第624話 挑戦権の争奪戦 その3
とりあえず赤のサファリ同盟は敗退という事になり、全員の回復が終わるまで休憩という事になったので休憩中。そういや今って何時だ? えーと……あ、もう10時半を過ぎてるのか。
思っていたよりも時間が経っていたけど、この後にまだドラゴン戦が控えてるんだよな。……まぁ青の群集と白の無所属の混成PTに勝ったらにはなるけど。
「弥生、別働隊からの報告が上がっているよ」
「シュウさん、ありがと。どれどれ……あ、これは朗報だね。みんな、休憩中だけどちょっと情報があるからそのまま聞いてねー!」
「……それはどういう情報だ?」
「まー、ジャックさん、そう慌てないで。今ここにいない、赤のサファリ同盟の他の4人が例のドラゴンを発見したって報告だね」
「お、マジか! やるじゃねぇか、赤のサファリ同盟! よし、今度そいつらに個人的に勝負を――」
「余計な事を言わなくていいから黙ってろ、イブキ!」
「ぐふっ!」
あー、うん、またイブキが羅刹から強烈な蹴りを食らっているね。……ふむ、避けれないほどイブキのプレイヤースキルが無いとも思えないんだけど、これは羅刹の方が強いのか?
「……あはは、今いないのは対人戦はパスって子達だから、その辺は勘弁してあげてね」
「……ウィル、そのイブキって奴は抑えておけよ」
「ガスト、そんなに睨まなくても分かっている。……失敗すればどうなるかも含めてな。その為に俺は今、無所属でいるからな」
「その言葉、信じるぜ?」
「あぁ! って事で、イブキ、分かってるな?」
「へいへい、分かりましたよっと」
「……よし、今後一切のアイテムの補給は要らないんだな」
「ちょ、待っ!? それは無しだろ、ウィル!?」
「自分達で決めたルールを守れないのなら、そうなっても――」
「悪かった! 俺が悪かったから、それは勘弁してくれ!」
えーと、とりあえずは無事に収まったという事で良いんだろうか? っていうか、アイテムの補充でそこまで焦るような事なのか? いや、確かに俺らだって桜花さんのとこから取引を停止されたら困りそうではあるけどさ……。
あ、そうか。推測にはなるけど、白の無所属だと群集の中でアイテム生産や商人プレイに特化した人が少ないのかもしれないね。採集で手に入る回復アイテムは固定値回復だし、プレイヤーの手で加工する必要のある割合回復のアイテムの入手方法が限られるのかも……?
「あー、羅刹、参考までに聞いて良いか?」
「……なんだ、ジャック? 何でもは答えられないが、答えられる範囲なら答えよう」
「その、なんだ? 無所属ってもしかして、アイテムの生産は不安定なのか?」
「……今のやり取りを見ればそう判断されるか。まぁそれで間違ってはいないし、実際に自力加工が多いんだが、イブキは極端にその辺が苦手でな」
「なるほど、それでアイテムの入手が抑止力になる訳か。ふむ、そうなると……羅刹、少し耳を貸せ」
「……? まぁ、良いだろう」
「…………で、………………とか、……………?」
「………………ほう?」
何か俺らから少し距離を取ったジャックさんと羅刹が話し合っているようだけど、何の話をしてるんだろうか? まぁその内容に予想がつかない訳でもない……というか十中八九、アイテムのトレード絡みの話をしてるんだろうけどね。
ジャックさんは青の群集として、無所属勢との接点を作っておきたいってのもあるんだろう。灰の群集の俺らは既に接点はあるし、ウィルさんはそもそもが赤の群集贔屓ではあるしさ。
「はい、話が逸れに逸れまくってるから、本題に戻すよー! とにかくドラゴンの位置は確認出来たのと、もう1つの情報があるね。えっと、1人のプレイヤーがソロで挑んでいる最中で健闘はしてるけど負けそうな感じだから、その後に挑んで逃げに徹して確保はしておくって事になったね」
「おー!? 誰かが戦闘中なんだー!?」
「ソロで挑むとやっぱり負けるのかな……」
ふむふむ、どこの誰が挑んでいるのか分からないけどベスタみたいに単独で育ち過ぎたドラゴンに挑む人がいるんだな。まぁ負けそうという話みたいだし、誰が挑んでいるのかを気にしても仕方ないか。
「あ、挑んでるのは灰の群集の人なんだね。へぇ、ヤドカリと何かの植物との共生進化か支配進化なんだ? えーと、名前は――」
「あー!? もしかして、挑んでるのって十六夜さん!?」
「およ? ハーレさん達、知り合いなんだ? ま、同じ灰の群集だしおかしい話じゃないよね」
「……あはは、本当に十六夜さんなんだ」
「でもまぁ納得ではあるかな」
