第626話 ドラゴンの元へ


 さて、みんなの移動準備が整ったところで土属性のドラゴンの場所へ移動していこうじゃないか。出来るだけ大急ぎで、可能であれば十六夜さんが生き残っている内に!


 移動については俺ら灰の群集はいつもの様にアルのクジラの背に乗っている。赤のサファリ同盟では弥生さんやシュウさんやフラムなどの比較的小さな種族の人は大きな龍である蒼華さんの背の上に、そうでないそれなりの大きさの種族の水月さんやアーサーなどはルストさんの樹洞の中に入っていた。

 そして青の群集は紫雲さんの生成した岩の上にジャックさんも乗り、紫雲さんのワニの背中の上にスリムさんが乗っている。無所属はイブキの上にクマのウィルさんと小さくなった羅刹が乗っていた。


 あれ? 誰か足りないような気がしなくもない……? あっ、そういやマムシさんがまだ戻ってきてない!?


「それじゃわたし達の方で先導するから、着いてきてねー!」

「あ、弥生。少し待った方が良いと思うよ」

「え、シュウさん、他に何かあったっけ?」

「……いや、ほら、あそこをね?」


 その言葉と共にシュウさんが指し示した場所に、転移の種の効果で光で作られたツボミが現れて、開花すると同時に中から丸太……いや、そう見えるのは俺の苦手生物フィルタのせいだな。……気を取り直して、中からは大蛇のマムシさんが現れてきた。

 へぇ、転移してきてもキャラのサイズと演出のツボミの大きさって変わらないんだな。……まぁアルのクジラとかの大型にサイズを合わせられるとそれはそれで邪魔か。


「おいこら! 俺が戻ってくる前に出発しようとしてんじゃねぇよ!」

「……ごめんなさい、素で忘れてました」

「ぐっ、そう素直に謝られるとこれ以上は言い難いじゃねぇか……」


 素で忘れてたしまっていた弥生さんが深々と頭を下げている様子を見て、マムシさんの怒りも吹っ飛んだようである。


「ホホウ、マムシさん、戻りましたな」

「……スリム、てめぇ、気付いた上で放置してたな?」

「ホホウ、何をご冗談を?」

「上等だ、スリム! 後で模擬戦で叩き潰してやる!」

「ホホウ、あなたにそれが出来ますかな?」

「そろそろその辺にしとかない?」

「そうだぞ、マムシ」

「シレッと無かったことにしようとしてるけど、ジャックも紫雲もそのまま行こうとしてたよな!? おいこら、2人して顔を逸らすな!?」


 なにやら青の群集は青の群集で、割と変な関係性になっているようだね。ま、青の群集でも色々とあったんだろうし、そういう事もあるか。


「さてと、素で忘れてたのは本当にゴメンだけど、本当にそろそろ出発するよー!」

「ちっ、今は他の群集に免じて引き下がっとく。『小型化』!」


 そして小型化して丸太から木の枝……じゃなくて普通のヘビサイズになったマムシさんは紫雲さんの岩の上に乗っていった。さて、今度こそ弥生さんの号令に合わせて移動開始が出来るね。目指せ、土属性のドラゴンがいる場所へ!



 そんな感じで赤のサファリ同盟の先導によって移動を開始である。……龍である蒼華さんも、同じく龍であるイブキも、紫雲さんの生成した岩も空を飛んでいるので不思議な事は何もない。

 でもルストさんだけ地面を駆けてる筈なのに、崖に向けて根を伸ばして振り子みたいな感じで勢いをつけて跳んでるのって何!? ホント、器用な真似をするよな、ルストさん!


「……すげぇな、ルストさんのあの移動」

「アルも真似してみたら?」

「どうやるんだよ、あれ!?」


 ふむ、どうやればいいか……。ぱっと見た感じでは、根の操作で崖に根を張ってから勢いをつけてる感じだから……俺の岩の操作と併用してやればいけるか?

 いや、そのまま前に岩に生成したんじゃぶつかるから、少し左右のどちらかに展開する必要が……あー、そうなると並列制御が必須な上に、岩を前に戻してくる速度を上げる必要があるから効率も悪いか……。


「……ケイが本当に手段を考えてるかな」

「効率は悪そうだけど、実行は可能そうなさそうなのがすごいね」

「あれ!? また声に出てた!?」

「思いっきり声が出てたのさー! でも、こういう時に考えてたのがそのまま声に出てるのは珍しいよね!?」

「……まぁそういう事もあるだろう。ケイと俺は少し時間を空けてはいるが連戦ではあるからな」

「あー、確かに地味に疲れは溜まってるのかも……」


 スクショの撮影の件で結構気分的には回復はしたとは思ったけど、ベスタとの対決の後にさっきの乱戦だもんな。思っている以上に疲れていてもおかしくはないか……。

 それにしても、ルストさんにあの動きは何かに活用は出来ないかな? 俺が岩を生成する事そのものはありとして……そのまま引っ張ってみる? うーん、ありと言えばありかもしれないけど、普通にアルの水流で泳いで行けば良いだけだし、これは微妙か。


