第625話 挑戦権の争奪戦 その4


 チャージを行いつつサヤと合流しようとしているハーレさんは、ジャックさんに妨害されてまだ合流が出来ていない。一番危険な羅刹をベスタが抑えてくれているけども、青の群集のリーダージャックさんも弱いはずもないか。

 変に支援をするとサヤの攻撃のタイミングを崩すから、狙うのならタイミングをしっかりと見計らって……。


「連携なぞさせるか! 『爪刃乱舞』!」

「わっ!? サヤ、ヘルプー!」

「ジャックさん、邪魔かな! 『魔力集中』『爪刃乱舞』!」

「ちっ、妨害も楽じゃねぇ……か!」


 あ、昇華魔法が切れてジャックさんがこっちに移ってきた。……思ったより昇華魔法の効果が短かったけど、流れ弾でも当たってキャンセルされたか……? あ、違う。アルが水流でイブキを飲み込んで地面に叩きつけている真っ最中だった。ナイス、アル! って事で、俺はこれだ!


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 59/66(上限値使用:8): 魔力値 189/208


 とりあえずジャックさんを迎撃する事ではなく、ハーレさんと合流する事が目的なので守勢付与で防御面を支援してっと。


「サヤ、支援する!」

「ケイ、ありがとうかな! 『連強衝打』!」

「ちっ、その魔法は随分と厄介なもんだな、おい! 『連閃』!」

「それはどうもかな!」


 ふむ、ジャックさんのその言い方だと青の群集ではまだ付与魔法は判明していない……? いや、ただ単に相手にするのが面倒という意味にも取れるか。青の群集は裏にジェイさんが暗躍している可能性もあるから、今の発言だけだと何とも言えないな。

 とにかくサヤと応用スキルで打ち合おうとするのを自動防御に邪魔をされてジャックさんは動きにくそうである。……サヤは自動防御を実際に妨害に使ったり、逆にフェイントに使って自動防御よりも先に仕掛けていたりもするけど、いつもより少し動きが悪いから、自動防御も良し悪しか。こういう場合にサヤに付与するなら攻勢付与の方が良いかもしれない。


「『爪刃乱舞』!」

「『ウィンドボール』! ほんとに付与魔法ってのは邪魔だな、おい!」


 よし、サヤに付与した守勢付与の水球を嫌がって、ジャックさんは距離を取り魔法で残り1つになった水球を消しに動き出した。ふむ、こういう行動を取るって事は他のプレイヤーに守勢付与をした際の性質は知ってそうだな。

 というか、いつの間にかジャックさんは少し魔力値を回復させてたのか。……ここに割り込む前に回復アイテムでも食べたのかもね。頭が2つあるから、他の種族よりは食べるタイミングは取れそうだし。


 ま、それは良いとして、距離を取った今が狙い目だ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 52/66(上限値使用:8): 魔力値 168/208

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値6と魔力値9消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』は並列発動の待機になります> 行動値 46/66(上限値使用:8): 魔力値 159/208

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 魔法砲撃にはせずに通常発動で付与魔法による性質強化をした水の拘束魔法を発動してっと。……よし、ジャックさんを水の中に閉じ込めたし、周囲に補修用の水球も浮かんでいる。


「なっ!?」

「ジャック! 紫雲、フォローに行くぞ!」

「ほいよっと!」

「いや、俺に構うな、マムシ、紫雲! まずはアルマースからイブキを助け出せ! 『爪刃乱舞』!」


 お、即座にジャックさんが自力で俺の拘束魔法の破壊に動いたか。ま、魔法砲撃の時は拘束性能が上昇するけど、通常発動だと拘束性能自体はそれ程でもないから、あっさりと破壊はされたね。だけど、通常発動の場合だと違う性質になるんだよな。


「何!? ちっ、まだ検証中だってのに、こういう性質をしてんのか!?」

「あ、まだ検証中なんだ? ま、いいや。ハーレさん!」

「今のうちなのさー!」


 一度破壊された水の拘束が即座に修復されて、再びジャックを水の中へと閉じ込めていく。またすぐに破壊されるとは思うけど、必要なのはその少しの時間だからな。これでハーレさんとサヤが合流出来たか。


「ハーレ、いくかな! 『大型砲撃』『投擲』!」

「了解です!」


 そしてハーレさんが崖上に向けて投げ放たれていき、崖上へと到着した際に抑えていた触手を離してパラシュートみたいにして減速をして、チャージの完了に備えている。あ、チャージが終わって発動待機に入ったね。


「だったら、ここでどちらかを仕留めるまでだ! 『爪刃双閃舞』!」

「おっと、こりゃ危ない」

「ここは退避かな」

「逃げんな!?」


 ジャックさんが今度は銀光を放つ爪の連撃で拘束を破壊していたけど、当てられないように飛行鎧で飛んで射程外へと退避。サヤも同様に竜に乗って退避していた。まぁ先に飛翔疾走を使われていなかったから、上空へ逃げる方が良かったしね。

 ふー、それにしても乱戦は集中力をかなり使うなー。……今日は色々あったから結構疲れてきてるけど、ここで負けて終わりは嫌だしもうちょい頑張るぞ。


「ハーレさん、実況で嫌だったヤツが合図な」

「はっ!? 了解です!」

「……なに?」

「羅刹、今のは何の合図だ!?」

「……実況だと? あれで嫌だったヤツとはなんだ……?」


 あ、ヤバい……? 青の群集には伝わらないと思ったから合図に使ったけど、元灰の群集である羅刹にはバレる可能性があった!? いや、まだ気付いてないみたいだし、ハーレさんに伝わってさえいえば問題ないはず。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 27/66(上限値使用:8)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『閃光Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 21/66(上限値使用:8)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 視点を砲塔内のコケに移動させて、あえて少し大きめな声で並列制御で発動していく。狙いはヨッシさんと攻防を繰り広げているスリムさん!


「スリム、避けろ! 閃光とのコンボの光のレーザーが来るぞ!」

「ホホウ!? ……これは間一髪でしたな」


 あー、やっぱり気付かれたか。でもまぁそれも想定内。本命に気付かれないようにしていかないとね。


「外したけど、もう1発!」

「ホホウ、同じ手は2度は通じませんぞ!」


 そんな事は言われなくても分かってるからする気はないよ。でもまぁ、羅刹さんが閃光とのコンボを知っていてくれたのはありがたい誤算だな。

 これで前にイブキを撃ち落とした時の太陽光を使った光の操作の脅威と同時に警戒させられた。それじゃ本命への仕込み第2段といきますか!


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 2/66(上限値使用:8)


 さっきとは違って普通に太陽光を使って、アルの水流から脱出したイブキと、脱出の手伝いをしていたマムシさんと紫雲さんを巻き込む形で光の操作でレーザーにして焼き払っていく。

 あー、ちょっと欲張り過ぎたか。警戒されたという事もあって、直撃とはいかずに掠った程度だな。だけど、これでいい。


「はっはっは、一度食らったものがそう簡単に当たるかよ!」

「いや、水流に捕まってたイブキさんが言ってもなぁ……」

「あっぶねー!? てか、イブキさん、もう少し頑張ってくれ……」

「なにを!? もっと魔力値があれば、あのくらいだな!」


 あ、何か言い争いが始まってるよ。まぁ即席のPTだから、その辺の連携は微妙になるのも仕方ないか。……イブキに指示を出せる羅刹はベスタと激戦を繰り広げている最中だしね。


