第623話 挑戦権の争奪戦 その2
大乱戦となっているドラゴンへの挑戦の優先権を賭けた勝負だけど、まだどのPTからも死亡者は出ていない。……とはいえ、この乱戦ではいつ、誰が、どういうタイミングで、誰に仕留められるかは分かったものではない。
えぇい、とにかくいつまでも観察している場合じゃないか。……水流の操作や砂の操作、それに昇華魔法は味方の邪魔になりそうだから現時点では却下。それなりの威力が期待出来て、味方の邪魔にならないスキルは……。
「……『ポイズンプリズン』」
「ホホウ!? こ、これは!?」
「スリム!? ちっ、『連閃』! ……くっ」
「おい、ジャック!? これは……神経毒か!」
「……正解だ、マムシ。アーサー、行け!」
「うん、ラピスさん! 『激突連衝撃』!」
おっと、アーサーが銀光を放つ連続突撃を発動して、神経毒でまともに身動きが取れなくなっているスリムさんとジャックさんに攻撃を仕掛けている。……ふむ、毒の拘束はジャックさんが破壊していたけど、その際に毒に触れた事で神経毒の状態異常になったりするのか。これは要注意情報だね。
というか、これは纏まっている場所にいるしチャンスなのでは……? よし、流石に今は魔力値は節約気味で行きたいから、この手で行くか。
<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します> 行動値 48/67(上限値使用:7)
今は昼間だから、太陽光を収束させてレーザー攻撃だ! 発光とのコンボも考えたけど、今は威力よりも持続時間の長いやつでの撹乱を優先だ。まずは攻め込んで、ペースを乱して隙を作る!
「わっ、コケのアニキ!?」
「……ちっ、邪魔をしてくれる! 『並列制御』『ポイズンインパクト』『ポイズンインボール』!」
おわっ!? ラピスさんから反撃で前方から微妙に違う角度から迫る3発の毒の弾と、毒の塊が上から叩きつけられてきた!? くっ、これはキツい!?
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 43/67(上限値使用:7): 魔力値 193/208
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値10と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 33/67(上限値使用:7): 魔力値 178/208
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『土魔法Lv5』が『土魔法Lv6』になりました>
思考操作で即座に発動して、飛行鎧で覆っているコケを少しだけ開放してっと。魔法砲撃は発動中なので、上から迫るポイズンインパクトはコケの核を魔法砲撃の起点にしてから真上に向けて土の弾を放って防壁を展開して防御。
そして前方から迫る毒の弾は、右のハサミを起点に魔法砲撃にして一番手前のが着弾すると同時に水の防壁を展開させて、ハサミの角度を変える事で防ぎ切った。……それにしてもこのタイミングで土魔法のLvが上がったか。
「……ちっ、簡単に防ぎやがる」
「スリム、合わせろ! 『ウィンドクリエイト』!」
「ホホウ、了解なので! 『ウィンドクリエイト』!」
「わー!?」
「アーサー、避けろ!」
うおっと!? ジャックさんとスリムさんが風の昇華魔法のストームを発動して、周囲に暴風が荒れ狂っていく。あ、アーサーに付与されていた電気の付与魔法の球が迎撃をしているので、どうやら守勢付与がかかってたっぽいね。そのお陰でアーサーのHPは全て無くなる事は無かったようだ。
っていうか、俺もすぐに破壊されてしまったけど展開していた2つの防壁を活用して、なんとかダメージを受ける前に退避は成功っと。
ふー、この乱戦はどこから何が出てくるか分かったもんじゃない。……それにしても、今ここにいるメンバーって地味に風の昇華持ちが多いんだな。まぁそういう時もあるか。
さて、まだストームが発動中だから発動者の2人を狙ってもいいんだけど、ここは弱ったアーサーを狙うか……?
「くっ、ここまでやるのか、弥生! ケイ、悪いが攻勢付与を頼む! 相性が悪いのは承知済みだが、手数が足らん!」
「あ、攻勢付与が切れたのか。了解だ!」
「あはははははははははは! どんどん楽しくなってきたね! フラム君!」
「おうよ、弥生さん! 『エレクトロエンチャント』!」
「やっぱりフラムが電気の付与魔法かよ!」
誰を狙うかを考えていると乱戦の中でどんどんテンションが上がっていく弥生さんと、それを徐々に抑えきれなくなってきているベスタからの付与魔法の要請があった。
フラムによる電気の付与魔法による攻勢付与の追撃と俺の水の付与魔法の攻勢付与では、流石に属性の相性が悪くて打ち消されているけど、それでも無いよりはあった方が良いようである。
まぁ押し切られていないから、魔法としての威力は俺の方が上っぽいな。威力が同等なら属性の相性的に俺の方が圧倒的に不利だしね。
そしてどこからともなく声が聞こえてきたフラムが弥生さんに3つの電気の球を付与していた。フラムが付与魔法を取得しているとなると、これまでの戦闘でのポンコツ具合は考えない方が良いかもしれない。フラムが他のメンバーの支援に動くのに警戒しないと……。
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 26/67(上限値使用:7): 魔力値 157/208
とりあえず大急ぎでベスタに攻勢付与をかけていく。……よし、付与は完了したし、ここからどう――
「隙ありだ、ケイ! 『並列制御』『エレクトロエンチャント』『エレクトロプリズン』!」
「んな!?」
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 26/67 → 26/73(上限値使用:1)
くっ、ベスタに付与魔法をかけて、ほんの少し考え事をした瞬間にどこかに隠れていたフラムに狙われて飛行鎧が解除になってしまった。しかも麻痺が入って、まともに身動きが取れない状態で落下してしまっている。
くっそ、フラムの奴、魔法砲撃なしでの魔法の狙いの精度が上がってるのか!? ……魔法砲撃に頼ってた印象があったから、フラムからの通常発動での魔法の可能性は完全に失念していた。
「ケイ!」
「行かせませんよ、サヤさん! 『爪刃乱舞』!」
「あぁ、もう! 『爪刃乱舞』! アル、ケイをお願いかな!」
「おう! 『アクアプリズ――」
「そうはさせないよ。『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドインパクト』!」
「くっ!」
やばっ!? アルがフォローしてくれようとしてたけど、シュウさんにそれが阻止された!? くそ、ここから誰かに追撃されたらマズイ! 仕方ない、ここは水のカーペット……って麻痺でスキルの発動が出来ない!?
「たまには反撃と行かせてもらうぜ、ケイ! 『魔法砲撃』『並列制御』『エレクトロクリエイト』『エレクトロ――」
「はっ、仕留めたと油断したとこは狙いどころだ。やれ、イブキ!」
「おうよ! 『回鱗鋭刃舞』!」
「え、あ!? ぐはっ!?」
「これで勝ちは貰ったぞ。『連速脚撃』!」
「やらせないよ。『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」
「ちっ、シュウか!」
「シュウさん、助かった!」
俺に追撃を入れる事に意識を集中し過ぎていたフラムにイブキの銀光を放つ飛ばされた鱗による連続斬撃を受けたけども、その後の羅刹の連続蹴りはシュウさんの複合魔法であるウィンドプロテクションによって防がれていた。
とはいえイブキの攻撃は全部直撃していたので、フラムはもう虫の息である。ふふふ、俺に魔法砲撃で攻撃を加えようとして姿を表したのが運の尽きだな。俺の隙をついて、麻痺を入れたのは良かったけど、その報復はさせてもらう! ……まだ麻痺中だけどな!?
「はっ、嫌な予感!?」
「逃さないよ! 『略:棘杭』!」
「ぎゃー!? 崖に縫い付けられた!?」
「ちっ、何をしてやがる、フラム!」
「ヨッシさん、ナイス!」
よし、麻痺も今解除されたし、ヨッシさんのお陰でフラムの逃亡も阻止された。さて、1人目の敗者はフラム、お前だ!
<行動値6と魔力値18消費して『土魔法Lv6:アースインパクト』を発動します> 行動値 26/73(上限値使用:1): 魔力値 139/208
さて、正直なところフラムのHPは僅かだから魔法砲撃はいらないとは思うけど、折角だし盛大に……あ、やっぱりそれはやめとこ。魔法砲撃にしたら他の人から妨害される可能性もあるし……。
「フラム君!」
「邪魔はさせねぇよ、シュウ!」
「あはははははははは! ベスタさんこそ、邪魔はさせない――」
「あー!? 折角の爆散投擲が外れたー!?」
いや、外したけどもグッジョブだ、ハーレさん! 危険を察知して弥生さんが咄嗟に飛び退った事で、俺の邪魔は出来なくなったしね!
「くたばっとけ、フラム!」
「ぎゃー!?」
とりあえず通常発動で使用した覚えたてのアースインパクトを崖に棘で打ち付けられた状態のフラムに叩き込み、HPが全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。よし、これで赤のサファリ同盟のPTは脱落!
「フラム君の死亡により、赤のサファリ同盟は敗退になります! 赤のサファリ同盟の方は脱落となりますので、戦闘行為を中止してください!」
あー、それにしてもフラムに出し抜かれるとは、全然予想してなかったなー。イブキと羅刹が攻撃のタイミングを見計らっていたのに助けらた形になったか。
フラムが支援役としてしか動かないと勝手に思い込んでたのが完全に失策だな。……流石にこれはフラムの成長を甘く見過ぎていたようだね。これは猛省が必要だなぁ……。
「あはははははは! まだまだ終わりじゃ――」
「弥生!」
「……あっ、そっか。フラム君が負けたから、わたし達はこれで終わりなんだね……」
まだ暴れそうな雰囲気があった弥生さんだけど、シュウさんが名前を呼んだ事でいつもの状態へと戻っていった。ふむ、怒りが発端ではなく、楽しくなってテンションが上がってああなった場合は、元に戻った時に凹むという事もないんだね。
どちらかというと弥生さん自身はまだまだ戦えるけど、ルール的には負けた事で不完全燃焼になってるって感じか。
「あー、悔しいなー! でも、ルールはルールだし仕方ないね! 赤のサファリ同盟はこれで敗退だから、この戦場からは撤収!」
「……まぁ、勝負は勝負だからね。弥生、お疲れ様」
「シュウさんもお疲れ様」
「……ま、負けたものは仕方ない」
「そうですね。……とりあえず、フラムの特訓をもっと強化しましょうか。今はまだ支援に徹してもらうという話だったのに、それを無視して攻撃もしたいのであればそれ相応にしませんとね」
「お、そりゃいいな! で、何を逃げようとしてんだ、フラム?」
「逃げるの、フラム兄?」
「ぎく!? いや、それはそのー? 見逃してくれ、ガスト、アーサー!」
いつの間にか復活していたフラムが逃げ出していた。多分ルストさんに設定しているリスポーン位置から復活してきたんだろうけど、そうやって逃げるなら違う場所でリスポーンすればいいのに。
あ、青い龍の蒼華さんにあっさりと捕まった。っていうか、フラムって赤のサファリ同盟でどういう扱いになってんだ、これ?
「……往生際が悪いですよ、フラムさん」
「蒼華さん、後生だ! 見逃してくれ!?」
「……いえ、私はそれでも構わないのですが。ほら、皆さんがね?」
「フラム、少しよろしいですか?」
「あー、うん。なんだ、水月……?」
「あなた、言いましたよね? ケイさんに勝つになんでもすると」
「いや、確かに言ったけどさ!?」
「フラム、取り消しは認めませんよ。それでは明日からは模擬戦機能を使って、弥生さんとシュウさんのスパルタ特訓もやっていきましょうか」
「……はい」
なんか全く覇気のないフラムの返事が聞こえてきたなー。まぁ俺に勝つ為にとか言ってるから、そこでフォローをする必要性は皆無としか思えないので何もしないけど。
でもまぁ、フラムは以前よりも見違える程に魔法の扱いは上達していた。……これは油断していると危険かもしれない。
「あー、一旦赤のサファリ同盟が戦場から離れる必要があるのは分かるんだが、残った俺らの戦いはどうすんだ?」
「あ、そういやそだね。そこを決めてなかったっけ。……うーん、少しだけ休憩を挟んでから再開って形でどう? ほら、みんな結構行動値を使ってるだろうしさ」
「……確かに弥生の言う通りではあるか」
ふむ、まぁまだ少しくらいなら戦えなくもないけど、赤のサファリ同盟が敗退になって一時的に全体の流れが止まったから仕切り直すというのもありか。
「俺は弥生さんの案に賛成だ」
「私もかな」
「私もです!」
「私もその方が良いね」
「俺もだな」
「聞いての通り、灰の群集側としてはそれで異論はない。そちらはどうだ?」
とりあえずベスタも含め、俺らの方は弥生さんの提案に賛成である。あとは青の群集と白の無所属の混成PTの意見次第ではあるんだけど、どうだろね?
「えー、俺はまだまだ暴れ足りねぇんだけど!」
「バカか、イブキ……。全力で暴れたいのなら、回復させた方がやりやすいだろうが!」
「はっ! 確かにそりゃそうだ!」
「……俺らの方も弥生さんの提案通りで構わん。スリム、マムシ、紫雲、それで良いか?」
「ホホウ、構いませんぞ」
「俺もそれでいいぜ」
「俺も同じくっと」
ふむふむ、イブキだけはちょっと反対しかけたけど、羅刹の一言であっさりと意見が変わったね。青の群集としても、弥生さんの提案で問題なしのようだ。まぁ元々は俺らと赤のサファリ同盟での対決だったから、先にしておくべきルール設定に少し不備はあったか。
「よし、それじゃ全員の行動値が全快した段階で再開にするね! でも魔力集中や自己強化の時間や、新たに付与魔法をかけるのは禁止! それで良いね?」
その弥生さんの宣言にみんなが頷いて同意していく。途中で休憩が入るとは思ってなかったけど、ドラゴンへの挑戦の優先権の争奪戦は前半戦が終わったってとこだな。
次に倒すべきは青の群集と白の無所属の混成PTである。正直なところで言えば、赤のサファリ同盟の方が先に負けるとは思わなかったけど。
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