「あー、良い手段が思いつかん! ……景色でも眺めて、今は休憩しとこ」

「十六夜の戦果次第ではあるが、この後に仕上げのボス戦が待っているからな。休める内に休んでおけ」

「そだなー」


 今の移動中に出てきている敵は、さっきの乱戦に参加していなかった赤のサファリ同盟のガストさんや蒼華さん達、それと不完全燃焼だった弥生さんやラピスさんが討伐してくれているんだよね。

 ここのエリアの敵は俺らが適正Lvの敵って話だから戦いたいとこではあるけども、行動値や魔力値の回復もあるから今回は任せる事にした。……殆ど残滓か瘴気強化種だったみたいだから、黒の暴走種の発見報酬は手に入らなかったけどね!


「ラピス、そっちに行ったよー!」

「……ふん。『並列制御』『トキシシティ・ブースト』『ポイズンインパクト』!」

「相変わらず容赦のねぇ毒だな、おい! 『魔力集中』『双翼斬舞』!」


 ラピスさんの俺らの知らない何かのスキルを同時に使って放った毒の衝撃魔法が、表面が岩っぽいムササビの表面を盛大に溶かした!? その直後にガストさんがタカの両翼で斬り刻んで、敵はポリゴンとなって砕け散っていった。

 ラピスさんは並列制御を使ったけど、その割には同時にスキルを2つ発動したようには見えなかった。これってもしかして、毒魔法のLv7か……? 


「へぇ、毒ってそんなスキルもあんのか。今のって溶解毒だけにしちゃ、効果が高過ぎるよな?」

「……ふん、マムシか。同じ毒使いだから気にはなるんだろうが、流石に他の群集には答えられんぞ」

「ま、そりゃそうだな。俺だってラピスさんの立場ならそうするし、そこを無理に聞き出す真似はしねぇよ。……でもまぁ、見たからには分析はさせてもらうぜ?」

「……それくらいは勝手にしろ」

「素直じゃないよなー、ラピスさんって。何だかんだで同じ毒持ちはそう多くないから、地味に気になってるのにさー」

「……フラム、スパルタ特訓を1段階上げるから覚悟しとけ」

「ぎゃー!? 余計な事、言ったー!?」


 このフラムという男には学習能力というものがないんだろうか……。ま、フラムについてはどうでもいいや。

 それにしても毒持ちはそれほど多くはないんだな。まぁ全く毒が効かない種族や、他の状態異常も効かない敵も存在するからしっかりとしたPTを組んでいなければ安定しないのかもしれないね。毒のみとなれば尚更に。

 俺たちの場合はヨッシさんが状態異常に特化しているけど、魔法や物理攻撃での火力面も充実はしている。毒、氷、電気で状態異常自体はかなり充実はしてきているけども、火力面では他のメンバーで補えるというのが良いんだろうね。


「……毒って更に強化が出来るんだ。うーん、でも氷の付与魔法が先だよね……」

「ヨッシ、スキルの強化なら相談に乗るのさー!」

「そうだよ、ヨッシ。その辺りはみんなで相談かな!」

「だな。ま、どっちにしろ今すぐにって訳にはならないがな」

「そうだぞ、ヨッシさん。同じ共同体なんだから、その辺は相談してくれよ!」

「……うん、分かった。相談させてもらうね」

「おう、任せとけ!」


 こうやって協力をしていけるからこその、共同体だし、PTだよな。野良PTでは都合よくPTの構成を決められる訳じゃないしね。今日の青の群集と白の無所属と赤のサファリ同盟での風属性に異常に偏っていたのを見た後なら、その辺りがよく実感出来るというものである。


「それはそうとして、今日はまずドラゴンが優先だよね」

「あとどのくらいかかるかな?」

「……俺らでは位置が分からないからな。弥生、ドラゴンの位置まではどのくらいだ!?」

「えっとね、次に見えてくる崖を北側からぐるっと迂回して、狭い崖の間を抜けたら拓けた部分があるから、そこだね!」

「……あの妙に高い岩山を迂回しろって事か」


 弥生さんの言うように、目の前には今までとは比べ物にならないくらい高い崖というか岩山がそびえ立っている。俺らの進行方向から見て左側……方角的には南の方に伸びている岩山なので、北側から迂回した方が早そうではあるか。


「弥生さん、迂回せずに真っ直ぐ進む手段はありませんか!?」

「それはあるにはあるんだけど、ここから南にほんの少し行って地面に降りれば、反対側に通じている洞窟があるみたいだね。今いないメンバーはそこから行ったみたい」

「……なんかその言い方が引っかかるんだけど、そっちだと何かあるのか?」

「……あはは、ケイさん鋭いねー。ドラゴンと戦ってる十六夜さんだっけ? その対戦の最中の流れ弾で洞窟の入りが崩落して、そのままじゃ通れないんだって。破壊して通るのもありだけど、洞窟が崩れる心配があるのと、戦闘中の邪魔をする可能性があるから、それは少し避けたいねー」


 あー、確かに反対側に赤のサファリ同盟がいるとしても、先の見えない状態かつ洞窟が崩れる可能性を考えると、無理に突っ込むのは危険か……。

 この目の前の岩山の高さを考えると、上から行くには高過ぎる。……いや、アルについては水のカーペットを使えば行けない事もないか。他の人は……あー、ルストさんが微妙だな。


「んー、ケイさん達には岩山を超えて先に行ってもらう? わたし達は迂回して後から行くっていうのでも良いよ」

「……それもありではあるか。アルマース、水のカーペットを使えば岩山超えは可能か?」

「この高度は試した事はないが、多分行けるぜ」

「それなら、それで行こうー! 良いよね!?」

「うん、私は良いかな!」

「みんながそれで良いなら、私も良いよ」

「よし、それならそうする――」


 そう方針を決めようと思ったら、物凄い轟音と共に南の方で土煙が上がり始めてきた。って、そっちの方向はさっき弥生さんが言ってた洞窟がある部分じゃね!?


「……これは何事だい?」

「シュウさん、ちょっと確認を取るから待って。……あ、これは不味いね」

「今のは何が起きた?」

「ベスタさんも焦らないで。……状況を説明するよ。たった今、十六夜さんがドラゴンの昇華魔法の直撃を受けて、さっき言ってた洞窟に突っ込んでいったって。生死は不明」


 思った以上にとんでもない事になってますがな!? え、昇華魔法の直撃を受けて洞窟に突っ込んだって大丈夫か? それに土煙が上がったのはこっち側だから、洞窟を貫通してきたって事に……。


「それって大丈夫なのー!?」

「十六夜さんが負けたのかな!?」

「……まだそう決まった訳じゃないが、厳しいだろうな」

「心配ではあるけど、ゲームだし大丈夫じゃない?」

「まー、それはヨッシさんの言う通りではあるんだけどね」


 あくまでゲームでしかないんだから、もしこれで十六夜さんが死んでいたとしても問題はない。……まぁ負けて楽しいものでもないから、出来れば勝ちたいって気分ではあるだろうけど。


「あー、心配なら洞窟の入り口まで見に行けば良いんじゃね? この近くなんだよな?」

「……当然の事をフラムに言われると何かムカつく」

「ケイ、その言い草は酷くねぇ!?」

「……日頃の行いだよね、フラム兄」

「……えぇ、フラムの場合は自業自得でしょうね」

「相変わらず容赦ねぇのな、アーサーも水月も!?」


 何だかんだで魔法の扱いは上達はした様子のフラムだけど、それ以外の面での成長はまるでないらしい。……アーサーと知り合った頃にはフラムを慕っていたとか、水月さんの扱いが厳しい対象はアーサーだった気もするけど、多分俺の知らないところでも色々あったんだろうな。……悪い意味で。


「……ベスタさん、ケイさん、わたし達まで一緒に行くと攻撃対象が変な事になりそうだから少しここで待機しておくね。何か動きがあったら、今洞窟を抜けてきてる赤のサファリ同盟のメンバーに伝言をして。すぐに行くから」

「あー、確かにそれが無難か」

「そうなるな。アルマース、いけるか?」

「それは問題ない。だがそんなに距離はないから、速度は出せないぞ」

「あぁ、それは問題ない」

「それじゃ十六夜さんの安否確認と、ドラゴン退治に出発さー!」

「「「おー!」」」

「あー!? それは俺のセリフ!?」

「……ケイ、それは誰でも良いだろう」


 くっ、隙あらばハーレさんに号令を取られるのは宿命か! ……うん、宿命はどう考えても言い過ぎだな。ま、ベスタの言うように誰でも良いと言えば良いんだけど、俺の気分の問題である。

 それはさておき、とりあえずは俺らのPTが先行していく形になるんだな。……十六夜さんの安否も気になるけど、場合によってはそのままドラゴン戦に突入の可能性もある。……行動値も魔力値も全快しているし、準備は完了! 待ってろよ、土属性のドラゴン!

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