ついハーレさんが名前を出してしまったけど、まぁ名前だけなら問題ない……か? どっちにしても赤のサファリ同盟の人が目撃はしてるから、名前は既に判明している状態だしね。
それにしても挑んでいるのは十六夜さんか。名前が出てみれば確かにソロで強い人だし、大勢で何かをするのが好きな人ではないからサヤやヨッシさんの言うように納得ではあるね。
「……羅刹、十六夜って名前は聞いた事ある?」
「いや、聞いた事はねぇな。……ベスタ、教えてくれと言っても、教えてはもらえないよな?」
「名前だけならともかく、それ以上を教える訳がないだろう」
「ま、そりゃそうだな。……さて、その十六夜とやらに会ってみたくなってきたし、そろそろ再開といこうじゃねぇか。大体、全員回復した頃だろ?」
「あ、それもそだねー。回復がまだな人がいたら言ってねー!」
確認の為に弥生さんがみんなに尋ねたその言葉に返事をする人はいなかった。って事は、全員回復は終わったようである。
十六夜さんがドラゴン戦の真っ最中なのは気になるけど、やっぱりベスタでもソロでは無理と判断した相手だから厳しいんだろうな。……もし間に合うのであればここで優先権を勝ち取って救援……いや、十六夜さんはそれを断る可能性もありそうだ。
でも、応援くらいはしておきたいし、十六夜さんの戦闘を見てみたくもある。あの人はおそらく模擬戦にもイベントでの対人戦にも出てこないだろうしね。って事で、ちょっと挑発も兼ねて……。
「よし、さっさと片付けてドラゴン戦に行くぞー!」
「「「「おー!」」」」
「ふっ、気合があるのは良い事だ」
「おいおいおい、もう勝った気でいるのかよ!?」
「……イブキ、見え見えの挑発に乗るな」
うーん、イブキはあっさりと挑発に乗ってくれたけど、羅刹はやっぱりそう甘くはないか。ま、それでも勝つ気でやるのだけは間違ってはいない。
「ホホウ、なんだか蚊帳の外ですな?」
「油断するなよ、スリム、マムシ、紫雲。俺らのとこのコケを思い出せ」
「……ああいう風に眼中にはないと思わせておいて、本命は俺らってパターンだな。ジェイが特訓中にたまにやる手か」
「え、マムシ!? ジェイさんってそんな事してくるのか!?」
「……そういや紫雲は体験した事はなかったか。まぁ、そういう事だ」
「うへぇ!?」
おーい、そこまでの事は考えてないんですけどー? っていうか、地味にジェイさんの作戦がえげつないな!? でも、本命を誤魔化してハッタリをかけるというのは、戦略としてはありといえばありか。……ふむ、それは本当にありだな。
「さてと、話は纏まったねー! それじゃ審判はルストに変わりまして、わたしがやるよー! って事で、シュウさん達が崖上まで移動をよろしく!」
「分かったよ、弥生。みんな、退避するよ」
「おっす! コケのアニキ、頑張れー!」
「サヤさん、頑張ってくださいね!」
「ケイは負けちまえー!」
「……うるさいぞ、フラム」
「ラピスさん、普段より厳しくない!?」
「……負けてて気分が良い訳ないだろうが。後で俺もスパルタで鍛えてやるから覚悟しとけ」
「……え? もしかして俺、余計な事を言った?」
「そうだよ、フラム兄」
「そうですよ、フラム」
「俺の味方がいねぇー!?」
相変わらずフラムのとこは身内が厳しいねぇ。ま、結構な割合で自業自得な気もするし、ラピスさんが不機嫌気味なのも気持ちとしては分からなくもない。
でも勝負事ってそんなもんだし……でも、負けた張本人であるフラムが言うことではないよなー。そもそもフラムにとどめを刺したのは俺だけど、追い詰めたのってイブキと羅刹だしさ。
「はいはい、その辺の事は後でねー! それじゃ始めるから、みんな初戦と同じような感じで位置についてねー!」
そんな風なやり取りをしながらフラム達が崖上へと登っていったのを確認してから、弥生さんが対決の再開の準備を進めていく。
配置としては俺ら灰の群集PTと、青の群集と白の無所属の混成PTが向き合った状態で、お互いに全員が地面に降りている状態からスタートである。
そして俺らには付与魔法は切れている状況で、魔力集中も自己強化も効果切れにはなっていた。ま、この辺はさっきの休憩時間でみんな切れていたし、もう再発動も可能にはなっているだろう。……よし、これで戦闘準備は完了!
「……みんな、準備は完了したね? それじゃ2戦目、開始!」
そうして弥生さんの宣言により対戦が再開となった。ま、弥生さんは2戦目と言ったけど、それも間違ってはないだろうから問題なし! って事で、いざ勝負開始だ!
