと、そうだった!」


 このままドラゴン上に乗って抑え込んだ状況のままではアルの直撃は俺が受けてしまう。って事で、緊急回避!


<行動値を3消費して『体当たりLv3』を発動します>  行動値 4/33(上限値使用:41)


 体当たりで背後に一気に跳び跳ねて、その直後にアルの加速した緑色を帯びた眩い銀光を放つ突撃がドラゴンを押し潰していく。そして、今度こそドラゴンのHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。


<ケイがLv19に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイが未成体・暴走種を討伐しました>

<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『岩山の強者を打ち倒すモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>

 

<ケイ2ndがLv19に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を討伐しました>

<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『岩山の強者を打ち倒すモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


<『瘴気石』を1個獲得しました>

<『進化の軌跡・土の小結晶』を3個獲得しました>


 うおっ!? 一気にLvが2も上がったぞ。流石はLv差がかなりある上に、フィールドボスなだけはあるな! ふっふっふ、まだLv10ほどあるとはいえ、この1戦でかなり次の進化には近付いたぞ。

 そして、瘴気石と進化の軌跡もゲット! ……まぁ土属性進化の軌跡は俺には必要ないから、これはトレード行きだな。


「一気にLv2上がったかな!」

「わーい! 経験値、美味しいのさー!」

「あはは、Lv2も上がるとは思わなかったね」

「だな。ま、この土日はそんなにLvは上げれてなかったから、ちょうどいいだろ」

「それもそうだ……って、あー!?」

「……いきなりどうした、ケイ?」

「……大量の経験値が入ると思って、勝てそうなら経験値増加のアイテムを使おうかと思ってたのを完全に忘れてた……」

「「「「あー!?」」」」

「……まぁ今の経験値量なら気持ちは分からなくもないが、そこまで気にしなくてもいいだろう。Lv20くらいなら、今は通常の敵でも増えてきてはいるからな」

「……それもそうだな」


 折角の大量の経験値だったし経験値の増加アイテム使えばもうLv1くらい上がったような気もするけど、済んでしまった事はどうしようもないか……。まぁベスタみたいに適正Lvの非常に少ないという訳じゃないんだから、何とかなるにはなるよね。


「ちなみにベスタのLvはどうなった?」

「一応Lv27には上がったぞ。……途中までは十六夜が弱らせていたから、その分の経験値は減っているだろうが、これだけの経験値が手に入ったのならば問題はない」

「あ、そっか。十六夜さんもかなり戦ってたもんね」

「こういう場合って、十六夜さんは経験値は貰えるのかな……?」

「そういやどうなるんだろ……?」

「それは気にしなくていいぞ。通常の敵では負ければ一切経験値は手に入らないが、フィールドボスが相手で極端に時間が空いていない場合であれば、経験値の量はかなり減りはするが経験値自体は貰えるからな。討伐に関わった人数や、与えたダメージ量や、PTへの支援行動で変動はするが、あれだけ削っていれば相当な量の経験値は入っているはずだ」

「お、マジか! あー、それなら良かった!」


 ドラゴンについては十六夜さん自身が託してくれた形になったけども、その辺は気になってたんだよな。そっか、フィールドボス戦なら討伐が成功したら、負けたとしても戦果に応じてちゃんと経験値は貰えるんだね。


「はい!」

「……どした、ハーレさん?」

「流石に疲れたので、休憩がしたいです!」

「ハーレに同意かな……」

「私も同じく……」

「俺もだな……」

「あー、まぁそうなるか。……俺も疲れたしさ」


 そりゃ集中しまくった上で、大技をぶっ放しまくって、それでも逃げられかけたのを何とか仕留めたんだ。みんな、疲れていても当然ではあるな。

 ……十六夜さんが結構削ってくれていなければもっと時間がかかっただろうし、苦戦もしてたんだろうしね。


「弥生、シュウ! この近くに出てきた敵は任せていいか?」

「あぁ、それくらいは構わないよ、ベスタ」

「激戦を見せてくれたって事で、わたし達の方でそれは請け負うよー!」

「そう言ってもらえるとありがたい。……俺も疲れたから少し休ませてもらう」


 流石のベスタも疲労があるようで、地面に降りて休憩を始めていた。みんなもそれぞれに地面に降りてきている。……俺も休憩しようっと。

 そういや現在時刻は……11時か。思ってたより早く勝利で終わったけど、全体的にダメージの通りは悪かったし、ほんと疲れたー!




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:同調強魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 17 → 19

 進化階位:未成体・同調強魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化


 群体数 450/6450 → 450/6750

 魔力値 64/208 → 64/212

 行動値 4/74 → 4/76


 攻撃 76 → 78

 防御 117 → 123

 俊敏 87 → 91

 知識 174 → 184

 器用 191 → 203

 魔力 251 → 267



 名前:ケイ2nd

 種族:同調打撃ロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 17 → 19

 進化階位:未成体・同調打撃種

 属性:なし

 特性:打撃、斬撃、堅牢、同調


 HP 5790/7450 → 5790/7850

 魔力値 97/97 → 97/99

 行動値 64/64 → 64/66


 攻撃 248 → 266

 防御 230 → 244

 俊敏 190 → 202

 知識 71 → 73

 器用 82 → 86

 魔力 43 → 45

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