第630話 土属性のドラゴンと対決 その3


 アルの垂直方向に行った旋回で尾ビレを叩きつけられて勢いを増して落下していくドラゴンを追い抜き、なんとか崖下の地面の近くまでやってきた。ふー、かなり無茶な移動速度になったけど何とか間に合ったね。


「ヨッシさん、大丈夫?」

「……うん、何とか大丈夫。それより時間がないから急ごう、ケイさん」

「だな」


 最近はかなり慣れてきているとはいえ、さっきみたいな地面に向かっての急加速はヨッシさんは苦手なんだけど、それでもヨッシさんはやろうと言ったんだ。それを無駄にする訳には行かないもんな。


「それじゃいくよ。『アイスクリエイト』!」


 さて、それじゃ落ちてくるドラゴンへの出迎えの仕上げをしていこうじゃないか!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 32/67(上限値使用:7): 魔力値 169/208


 そうしてヨッシさんの生成した氷と俺の生成した土が、地表で重なっていく。ふー、ぎりぎりだけど間に合った。


<『昇華魔法:アイシクル』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/208


 昇華魔法が発動した事によって地面が氷に覆われていき、複数の槍状の氷柱が地面から生えている。さて、ここにドラゴンが落ちてくれば串刺しに……なるかなぁ……? それについては実際にどうなるかはまだ分からないね。


「俺からのおまけだ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『アクアクリエイト』!」

「ちょ、アル!? 3人が魔力値0は流石にまずいんじゃ!?」

「削れる時に削るだけだ! 出し惜しみして、勝てる相手かよ!」

「まぁそりゃそうだけど!?」


 くっ、これ以上言い争いをしている場合じゃないか。アルの発動したウォーターフォールがドラゴンを上から押し潰していき、そのまま氷の槍が待ち受けている地面へと落下していった。

 そしてまだ効果の続くウォーターフォールがドラゴンを押し潰し続けていて、どういう状況になったかがまだ分からない。……よし、アイシクルもウォーターフォールも効果が切れたか。


 さて、これで大幅にHPを削れていたら良いんだけど……お、3割くらいまで一気に削れている! しかも光の操作のレーザーで焼き切った翼は飛べる状態ではないし、昇華魔法のアイシクルは胴体は貫通こそしてないけど翼は貫いているからかなりの成果だな。


「魔法に対する耐性は高めとはいえ、ここまでやれば相応のダメージは与えられるか」

「みたいだな。さて、ここからどうするか……」


 ベスタの言うように思った以上のダメージを与えられたとはいえ、まだまだHPは3割以上は残っている。Lv差もあるんだろうけど、やっぱり強いな、フィールドボスは……。十六夜さんが4割も1人で削ったのはやっぱりとんでもないな。ついで朦朧も入っているみたいだね。


「追撃だ。『爪刃双閃舞・風』!


 色々と細工をして増幅させた落下ダメージとその衝撃で朦朧の状態異常になって身動きの取れないドラゴンに向かって、ベスタが追撃に緑色を帯びた銀光を放つ爪の連撃で斬り刻んでいく。銀光を強弱が早いから、これはLv3での発動か。

 うへー、今のベスタはLv26だからLv27のドラゴン相手にも明確にダメージを与えていっている。これでドラゴンの残りHPは2割を切ったか。……自己強化が切れていれば、もうちょい削れてそうだったんだけどな。


「……ふん、流石にHPも多いし、硬いな……」

「……あはは、充分過ぎる威力な気もするかな?」

「ベスタ、とりあえずその辺で一旦攻撃中止! もうほとんど行動値がないだろ?」

「……もう1発くらいなら、Lv1の応用スキルを叩き込めるぞ」

「それってかなりぎりぎりじゃん!? それなら尚更、ベスタは回復!」

「……その方が良いだろうな」


 放っておけば通常攻撃をしながらでも回復させていきそうなベスタだけど、PTでいるんだからそこは回復に専念してもらった方が確実に良い。

 俺とヨッシさんとアルが魔力値を使い切ってしまったので、ドラゴンが飛べない今は回復に専念すべきか。サヤもハーレさんも、結構応用スキルを使っていたから回復が必要だろうしね。……ドラゴンのHPはあと2割、攻撃パターンが変わる可能性もあるから油断は出来ないか。


「アル、行動値に余裕はあるか?」

「魔力値は空だが、行動値はまだ問題ないぞ」

「よし、それじゃアルはドラゴンに動きがあれば、根の操作やクジラの攻撃で牽制してくれ。威力は低めで構わないから、回復時間の確保を優先で」

「おう、任せとけ!」

「サヤとハーレさんとベスタは行動値の回復を優先。特にベスタ!」

「……名指ししなくても分かっている。普段のソロでの癖が出ただけだ」

「ベスタさんはソロがメインだから、こうやって回復に専念する事はないのかな?」

「ほぼないな。行動値を10くらい残した状態で、回避と通常攻撃で回復に専念するくらいだ」

「おー! やっぱりソロだと違うんだねー!」


 ちょっとした雑談になってはいるけども、まぁ警戒心を解いた訳でもないようなので問題はないだろう。さて、こうしている間にドラゴンの方も回復はするだろうから、そこは注意していかないとね。


「俺とヨッシさんはアイテムで魔力値を回復させて対応していくぞ」

「うん、了解」

「あ、ハーレさん、アルの魔力値の回復を頼んだ!」

「了解です! アルさん、いくよー! ほい、ほい、ほい!」

「うおっと!? サンキューな、ハーレさん」

「どういたしまして!」


 アルのクジラの目の前に行くように数個のレモンを山なりに投げて、それをアルが食べていく事で、魔力値を回復していく。まぁ、アルが自力でインベントリから出して食べるのも可能ではあるんだけど、地味にこっちの方が早いんだよな。


 それはそうとして、俺も魔力値を回復させていかないとな。レモンは酸っぱいから、前に報酬でもらったアジの干物でも齧っておくか。……お、焼いた方が良いかと思ったけど、ゲーム的な処置で既に焼いた後の感じになってるのか。うん、美味い。

 ヨッシさんは……ドライフルーツを食べてるっぽいね。種類はどうやらレモンみたいだけど、レモンのドライフルーツって食べた事ないな。……ドライフルーツは苦手だから、食べず嫌いの種類もあるんだよね。だからといって食べてみる気はないけども。


「はっ!? ベスタさん、危ないです!」

「ちっ、もう回復しやがったか! くっ!」

「ベスタ!?」


 朦朧が治ったドラゴンがベスタの方を睨みつけたかと思うと、ベスタが土の拘束魔法で固められたと同時に、頭上から土砂が襲いかかってきていた。……しかもベスタの周囲に土の球が1つ漂っているって事は、拘束魔法の方に守勢付与がかかってる!?

 あ、今ドラゴンが小さな何かを噛み砕いたぞ。やば、もしかして土属性の雑魚敵がいた……? くっ、今の魔法も同属性の敵を食べて、魔力値を回復されたからか!


「サヤ、悪いけどベスタの拘束を破壊してくれ!」

「分かったかな! 『強斬爪撃・風』!」

「助かる! 『強斬爪撃・風』!」


 ふー、とりあえずベスタを拘束していた土をまずサヤが破壊して、周囲に漂っていた土の球で拘束魔法の修復に入った段階でベスタがそれを破壊した。

 これがベスタの言っていた3つのスキルの同時発動が可能になった並列制御での魔法か。……拘束から攻撃に至るまでのタイムラグが一切存在していなかったから、これは非常に危険だな……。


 これを使う敵が大量にいるとも思えないけど、何らかの対策が必要か……。どうすればこの攻撃を防ぐ事が……って、あれ? 今のって要は3発の攻撃ではあるから……もしかすると、敵からの付与魔法は守勢付与で防げる……?

 あ、小石っぽいものが近くに転がっていたかと思ったら、それをまた噛み砕いてる……? くっ、雑魚敵がいるのは予想は出来ていたのに、見た目がただの小石の何かって判別が無茶だろ!? ……ここに来た時点で看破を使っておくべきだったか。


「って、逃げる気か!? アル!」

「おう! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」


 よし、起き上がってきたドラゴンの四肢にアルが根を巻きつけるようにして逃さないように……って、あれ!? 根からすり抜けるように、ドラゴンが起き上がっていた。本当に色んな事をしてくるな、このドラゴン!


「これ、もしかして、脱皮かな!?」

「あ、HPが一気に回復してるね?」

「あー!? 飛んでいくよー!?」


 くそ、アルの根から抜け出したのは、脱皮によって表皮を脱ぎ捨てたからなのだろう。……このドラゴン、元々はトカゲ辺りからの進化だな!? どうやって翼を手に入れたのかは分からないけど、黒の暴走種と黒の瘴気強化種が合成進化したとかそんな所か。

 って、悠長に話してる場合じゃない! 脱皮でHPは8割まで回復してるし、翼も元に戻ってしまっている。だけど、この脱皮には大きな弱点があるからな!


「もう一回墜落させるから、サヤとベスタはチャージで待機!」

「分かったかな! 『重硬爪撃・風』!」

「任せておけ。『重硬爪撃・風』!」


 よし、HPは大幅に回復されたとはいえ、それと引き換えに防御が大幅に下がっているはず。今こそ盛大な攻撃のチャンス! もう一度翼を潰して、ヨッシさんの氷魔法で動きを鈍らせて確実に仕留める!


「ハーレさん、狙撃で翼を狙え! 落ちてきたらヨッシさんは威力は低くても良いからダイヤモンドダスト!」

「了解!」

「了解です! 『狙撃・風』! って、あれー!?」

「魔法砲撃での防壁魔法!?」


 そのハーレさんが放った狙撃に合わせるかのようにドラゴンが口から吐き出した土の球が衝突し、完全に防御されてしまった。……しかも2重に防壁が展開されているので、守勢付与の効果付きかよ!


「あーもう! ハーレさん、連速投擲! アルは側面から水流の操作! 俺は上から光の操作で撃ち抜く!」

「了解です! 『連速投擲・風』!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」


 どんどん高度を上げていくドラゴンをこのまま逃がす訳にはいかない。警戒という特性を持っている以上、防御が大幅に低下している現状では逃げに徹する可能性が高いから、それだけは防がないと!

 とにかく今は飛行鎧で一気に速度を上げて、ドラゴンを追いかけていかないと! くっ、まだ自己強化もかかっているから飛ぶのが速い!? あ、でもハーレさんの投擲やアルの水流を避けたり、受け止めたりするので少し速度が落ちたな。


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 22/67(上限値使用:7)


 よし、少しだけだけどドラゴンの上に出たから、即座に光の操作を発動! もう一度翼を撃ち抜いて……よし、成功!


「って、ちょっと待てやー!?」


 俺が光の操作で穴を開けた翼を、生成した岩で覆って応急処置って何!? しかも、岩の追加生成で光を遮ってくるって、このボスの行動パターンが多彩過ぎない!?

 くっ、ここまで誰も倒せなかったというのも、ベスタや十六夜さんでも倒しきれなかった理由がよく分かったよ! このドラゴン、厄介過ぎるほどに手札が多い!


「ううん、大丈夫だよ、ケイさん。『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」

「あ、ヨッシさん、いつの間に!?」

「あはは、ケイさんが慌てて飛び上がった時に着いてきちゃった」

「あー、なるほどね」


 慌てて逃げていくドラゴンを追いかけていたから、飛行鎧の背中にヨッシさんがしがみついていたのには気付いてなかったね。でも、ヨッシさん、ナイス判断!

 消費した魔力値が少ないからかなり威力は低めで範囲も狭いダイヤモンドダストではあるけども、凍結と凍傷の状態異常は見事に入っている。流石は、威力よりも状態異常の効果が強いダイヤモンドダストだし、異常特化のヨッシさんだな。


「さてと、効果は魔力値全快の時より低いだろうからもう一手だね。『溶解毒生成』『乱れ針』!」

「おー、お見事!」


 ヨッシさんの更なる追撃で、頭部から首にかけての石の鱗が溶けていった。ふむふむ、やはりこのドラゴンには物理の方が効きは良いみたいだね。


「後はみんなに任せたからね」

「おう、任せとけ! おらよ! んでもって、『略:旋回』!」

「アル、ナイス!」


 ドラゴンの動きが鈍って落下を始めたところを見計らって、アルが水流に乗って上空まで泳いできて、そのクジラの巨体でドラゴンを地面に叩きつけていく。


「チャージ、完了かな!」

「行くぞ、サヤ!」


 そしてその猛烈な勢いで落下してくるドラゴンをサヤとベスタが待ち構えて、サヤは眩い緑色を帯びた銀光を放つ爪を振り上げるようにして斬り裂き、少しタイミングをずらしてジャンプしたベスタがサヤと同様に緑色の銀光を放つ鋭い爪を振り下ろしていた。

 これで決まったかと思ったけど、脱皮で防御が大幅に低下していてもまだ1割はHPが残ってるのか。……これはやっぱりLv差がかなり影響していそうだけど、これくらいならまだなんとかなる!


「アル、もう一回水流!」

「そりゃいいけど、どうする気だ?」

「こうするんだよ!」


 さて、もうドラゴンは満身創痍。だけど、また脱皮を使われると厄介だから、このまま動きが鈍っている内に仕留めきる!


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 22/67 → 22/73(上限値使用:1)

<行動値上限を3使用と魔力値6消費して『魔力集中Lv3』を発動します>  行動値 22/73 → 22/70(上限値使用:4): 魔力値 34/208 :効果時間 14分

<行動値上限を37使用して『大型化Lv1』を発動します>  行動値 22/70 → 22/33(上限値使用:41)


 ここからは邪魔でしかない飛行鎧を解除して、自由落下になりつつ魔力集中と大型化を発動していく。そんなに大きなドラゴンではないとはいえ、確実性を求めるならこれくらいの大きさは必要だ。


「なるほど、そういう事か。『アクアクリエイト』『水流の操作』! 行ってこい、ケイ!」

「おう!」


 アルは意図を察知してくれたようで、即座に水流の操作を発動してくれた。ただ落ちるだけでは狙いが外れても困るから、これでアルに調整してもらうまでだ! これでとどめだ、土属性のドラゴン!

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