「お前ら、喧嘩してんじゃねぇよ。……それにしてもあの背中の砲塔は見掛け倒しじゃねぇ上に、それ以外の場所からも来るのか。……全員警戒しろ」

「はっ! 青の群集に言われなくても分かってらぁ!」

「……ホホウ、そのようですな」

「俺、気付いたぜ! 砲塔の中が点滅したらあそこからレーザーが来る! だよな、マムシ!」

「お、やるじゃねぇか、紫雲。無発声での思考操作もあり得るから、それも警戒しろよ」

「おう!」


 ふふふ、そう思わせた事こそ俺の作戦通りなんだよなー。って事で、ハーレさんの準備も終わっているから、これでも喰らえ! ただし、今回はバレないように思考操作で発動だ。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 2/66 → 2/72(上限値使用:2)

<行動値を2消費して『閃光Lv2』を発動します>  行動値 0/72(上限値使用:2)


 行動値が足りなかったから閃光はLv2で発動したけど、多分大丈夫だろ。とにかく俺の飛行鎧を解除すると同時に周囲を眩しすぎる光が覆い尽くしていく。ふはははは、油断したな!


「ちっ、さっきの合図はこういう事か!」

「くっ、ここでただの閃光だと!?」

「うぉ!? これが本命かよ!?」

「ホホウ!?」

「はっ! 驚きはしたが、俺にはその手の目潰しは効かねえよ!」

「……マムシ、頼んだ!」


 おっと、視覚にだけに頼る訳じゃない大蛇のマムシさんは平気だったっぽいね。……だけど、平気なのはマムシさんだけじゃないんだよな、これが!


「アル、ヨッシさん、ハーレさん! 狙いはマムシさんで、ヘイル・ストームと爆散投擲!」

「何!?」

「アルさん、行くよ! 『アイスクリエイト』!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』!」

「いっくよー!」


 そしてアルとヨッシさんの発動した大量の雹を生成するヘイル・ストームを羅刹とスリムさん以外に叩きつけていく。よし、ここまでの戦闘で全員が結構HPが減ってはいたけど、これで更に大きく削れる!

 そこからチャージの完了したハーレさんの爆散投擲Lv3の直撃を受けたマムシさんのHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。ふふふ、流石に動きが鈍った人ではなく、動けた人を狙ったのは予想外だっただろう。


 そして、無事に俺は地面に着地! ふー、ここで着地を失敗したらちょっと台無しだもんね。


「おっし、作戦勝ち!」

「あ、終わったのかな?」

「ケイさん、発光はナイスです!」

「うん、あの合図は分かりやすかったよ」

「だな。お陰で俺らも事前に心構えが出来てたぜ」

「全員よくやったな」

「そういうベスタこそ、羅刹を抑えておいてくれてサンキュー!」

「ま、どうってことはない」


 どうやらアルとヨッシさん……この感じだとサヤとベスタもだな。ちゃんと合図については伝わっていたみたいだね。いやー、あれが伝わってなければ味方にも盲目の状態異常がかかるから、博打ではあったんだよな。


<『群体塊Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 0/72 → 0/73(上限値使用:1)


 とりあえずもう要らない群体塊は解除してっと……。あー、ちょっと地面にコケが広がったけど、特に問題もないから別にいいか。

 何はともあれ無事に意図が伝わってくれて良かったよ。それと羅刹が気付かなくて助かったし、ベスタが抑え込んでいてくれたのも助かったね。


「……くそっ! 中継で実況をしている際に閃光で不満が出ていたという話があったのに、実際に受けてから思い出してどうする!」

「何やってんだよ、羅刹!」

「……おい、一緒に聞いていたはずのイブキに言われる筋合いはないからな」

「……え、俺も聞いてたの?」

「確かそのはずだ」

「あー……?」

「おい、イブキ、目を逸らすな」

「好き勝手言ってすみませんでしたー!」


 なにやら揉めているけども、俺らには関係なさそうなのでスルーでいいや。何はともあれ、ドラゴンへの挑戦の優先権は俺らが手に入れた! ま、実際にこれが有効になるかは、今も戦闘中の十六夜さん次第にはなるけども……。