「アル、2つの水流を広範囲にぶっ放せ! 地上と空中で分断する!」
「おう! って、水流を2つ!? いやいい、やるまでだ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『アクアクリエイト』」
「ホホウ、そうはさせませんので! 『並列制御』『ウィンドインパクト』」
「邪魔はさせないかな! 『魔力集中』『連閃!』」
「させないよ! 『アイスウォール』!」
「『ウィンドインパクト』! ホホウ、妨害を妨害ですな!」
スリムさんが即座にアルが離して生成した2つの水をぶつけて昇華魔法にさせようと動き出したけど、サヤとヨッシさんが即座にその妨害に入ってくれた。よし、2人ともナイス!
俺は俺でやるべき事をやっていこうじゃないか。休憩中には全てのスキルを一旦解除したので、その辺も調整しないとな。
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 74/74 → 73/73(上限値使用:1)
「行くぜ! 『並列制御』『水流の操作』『水流の操作』!」
「ちっ、何をする気だ!?」
「ジャック、お前は風の昇華か?」
「あぁ、そうだが、それがどうした!」
「それなら、おい、イブキ! ジャックとストームを発動して、水流をぶっ壊せ!」
「おうよ! 『ウィンドクリエイト』!」
「仕方ねぇか。『ウィンドクリエイト』!」
羅刹の咄嗟の判断でアルの生成した水流が地上を押し流す前に、昇華魔法のストームを発動して荒れ狂う暴風を生成していく。上手くアルが暴風を避けてはいるけど、ちょっとずつ削られていく。……でも、これで全体的な視界と行動に制限がかかった。
「サヤはハーレさんを崖上まで投げ飛ばして、ハーレさんは上から狙い撃て! ベスタ、援護を頼む! アルはそのまま継続で全体の動きの妨害! 可能なら水流に巻き込んじまえ!」
「おうよ!」
「分かったかな! ハーレ、こっちに急いでかな!」
「了解です! 『略:傘展開』『ウィンドクリエイト』『魔力集中』『操作属性付与』『アースクリエイト』『爆散投擲・風』!」
よし、ハーレさんも崖上からの攻撃という指示に合わせて、全力で強化をした上でチャージを開始している。しかも銀光の強弱が早い周期で発生しているから、Lv3での発動か。
それに傘展開を発動しつつ、チャージの間はクラゲの触手で今は広がらないように抑えている。どうやら俺が短期決戦を狙っているのを察してくれたみたいだね。
「ちっ、昇華魔法を誘発させて動きを制限するのが狙いか! 『魔力集中』『連速脚撃』!」
「邪魔はさせねぇよ、羅刹。『魔力集中』『爪刃双閃舞』!」
「ベスタぁ! お前とも戦いたかったぜ!」
「ふん、だったら今ここで相手をしてやる!」
おー、なにやらテンションが上がった羅刹とベスタの攻防戦が繰り広げられているね。よし、一番危険な気がする羅刹の相手はベスタに任せて、俺はこの隙に下準備をしていこう。
<行動値上限を1使用して『群体塊Lv1』を発動します> 行動値 73/73 → 72/72(上限値使用:2)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 66/72 → 66/66(上限値使用:8)
よし、これで飛行鎧を生成完了。ついでにここに来るまでの道中に思いついたロブスターの背中に砲塔も生成しておいたし、その奥には群体塊にした魔法砲撃の起点用のコケも用意している。
「うお、あれなんだ!? ロブスター型の戦車じゃね!?」
「気持ちは分からんでもないが、この状況で食いついてんじゃねぇよ、紫雲! てか、これはあの湖の時に見たやつの発展系か! 気をつけろ、あれには光の操作があるぞ!」
「え、マムシ、あれを知ってんの!?」
「……前に見たのはあれと同じもんではないけどな。とりあえず俺らはアルマースを狙いに行くぞ! 『自己強化』『高速遊泳』!」
「あ、了解。『自己強化』『高速遊泳』!」
おおぅ、まさかアルの操作している水流へ強引に突っ込んで遡って泳ぎ始めるとは思わなかったぞ。くっ、大蛇とワニを少し甘く見ていたか。……それにしてもマムシさんは水流に逆らう丸太にしか見えないなぁ……。
「ホホウ、援護しますぞ! 『ウィンドボール』『ウィンドボール』『ウィンドボール』!」
「アルさんに攻撃はさせないよ! 『並列制御』『アイスウォール』『アイスウォール』!」
「ホホウ、やりますね、ヨッシさん。『ウィンドインパクト』!」
「それはどうも!」
よし、これでかなりいい感じに乱戦へとなってきている。……あとは狙いを誰に絞るかという問題はあるけど、それは仕留める直前に決めればいい。
さてと、とりあえずサヤとハーレさんを合流させて、遠距離からの攻撃準備を完了させないとね。ほぼ確実に妨害はあるだろうけど、今回の決め手はハーレさんにするから、敵からの妨害の妨害を確実にやっていくまでだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます