第621話 乱入者達


 赤のサファリ同盟と、ドラゴンへの挑戦の優先権を賭けた勝負をこれから始めていこうじゃないか。弥生さん、シュウさん、水月さん、アーサー、フラムがメンバーとして確定しているけども、後1人は誰だろう?


「それじゃ始めよっか……と言いたいとこだけど、わたし達の方は後1人は誰がやる?」

「私は対人戦は遠慮しておきますからね」

「ルストはそうなのは知ってるって。誰かやりたい人いるー?」

「……ふん。そういう事なら俺が出よう」

「オッケー、ラピスが参戦だね」


 ふむふむ、どうやら羽の生えたヘビのラピスラズリさんが参戦してくるようである。確かこの人は、ヨッシさんと同じで猛毒持ちだったよな。……毒も要注意だけど毒だけとも限らないから、状態異常全般に警戒しよう。


「それじゃ今度こそ始めよっか。ルスト、開始の合図をお願いね」

「えぇ、分かりました。……でも弥生さん、色々と発動中のスキルは良いのですか?」

「あ、それはどうしよっかー?」

「あー、発動中なのは付与魔法くらいなもんだから気にするな。それについてはそちらも同じだろう?」

「あはは、確かにそれもそうだね。それじゃそのままで行こっか」


 俺らの方は俺以外はアルとヨッシさんの守勢付与が、サヤとベスタとハーレさんには攻勢付与がかかっているしね。ベスタについては残り1個の水球だけど、他のみんなは3個の水球が漂っている。

 それにしてもこの土属性の敵が多いエリアで、なんで不利属性になる電気魔法で付与魔法を使ってるんだ……? まぁ大幅に効きにくくはなるんだろうけど、全く無意味という訳でもない……?


 いや、もしかすると俺らとこうして戦う事を念頭に置いて下準備をしていた……? 可能性としては否定できないな。それにフラムかシュウさんのどちらの付与かを誤魔化す為という目的もあるかもしれない。……シュウさんが他の属性の付与魔法が発動してくる可能性は考慮に入れておくべきだな。


「お互いに地面に降りた状態から始めるという事でよろしいでしょうか? アルマースさんに乗ったままでの開始は不利になりそうですし」

「……お前ら、それでいいか?」


 ベスタが代表して俺らに確認を取ってきたけど、みんなは文句もなく頷いていく。基本的に向こうは飛んでない人の方が多いし、それで問題はないだろう。流石に初めからアルに乗ったまま対戦開始は俺らに有利過ぎるしね。


 という事で、みんなが地面に降りて赤のサファリ同盟の今回の戦闘メンバーの6人と向かい合っていく。相手は間違いなく強敵だけど、こっちだってそう負けてはいないはず! 何より今回はベスタも一緒にいるからね。


「……それでは双方の準備は良いようですね。それでは――」

「ルスト、少し待った!」

「……何でしょうか、ディーさん?」

「止めて悪いね。でも、ほら、あっちにお客さんだよ」


 何やらディーさんがルストさんによる対戦の開始の合図を遮ってきた。この土壇場で中断させるとか、一体何が? 

 とりあえずディーさんが指し示している方向を見てみると、さっき俺らが超えてきた崖とは別方向の南側の崖の上に何人かのプレイヤーの姿が見える。って、青いカーソルって事は青の群集の人か!?


「げっ、バレた! てか、なんで赤の群集と灰の群集がこんなとこで一緒にいやがるんだよ!?」

「……赤のサファリ同盟と灰の暴走種と灰のボスじゃねぇか」

「ホホウ、どうやら対戦を行おうとしていたようですね」

「うへぇ、マジかー!」


 そしてそんな声が崖の間に響き渡るように聞こえてきた。……これは思いっきり聞き覚えのある声だし、思いっきり見覚えのある4人組のメンバーだな。

 双頭狼のジャックさん、大蛇のマムシさん、フクロウの濡れたらスリムさん、ワニの紫雲さんか。……さっき獲物察知で確認した時の人数とも合致するし、ここに来ていた青の群集の人達ってこのメンバーだったのか。というか、灰の暴走種って確か俺らの事だったよなぁ……。


「ふむ、ジャック達か。お前らもフィールドボスのドラゴン狙いか?」

「……まぁそうなんだが、こりゃ競合相手がとんでもねぇ面子だな」

「ホホウ、ジャック、どうしますので?」

「……お前らはどうしたい?」

「ホホウ、ここで引き下がるのは面白くはありませんな」

「俺もスリムに同意だぜ」

「おいおい、マムシ!? 本気か!? 俺ら人数が足りてねぇぞ!?」

「その辺は交渉をしてだな?」

「ホホウ、その前に参戦が良いのか、その確認が先なのでは?」

「……違いねぇな」


 どうも紫雲さん以外は、これからの戦闘に加わる気でいるみたいだね。……3群集入り混じってのドラゴン戦の優先権を賭けた戦いか。まぁジャックさん達が戦いたいと言うのであれば、拒否する理由もないんだよな。

 そもそもシステムとして決められた優先権って訳でもないし、ここで戦って順番を決めた方が穏便ではあるかもしれない。


「えーと、ジャックさん達もドラゴン戦をしたいから、優先権を賭けたこの勝負に参加したいって事で良いのかなー?」

「あぁ、その認識で構わん。赤のサファリ同盟としてはそれは可能か?」

「それ自体は別にいいんだけど、人数がねー? シュウさん、どうしよっか?」

「……そうだね。ジャックさん、他に2人くらい参戦出来る人はいないのかい?」

「あー、呼べば来そうなのはチラホラとはいるが、ちょっとここまで来るのに時間がかかるな……」

「……流石にそれは待っていられないねー。それならそれぞれのPTを4人までに調整をして――」

「ちょーっとその話、待ったー!」


 ちょ、今度は何!? どこかで聞き覚えのある声と共に空から影が落ちて、何かが急降下してきた。……って、白いカーソルの緑色の龍ってイブキか!?


「何も言わずに急降下してんじゃねぇよ、イブキ!」

「ぐふっ!?」


 そのイブキが着陸する前に地面へと勢いをつけて飛び降りてきた小さなティラノが大きくなり、イブキの顎を蹴り上げていた。……うん、羅刹さん、ナイスな蹴りだね。

 そしてもう1人、飛び降りてきたクマの姿があった。まぁウィルさんだったんだけどね。……ジェイさんには事情は話したけど青の群集のどの程度の人までに伝わっているか分からないので、ウィルさんとは親しく見えないように気を付けないと……。


「あー、なんか急にすまん……。……赤のサファリ同盟がここに来ていたのか」

「……ふーん、ここでウィルさんと会うとは思わなかったね」

「……例の件では赤のサファリ同盟には迷惑をかけた。謝って済まされるとは思ってはいないが、それでも謝らせてくれ。すまなかった!」


 1stであるクマでログインしているウィルさんが赤のサファリ同盟に向かって頭を下げている。……まぁウィルさんがやろうとした事は、赤のサファリ同盟を半ば無理矢理に表舞台に引き摺りだそうとしてたんだしね。

 ここは部外者になる俺らが口を挟むところではないか。……さてと弥生さんとかは大して気にしてなかったとは思うけど、どういう反応をするんだろう?


「ウィルってあれか? 今朝ジェイが話してた赤の群集の騒動の元凶で、今は無所属で活動してるってやつか?」

「ホホウ、おそらくそうでしょうね、ジャック」

「へぇ? って事は、そっちの龍とティラノが一緒に活動してる無所属のヤツか」

「なんか混沌としてきてるんだけどー!?」

「……気持ちは分からなくもないが、少し落ち着け、紫雲」

「お、おう……。そうさせてもらうぜ、ジャック」


 あーうん、紫雲さんの気持ちは分からなくもない。俺だって、赤のサファリ同盟との対決を始めようとした瞬間に青の群集が現れたのもびっくりしたし、その後に無所属にウィルさん達が乱入してきたのにも驚いている。

 っていうか、この状況で俺らは何を言えば良いんだろうか……? 赤のサファリ同盟に謝っているウィルさんについては俺らじゃどうしようもないしさ。……それにしてもジェイさんに伝えた無所属や赤の群集での騒動で表には隠した情報については、今ここにいるジャックさん達には伝わっているんだな。


「ウィルさん、頭を上げて。あの件についてはわたし達はウィルさんを責める気はないし、今こうやって表舞台に出てこれるきっかけを作ってくれた事には感謝はしてるしね」

「……だけど、俺は!」

「罪悪感で押し潰されそう? 悪いけど、わたし達はその罪悪感を解消させる手伝いはしないよ。決めたんでしょ、ルアーさん達に裏からでも罪滅ぼしをするってさ」

「……そう……だな」


 うわー、弥生さんが思った以上にバッサリと行ってるな。でもまぁ、言ってる事はそう間違ってもいないか。既にウィルさんは方向性を定めて動き出しているし、赤のサファリ同盟としては糾弾する気は欠片もなさそうだね。


「あ、でもフラム君達は無関係でもないんだね。赤のサファリ同盟としてはこれ以上は何もないけど、フラム君達は言いたい事があるなら今のうちに言っておくといいよ!」

「……俺はコケのアニキに会うまでは迷惑をかけてたから、何も言う資格はないよ」

「アーサー、成長したなぁ……! まぁ俺としても事情は聞いたし、結果的には良い方向になったから何も言う気はないぜ」

「……ウィルさん、私達も事情を聞いて心の整理は既についています。貴方のした事は決して正しい事ではありませんでしたが、それでもその心意気は受け止めていますので必要以上に気に病まないで下さいね」