「はーい、それじゃ勝負はそこまで! 勝者はグリーズ・リベルテとベスタさんのPTだねー!」

「よし! それで弥生さん、十六夜さんの方はどうなってる?」

「えっと、まだ奮闘中だってさ。……何か気になってるみたいだし、大急ぎでこれから移動する?」

「それで頼む!」

「うん、それは了解。という事で、みんな移動するよー! わたし達はルストと蒼華に分乗していくね」

「了解しましたよ、弥生さん」

「……えぇ、分かりました」


 ほうほう、赤のサファリ同盟の移動手段は移動種のルストさんの樹洞の中に入るのと、大きな龍である蒼華さんの背中に乗っての移動になるんだね。ま、乗せて移動が出来る種族となるとそれなりに限られてはくるか。


「それじゃ俺らはいつも通りにアルに乗って移動だな」

「おう、それは任せとけ」

「アルさん、いつもありがとねー!」

「アルの移動には助かってるかな」

「そだね。アルさん、いつもありがと」

「なに、俺が好きでやってる事だから気にすんなって!」

「PTとして動くのなら、アルマースの役目は重要ではあるからな。今後の成長にも期待しておく」

「……そう言われると少しプレッシャーも感じるが、やってやろうじゃねぇか!」

「アル、頑張れよ!」

「おうよ!」


 アルに移動を任せっぱなしになる事も多いけども、そうしてくれているからこそ俺らが移動中の戦闘や情報収集に専念出来るというのもあるもんな。役割分担ではあるんだろうけど、ありがたい事には違いない。


「……さて、俺らはどうする?」

「俺は岩に乗っていくぜ、ジャック!」

「そういや紫雲はワニの癖に土の昇華だったな。そこは水じゃねぇのか?」

「水の昇華は今狙ってんだよー!」

「ホホウ、私はそのまま飛んでいきますぞ」


 あー、そういや前に会った時に紫雲さんは土の昇華って言ってたっけ。……さっきの戦闘ではマムシさんと紫雲さんの戦闘は殆ど見る余裕がなかったもんな。マムシさんは確か毒だったはずだけど、その辺もまともに確認は出来なかった。

 流石に乱戦で全てを把握しつつ、自分自身も戦うのは厳しいもんだね。ま、それは仕方ない事ではあるけども……。


「俺ら青の群集は紫雲の岩に乗っていくが、無所属勢はどうする気だ?」

「それならウィルの木に乗って行けば良いだけだっての!」

「……は? ウィルってクマじゃねぇのか?」

「……あ、今はそういやそうだった」

「仲間のログイン中のキャラくらい把握しとけ、イブキ……。俺は小型化するから、ウィルと俺をイブキが乗せていけ」

「えー」

「文句を言うなら、これからランダムリスポーンでもするか?」

「はい、やらせていただきます!」

「……羅刹もイブキも何やってんだよ……」


 そんな呆れた様子のウィルさんだけど、ひとまず全員の移動手段は確保出来たみたいだね。崖上で見学をしていた赤のサファリ同盟の人達の声は聞こえてこないけど、話し合ってる様子はあるし、弥生さんが手段を提示していたので問題はないだろう。


「全員の移動手段は確保出来たようだが、肝心のドラゴンはどこにいる?」

「まぁまぁ、ベスタさん、慌てない。えっと、居場所はここから南西に少し行った岩山の中腹付近みたいだねー」

「……なるほど、岩山の中腹か」


 ふむふむ、何となく頂上に居そうな気もしてたんだけど、そうではなかったようである。予想外に色々とあったけども、これでようやくドラゴンのいる場所に向かえるね。

 さて、十六夜さんが戦闘中だという事だし、それがどうなるのか気になるところではある。……少しでも十六夜さんの戦闘を見てみたいとは思うけど、それまで生存しているかは行ってみないと分からないね。

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