第622話 挑戦権の争奪戦 その1
なんだか予想外に青の群集や白の無所属勢がやってきた事で、ドラゴンへの挑戦の優先権を賭けた勝負が複雑な事になってきた。うーん、まさかこんな事になるとは……。
とりあえずこの変則的な対決のルールの設定は終わった。青の群集のメンバーは転移の種か実かどっちかは分からないけど設定をし終えたようでもある。
「イブキ、羅刹、臨時のPTではあるが、よろしく頼む」
「おう、こっちこそよろしくな、ジャック! 他の3人もな!」
「あぁ、よろしく頼む。……ほぼ交流のない相手とイブキを組ませるのは不安もあるが……」
「ホホウ、急遽なものですし連携についてはそれほど気にしなくてよろしいかと」
「ま、お互いに邪魔にならないようにってとこだな。まったく、こんな事態は想像もしてなかったぜ」
「だよなー、マムシ。模擬戦に夢中になってる人が多い今ならドラゴンが空いてるんじゃないかって提案したのは俺だけど……」
青の群集の4人とイブキと羅刹がPTを組み終わったようである。っていうか、青の群集は紫雲さんの提案でここに来てたのか。……まぁ狙い時ではあるのは間違いないけど、同じような事を考える人がそれぞれの群集にいたからこそこんな事になってるんだろうね。
「……そういえば群集では模擬戦機能とやらが実装だったらしいな」
「なぁ、羅刹? ちょっとで良いからどっかの一時的に群集に戻らね?」
「……ふむ。イブキにしては一考してみたくもある内容だが、それはそれで手間ではある……か」
「おいこら、羅刹、イブキ!? 俺と違って2人は群集にすぐに戻れるからって、そうそう気軽に戻られると困るんだけど!?」
「……冗談だ、ウィル」
「冗談くらい判別しろよなー、ウィル!」
「戦闘好きお前ら2人は冗談に聞こえないんだよ!? おいこら、顔を逸らすな!? 本当に冗談なんだよな!?」
なんというかウィルさんも大変だね。イブキも羅刹も元は灰の群集だったけど、灰の群集の人達と戦いたくて群集を抜けたという経歴持ちだもんな。
それが模擬戦で同じ群集でも戦えるとなると、冗談抜きでイブキと羅刹は群集に戻るという選択肢も取りかねないか。……まぁその辺については……ウィルさん、頑張ってくれ!
「さーて、準備も終わったようだし話は切り上げて始めよっか。一応審判はうちのルストに任せたいんだけど、それで良い?」
「え、弥生さん、私がやるんですか!?」
「そだよー? 流石にウィルさんじゃわたし達に贔屓しそうだし、ルストならそんな事をすればどうなるか分かってるよね?」
「分かってますから、脅さないでくれませんか!?」
赤のサファリ同盟のメンバーであるルストさんだけど、弥生さんが贔屓するのは許さないと明言したのならそこはほぼ確実に大丈夫だな。うん、ゲーム内というよりはリアルでの方が怖いのかもしれないね。
「……弥生の身内のルストの方が身内贔屓は許されない感が強いな。俺らは審判はルストで構わないが、ジャック、そっちはどうだ?」
「確かにこの様子ならウィルよりはまだ公平そうだし、俺らもそれで構わない。羅刹とイブキはどうだ?」
「ま、良いんじゃね? ウィルよか公平だと思うぜ」
「……イブキと同意見というの少し不満ではあるが、ここは同意しておこう」
「羅刹、やんのか?」
「イブキ、お前が俺に勝てるとでも?」
「言ったな、羅刹!? 今度こそ――」
「はーい、そこでストップ! これ以上揉めるなら……先に潰すよ?」
「「っ!?」」
おー、弥生さん怖!? とは言っても、本気で切れた時みたいな様子ではないから、ちょっとした軽い脅しみたいだね。本当に切れた時ならばもう既に行動に移ってるだろうし……あ、でも流石にそれは弥生さんはもうしたくはないか……。
「ふっ、これは楽しそうだな。イブキ、今は休戦だ」
「おうよ! 赤のサファリ同盟の実力、見せて貰おうじゃねぇか!」
あ、一瞬弥生さんに怯んだ羅刹とイブキだったけど、それが2人の闘争心に火を着けたようである。いやー、これは余計ややこしい事になってきた。
でも、これであの2人の標的が弥生さんになったか? 羅刹はともかくイブキの方は短絡的に動くとこがあったから、そこが狙い目かもしれないね。
「えーと、どうやら私が審判をやる事で決まったようなので、引き受けさせていただきますね」
「任せたよ、ルスト」
「えぇ、お任せください、シュウさん。それでは皆さん、それぞれに配置についてください。ここの広さなら、3方向にそれぞれが待機しても問題はないでしょう」
確かにここは周囲はいくつかの崖に囲まれてはいるものの、比較的拓けているからこの人数が戦闘をする事は可能ではある。まぁ決して広いとも言えないけど……。
「おし、戦闘に関係ない俺らは崖上に行っとくぞ」
「あー、自力で移動すんの面倒だから、ガストがふっ飛ばして」
「それくらい自分で行けよ、ディー!? それか蒼華に頼め!」
「って事だから、蒼華よろしく」
「……仕方ないですね。ところで他の4人はまだですか?」
「あー、あいつらなら今のうちにドラゴンを探しとくとさ。てか、蒼華も普通に共同体のチャットを見ろよ」