「……そうか。そう言われたら、これ以上は迷惑をかけるだけだよな」

「えぇ、そうですとも。今はまだ厳しいかもしれませんが、共に戦える日を心待ちにしていますからね」

「……あぁ!」


 ふむ、どうやらこれで赤のサファリ同盟……というよりは、赤の群集での騒動で実際に問題となった時に解決に奔走していた人達と、ウィルさんが正しく面と向かって和解が出来たって感じだね。よかった、よかった。


「おし、話は終わったよな!? そんじゃ俺らの話な! 青の群集、メンバーが足りないなら俺と羅刹を臨時メンバーに入れろ! 赤のサファリ同盟とベスタとグリーズ・リベルテと同時に戦うとか――」

「いきなり喧しいわ、イブキ!」

「ぐはっ!?」


 あ、やっぱりまたイブキは羅刹に蹴り飛ばされたか。それにしてもイブキは青の群集のPTに混ざって戦うつもりなのか。……っていうか、イブキ達はどこから俺らの対戦についての会話を聞いてたんだよ。


「……ホホウ、これはこれは……」

「あー、そっちの龍のイブキってのは暴走癖があるのは何となく分かったぜ……。おい、ティラノの羅刹とやら、今の発言はお前も同意するものか?」

「青の群集のリーダーのジャックか。お前とも戦いたくはあるが、今回は共闘を願いたいとこだ。俺らもドラゴンへのリベンジに来ているからな」

「……何か気になる発言もあったが、今は聞かなかった事にしようか。その申し出自体は俺らにも理はあるから願ったりではあるが、お前らは3人組ではないのか?」

「ウィルについては赤の群集贔屓だから、この場合は人数として除外してもらって構わん。それで良いな、ウィル?」

「それについては、まぁそうなる」


 まぁウィルさんについては赤の群集との共闘なら受けるだろうけど、青の群集と共闘をして赤の群集と戦うという選択肢を選ぶ訳がないか。……っていうか、着々と3つのPTによる戦いの準備が整ってきてない?


「……なるほどな。羅刹、さっきはドラゴンへのリベンジと言ったな? 共闘はこの優先権を賭けた戦いと、もし勝った場合のドラゴン戦までを含めて良いか?」

「……ドラゴンについては一度負けたまま、勝ち目が見えていない状況ではあるからそれで構わない」

「よし、ならば交渉は成立だ。良いな、スリム、マムシ、紫雲」

「ホホウ、私は構いませんぞ」

「無所属との共闘とは面白いじゃねぇか!」

「何がどうしてこうなった!? いや、やるけどな!」


 そうして青の群集の4人に無所属の白の2人を加えた6人PTが成立した。……成立しちゃったなぁ。


「そういう事になったが、赤のサファリ同盟とグリーズ・リベルテとベスタはそれで受けてくれるか?」

「まー、人数が揃ったならわたし達としては問題はないかなー? ベスタさん達はどう?」

「俺は構わんぞ。どっちにしろ、ここで断れば早い者勝ちの競争になるだけだからな。ケイ達はどうだ?」

「俺も問題なしだけど、みんなはどう?」

「問題なしですさー!」

「望むところかな!」

「あはは、6対6対6の三つ巴戦になるんだ。でもまぁ、これはこれで楽しそうではあるよね」

「確かにそうなるな。良いぜ、やろうじゃねぇか!」


 赤のサファリ同盟との6対6の戦いが大規模化して複雑にはなったけども、目的自体は変わらない。みんなからは反対意見も出なかったし、ここで優先順位を決めてしまった方が後が気楽ではあるもんな。

 変にわだかまりが残るような状態になるより、サクッと挑戦する順番を決めてしまった方が良いはず。……流石に他にもドラゴン狙いのPTがいたりはしないよね……? そこだけが心配なんだけど、まぁそうなった時はここにいる全員が馬鹿な戦いをしたって事で笑い話にしてしまおうか。


「どうやら話は纏まったようだね。それじゃ青の群集の人や無所属の人にはきちんと説明が出来ていないから、僕の方から改めてルールを説明していくよ」


 そうしてPTの中の1人が脱落した時点で勝敗が決まるというルール説明をシュウさんがしてくれた。まぁちょっとだけルールが変わって、1人が脱落したPTは戦闘資格がなくなり、脱落者が出なかったPTがドラゴンに挑むのは最優先という事になった。

 それでドラゴンに勝てなければ、脱落が遅かったPTを優先し、最後は一番最初に脱落になったPTという順番に決定となる。さーて、ドラゴンへの最優先の挑戦権を手に入れる為に頑張りますか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る