第620話 ドラゴンを巡っての対決へ


 フラムに連絡を取って、赤のサファリ同盟と合流してみれば見知った6人が待っていた。今いるのは弥生さん、シュウさん、ルストさん、水月さん、アーサー、それとおまけのフラム。……もっと人数がいると思ったけど、ここにいるのは6人か。……まだ集まってきてないだけかもね。

 とりあえずアルのクジラの背中に乗ったままというのもあれなので、各自で飛び降りて地面に着地していく。ふむふむ、聞いていた通りにちょっとした水場と植物は生えているんだな。


「アルマースさん、随分と立派な空飛ぶクジラになったので――」

「はい、突っ込んでいかないの、ルスト!」

「ぐふっ!?」


 会って早々に何やらテンションの上がった様子で突っ込んできそうになったルストさんが思いっきり弥生さんの蹴飛ばされていた。……ルストさんと弥生さんのこの辺のやり取りは相変わらずだね。

 その様子を横から見ているシュウさんは……あ、黒い縁取りが無くなって元の赤いカーソルに戻っている。PKの判定になっていたのは解除されたのか。


「おう、ケイ、来たか!」

「コケのアニキー! やっほー!」

「おっす、アーサー! 一応フラムもな」

「俺の扱い雑ー!?」

「まぁフラム兄だしね」

「えぇ、予定通りに余計な事を口走りましたし、このくらいの扱いは甘んじて受けてください」

「身内からも辛辣!?」


 なんか余計な事を話すのを大前提にされていた様子のフラムへの対応はそんなくらいで丁度いいもんだよ。……それにしても、アーサーと水月さんと弥生さんとルストさんの周囲に電気の球が漂っているのが気になるね。個数は使用済みのもあるのか、1個から3個までバラバラだけど……。

 やっぱり赤の群集でも付与魔法に辿り着いた人がこの場にいるみたいだけど、誰からの付与だ……? 順当に考えれば風と電気の昇華持ちだったシュウさんの可能性は高いけど、フラムもツチノコというかライノコは雷属性を持ってるからな。……場合によってはフラムが付与魔法を持っているという想定で動いた方がいいか。


「水月さん、こうやって直接会うの久しぶりかな」

「えぇ、そうなりますね、サヤさん。皆さんもお久しぶりです」


 そんな風に各自で挨拶をしていくけど、そんなに悠長にしている場合でもないな。青の群集も動いているとなると、流石に手早くこれからの事を話していかなければならない。

 俺らとしては赤のサファリ同盟の真意がまだ分からないしね。どうもフラムに対応させて状況を筒抜けにするのが狙いだったみたいな様子だけど、何故そうしたかにもよるんだよな。


「挨拶もそこそこで悪いが、弥生、早速本題に入ってもらっていいか?」

「あーうん、まぁベスタさん的にはそうだよね。それじゃ早速本題に入るけど、その前に改めて確認。みんなの目的は育ち過ぎたここのフィールドボスの土属性ドラゴンの討伐で間違いない?」

「……あぁ、間違いない。逆にこちらも聞かせてもらうが、赤のサファリ同盟の狙いも同じという認識でいいか?」

「うん、それで問題ないよ。……それと人数は6人と思って良いのかな?」

「それは見ての通りの6人だが……そちらは今いる人数だけという訳でもなさそうだな」

「……あはは、そりゃバレるよね」

「僕らは今日は総勢14人だね。赤のサファリ同盟の大半が集まっているんだ。……そしてそこが問題になるんだよ」

「あー、やっぱり予想通りか……」


 シュウさんがはっきりと人数を言った事で、赤のサファリ同盟が明確に競合相手だという事が確定した。……さてと、連結PTの最大人数が18人に対して20人がここに揃っているんだな。くっそ、絶妙に連結PTに少し収まらない人数かよ……。


「……すぐに共闘しようという提案がなかった時点で人数オーバーは予想はしていたが、それで赤のサファリ同盟としてはどうする気だ?」

「ディーから報告を受けた段階で、わたしとシュウさんが抜けて共闘を申し出る気だったんだけどねー?」

「それじゃ流石に俺らが納得しかねるって事になってな。合流したぜ、弥生さん、シュウさん」

「お疲れ様、ガスト、ディー、ラピス、蒼華」

「あ、ガストさんか」


 弥生さんの言葉に割り込むように飛びながらそう告げたのはタカとキノコで同調になっているガストさんであった。それと会った事のない大きな青い龍の人……蒼華さんの背中に乗ったカバのディーさんと羽の生えたヘビのラピスラズリさんも一緒に現れてきている。

 これでここにいる赤のサファリ同盟のメンバーは10人か。……ふむ、弥生さんとシュウさんが抜ける事で穏便に済まそうとしたという側面があったんだな。


「ま、それでさっきまで話し合って出した結論があるんだよ。なぁ、ディー、ラピス」

「まぁ俺もネス湖での救援には感謝はしてるからね。でも、久しぶりに赤のサファリ同盟がほぼ勢揃いで動いている時に、流石にリーダーと副リーダーを除け者ってのは流石に無条件では許容出来ない。でもまぁ、あの条件なら許容範囲だね」

「……ふん、そういう事だ。ただでお前達にドラゴンをくれてやる気はないし、人数を減らして共闘をする気もない」

「ラピス、ケイさん達を呼びつけたのは僕らの方だよ。そういう言い方は感心しないな」

「……シュウさん、だから俺は呼ばなくても良いと……いや、今の言葉は取り消そう。一度は承知した事を蒸し返すのも恰好悪いしな……」

「……ありがとう、ラピス」


 あれー? ラピスラズリ……ラピスさんにはいまいち歓迎されてないのもは分かったし、ディーさんも弥生さんシュウさんが抜けて、俺らと共闘というのには賛成ではないみたいだけど、それならなぜ俺らは呼ばれた……はっ!? もしかしてこの場にいない残り4人にドラゴンの捜索を任せて足止めが目的か!?


「フラム、計ったな!?」

「なんで俺を名指し!? いやいや、俺は何もしてねぇよ!?」

「直接呼んだのお前だろ!」

「いやそうだけど!? 弥生さん、シュウさん、ヘルプー!?」

「ははっ、ケイさん、済まないね。今のディーとラピスの発言も意見の1つではあったけども、採用はしない事にしたんだよ。それで本題の内容なんだけども……」

「わたし達と勝負をして、勝った方が先に挑むってのでどうかなー?」


 あー、もう共闘はしないという方向性で話は完全に決まっているのか。俺らを無視して先に戦闘をしてしまうという手もあっただろうに、わざわざそういう面倒な方法を取ってきたんだな。

 ふむ、その辺の話し合いをしてたけどついさっきまで内容が確定してなかったから、手が空いてそうなフラムに連絡役を任せた……いや、ある程度の状況を読ませようとした……? うん、それはありえそう。


「……弥生、シュウ、その理由を聞かせろ。わざわざその提案をしてくる理由が分からん」

「それは何人かの希望だよー。主にアーサー君とフラム君と水月さんが戦いたがってたって言うのと、わたしの対人戦の解禁の為だね」

「弥生さんって対人戦を解禁するの!?」

「あはは、話し合った結果そういう事になったんだよね、ハーレさん」

「おー! そうなんだー!」

「僕が一緒にいるというのが大前提だけど……ね。ベスタやケイさん達が居なかったらそういう状況にも出来なかったから、一緒に揃っている今回に限りこういう形で便宜を図ろうかと思ってね。それで、この提案自体はどうだい?」


 ふむ、俺らはあの青の群集の問題連中の時にはそれほど大した事はしてないけど、ベスタが暴走しかけたシュウさんを抑えたというのはあったもんな。なんでこんな回りくどい事をしてるのかと思ったけど、シュウさんなりのあの時のベスタに対する義理立てなんだね。


 それにしても弥生さんがシュウさんと一緒にいるのが前提にはなるけど、対人戦解禁ってヤバくない……? 怒った場合でなく戦った際にテンションが上がった場合の弥生さんは問題はないらしいし、そこにシュウさんまで加わるって……。


「あー、ちょっと相談していい?」

「あぁ、構わないよ、ケイさん。それじゃ僕らは少し待っているね」

「あ、勝負の方法は大雑把には考えてるけど、言っといた方がいいー?」

「それは聞いとくよ!」

「うん、それじゃ言っておくね。ケイさん達は6人だから、わたし達も人数は合わせて6人にして、集団戦をしようかなと思ってね。勝敗は誰か1人が戦闘不能になった時点で負けって考えてるよー!」

「ふむふむ、とりあえず了解! その辺も含めて相談してくる」

「うん、よろしくねー! あ、断ってくれても良いけど、その場合は早い者勝ちね」

「ほいよっと」


 ま、元々は早い者勝ちなんだから、そこについては問題はないか。……さて、色々と俺らにとっては悪い条件どころか都合の良い条件も結構ある。灰の群集の最高戦力であるベスタが一緒にいる時に、赤の群集の最高戦力であろう弥生さんとシュウさんとの戦闘を行えるのは後々の事を考えると良いかもしれない。


「アル、樹洞に入れてくれ!」

「あー、確かにその方がいいか。ほらよ、『樹洞展開』!」

「サンキュー! みんな、アルの樹洞に入れー!」


 目の前に相手がいるのに、堂々と聞こえるように相談はしにくいもんな。こういう時こそ、遮音設定の出来る樹洞の活躍の場だね。とりあえずみんなで手早く樹洞に入って、相談開始!


「俺はあの提案はありだと思うけど、みんなはどう思う?」

「楽しそうなので、私はやってみたいです! こんな機会、そうそうないよね!?」

「だろうな。それに人数的には負けてるんだし、ありだとは思うぜ。早い者勝ちになれば俺らが圧倒的に不利だしな。それに弥生さんとシュウさんが本格的に対人戦に出てくるなら、そこの情報を少しでも手に入れるチャンスだろ」

「まぁ俺もアルマースに賛成ではある。……こちらの手の内も探られる可能性もあるが、それはお互い様だしな。それにあの付与されている電気の球を付与したのが、シュウかフラムかを見極めたいところだ」

「あ、それは私も気になってた。……あれがフラムさんの付与魔法なら、シュウさんが別の属性の付与魔法を持ってる可能性もあるよね」

「ヨッシさんもそれが気になってたか」

「そういうケイさんも気になってたんだね」

「まぁ、同じ魔法を使う身としてはやっぱり気になるからなー」


 まぁあんなに分かりやすく付与魔法を使っていれば気にはなるか。……俺らは俺らで攻勢付与も守勢付与もかけっぱなしではあるもんな。

 シュウさんが付与魔法を取得しているかどうかの確認をしたいのはもちろんだけど、フラムのライノコも魔法型になっているから戦闘スタイルが大幅に変わっている可能性もあるからね。戦う事そのものに結構なメリットはある。


「……私は水月さんとの決着をつけたいかな?」

「そういえばサヤは負け越してたよね!?」

「うん、だから戦うチャンスがあるならやってみたいかな」

「ま、それはそれで良いんじゃねぇか?」

「あぁ、構わないだろう」


 ふむふむ、みんなそれぞれに気になる要素もあるようだし、反対意見も特になしか。俺としてもアーサーやフラムがどのくらいの強さになっているかは確認しておきたい。弥生さんとシュウさんの、不意のトラブルによる対人戦以外での戦いも体感しておきたいしね。


「って事は、みんな了承って事で良いか?」

「もちろんさー!」

「うん、やりたいかな!」

「私も良いよ」

「俺も問題ねぇぜ」

「それは問題ないが、さっきの青の群集については話しておくべきだろうな」

「あ、そういやそうだな。んじゃ了承した上で、青の群集が来てる事も伝えとくか」


 俺らと赤のサファリ同盟で討伐に挑む順番を決めているうちに青の群集に倒されていましたじゃ話にならないもんな。……まぁ可能性としては否定出来ないのが何とも言えないとこだけど。


「それとさっき弥生さんが言ってたルールについてはどう?」

「別にいいんじゃねぇか?」

「はい! ルールとしては良いけど、その前にこの場所に転移の設定をしておくべきだと思います!」

「あー、そうか。死んだ場合の保険だな」

「そうなのです!」


 確かに俺が殺られた場合だけはアルの木のコケから同じ状態でリスポーン出来るけど、他のみんなは共生進化が解除されるから転移して来れるようにしておくのは重要か。別にランダムリスポーンでこの岩山エリアで復活しても良いんだろうけど、それはそれで合流の手間がかかるしね。


「でも、転移の種は登録済みかな……?」

「それならば転移の実の方を使えば良いだろう。全員、1つくらいは持っているだろう?」

「あ、その手があったか。ナイス、ベスタ!」

「それなら持ってるかな!」

「そだね。そうしよっか」

「念の為に交換しておいて正解だったか」

「そだね、アルさん! でも、登録だけで済むように頑張るのさー!」

「ま、そりゃそうだな」


 1人が戦闘不能になったら勝負が終了なんだから、赤のサファリ同盟の誰かを倒してしまえば良いんだしね。でもまぁ対戦相手がアーサー、フラム、水月さん、弥生さん、シュウさん……って後1人は誰だ……?

 ルストさんは普通に対人戦は好きじゃないって言ってた気がするから違う気がするけど……まぁ、それはやってみれば良いだけか。



 そうしてみんなとの相談が終わったので、アルの木の樹洞から出てきた。さて、青の群集が来ている事を伝えてから、対戦の了承をして実際に戦っていきますか。


「さてと、結論は決まったー?」

「あぁ、了承という事で意見は一致した」

「そっかー。それじゃ早速――」

「あ、弥生さん、ちょっと待った。その前に先に伝えておく事があってさ」

「ん? どんな事かな?」

「ここに来る前なんだけど、獲物察知をした時に青の群集の反応があったんだよ」

「え、それ、ホント?」

「……ここで堂々とそんな嘘をつく気はないって」

「……それもそうだね。そっか、それならまだ合流してない4人にそっちの動向を探ってもらっておくよ」

「そうしてくれると助かる」


 さて、これで必要な情報は伝え終えたし、別行動中の赤のサファリ同盟の方で確認はしてくれるようである。まぁそれでも先に青の群集がドラゴン戦を始めてしまえばどうしようもないけど、そうなったら運がなかったって事で諦めるしかないな。

 それじゃ赤のサファリ同盟とのドラゴンに挑む優先権を賭けた勝負を始めますか! おっと、その前に転移の実の登録をしておこうっと。


<『転移の実』を使用しますか?> 


 よし、ここからは転移の種と同じ要領で登録は出来るみたいだな。……スタックは10個までで、違う枠になっていればそれぞれに登録も出来そうな感じである。流石は課金アイテムといったところだな。……無料で手に入る機会もそれなりにありそうだから、可能な限り手に入れておきたいとこだね。

 そしてみんなも同じように転移の為の登録を行っている。ま、確実に誰か1人は負けて死ぬ事にはなるんだからこれは必須ではあるもんね。

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