「……そういえばその機能を忘れていました。あぁ、確かに報告がありますね」
「って事だから、俺らはさっさと崖上に移動すんの! ほれ、ディーも蒼華もさっさとしろ!」
そんな風に青い大きな龍……蒼華さんの背にカバのディーさんが乗って、ガストさんと一緒に手頃な崖上へと登っていった。それに合わせて、ウィルさんも別方向の崖上へとよじ登っていったね。
ふむ、それにしてもこの場にいない赤のサファリ同盟の残り4人はドラゴンの探索を継続中か。ま、その方がありがたい話ではあるね。勝つにしても負けるにしても、ドラゴンに絶対に勝てる保証もないからなー。
これで審判になったルストさんを除けば、いくつもの崖に囲まれ拓けたこの場所には対戦に参加するメンバーのみとなった。……流石に事前に作戦会議をさせてもらえる様子ではないから、戦闘が始まった瞬間から全力で動かないとね。
「皆さん、用意は整いましたね? それではこれよりドラゴン討伐の優先権を賭けた対戦を始めます。試合開始!」
そのルストさんの言葉を合図に、6対6対6の対戦が始まった。まずは自分の味方との連携と、敵の動きの把握からだな。……よし、ハーレさんは即座に定位置の巣に移動したか。
「ケイ、俺は弥生を抑えるから指揮は任せる! 『自己強化』『飛翔疾走』!」
「おっと、いきなりわたし狙いなんだねー!? シュウさん、援護をお願い! 『自己強化』『移動操作制御』!」
「あぁ、分かっているよ、弥生。『並列制御』『ウィンドボール』『ウィンドボール』!」
「ベスタさん、援護するよ! 『魔力集中』『連速投擲』!」
おっと、開始早々にベスタが弥生さんに突っ込んでいき、シュウさんとハーレさんが後方からの支援攻撃の応酬になっているね。
「よし、指揮は任せとけ! ハーレさんはベスタの援護をそのまま任せる!」
「了解です!」
「ちっ、やはり簡単にはいかないか。『爪刃双閃舞』!」
「それはこっちの台詞だよー! 『爪刃双閃舞』!」
「……遠距離の物理攻撃は厄介だね。『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドインパクト』!」
お、やっぱりシュウさんは風の付与魔法を持ってたか。という事は電気の付与魔法はやっぱりフラムのか? てか、付与魔法で強化した衝撃魔法はマズイだろ!
「ハーレさん、しっかり捕まってろ! 『略:旋回』!」
「あぅ!? アルさん、ありがとー! 『並列制御』『散弾投擲』『散弾投擲』!」
「あはははは! シュウさん!」
「『ウィンドウォール』!」
「やらせるかよ! 『爪刃乱舞』!」
「あはははははは!」
おっと、危ないかと思ったけど、何とか凌いだみたいだね。アルが回避に専念し、ハーレさんが攻撃をしていくという感じか。ふー、さっきもアルの旋回はかなり無茶な回避行動ではあるけど、シュウさんの魔法を対処するにはこれくらいの無茶は必要か。
というか、弥生さんはブチ切れた時の様子に近い感じにはなってきてるけど、雰囲気は全然違って楽しそうではあるんだな。……これが弥生さんの本来の楽しくなってテンションが高くなった場合か。
ベスタと全力で模擬戦をしたから分かる。あのベスタと真っ向から打ち合って引けを取らない、今の状況の弥生さんは敵として見るとヤバい……。
「私達も行きますよ、アーサー! 『魔力集中』!」
「うん! 水月、行こう! 『自己強化』『猪突猛進』!」
「望むところかな! 『魔力集中』!」
「そだね。『神経毒生成』『同族統率!』 行け、ハチ1〜3号!」
「おいおい、俺らを放置すんじゃねぇって! 『魔法砲撃』『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」
「……ふん、邪魔はさせん。『ウィンドインパクト』! ジャックに突っ込め、アーサー!」
「俺だって、赤のサファリ同盟の一員なんだ! 『弾丸突撃』!」
「ちっ!」
おー、ジャックの強風の操作をラピスさんが相殺しつつ、アーサーの攻撃のチャンスを作り出しているんだな。……以前よりもアーサーの無駄な動きが減って、突撃の威力も上がってるね。
「勝負と行きましょうか、サヤさん! 『爪刃乱舞』!」
「受けて立つかな、水月さん! 『爪刃乱舞』!」
流石にこの人数が同時に動き出すとややこしいな。とりあえず全体的に俯瞰して状況を把握したいけど、地上では把握がし辛いし、ハーレさんを乗せたまま旋回を駆使して空中を動き回っているアルの背中の上は無理か。
<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します> 行動値 69/73(上限値使用:1)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 69/73 → 67/67(上限値使用:7)
とりあえず先にロブスター表面にコケを覆わせてから、生成した岩の見えない部分に登録している増殖分のコケを広げていく。光の操作は放置で、飛行鎧の展開は完了!
「はぁ!? なんじゃそりゃ!?」
「……紫雲、そんな程度で驚いていたらどうにもならんぞ。それに似たような感じのならジェイので見た事はあるだろ」
「いやいや、マムシ!? そりゃ似ちゃいるけど、ありゃ多分何かが違うぜ!? 同じ訳がねぇ!」
「だったら尚更警戒しろ! 甘く見ていい相手でない事は知ってるだろう! 『魔力集中』『薙ぎ払い』!」
「あらよっと!」
とりあえず、マムシさんの尾での薙ぎ払いは回避してっと。……ヘビは苦手生物フィルタの効果で丸太に見えるから違和感が凄いけど、それは流石に仕方ない。
というか、どういう警戒のされ方をしてんの、俺。……まぁ光の操作の仕込みがあるとはいえ、岩の生成の形が違うだけで基本的にはジェイさんがやってたのと大して変わらないんだけどな。
さてと、この対決だとで誰を狙っていくかが重要だから、俺も攻撃に移りたいとこだけど分析をしていかないとね。
フラム、イブキ、羅刹、紫雲さんはまだ動いてはいないし、ラピスさんやマムシさんは多少は動いたものの控えめではある。そこら辺も考えないといけないけど、倒すべきは赤のサファリ同盟の誰かと、青の群集と白の無所属の混成PTのそれぞれ1人で良いからな。
とりあえず俺らは俺らの優位性を利用していこう。状況を分析した上でまずやるべきは……よし、ちょっと種類が違うけどヘビが3人、ワニが1人、恐竜が1人、龍が1人となればこれしかないな。
位置関係としては紫雲さんとマムシさんが近くにいて、イブキと羅刹も巻き込めそうか。フラムとラピスさんは位置が悪いけど、流石に狙いたい全員を一気には厳しいよな。ま、他にジャックさんやアーサーは巻き込めそうだけど。
「アルとハーレさんはそのままベスタと一緒に弥生さんとシュウさんの足止め! サヤはそのまま水月さんを!」
「了解です!」
「おう!」
「分かったかな!」
よし、今の対戦状況をそのまま維持して、更にここから攻勢に移っていこう。さて、ここはヨッシさんの大活躍の番だな。
「ヨッシさん、ダイヤモンドダスト! 狙いは紫雲さんで!」
「了解! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」
「ちょ、俺かー!?」
「くっ、これは!?」
「……ちっ、厄介な」
ヨッシさんの発動した氷の粒を大量に生成して高確率で凍結と凍傷にする昇華魔法であるダイヤモンドダストで、マムシさんと紫雲さんを凍結と凍傷に状態異常にする事は成功した。
でもラピスさんにはあっさりと避けられたか。……流石に赤のサファリ同盟のメンバーには簡単には当たらないか。ただし、フラムは除く。まぁフラムには当たる位置関係ではなかったけど。
「ふん、氷がどうした! 合わせろ、イブキ! 『ファイアクリエイト』!」
「おうよ! 『ウィンドクリエイト』!」
げっ、折角のヨッシさんの昇華魔法が、炎の嵐を生み出す昇華魔法によって相殺されてしまった。……くっそ、途中までは良かったけど、色んな人が色んな手札を使ってくるから油断が出来ない。
それにしてもこの大人数で、こうも戦っている状況がバラバラだと全体の戦況が把握し辛いな。……俺自身は変に動くと状況を把握し切れなくなるから、迂闊に攻撃に移れそうにないか。
「……あはは、あっさり破られたね」
「ま、それは仕方ないって」
「ホホウ、油断は大敵なので。『ウィンドインパクト』!」
「げっ、いつの間に!?」
しまった、指揮をしながら狙いを決めている間にいつの間にかスリムさんを見落としていたらしい。くっ、この乱戦では全部を把握するのは簡単にはいかないか! とりあえず大急ぎで防御を――
「『アクアウォール』!」
「ホホウ! やりますね、アルマースさん」
「アル、助かった!」
「それは良いからケイは集中しろ! 状況把握も大事だが、防御が疎かになってんぞ!」
「……だな」
それは確かにアルの言う通りだな。……まったく、アルに守勢付与をかけていたから耐久値が上がった水の防壁が発動して助かったよ。さっきタイミングだと思考操作でも間に合ったか微妙だったし、飛行鎧を解除させられるところだった。
改めて周囲を観察して……あれ、フラムはどこに行った? ……まぁあいつは多分後方からの付与魔法による支援役だろうから、姿を確認した際にアースボムでも撃ち込んでしまえばいい。
そのままヨッシさんと連携して、フラムを撃破するのも良いかもね。さて、俺は俺で攻撃に移っていくか。……今狙うべきは、動きが比較的少ない青の群集にしよう。さっきみたいに隙を狙われたら堪らないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます